PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ベルナルド放浪記。或いは、山に、山に入ったんか⁉…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●山に入ってはいけない日
「お前!! お前、まさか山に入ったんか!?」
 豊穣。
 とある山の麓の野原でのことだ。
 時刻は夕暮れ。朱色の空に、老爺の怒号が轟いた。怒鳴りつけられた張本人……ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は、カンバスに筆を走らせる手を止めて老爺の方を振り返る。
 山、とは先日に立ち入った“禁足地”のことだろうか。
 今、この瞬間にもベルナルドが描いていたのがその山だ。
「山……には確かに立ち入ったが。禁足地だとは知らなかったんだ。山を汚してもいないし、野生の獣や山菜を獲るような真似もしていないが」
「やっぱりか! やっぱり入ったんか! このアホンダラめが!」
「……あ、アホンダラ?」
 老爺の様子はどこかおかしい。目は血走っているし、顔色は青ざめている。怒声を吐いた口元は、わなわなと震えているではないか。
 ベルナルドとしては、出来れば早めに会話を切り上げたいところだが……何しろ、絵の完成は目前なのだ。仕上げを前にして、老爺の相手をしているような暇はない。
 とはいえ、老爺の様子が気にかかるのも事実。
「ご老体。何か拙いことでもあるのか? あるなら聞かせてほしいんだが……」
「ぁ~~~~~っ! こい! こっちへ来るんじゃ!」
「は!? おい、まて、まだ絵が……」
 老爺は詳しい事情の説明をしないまま、ベルナルドの手首を掴んだ。
 小柄な老人とは思えぬほどに力が強い。それだけ、老爺は必死ということだ。
 そして、ズルズルとベルナルドを引き摺って老爺は近くの村の外……手入れのされていない雑木林へベルナルドを引き摺って行った。
 そして……。
「ここに入っておれ!」
 何の説明もしないまま、ベルナルドを古井戸の中へと突き落としたのであった。

 ベルナルドが落とされた後、井戸には蓋が閉められた。その重たい音から察するに、井戸の蓋は鋼鉄製だ。とてもじゃないが、狙って壊せるような厚さでは無いように思う。
「お山に入ったとなれば……“蛇…様”が目を覚ますかもしれん。いかんぞ、腹が減っておるとしたら、もう何人か……余所者を捧げるしかないか」
 くぐもった老爺の声が聞こえた。
 どうも、ベルナルドを何かの餌とするつもりのようだ。要するに“生贄”と言うやつである。
「……まずことになったな。雨でも降っちゃ、描きかけの絵が台無しになる」
 季節が季節だ。
 今が宵の口……夕立が降るのが翌日の夕方だとすれば、ベルナルドに残された時間は24時間も無い。

●雨が降る前に
 ベルナルドが井戸に突き落とされてから、2時間ほどが経っただろうか。
 井戸の外は、そろそろ夜になっただろう。
 2時間の間、井戸の底を調べ回って、ベルナルドは幾つかのことに気が付いた。
「まず1つ目、この井戸は山の方に続いている……というより、井戸では無いな。水が溜まっていた形跡が無い」
 まるで、巨大な何かが地下に掘った巣穴のようにも思われる。山へと続く長い洞窟……所々で、道は幾つかに分岐しているようだった。
 そして、僅かにだが風が吹いている。
 洞窟の奥……山の方へ向かえば、外に出られるかもしれない。
 そして、2つ目。
 どうやら近くには、他にも6つほどの井戸があるようだ。そのどれもが鋼鉄の蓋で閉じられている。
「3つ目……これは、鱗か? 皮か?」
 壁に立てかけられた“何か”に手を触れて、ベルナルドはそう呟いた。
 つるつるとした……プラスチックのような手触りと、その形状からベルナルドは手に触れているそれを“鱗”……または“鱗を持つ生物の抜け皮”であると判断した。
 だが、サイズがおかしい。
 生物だとしても、竜に匹敵する巨大なもののように思われる。
「それから……」
 ちら、と背後を振り向いた。
 視界の隅に、白い影が揺らぐ。人の影だ。それも女性の。
 だが、人影はあっという間に掻き消えた。
 これで何度目だろうか。近づいて来るわけでもなく、襲って来るわけでもなく、その人影はベルナルドを見ている。監視している。
「喜色が悪い……だけでなく、これは【封印】【暗闇】【魔凶】に【呪い】か。面倒なことをする」
 暗闇の中、自分の手元に視線を落としてそう呟いた。
 目下の脅威は、姿の見えぬ巨大な何かと、白い女性の人影となるか。
「脱出したいが……もう何人か落とすと言っていたな。合流してからの方がいいか」
 と、そう言って。
 ベルナルドは、地面に腰を落とすのだった。

