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シナリオ詳細

怖いものは好きですか?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Trick yet Treat.
「皆さんにはとっても怖い、お化け屋敷を作ってほしいそうなのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、お化けのように両手を前でブラブラさせた。
 今月の末、秋の収穫祭が催されることは多くのイレギュラーズが知るところだろう。当然、幻想国民も知っている。
「悪戯好きな幻想貴族の方が、さっそく悪戯の準備を始めているのですよ。甘い物は苦手らしいので……お菓子はいいから悪戯させろ! ってことですね」
 それは、『お菓子をあげる』と道行く人々をホラーハウス──お化け屋敷に連れて行ってしまうというもの。脅かした後はちゃんと菓子を渡し、ホラーハウスの中で起こった事を口止めするらしい。
 貴族自身が動いてしまえばどうしても情報は漏れてしまう。なのでユリーカは邸に赴いて依頼内容を伺い、イレギュラーズの前だけでそれを話しているということだった。
「でも、それ以外は決まってないのです。
 ホラーハウスは物件を押さえただけで、内装はまったく変わっていません。家具も置きっぱなし。どういう風に回っていくかももちろんまだなのです。その辺りはイレギュラーズに任せるって言われたのですよ」
 悪戯したいという割に丸投げであった。
 依頼人にとって、大事なのは悪戯を企画することなのかもしれない。
「でも材料費とかはある程度出してくれるのです。先に蛍光塗料とかも運び込まれてるらしくて、たくさん用意したから、壁に散らすなり床に流すなり好きにしてくれって言ってたのです。
 折角だから、皆さんの知るこわーい要素を存分に盛り込んじゃえばいいと思うのです! きっと幻想の人達が思い浮かばないような仕掛けも知ってると思うのですよ!」
 物件の使い方には指定なし。1階だけを使って凝った仕掛けを作っても良いだろうし、建物の広さを利用して満遍なく回らせるコースを作ることもできるだろう。
「完成した内装の確認や人を雇って教えたりもするそうなので、あまり制作に時間をかけてられないのです。でも塗料が渇くのに時間は必要だと思って、日数は交渉してきたのです」
 3日。それが交渉の末の期限だ。
 作業時間は指定されていないが、無理のないようにとのこと。
「間違っても徹夜なんてダメなのです。ユリーカとの約束ですよ!」

GMコメント

●やること
 お化け屋敷を作る

●必要な事
・内装
 一番必要なものです。
 建物全てを使っても構いませんし、2階までしか使わない、などの判断も構いません。なお、建物に影響しない程度の破壊行為は認められています。部屋の壁をぶち抜いたりするのは危険かもしれません。

 蛍光塗料(緑、紫)は既に用意されています。ペンキのように缶に入っています。
 その他必要なものがあれば、幻想で容易に入手できそうな物なら依頼人が用意してくれるかと思います。
 作った後は依頼人がお化け屋敷として運営するそうなので、人力で動かす仕掛けや人が登場して驚かす部分があっても大丈夫です。ただしイレギュラーズでないと動かせない仕掛けはNGです。

・ルート整備
 ただ内装を不気味にしただけでは自由に行き来できてしまうでしょう。
 順路を決め、それ以外の場所に迷い込まないような誘導の仕掛けも必要です。

●施設
 一軒家です。空き家となっており、幻想貴族がお化け屋敷を作りたくて買い取りました。
 家具などは置かれたままになっています。
 3階建てとなっており、以下のような部屋があります。

 1階
 中央手前に玄関があり、目の前に階段があります。
 脱衣所、風呂場、食堂などがあります。

 2階
 客室があります。トイレはこの階のみありません。

 3階
 子供部屋、寝室、書斎などがあります。
 屋上に上ることはできません。

●ご挨拶
 愁と申します。怖いものは好きですか?
 今回は素敵なお化け屋敷を作る依頼です。施設の内容は詳細に書かなかったので、「幻想の家ならこんな部屋もあるんじゃない?」と推察で部屋を作っても構いません。ただし、何階にある部屋なのか明記してください。
 皆様の素敵なアイディアをお待ちしています。間違っても徹夜はダメですよ!
 それではご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • 怖いものは好きですか?完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年10月25日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルプス・ローダー(p3p000034)
特異運命座標
ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
六車・焔珠(p3p002320)
祈祷鬼姫
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
リナリナ(p3p006258)

