PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<アンゲリオンの跫音>聖盾は第一の預言に踊る

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●セレスタン
「……まさか、聖盾が遂行者の手に落ちているとはな……」
 セレスタン・オリオールが、悔恨の表情でそう告げる。
 聖都、フォン・ルーベルグ。今、ここでは新たにもたらされた三つの預言によって揺れていた。
 それは、単純に受け取るならば、敵陣営からの宣誓布告なのだ。三つの事件を起こすぞ、という。それをどう迎撃するか……そのような対応が、イレギュラーズたちに迫られていた。
「敵は、天義に縁のあるものじゃないのか?」
 ゴリョウ・クートン(p3p002081)が、そう尋ねる。
「いや、裏切者がいるってわけあじゃないんだが。それでも、サマエルのあの戦い方は、訓練された騎士のもの……天義の、なんだよな?」
「それは間違いないね」
 サクラ(p3p005004)が言った。
「加えて、盾を扱うことには慣れている、といった感じだよ。まるで、聖盾の正統なる後継者だとでも言わんばかりに」
「それは……!」
 ジルが、少しだけ怒ったように声を上げた。
「ありえません! 確かに、不正義の疑惑をかけられて没落したとはいえ、オリオールの家は、天義に背くようなことはありません……!」
「いや、ジル、良いんだ」
 セレスタンが力なく笑った。セレスタンの従騎士であるジル・フラヴィニーは、それ故にオリオールの家への忠心は篤く、些か向きになってしまったところがあるのだろう。だが、セレスタンは、些かの無力感に包まれているようだった。
「先の戦いで、アストリア一派に聖盾を奪われてしまったのは私の落ち度だ。
 その際に、不正義として断罪されかけていた私に、何もできなかったことも事実。
 結局、私のふがいなさが、此度の件を招いたのかもしれない……」
「セレスタン様……」
「ああ、別に、あなたを責めてるわけじゃないのだけれど」
 タイム(p3p007854)が、少し困ったように言った。
「なんにしても、少しでも情報が欲しいのは事実よ。あの、すかしたイケメン……サマエルに関する、ね。
 そういった意味でも、やっぱり内内から情報を探るのがいいのかしら、って」
「すかした……そういうやつなのかい?」
 セレスタンがそういうのへ、タイムが頷いた。
「実際にあってみるといいわよ。たまにキモイわ」
「キモイ……」
 セレスタンが困ったように笑う。さておき。
「盾を扱う騎士というと、天義の聖盾騎士団とかかな? 彼らも元は、オリオール家の指揮下にあったはずだよね?」
 サクラがそういうのへ、ジルが頷く。
「はい。天義にて、盾の一族といえばオリオール家でしたから……でも、確かに、不正義にあって地位をはく奪され、今は聖盾騎士団も、聖騎士団の指揮系統に併合されているはずです」
「そいつらの身元は確かなのか?」
 ゴリョウが尋ねる。頷いたのは、サクラだ。
「さすがに、護国の騎士たちに妙な手合いはいないと思うけれど……」
「念のため洗ってみてもよさそうじゃない?
 結局、天義に関係するかも、っていう所しか、サマエルについての情報はわからないのだもの」
 タイムの言葉に、セレスタンはうなづく。
「ふむ……ひとまず、聖盾騎士団を洗ってみるとしよう。ただ、時間はかかりそうだ。私も今は、一騎士にすぎないのでね」
「こっちでもいろいろ調べてはみるぜ。ただ、今は第一の預言の対処を優先しないとな」
 ゴリョウが、ふむ、とうなづいた。
「『天災となる雷は大地を焼き穀物を全て奪い去らんとするでしょう』か。穀物がどうのってのは特に気に入らねぇが」
「兵糧攻めにでもするつもりなのでしょうか?」
 ジルが小首をかしげるのへ、サクラが頷く。
「別の預言では、水が飲めなくなっているらしい。そういう方面もあるのかもしれないね……」
 そう、イレギュラーズたちが頭を悩ませていた時である。
「た、大変です! イレギュラーズのみなさん!」
 と、黒衣の騎士が一人、慌てて部屋へと飛び込んできたのだ。
「どうしたんだい?」
 セレスタンが尋ねるのへ、黒衣の騎士はかしこまると、
「フォン・ルーベルグ近郊に手、巨大な乱雲が発生し、苛烈な雷が鳴り響いているとのことです!
 それも、自然現象のそれとは違う、明らかに人為的な意図を感じられるものです……!」
「雷は大地を焼き、って奴ね?」
 タイムがそういうのへ、ゴリョウが肩をすくめた。
「もともと雷ってのは稲妻とも書いてな、米の豊作を占う吉兆でもあったんだが……どうやら、ここのはそうじゃないらしい」
「また、白い大盾を持った仮面の男の出没も報告されています!」
 聖騎士が言うのへ、セレスタンが慌てて立ち上がった。
「聖盾か!? 噂の遂行者サマエルか……!?」
「なるほど、どうやら、彼もまた悪事を働いているらしいね」
 サクラがそういって、ゆっくりと立ち上がった。仲間たちも、それに合わせて立ち上がる。
「行きましょう、オリオール卿。貴方にも、その目で見分する必要があると思います。
 彼の聖盾が、間違いないものなのか」
「もちろんだ。力を貸してほしい、ローレット・イレギュラーズの皆」
 そう告げるセレスタンに、イレギュラーズたちは力強くうなづいた――。