GMコメント

こちらのシナリオは「サラシナ日記。或いは、山がおかしい…。」のアフターアクションシナリオです。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9957

●ミッション
地下洞窟から脱出する

●エネミー?
・白い女性の人影×?
一定の距離を保ってついて来る白い人影。
霊の類か、そうでない何かなのかは不明。
闇の中に溶け込むようにして姿を消したり、現れたりする。
視線を感じると【封印】【暗闇】【魔凶】【呪い】の状態異常を付与される。

・姿の見えない巨大な何か×1
姿は見えないが、おそらく地下洞窟にいるであろう何かしらの怪物。
ベルナルドは、脱皮した抜け皮を発見した。
竜のように巨大な蛇か、爬虫類か……そういった類の怪物であると予測される。
その巨体ゆえ、遭遇すれば相応の脅威となる。

●フィールド
豊穣。
禁足地であるお山の麓から、山の方へと伸びる大きな地下洞窟。
お山麓の村の近くにある雑木林に井戸があり、そこから地下へ落とされた。
井戸は厚い蓋で封鎖されており、透過、透視系のスキルを無効化する封印が施されているようだ。
洞窟は山の方へと続いており、所々で道は分岐している。
もしかすると、ダメージが生じる罠の類が仕掛けられているかもしれない。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • ベルナルド放浪記。或いは、山に、山に入ったんか⁉…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月19日 22時30分
  • 参加人数7/7人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
カナデ・ラディオドンタ(p3p011240)
リスの王

リプレイ

●第一話:俺たちは悪くない
「悪運だけは強いというか、何と言うか」
 暗い暗い井戸の底、『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は見知った仲間たちと出逢った。中にはつい暫く前に、山であった顔もある。
「どうやら天は俺を見離さなかったらしい。被害者ガチャは成功だ」
 ベルナルドを含め、集ったのは6人の男女……怒れる老爺の被害者の会の皆さんである。禁足地とされる山に足を踏み入れたのが悪かったのかもしれない。なぜなら“禁足地”なので、それはもう明らかに“足を踏み入れてはいけない”のであった。
「まさか井戸に叩き落すなんて、この恨み晴らさでおくべきか……と言うのは、まずは脱出してからだね」
 ローブに付いた泥を払って『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)が溜め息を零した。額の辺りに痣が出来ているのは、井戸に落とされた際、どこかにぶつけたせいだろう。
「クッソ、あの爺。年寄りだからと油断してたとは言え……戻ったら墓穴にエスコートしてやろうか」
 『斬竜刀』不動 狂歌(p3p008820)は怒り心頭といった様子で、力任せに壁を殴った。よほどに厚い壁なのか、狂歌の膂力で殴りつけても罅の1つも入らない。
 パラパラと埃と砂が頭上から降って来るばかり。
「あ、やっぱり皆、あのお爺さんに落とされたんだ。結構な歳だったと思うけど、元気だね」
 こりゃ当分、お迎えは来そうにないかな。
 髪を汚す砂を払って『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は手を叩く。
 渇いた音が岩の壁に反響していた。
 と、思えばヴェルーリアの身体にほんのりと白い光が灯る。まるでホタルイカか何かのように全身をほんのり発光させるヴェルーリアは、自身を生きた松明とした。
「なんということでしょう。王者が生贄として捧げられるとか大胆な不敬。これはギルティ。脱出後に教育が必要ですね」
 きょろきょろと周囲を見回しながら、『王者の探究』カナデ・ラディオドンタ(p3p011240)は拳を頭上へ突き上げた。
 誇り高いカナデのことだ。埃だらけの井戸の底に突き落とされて、すっかり怒っているらしい。元々の顔立ちが愛らしいため、今一、迫力は出ないが。
 否、本性を顕わにしない辺り、怒っていても冷静さまでは失っていないのかもしれない。カナデが人の姿を維持することを止めれば、それはもう“井戸の底に見知らぬ生物”が現れたということになりかねないからだ。
 アノマロカリス……アレは明らかに捕食者の形をしているのだから。
「とはいえ……ははぁ? こりゃ、確実に何かおる感じですの」
 壁や地面に張り付いている大きな鱗や、足元に残った“巨大な何かの這いずった跡”を交互に見比べ『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)は顎に手を触れ、瞳を細めた。