リプレイ

●おばけやしきをつくろう
「お化け屋敷! なんかワクワクするなー!」
「んー? オバケヤシの木?」
 『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)の言葉に『輝く太陽の息吹』リナリナ(p3p006258)がかくり、と首を傾げる。『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が優しい口調で訂正した。
「リナリナさん。おばけやしき、ですの」
「おーっ、リナリナわかった! おまけヤシの木! ヤシの木のおまけ、ヤシの実だな!」
 まだ違う。というか若干遠ざかった気さえする。
「──ん? ここ建物。ヤシの木生えてるのか?」
「気候的に難しいと思いますよ」
 なんて真面目に答える『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)。
「リナリナ、おまけヤシの木じゃなくてお化け屋敷だぞー! お化けの出る屋敷!」
「おーっ、オバケの屋敷かっ! 入った人を怖がらせるお遊び屋敷!」
 洸汰の言葉にようやく理解まで至ったリナリナ。他の面子もほっと安堵の表情。丁度指定された一軒家へ到着する。
 周りと比べたら大きな家だろう。けれどもアルプスは狭そうだな、なんて思ったり。
(シチュエーションが広ければ僕も首無しライダー役でエントリーしたんですが……)
 本体であるオフロードバイクが存分に走れるような場所ではないので、仕方がない。
「とびっきり怖いだけじゃなくって、楽しめるようなの、作ってやりたいなー?」
「はい。こういった閉所でも、楽しんで貰えるように頑張りましょうね」
「おー!」
 洸汰の言葉にアルプスが頷き、リナリナが拳をつきあげる。
 そんな感じで、お化け屋敷作りは始まった。

 まずお化け屋敷の脚本、もといストーリーが必要である。
 『Eraboonehotep』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)がストーリーを練り、それに合わせて装飾やギミックを作っていくのだ。
「1階には儀式の為に殺された、下半身透明な可愛らしい少女の霊だ」
「訪れた方を、不気味な物語の本編に、惹きこみますの。頑張りますの」
 ぐ、と握り拳を作るノリア。彼女が少女の霊役だ。
「2階には魔種の呼び声に中てられた、肉塊じみた魔術師の成れの果て。これは我等『物語』が担当しよう」
 この家へ足を踏み入れた客人──参加者の命を奪うべく、杖を掲げて撲殺する役。
「ここでアルプスと私は魔術師にやられて、近くの抜け穴から脱出するのよね」
「そうだ」
 『芋掘りマスター』六車・焔珠(p3p002320)が確認を取り、オラボナが脚本を続ける。
「3階には豚とも人間とも腐乱死体とも解せる、醜悪なる巨大な魔種──」
「俺だな」
 任せてくれ、と『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が腕を組んで頷いた。
「人間の呻き声は3階で出せばよさそうだな。エマ! 一緒にすっげーお化け屋敷、作れるように頑張ろうな!」
 洸汰がそう声をかけると、隣にいたエマ──子ロリババアが老婆のような鳴き声で応える。
「ルートは2つ。2階で玄関のカギを見つけ、1階まで我等『物語』──魔術師から逃げ切る。もしくは魔種の退散方法と、上階からの脱出路を知り3階に挑戦することだ」
「……ということは、必要になるのは魔種の退散方法と脱出路を知る方法ね。他にも作る小道具があったら教えてちょうだい」
 焔珠がそう告げればゴリョウが早速と口を開く。
 必要なものは穴の開いたズタ袋。逆さにして頭に被るので、目と鼻のために3カ所穴を開けておく必要がある。
 作業時間は3日。しかし徹夜は許されない。各自早々に持ち場につき、作業を始めたのだった。
「よーし!図工の時間だなー!オレにめちゃくちゃ任せろー!」
「塗る場所、たくさんありますの。お手伝いしますの」
 洸汰とノリアはペンキを持ち、壁や床の塗装へ。『バトロワ管理委員会』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)に聞きながら、テーマに沿って色を塗っていく。
「ランプにも薄く塗料を塗ってもらえるか? 色を付けたいんだ」
「わかりましたの」
 ノリアはラルフからランプを受け取り、青、緑、赤に塗っていく。その間にラルフは薬学と化学の知識を用いて、水場へ赤い水を張った。
 洸汰はバスルームから血痕を2階へ続かせるように血糊を撒き、ノリアに確認する。
「どうどう?こうしたらもっと不気味に見えるかなー?」
「ええ、良いと思いますの」
 頷くノリア。その頭の片隅では本番の心配が少しばかり。
 ノリアの尻尾は半透明で、よく『幽霊のよう』と言われてしまう。物語に役立つのなら是非とも力に、とは言ったものの。自分達で演出して、それを怖がってしまいそうな気がするのだ。
(でも、ゴリョウさんに、重要で、人気なポジションと言われましたの。頑張れますの……多分……)
 嫌な方向に行ってしまいそうな思考を中断し、ノリアは実際の運営の事を考える。
 少女の霊役は、服に血だらけメイクした人が立ち上がるなどでも十分だろう。運営の時には参考にしてもらおう。
 壁の前に簡易的な壁を作ってできたキャスト用の通路。そこにアルプスは仕掛けを加える。
「死角となるのはこのあたりでしょうか」
 うっかりずれたら困るので、オラボナに立ってもらって死角になることを確認する。
 本来ならアルプス──少女は実体のあるホログラム。消すこともできるので仕掛けで退場する必要はない。けれど運営するのは一般人だ。
 2人が抜け穴を使うので、もたもたしているとばれてしまう。しかも自分に至っては本体のバイクも持っていかなければならない。やや大掛かりである必要があるだろう。
 結果として、アルプスは3日間ともこの仕掛けに携わることとなった。