「さて」
 『サマエル』は雷の鳴り響く中、静かにうなづいた。傍らには、無数の『影の艦隊』たちの姿が見える。
「雷は天災と化し大地を焼く、か。如何にもな終末風景だな、ツロよ」
 手にした白亜の盾は、その末世の風景に何を思うのか。汚染されたそれは、もはや悪しき思想に乗っ取られているのかもしれない。
「私も役目を果たすとしようか。
 来るがいい、ローレットの者どもよ。
 この『聖盾』の輝きを、存分にその目に焼き付けるといい――」
 雷の荒れ狂う大地に、『サマエル』は立つ。
 セレスタン、そしてローレット・イレギュラーズたちが戦場に到着したのは、その間もなく後の事である――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 現れた『サマエル』を撃破し、預言を退けましょう!

●成功条件
 すべての『影の艦隊』を撃破し、『サマエル』を撃退する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 天義にもたらされた、三つの預言が一つ。第一の預言によれば、『天災となる雷は大地を焼き穀物を全て奪い去らんとするでしょう』とのこと。その予言を現すように、フォン・ルーベルグ近郊にて、強烈な雷の発生が確認されました。そして、同時に『影の艦隊』及び、仮面の遂行者『サマエル』と思わしき姿も――。
 彼らの蛮行を見過ごすわけにはいきません。すぐに戦場に赴き、敵を撃破する必要があるのです!
 作戦結構エリアはフォン・ルーベルグ近郊の平原ですが、今回は苛烈な雷の降りしきる、とてつもない悪天候がフィールドを覆っています。
 この悪天候は、下記に記す通りの硬貨を齎す、デバフ効果となっています。
 対策などをしっかりしておくと、スムーズに戦えるでしょう。

●特殊デバフ
 『第一の預言:天災の雷』
  フィールドを覆う、苛烈なる雷の驟雨です。毎ターンの初めに、BS抵抗値補正=なしで特殊抵抗判定を行います。
  このチェックに失敗した場合『痺れ』系列のBSを付与されてしまいます。
  BS無効を詰んだり、回復を厚くししたり、特殊抵抗を高めるなどで対応するとよいでしょう。

●エネミーデータ
 遂行者、『サマエル』 ×1
  聖盾を持つ仮面の遂行者です。聖遺物である盾は、強力な防技、抵抗を『サマエル』に付与する鉄壁の盾です。
  基本的に『守り』の戦法をとりますが、もちろん攻撃を行えない、弱いというわけではありません。
  攻撃と守りを兼ね備えた、変幻自在の攻撃を行ってくるでしょう。
  今回は、BSとして特に『足止』系列や『毒』系列のBSを付与してきます。フィールドデバフの『痺れ』系列の効果を最大限に利用しようとしてくるようです。
  BS対策を厚めにして戦うといいでしょう。

 影の艦隊 ×18
  マリグナント・フリートと呼ばれる、影の艦隊。全員が『艦船の装備のようなもの』を装備した人間ふうの姿をしています。
  駆逐艦、と呼ばれる近接攻撃タイプが8体。
  重巡、と呼ばれるタンクタイプが4体。
  空母、と呼ばれる遠距離攻撃タイプが6体。
  合計18体が存在ます。

  駆逐艦、は、素早いスピードで一気に接近しつつ、魚雷の、『火炎』系列BSを付与する強力な攻撃を行ってきます。半面、耐久面では脆いです。クロスカウンターを狙ってやるか、近づかれる前に強力な遠距離攻撃で仕留めてやったりするとよいでしょう。

  重巡、は、高い防御能力を生かし、『怒り』などを付与して自分の攻撃を引き付けようとします。足の遅さと、攻撃力の低さがネックです。盾役の役目を果たせなくさせてやったり、逆に怒りで引き付けてやるなど、行動を妨害してやりましょう。

  空母、は、広範囲への遠距離攻撃を得意とします。BSも多彩で、『火炎』系列、『毒』系列、『凍結』系列などをばらまいてくるでしょう。耐久力のもろさと、近接戦闘での弱さが弱点です。さっさと近づいて、一気に削り倒してやるとよいでしょう。

●味方NPC
 セレスタン・オリオール
  天義の聖騎士。強力なユニットです。
  本来の聖盾の後継者という事もあり、盾を利用した防御と攻撃を兼ね備えた戦い方を得手としています。
  いざというときの囮に使ったりするとよいでしょう。放っておいても死にませんが、敵を全滅させることもできません。(NPCなので)