 同時刻、井戸の底を1人で歩く者がいた。
 彼……『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は舌でぺろりと“闇”を舐めると、通路の奥へ視線を向けた。
「風の動きがある、つまり、外の音も入ってくる」
 井戸のあった位置から考えれば、通路は山の方へと通じているようだ。落とされた井戸から外に出ることは叶わなかった。通路……もしかすると、枯れた水路か地下洞窟の類かも知れないが……を進んだ先が地上に通じているかもしれない。
「……生臭いが」
 通路の遥か奥の方から、肉の腐ったような臭いが漂っている。

●第二話:禁足地に入ったのは悪かったかもしれない
「ところで、あちらはどなたかな?」
「俺が知るか。現地の方だ」
 通路を進むヴェルーリアは、そっと後ろを振り返る。問いかけられたベルナルドは苦い顔をして言葉を返した。
「ちなみに1人じゃない。時々、増える」
 そう言って、ヴェルーリアに倣い視線を後ろへ。
 遥か後方、暗闇の中に白い女の人影がある。

 付かず離れず、一定の距離を保ったまま白い人影が追いかけてくる。
「あの女性の人影?から情報が得られれば良いんだけど……」
 視線を感じたのだろう。
 カインは肩を手で払うような仕草をすると、ぶるりと小さく身体を震わす。
 背後で、何かが嗤ったような気配が舌。
「爺さんは禁則地の封印されてたヤバイのに触発されて、何か目覚めるから生贄がどうとかいってたよな?」
 担いでいた大太刀に手をかけ、狂歌は不機嫌そうに鼻を鳴らした。ただついて来るだけ、見ているだけの白い影がどうやら気に入らないらしい。
「となると人影の正体は生贄にされた人達の怨霊か何かか? 見てるだけで直接手を出さないのは俺達もどうせ食われるとかでも思ってるんだろうが」
「アレだけが脅威なわけでもないですけえ。お許しを乞う時のお定まりと言えば人身御供ですが」
 そう言う支佐手の視線がベルナルドへ向いた。
「なんだ? 俺を生贄にするつもりじゃないだろうな?」
「いやいや、まさか仲間を生贄に捧げるわけにもいきません。『貴いお方』に出くわす前に、さっさと退散することにしましょう」
 肩を竦めて、支佐手は地面に視線を落とす。
 そこにあるのは1人分の誰かの足跡。それもまだ新しい。どうやらほんの少し前に、ここを人が通ったらしい。
 もちろん白い人影は気にかかる。視線の影響も受けている。
「現時点では対処のしようもないしね」
 視線を背後へちらと投げ、カインはそう呟いた。
 一旦、人影は無視して先へ進もう。まずは出口を確保しよう。
 そんな方向に話は纏まりかけていた。
 ただ1人、カナデを除いて……。
「おまかせください。王者たるもの、市民の方との交流の仕方も心得ています」
「なに!?」
 足を止めたカナデの方を、カインは慌てて振り向いた。呼び止めようとしたが、間に合わない。そもそも“市民の方”かどうかも怪しい存在だし、会話が通じるかも定かではない。
「できる限りフレンドリーな交流を心がけます」
 サムズアップ。
 まさに王者の風格である。
「違う、そう言う話じゃ……」
「いや、ひと当てしてみるのも悪くないかもしれんです」
 カインを制止したのは支佐手だ。
「なぜ、前を向いたまま?」
「いや、まぁ……こういう場所では振り返らん方がええ気がするんは気のせいでしょうか……」
 万が一、なにかあったとしても1人だけリスクを回避するつもりである。