「リナリナ、出来るお手伝いするゾッ!!」
 難しいことはよくわからないけれど、とリナリナは獣の血を煮立たせて香りを家の中へ充満させる。血は冷まして再利用だ。
 階段に覚ました血を撒き、自分にもかける。足りなければトマトジュースでも被って全身を真っ赤に。血糊も頬へ垂らしてみる。
「準備OK!」
 なんて、少し早い本番への準備。

 このお化け屋敷にて重要な手記、その他小道具も作る必要がある。
 それらを一手に引き受けているのは焔珠だ。
「召還時、書庫の窓が割れたが中の様子は伺えない位置だし問題はなかろう……なんてどうだ?」
「いいわね」
 ゴリョウの言葉に頷き、魔術師の手記に書き加えておく。最後のページには自作の護符を挟み込んで手記は完成だ。
「あとは1階からの脱出に備えてランプの準備とか、鍵穴の移動とか、腐った食べ物とか、……オラボナの演出セットは今回は間に合わなそうかしら」
 ギフトを用いた演出は一般人に真似できない。ライトを様々な色に光らせ、揺れを錯覚させるセットを作ることで代用する予定だったのだが、そのようなライトをすぐ用意することは難しいとのことだった。
 できるだけ依頼者に伝えておこう、と思いながら焔珠は他の作業に取り掛かる。
 ゴリョウはと言えば、届いたクローゼットを順に3階まで運び、各部屋へ設置する。光源やペンキはラルフや洸汰。手伝いを申し出たノリアやリナリナも手伝って塗りたくる。ここは危険な空間の赤色だ。
 物を意図的に壊して荒れた雰囲気を出し、脱出口となる窓を周囲に気をつけながら割る。そして脱出の際に怪我をしないように細工もする。
 瓦礫を窓の近くまで積み、脱出口の下にこれでもかと藁やクッションを敷けばこちらは完成だ。

 3日なんてあっという間に過ぎてしまう。どうにかギリギリで間に合わせたイレギュラーズは、流石に疲労の色を浮かべていた。
「いやぁ、結構なモンスターハウスに仕上がってるじゃないですか」
 アルプスがそう感想を述べる。けれどまだ終わりではない。明日はこのホラーハウスを見に依頼者が──幻想貴族夫妻が来るのである。
 ちなみに夫が依頼者で、奥方は気になってついてくるそうだ。
「折角良いキャストが揃ったのだ、楽しんでいこう」
 実際に彼らと会うことになる者、裏方に徹する者を見渡して、ラルフはそう告げた。

●そこには、幾つもの噂が集まっていた。
「ここ?」
「ああ」
 一軒家の前で立ち止まった男女。女が少し不安げな表情を浮かべる。そんな2人へ声をかける影があった。
「──あなた方は?」
 振り向けば、そこには3人の人影。男が1人。少女が2人。何故かバイクも一緒であることは追及しないでおこう。
 ここの噂が気になって来たのだと言えば男は納得したように頷いた。
「私達もその噂を聞き、調査に来たのだよ。ご一緒しても?」
 男は学者であり、後ろの2人は助手なのだと紹介する。男女は勿論と頷き、5人はゆっくりと玄関の扉を開けた。
 足を踏み入れれば、何故かついているランプが廊下を照らしている。
 なぜ、誰もいない筈の家でランプがついているのか。
「む、無理よ。出ましょう」
 ──けれど、すでに一同は籠の鳥。
 開かない玄関扉に女は声を荒げる。
「どうして!? さっきまで開いていたのに……っ」
「……進もうか。ここで立ち止まっていても、おそらく扉は開かないだろう」
 学者がそう告げ、視線で男女を促す。震える足を叱咤し、男女も共に家の中へと入っていった。
 つい先ほどまで誰かがいた、と思わせるような生活感。どこからかうっすらと鉄錆のような香りがして、それが心の中の不安感を煽り立てる。
 ひっ、と女が唐突に息を呑んだ。怪訝そうな視線が集まる中、女が細い指を水道に向ける。
 青みがかったランプに照らされて、蛇口の下には赤い水が溜まっていた。そう──まるで、血のような。
 行こう、と男が小さく告げる。一同は食堂を離れた。