 ジル・フラヴィニー
  セレスタンの従騎士です。純真健気な男の子。
  まだまだ未熟ですが、精いっぱい戦います。簡単な治療術と、剣技を得手とします。
  戦闘不能にはなりますが、死亡判定は発生しません。
  動く薬草、くらいの認識で利用してやってください。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <アンゲリオンの跫音>聖盾は第一の預言に踊る完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年08月25日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

リプレイ

●末世の地
 雷が降り注ぐ。
 曇天の空より、光の柱が落ちる。
 それは、神の怒りか。
 それは、神の嘆きか。
 正しくそれは、末世の光景か。
 滅びるべくして世界は亡ぶ。
 そうあざ笑うかのような光景は、神を騙る傲慢なる魔による光景に間違いはない。
「うう」
 と、『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)が耳をふさぐように抑えた。同時に、世界が真っ白になるくらいの光が響いて、間髪入れずに咆哮のような音が鳴り響く。雷が落ちたのだろう。近くに。
「し、しきんきょりで雷を鳴らし続けるなんてひきょうな……!」
 リュコスは耳がいいのだから、こうも轟音を響かせ続けられれば、くらくらとするのも仕方あるまい。まったく予期せぬダメージに、リュコスもさすがに目を白黒させた
「大丈夫ですか? リュコス様」
 ジル・フラヴィニーが心配げに尋ねるのへ、しかし答えたのはリュコスではなくて、新たな雷である。至近距離に落ちたであろうその音に、ジルも目を丸くして、
「ぴゃっ!」
 と悲鳴を上げる。ジルは耳がいいとかではなく、単純にびっくりしたわけであるが。
「耳栓でも持ってくればよかったかしらね」
 とはいえ、この轟音に辟易してるのは、ジルやリュコスだけではない。そう声を上げる『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)もまた、鬱陶しそうに目を細めた。
「さすがに……耳がぐわんぐわんするわ。
 お子様たちも大変でしょ、これじゃ」
「べ、べつに、こわいわけではないのだけれど」
 リュコスが言う。怖いわけではない。すっごくうるさいだけで。
「ぼ、僕も怖いわけではないです!」
 ジルが言う。ジルはちょっと怖い。
「まぁ、大人でもこの勢いはな」
 『真意の証明』クロバ・フユツキ(p3p000145)が苦笑する。
「漠然とした恐怖を感じるよ。第一の預言か。まさに、世界を滅ぼすかのような光景だ」
「所詮、傲慢なるものたちの虚言にすぎませんよ」
 破滅の光景の中で、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)はいつも通りだ。当然だろう。この程度で破滅などと片腹痛い。真なる恐ろしいものに、寛治は何度も相対してきたのだ。
「さて、歩きながらで構いません。状況を整理しましょう。
 敵は遂行者サマエル。そして、その配下の『影の艦隊』たちですね」
「それは間違いないはずだ」
 セレスタン・オリオールが、少しばかり緊張したように言う。
「そして、サマエルは、我が一族に伝わる『聖盾』を持っている……それも、君たちの情報通りだ」
「聖盾というのは」
 寛治が尋ねた。
「誰でも使えるものではないのでしょう?」
「それは、当然だよ」
 セレスタンが頷いた。
「彼……リンツァトルテのもつコンフィズリーの聖剣や、他の聖者のもつ聖遺物のようにね。
 聖盾は、聖都を守る守護のシンボルだ。厳しい修行と洗礼の果てに、ようやく手に持つことを許される。
 ……私にとっても憧れであり、誇りであった。それが――」
「先の、冠位による攻撃の際に、アストリア一派に奪われたんだね?」
 ふむ、『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)と唸った。
「でも、その時アストリア一派は、聖盾を使えなかったと見える。聖盾が使われたという報告はないからね。
 ではなぜ、今になって出てきたのか?」
「少しでも、何か情報がつかめるとよいのですが……」
 『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)が言った。
「あるいは、使える存在が現れた、或いは用意できたから、になるのでしょうか?」
「……にわかには考え難い」
 セレスタンが頭を振った。
「聖盾騎士団のメンバーでも、聖盾を扱うことはできない。
 私の父はすでに亡くなって久しいし、月光人形や致命者になったという報告も受けていない……。
 私にきょうだいの類はいないし、まだ未婚故に、子もいないからね。
 分家の類もあるかもしれないが、以前の冠位による攻撃の際に、不正義として処断されてしまったものもいるからね」
「となると――」
 『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)がつぶやき、しかし頭を振った。
「何か、思い当たることが?」
「いえ――ただの思い付きにすぎません。言葉にする必要もない、と思います」
 今は、と胸中で呟いた。しかし、なにか確信めいたものを、この時サクラは抱いていた。それは、
「……でも、ごめんなさい。サマエルの事を変態とかキモいとか言っておいて、なんですけど」