 誰かの泣く声がする、と言ったのは男だった。
 廊下に残る血痕はどこからか1つの部屋に続いており、その部屋──脱衣所から更に奥の部屋へと続いている。
 そうっと開けると、そこは真っ青な色に包まれた浴室。バスタブには食堂と同様に赤い水が張られ、そこで真白な少女がすすり泣いていた。
 こんな場所で泣いているなんて、あからさまにもほどがあるだろう。しかし目の前にいる少女は『罠』なんてものとは無縁に見える。
 しくしくと泣く少女はこちらに気付いた風もなく──バスタブを通り抜けた。
 一応がぎょっとした目を向ける。半透明な下半身を見せながら、少女は壁をすり抜けてどこかへ行ってしまった。
「……幽霊……?」
 呟きが漏れ、沈黙が下りる。
 血痕はバスタブから続いており、どうやら2階へ続いているらしい。一同は表情を固くしながら階段を上がり、2階の探索を始めたのだった。

 客室のある2階、その1室に血痕は続いていた。1階とは異なり、壁に小さな傷が目立つ。これは経年劣化によるものか。それともこの家にいる何かの存在ゆえか。
 扉を開けた桃色髪の助手が小さく悲鳴をあげる。学者が部屋の中に入り、黒く乾燥した何かの元に膝をついた。
「ふむ……腐敗が長いがこれは……血だ」
「……ここでは、一体何が……」
 男がそこにあった器具──黒い者が付着したエンバーミングツールを見る。そこで「あ」と声を上げたのは黒髪の助手だ。
「これ、見てください」
 学者に千切られた本が渡され、それを調べた学者が男女へ手渡した。
「これは……?」
 千切られているからではない。元々の文章が読めない文字の羅列で、これを見て学者と助手が何を思ったのかが理解できないのだ。
「ほら、この本のこの文字配分、気にならないか?」
 そう示されて再び見れば、読めないと思っていた文字の羅列が意図的であることに気付ける。
 男と女は顔を見合わせ、本の示す単語──枕の下を探した。
「……手帳?」
 パラパラと捲ると、それはどうやらこの室内にいた者の手記であるようだった。魔術師であることから始まり、その内容はどんどん狂気めいていく。どうやらこの魔術師は少女を生贄に、魔種を召喚したのだという。
 しかし、最後の文はそこまでの狂気とは随分かけ離れたものだった。