 という、『この手を貴女に』タイム(p3p007854)の言葉が、後押しになるようにも感じた。
「サマエルと、セレスタンさん……どこか、似ているような気がする、のよね」
「私が?」
 セレスタンがそう声を上げるのへ、ジルが一生懸命にフォローした。
「セレスタン様は、ちょっとカッコつけですけど、変態ではありませんしキモくもないです!」
「ジル?」
 セレスタンが苦笑する。
「……ふぅむ、言われてみりゃあ」
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が、唸った。
「奴さんの正体は、うまくつかめねぇ。あの仮面が悪さをしてるみたいだが――それでも、そうか。
 何度も相対した俺達だから、なんとなくつかめる。
 似てる、のか」
「ってことは、やっぱり身内とか?」
 『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)が声を上げる。
「いや……いないはずだ。可能性があるとしたら、父を致命者にされた、という可能性だが。
 それでも、そうならば……いや、あの聖盾を、致命者という、言ってしまえば作り物に任せるものなのだろうか?」
「うーん、わかんないね……」
 アクセルが言った。
「正直、こんな光景を作れるくらいなんだ。なんでもありなんじゃないか、って思っちゃうよ。
 まぁ、これも『神の国』を使った、世界の上書きみたいなものなんだろうね。帳って奴。
 それに――」
 そう、アクセルが声を上げた刹那、ひときわ大きな雷が、大地をえぐった。その光の中に、複数の影が見える。
 機械のようなパーツを背負った、複数の影。『影の艦隊』と呼ばれる、艦船をモチーフとした装備に身を包んだ異形たち。
 そして――。
「来たか――」
 白亜の盾を携えし遂行者。
「サマエルか」
 クロバが構える。雷が光、ひときわ大きな雷鳴が戦場を震わせた。
「如何にも。お初にお目にかかるものも、そうでないものも――。
 そして、セレスタン・オリオール。
 無様に聖盾を手放したお前が、よくも戦場に顔を出せたものだ」
「貴様が」
 セレスタンが刃を構えた。
「サマエル――何故、我が一族の聖盾を、貴様が」
「考えてみるといい」
 大仰に、『サマエル』は肩をすくめてみせる。
「そして、ゴリョウに、タイム、だったな。
 幾度となく、よくも私の邪魔をする。
 だが、君たちの刃は――結局、私の喉元には届かなかった」
「かもな」
 ゴリョウが言う。
「だが――俺も日々進化してるんだ。
 オメェさん達の預言とやらを、成就させるつもりはねぇ。
 悪ぃが飯屋としては米も小麦も焼かれるわけにゃいかんのよ!」
「光栄ね。わたしのこと、忘れないでいてくれたんだ」
 タイムが強気に微笑むのへ、『サマエル』は頷いた。
「もちろんだとも、レディ。君たちと過ごした時間は、短いながらも濃密だった」
「ほんと言い回しがキモいのよね……あ、ごめんね、セレスタンさん」
 タイムが苦笑するのへ、セレスタンもわずかに苦笑した。
「ああ、いいとも……何か、こう、嫌悪を感じる」
 それは、魔に属するものへの嫌悪か。あるいは、『似ている』とされたものへの嫌悪か。
「『サマエル』! 逃げ帰るなら今の内だよ!
 オイラには、この雷なんてのはきかないんだからな!」
 アクセルがそう宣言するのへ、サマエルが笑う。
「無論、そこまで君たちを舐めてかかってはいないとも。この地形を利用させては貰うがね。
 しかし、君たちを仕留めるのは、私の刃であると宣言しよう」
 雷は鳴り響く。地に満ちるのは、悪意の艦隊。そして、白亜の悪しき聖遺物。
「――」
 す、と、サクラは息を吸い込んだ。姿勢を低く、刃を構える。
「オリオール卿は、ゴリョウさん達とともにサマエルの相手を!
 ジル君は、影の艦艇の迎撃に力を貸して!」
「は、はい!」
 ジルが、頷いて構える。小さくとも、その勇気は一杯だった。
「みみがぐわんぐわんするけど、まわりの事は、ちゃんとかくにんするから」
 リュコスが言った。
「まかせて……ぜったいに、ぼくたちは、まけない……!」
 その黒衣に身を包んだ、覚悟を口にするように。
 そうだとも。どれかで破滅の景色がまみえようとも、ぼくたちは、ぜったいに、まけない。
「やるわよ! 雷なんて目じゃないくらいに、でかい銃声かましてやるわ!」
 コルネリアが叫ぶ。
「タイム! 手伝ってあげるんだから、あとで奢りなさいよ!
 あと! あの色男の頬に、必ず一発ぶち込んできなさい!」
「まかせて!」
 タイムが不敵に笑ってみせる。
「新田君、頼むよ。艦隊戦だ。経験は?」
 沙耶がそういうのへ、寛治は頷いた。
「海洋で少々。嗜んだ程度ですが」
「なら大丈夫ですね」
 チェレンチィが身構える。
「突破しましょう――この布陣を」
 チェレンチィの言葉に、仲間たちはうなづいた。
 身構える。眼前の艦隊が展開する。聖盾の遂行者は笑う。破滅の気配に。破滅の景色に。勇者たちは立ち向かう。破滅の気配に。破滅の景色に。
 衝突。それは、二つの陣営の正義だ。無論、サマエルの騙る『正義』を、世界が良しとするわけではない。それでも、『サマエル』が由とするのは、その傲慢にして身勝手な正義。
 ゆえに。ならば。
「死神が断切る――おまえの正義を、だ」
 クロバが言うように。
 断切るしかない。
 漆黒よ、漆黒の騎士たちよ。
 白衣の悪を断ち切れ。
 今こそ――末世の光景に、踏み出せ!
「行くぜ!」
 ゴリョウが叫んだ。
 それを合図に。
 戦いは、始まった。

●雷の衝突、雷鳴の交差
「サクラさん! 我々のトップスピードはあなたです! 駆け抜けてください!」
 寛治が叫ぶのへ、
「道は、つくるよ!」
 リュコスが叫んだ。
「とっぱ、して!」
 振り下ろした手、その堕天の輝きが、大地を走る。影の艦隊たちの足を止める。道を作り上げる。
 そして、サクラは身を低く、一気に走り出した。漆黒の衣、騎士が走る。雷の平原! その背に、友を乗せ、友を繋ぎ――奥へ!
「来るか、ロウライト!」
 さしもの『サマエル』と言えど、この度のサクラの反応には追い付けなかったようだ。
「いいえ――あなたの相手は!」
「俺達だ! 依然、変わらずッ!」
 飛び込んだのは、ゴリョウだ! その体躯を全力で生かし、ライオットシールドを構えたシールドバッシュ! 敵を押し込むように、踏み込む!
「……ほう!」
 感心したように、『サマエル』は聖盾を構えた。
「起動(レディ)・展開(オープン)――『聖盾よ、子羊を守りたまえ(セイクリッド・テリトリィ)』!」
 雷にも負けぬほどの聖なる/穢れた光が、聖盾よりほとばしる。ゴリョウと、『サマエル』。二つの盾が、蒸気を、光を吹きだしながら、衝突!
「お召し変えかね?
 ふ――よく似合っているといわせてもらおう」
「変わったのは服だけじゃねぇぜ!」
 ゴリョウがその体を発光させる。目くらまし。曇天の暗さの中で、光こそが最大のヴェールになるという矛盾。
「油断しねぇよなオメェさんなら!
 じゃあ今回は『ここで』俺らと殴り合おうぜぇ!」
 にぃ、とゴリョウは笑う――『サマエル』もまた、その口元を引き上げた。
「よいとも――踊ろうじゃないか、ジェントルマン!」
 ばぎん、と音を立てて、盾と盾が衝突、弾き飛ばされた。間髪入れず、両者、獲物を握りしめた右手がひらめく。籠手。刃。二つの武器が衝突!
「タイム!」
「任せて!」
 タイムがその手を振るう。聖なる光が、ゴリョウの力を押し上げるように輝いた。振り上げる、拳。『サマエル』の刃が振り上げられ、後退。
「サマエル!」
 セレスタンが踏み込む。鋭い斬撃。成程、流石は聖騎士といえる。それは、イレギュラーズのそれに勝るとも劣らぬほどの一撃だ! だが、サマエルはまるで『それを理解してるかのように』盾を構えて受け止めて見せた。
「君では力不足だ――舞台には上がれまい。『君』では!」
「なんと……!」
 セレスタンが歯噛みをする。タイムが叫んだ。
「サポートはするわ! いちいち挑発を真に受けてないで!」
 タイムの光の護術式が、セレスタンを包む。僅かに力を強めた斬撃が、『サマエル』を振り払った。
「やはり、君の光は好い――」
「ありがとう! なら、ご褒美に何かプレゼントしてくれてもいいんじゃない?
 ――その仮面の下の素顔とかね!」
 駆けだそうとした『サマエル』を、ゴリョウとセレスタンがマークする。ここで、この三人で、足を止める。これは二正面作戦である。『サマエル』と、影の艦隊を分断し、両者をせん滅する。この三人の負担は大きい。だが、ここで踏ん張らなければ、策は瓦解する――。
 にらみ合うように、四つの視線が交差する。ゴリョウ。タイム。セレスタン。『サマエル』。
 一方――。
「新田君、攻撃頼む!」
 沙耶が叫び、寛治は笑う。
「では、ご覧に入れましょう。かのメテオスラークすら封じたこの連携を!」
 その自動拳銃を構えた。放つ。的確に。六発。七発目は放たない。銀の銃弾は、『この程度の相手にはもったいない』。
 六発、放たれた銃弾は、魔術を帯びて黒鉄の驟雨となる。あるいは、殺戮楽団の奏でるラプソディ。降り注ぐのは、雷だけではない。寛治の、銃弾もそうだ。
 放たれた銃弾が、影の艦隊たちの『艤装』を貫く。大慌てで構えた『重巡』の、その動きが封殺された。うごけない――!
「そして、空母打撃群が相手なら、空母から沈めるのは当然の戦術です」
「てええええいっ!」
 雄たけびとともに、ワイバーンとともに沙耶が突撃! 狙うは、空母! 空母の上空でワイバーンから飛び降りた沙耶が、敵の眼前でその手を振るう。黒咢。生まれる、敵意の魔術。ぐわあり、と開いた大咢が、影の空母のうち一体を飲み込んだ。ばぎん、と音を立てて、艤装が砕け散る。影の肉体が、より大きな影に食われる。じゅわり。消える。