『私はもう手遅れだが、これを使って君達がこの災いから逃れられる事を祈る』

 ページを捲ると、挟まれていた紙がひらりと床に落ちる。拾い上げたそれには星のマークと、中心に目玉が書かれていた。
「──どうやらここにはもう、何かの手掛かりになるものはなさそうだ」
 出よう、と一同を促す学者。
 しかし部屋から出た一同は、肉塊のような『何か』に遭遇することになる。
「殺戮だ」
 それは──魔術師だったものは口を開いた。
「世に蔓延る快楽の中で愛すべき遊戯。老若男女問わず愉悦を齎すが、至高的かつ嗜好的な類は純粋無垢な仔だと知れ。貴様等は視た。1階で彷徨う可愛らしい魂を。貴様等も仲間入りだ。貴様等も玩具箱の――俺こそが禁忌に堕ちたもの。魂を捧げろ」
 ゆるり、ゆるりと迫りくる魔術師。近くにいた助手たちは恐怖に逃げる事も出来ず、ただ近づいてくる魔術師を凝視する。
 ようやく出た悲鳴と共に、肉塊へ取り込まれる2人。学者が叫ぶ。
「逃げるんだ! 早く!」
 魔術師と反対へ走り始めた3人。幸い、魔術師は大して早くない。
 角を曲がれば、この先には3階に続く階段がある。けれど、自分達が進むべきは1階だ。
 そう思って通り過ぎようとした瞬間──。
「きゃあぁぁっ!!」
 女が悲鳴をあげた。3階から何かが滑り落ちてきたのだ。視界の端が捉えたのはだらり、と力なく投げ出された腕。
「……ああ、死んでいるな」
 学者が冷静に判断する。当然ながら血まみれの少女は落ちてきた状態のまま、ピクリとも動かなかった。
 はっと学者が何かに気付いたかの如く少女から離れる。男女の耳が、上から響く重い足音を拾った。
「……魔、種?」
 見えた影に男がぽつりと言葉を漏らす。
 巨大な影──豚とも、人間とも、腐乱死体とも見えるそれは、顔と思しき部分を3人へ向けた。
 ──殺される。
 しかしその影は3人を襲うことなく、階段に転がっていた少女の死体を抱え上げると3階へ上っていく。
「……2階には来ないのか」
 学者が呟き、男女が視線を階段へ向けた。
 確かにあの影──魔種としよう。魔種は階段までは来たが、2階へ踏み入ることはなかった。テリトリーは3階ということだ。
 助かった、と胸をなで下ろす女。男はふらりと3階へ続く階段の方へ足を踏み出した。
「あなた、行くつもりなの!?」
「さっきの手記と……挟まれていた紙。もしかしたら、本当の脱出口は3階なのかもしれない」
 鍵は確かに手に入れた。しかし、これは本当に『玄関のカギ』なのだろうか? もしこのカギ自体が罠だとしたら──。
「そろそろ魔術師が追い付くだろう。どうする」
「……行ってみよう」
 決意を確固たるものにした男と、諦めた風情の女。学者は男に頷きかけ、階段を上がり始めた。

 まさに危険を示すような空間だった。
 赤いランプが部屋を彩り、壁や床には血痕がとんでいる。1階のような生活感は皆無。どこからか聞こえてきたしわがれた声は、新たな被害者のものだろうか。
「2人とも危ない!」
 学者が2人の体を突き飛ばした。反対へと倒れ込んだ学者との間に魔種が突進してくる。
 魔種は壁にぶつかると、その体を学者の方へ向ける。
「私に構わず逃げろ!」
 直後、学者の体が吹き飛ばされた。体当たりをかました魔種は、次の標的を定めるかのように顔を男女へ向ける。
 迫りくる魔種。しかしその動きは女が咄嗟にかざしたもので止まった。呻き声を上げながら苦しみ始める魔種に、女は男の腕を掴む。
「行くわよ!」
 やや引きずられるように男もついていき、近くの部屋へ逃げ込む。
「どこか、隠れられる場所は……」
 女が素早く視線を巡らせ、クローゼットに目を留めた。大きく開き、男と共に入り込んで扉を閉める。
 それから暫しして、重い足音が近づいて来た。それは部屋の中へ入り──どうやら2人を探しているらしい。
 息を殺し、可能な限り気配を決して2人は魔種が過ぎるのを待つ。不意に足音がクローゼットの前で止まった。けれど、それはやがて部屋を出ていってしまう。
「……行った?」
「行ったわね……」
 様子を伺いながらクローゼットを出る2人。魔術師の残した手記を再び広げ、男はある文を指差した。

「──ここだ!」
 各部屋にあるクローゼットへ体を押し込んで魔種の捜索を躱し、2人はとうとう書斎へ辿りついた。
 散らかった書斎の奥には瓦礫が積まれ、その先には割れて全開となった窓。
「急いで! あれが来るわ!」
 重たい足音に2人が走り出す。瓦礫を上り、窓へ足をかけて。着地なんて考えていられない。
 ──飛び出す際にふと背後が気になってしまったのは、なぜだろうか。
 窓から飛び出すと同時、体を捻る。男の視界に映ったのは迫りくる魔種と──その背後にある、無数の目玉と光の煌めきだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。
 出番が少ないぞ! と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、代わりにプレイングで書かれていた工夫の数々は描写されているかと思います。「ここは自分のやったところだ!」と思いながらリプレイを読んで頂ければ幸いです。
 全体的に短い期間でしたので、このレベルの出来は想定していませんでした。ルートが分かれるというのも楽しいですね。
 もう1つのルートは最後の方を描写できませんでしたが、どちらを選ばれても楽しめたことでしょう。

 素敵なストーリーを作り上げたあなたへ、記念の称号をお贈りしております。どうぞご確認ください。

 それではまたご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

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