「残り五体だ!」
 沙耶が叫んだ。その瞬間には、別のメンバーもすでに踏み込んでいる。
 駆逐艦で前衛をつとめ、重巡で盾を務め、遠距離から空母が爆撃を行う。それが敵の戦術であった、が。
「なるほど完璧な作戦ね。アタシたちには通用しないってところを除けばだけど!」
 コルネリアが叫ぶ! その間合いに、重巡たちを引き付ける。
「盾役が頭かっかしてたら意味ないのよね。ほら、あそこのゴリョウとか言うの見てごらんなさい。
 ああ見えて、頭はスッキリしてるわよ。
 ね、ジル。ああいうのが、イイ男ってのよ。わかる?」
「え、は、はい!」
 必死に剣を振るいながら、ジルがそういうのへ、コルネリアは笑った。
「まだまだお子様ね。ま、いいけど」
 銃弾を撃ち放つ。的確に眉間を狙ったそれが、重巡の装甲の隙間をついて、影の一体の存在を消滅させる。だが、影の艦隊の数は当然のごとく多い。そして、まるでこちらを貫くような雷は、定期的に落着し、イレギュラーズたちの体を撃った。
「雷、おちるよ!」
 リュコスが叫ぶ。同時に、雷が大地を走り、イレギュラーズたちの体をしびれさせる。
「すぐに、たいせいを立て直して!」
「任せて! オイラには、こんな雷はきかない!」
 アクセルが叫び、その指揮杖を振るう。その指揮杖から清廉なる息吹がほとばしり、爽やかな風が、仲間の傷と、痺れをいやしていく。
「ジル! 君もたのむよ! オイラだけじゃ手が足りない!」
「はい!」
 ジルがその細剣で魔法陣を描くと、祝福された光が、仲間たちを包み込む。アクセルのそれよりは弱くとも、しかし確かな癒しの力が、イレギュラーズたちを包み込んだ。
「ジルはそのまま援護お願い! オイラも突っ込む!」
 アクセルが指揮杖を振るった。まるで歌うかのような音が響き、それは連続魔の砲撃と化して戦場を走る。単縦陣を組んでいた駆逐艦をなぎ倒し、奥の空母を狙い打った。艦載機もろとも、空母が影に爆散する。
「とにかく――落とすなら、空母から! 制空権はとらせない! 空はオイラの舞台だ!」
「なるほど、こちらには航空機が3――なら、俺は雷巡と行こうか!」
 クロバが叫ぶ。一気に踏み込む――目の前にいた、駆逐艦を、その刃で切り裂いた。斬撃。それからのすれ違い。後方で、ワンテンポ遅れて放たれた駆逐艦の魚雷が破裂した。その爆風を背に受けて、クロバが走る。
 雷巡。つまり魚雷の運用に特化した船だが、この場合は一撃必殺の威力で敵を葬る存在とした方が適切だろう。そしてクロバは、まさにそのような死神といえる。
 たんっ、と力強く大地を踏みしめ、降り注ぐ雷とともに、空母を切り裂く。倒れた空母が、解き放ちかけていた偵察機もろとも影に爆散する。
「――! 転回! 距離をとれ!」
 空母の少年風の影がそういった刹那、その影より飛び込んできたのは、チェレンチィである。
「――」
 静かに――振るわれる。コンバットナイフ。狙うは首筋。人の形をしているならば、そこの機能も大して変わるまい。いつもと同じ。同様に。的確に急所を突き、動かれる前に殺す。
 雷とも見まごうな、横一閃。煌めく刃、その閃光。それが、少年風の空母の影、その首元を切り裂けば、まるで出血のように影がほとばしり、そしてそれに応じてしぼむように、体も爆縮して消滅していく。
「派手、とはいきませんが」
 チェレンチィがつぶやく。
「確実に。必殺を用いて仕留めさせてもらいます。
 あとは――」
「ええ、駆逐と重巡。それだけです」
 チェレンチィの言葉に、寛治が頷いた。
「さながらミッドウェーの如し、ですね。虎の子の機動艦隊は全滅だ」
 寛治が嘆息するように言う。陸の艦隊戦。まさしく奇妙な言葉であるが、しかしそれを制しつつあったのは、魔術師のごとき戦術を練り上げ、そしてそれを的確に遂行できる、実力者の群、軍である。
 相手が悪い。だが、それを影の艦隊たちが、終ぞ理解することはなかっただろう――。

●仮面の下
 さて――では、仮面の遂行者との戦いはどうか。三名による、完全なるブロック。何れも実力者であり、確実な『ローテーション』の組み分けは上手く作用していた。といっても、無論相手もただのでくの坊ではない。時に守り、時に攻める。息もつかせぬ緩急併せ持つ戦い方は、確実に、イレギュラーズたちを疲弊させている。
「ち、いっ!」
 ゴリョウが呻き、後方へと飛びずさった。さながら振り下ろされる爪牙のごとき斬撃。『サマエル』のそれは、まさに強襲する獣の牙だ。その一撃を寸でのところでかわしながら、視線を合わせたセレスタンが飛び込む。しばらく抑える。その間に、ゴリョウとタイムは体勢を立て直す――前述したとおり、うまく回っていたといえる。が、これは『勝つための戦いではない』事は事実だ。耐えることが目的と言えど、打開策のない『守り』とは、すなわちじり貧である。
「ふ――」
 嘲るように、『サマエル』は息を吐いた。横なぎの斬撃が、セレスタンを襲った。聖騎士たちの盾で、それを受け止める。すでに左腕には痺れが走っている。痛いのか、そうでないのかも、わからない。倒れないのは、彼がそれ相応の実力者であることを物語っていたが、同時に限界も近い。
「やはり――所詮はその程度だ、セレスタン」
 小ばかにするように、『サマエル』は聖盾を構えた。間髪を入れずの突撃。シールドバッシュ。セレスタンが派手に吹き飛ばされる。
「すまない……!」
 呻くようにそういうのへ、タイムはうなづいた。
「いいえ、いいえ……!」
 飛び込む。「こっちよ」そう声を上げる。『サマエル』が、ゆっくりと刃を構えた。
「何か掴めたかね?」
「何か――」
「その男を私に相対させたのも、そうだろう。元の聖盾の持ち主。だが、彼は――腑抜けだ」
 唾棄するように、『サマエル』は言った。
「今の天義を良しとした! 変わってしまった国を! 今の堕落した正義を良しとした! ゆえに、貴様は聖盾に見捨てられたのだ!」
「サマエルあなた、見かけによらず頑固よね。
 人は過ちを犯さずには生きていけないの……!
 過ちを不正義と裁き続ければいずれ誰もいなくなるわ。
 そんな正義に何の意味があるの?」
 タイムが言う。その瞳が、仮面の奥を見据える。
「そう、人は間違える」
 『サマエル』が言った。
「だが、神は間違えない。間違えてはならない。神は絶対であり、その顕現たる天義は、私は、間違えてはならなかった――」
「過ちを犯しても、それを認められる方がずっといい。
 事実から逃げていたらキモいままよ……『サマエル』。
 辛いなら一緒に背負ってあげるから。ね?」
 不意に、手を伸ばしていた。無意識だったかもしれない。あるいは、意識的だったのかも。
 いずれにしても、伸ばしたその手を、『サマエル』はつかんでいた。
「ざわつかせるな、レディ。私とて紳士ではいられない」
「その手を離したまえ!」
 セレスタンがとびかかった。その手を断ち切るように振るわれた斬撃を、サマエルは聖盾で受け止める。
「なぜ……私に応えてくれない、聖盾は……!」
 悔し気に、呻く。
「ゴリョウ君、タイム君を!」
「応!」
 ゴリョウが、タイムを抱えて飛びずさる。限界に近い。誰もが。この場で――。
「ですが、『サマエル』」
 声が響く。寛治の声だ。
「私は盾の分野は素人なのですが――、
 盾というのは友軍を守るもの。それはゴリョウさんを見れば明らかです。
 ……しかし、貴方が守るべき友軍は、ご覧の通り壊滅している。
 つまり盾の使い手のどちらか、あるいは両方が『紛い物』という事なのでは?」
 挑発の言葉。それはわかる。だが、友軍の壊滅。それは事実だ――。
「サマエル――死の天使、という別名がある名前だ」
 クロバが飛び込む。
「なら――”死神”クロバ・フユツキ。
 お前を打倒すべく挑ませてもらう」
 振るわれる斬撃――『サマエル』は聖盾で受け止めた。硬い――いや、届いていないのか。おそらく、加護による強烈な、バフ。同時に、編み上げられた戦型による、戦術!
「ふ――なるほど。ならば、君ならわかるだろう。サマエル。その名に込められた意味を」
「死の天使――あるいは、神の毒、神の悪意――!?」
 クロバがつぶやいた刹那、悪しき/聖なる、背反した力が、聖盾から巻き起こった。その盾に刻まれた目のような刻印から、悪しき力が吹き出す。
「なるほど」
 そう、サクラがつぶやいた。ゆっくりと、刃を引き抜く。
「漸く、確信がついたよ。
 あなたは――セレスタン・オリオール卿だね?」
「……え?」
 と、ジルが言った。
 セレスタンが、驚愕の表情を浮かべる。
「まて、一体、どういう――!?」
「戦いながら、あなたたち二人の動きを観察させてもらったんだ。
 まったく、といっていいほど同じだった。それに気づいていたのは、『サマエル』、あなただけだったようだけれど。
 だから、オリオール卿の動きを、まるで予測で来ていたかのように対応できたんだ。そうだろうね。自分ならこうする、を再現すれば、それでいい」
「馬鹿な」
 セレスタンが、あえぐように言った。
「一体、何が」
「もちろん、オリオール卿、あなたが『裏切った』という事ではない。ただ、あなたの行動は、もしかしたら彼に筒抜けだったのかもしれない。
 何故なら、彼はあなただから。『神の国の、セレスタン・オリオール』。それが、『サマエルという遂行者』だから」
「神の国の、セレスタンだと!?」
 ゴリョウが吠えた。
「致命者だってことなのか?! だが――」
「ううん、致命者じゃない。
 聖女ルルや、私やスティアちゃんと同じ顔の遂行者と同じ。
 おそらく刻印を刻んだ聖盾から作り出された、『帳』の世界のセレスタン・オリオール。
 だから聖盾も使えるし、天義の剣技も修めている。
 それが、答えだ」
 サクラが、『サマエル』を見据えた。
「――は」
 『サマエル』が。
「はは! ははははは!」
 笑った。
「いや――実に。優秀だな、ロウライト。話に聞いていた以上に。
 それに狡猾だ。私を通して、ツロやルルの事まで確定しようとしている。
 だが、私もそこまで間抜けではないのでね。
 君の答えでは、満点はあげられないが――敬意を表しよう。一つだけ、答え合わせだ」
 そういって、『サマエル』は、仮面を取り外した。
 その仮面の下にあったものは。
「セレスタン、様」
 おびえるように、ジルが言った。
 その表情は、間違いなく――セレスタン・オリオールに違いなかった。
「まさか、本当に」
 アクセルが、声を上げた。
「セレスタン、なのか!?」
「そうだな。そうでもあるが」
 『セレスタン』が笑う。
「私に気付くとしたら、お前だと思っていたよ、『セレスタン』。だが、私の想像以上に、お前は間抜けの無能だったようだな」
「馬鹿な」
 セレスタンが、呻いた。
「なにが、どうなって……!」
「私たちと同じ顔をした人間がいる。まるで、IFを生きてきたような、似て異なる、そう言う存在が」
 サクラが言う。
「確証はなかった……けれど、今ようやく、ピースがそろったんだ。これが、一つの答え……」
「私の成り立ちを教えるつもりはない。そこまでサービス旺盛ではないのでね。
 だが、これで私の憎しみが分っただろう。
 正しきを生きてきた、真なるセレスタン・オリオール。絶対正義の使徒。理想。それが、私であり――」
 それから、憎々し気に、セレスタンをにらみつけた。
「唾棄すべき偽物と言うべきなのは、お前だよ、セレスタン」
「それが、あなたの憎悪の理由」
 タイムが言った。
「あなたの、仮面の下――」
「そう言うことだ、レディ」
 ふ、と『セレスタン』は笑った。
「そして、今宵の舞台はここまでのようだ」
「逃げるつもりですか?」
 チェレンチィが言う。
「逃がす、とでも?」
「痛み分けだ」
 『セレスタン』が言った。
「『私』は役割も、目的も果たした。セレスタン、もうわかっただろう? 私がどういう存在か。魂に響いたはずだ……今度は目を逸らすべきではないな」
「貴様……!」
 セレスタンが吠える。切りかかった彼の刃を、しかし『セレスタン』は聖盾を以て、殴り飛ばすようにはじき返した。
「ぐっ……!」
 ダメージの蓄積から、よろめくように倒れたセレスタンを、コルネリアが受け止める。
「無茶しなさんな。限界でしょ、アンタも……」
 それから、じ、と『セレスタン』を見やる。
「そちらもね。だから痛み分け。
 いいわ、お帰んなさい」
「痛み入るよ、レディ」
 『セレスタン』は、ジルに視線を移す。
「君もだ、ジル。どちらに真に仕えるべきか。考えておくといい」
「歴史修正に誘うつもりかい?」
 沙耶が声を上げる。
「そこまで許してやる義理はないよ」
「無論、今、今日でどうこうするつもりはないとも」
 そう言って笑うと、『セレスタン』は大仰に一礼して見せた。
「では、またの機会に」
 そういうと、彼の姿が掻き消えた。おそらく、『神の国』へと逃げ込んだのだろう。
 戦いは終わりを告げた。間違いなく、イレギュラーズたちが勝利を収めたのだ……。
「セレスタン、ジル、だいじょうぶ……?」
 リュコスが尋ねるのへ、
「ああ、だが、すまない……少し……」
 セレスタンは、苦しげに呻いた。
「ごめん、なさい……」
 ジルも、事態を飲み込めぬように、そう頭を振る。
「……神の悪意、か。まさに――」
 クロバが、そうつぶやいた。
 この状況は、まったく、誰かの悪意に彩られて作られているような、そんな気持ちがしていた。

成否

成功

MVP

サクラ(p3p005004)
聖奠聖騎士

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 謎は増えたとて、しかし戦いには勝利しました――。

PAGETOPPAGEBOTTOM