 良好な関係を築くには、1に挨拶、2に挨拶。3、4が無くてボディランゲージである。
 よってカナデはにこにこ笑顔で、しかしゆっくり警戒させないように注意を払いながら人影の方に近づいていく。
 まるで野良猫を餌付けするかのような態度だが、悲しいかな白い人影はゆらりゆらりと揺らぐばかりで何のリアクションも示さない。
「ご機嫌いかがでしょうか麗しいお嬢様!」
 片手を挙げて、元気よく挨拶。
 だが、ノーリアクション。
 否、むしろ虚無とさえ呼べるかもしれない。
 しかし、カナデはめげなかった。
「お恥ずかしながらこの道から外へ通じる出口を探しているのですが!」
 会話が成立しないからと、さっさと諦めてしまう者に“王者”を名乗る資格は無いのだ。
 故にカナデは言葉を続ける。
 まっすぐに、対話相手の目を見つめ……。
「本日はお日柄も良く私達出口を探しておりまして決して敵意はございませんどうか教えていたぁぁぁらら? 真っ暗?」
 目を丸くして、カナデは視線をきょろきょろさせる。
 どうやら、目の前にいる白い人影の姿が見えていないらしい。
「あぁ、言わんこっちゃない」
「回収! 回収!」
 ヴェルーリアの指示に従い、カインは後ろへ駆け出した。きょろきょろしているカナデを回収するためだ。
 だが、カインよりも先に、誰かがカナデを横抱きに持ち上げた。
 アーマデルだ。
「おや? 王者を持ち上げるとは不敬な」
「悠長に話してる暇はない。何か来るぞ」
 挨拶もそこそこに、アーマデルは元来た道を引き返し始めた。
 直後、ズズと大地が震える。
 まるで巨大な何かが這っているかのような、低く長い振動だった。

「来やがったな。どんな奴か知らねぇが、寝て起きたら生贄を食うだけの怠惰な何かになんぞに大人しく食われてやるつもりはない。返り討ちにしてやるよ!」
 大太刀を低い位置に構えて、狂歌が吠えた。
 だが、狂歌の両腕を誰かが取って持ち上げる。ヴェル―リアとカインである。
「まずは逃げるよ。戦うなら、万全に戦える場所がいいしね」
「音を頼りにすれば避けられるんだし……こんな洞窟の中で巨体に暴れられたら生き埋めになるかもしれないしね」
 狂歌を引き摺るように、2人は元来た道を全速力で引き返す。
 
「ベルナルド殿、ちっと後ろ向いて頂いてええですかの? 大丈夫です、何があっても置いて行ったりはしませんけえ」
「嘘つけ。この状況でそんな話が信じられるか!」
 先行するアーマデル(と、抱えられカナデ)を追って、ベルナルドと支佐手は暗い通路を疾走している。
「蛇だったらどうする? 丸飲みにされるぞ!?」
「まて、蛇だと? 蛇が居るのか? 蛇って言ったよな?」
「止まるな。走れ!」
 急停止したアーマデルの背を、ベルナルドが強く叩いた。
 叩かれた背中を押さえるベルナルド。しかし、顔はちらちらと後ろの方へ向けていた。
「この音、もしやと思ったが……やはり蛇か?」
「そんな感じのことを言っておりましたな」
「本当か? よもやここへきてカナヘビでしたはナシだぞ? あと、蛇なら人類を餌として与えるな、装備は消化できないだろ」
「そう言う問題じゃないんだよ! っと、そこを右へ! 絵具で印がしてあるところだ!」
 岩盤に空いた横穴だ。ベルナルドが指差す先には、蛍光塗料で矢印が描かれている。
 アーマデルを先頭に、ベルナルドと支佐手。次いで、狂歌を引き摺るヴェルーリアとカインが飛び込んでくる。
 その直後だ。
 ごう、と空気の唸る音。
 先ほどまでイレギュラーズが走っていた通路を、黒い何かが横切っていく。

「蛇……のようだね。実体が……いや、半実体か? これは」
 目の前を通過していく巨大な何かの体表を見つめ、カインは瞳を細くする。
 目の前を通過する怪物は、およその予想通り“蛇”のようだ。だが、どうにも実体はあやふやらしく、カインの目には“見えるし、触れられるのに、そこにはいない”という不可思議な存在のように映っているらしい。
「挑まなくて正解だな」
「だね。あまり音を立てないようにしないと……ところで」
 ヴェルーリアはカインの肩を引いて後ろへ下がらせる。
 そうしながら、視線は横穴の一番奥へ。
 そこには白い人影がいた。
「付いて来てるんだけど」
「あー……女難の相で厄い女の扱いにゃ慣れてる。訳ありなだけの相手なら邪険にはしないさ」
 それどころじゃないしな、とベルナルドは肩を竦めた。
「なるほど。王者たるもの、1度や2度の失敗では……」
「いや。今度は俺が試してみよう」
 再び、人影とのコミュニケーションを試みようとするカナデを止め、アーマデルが前へ出る。相変わらず、と言うべきか。人影は、近づいて来るアーマデルを凝視したまま、ゆらゆらと輪郭を揺らがせるばかり。
 どうやら、睨むだけで限界、直接触れるほどの力は持っていないように思える。
 怨霊の類か、とアーマデルは予想した。
 そして……。
「ハローCQ、こちら特異運命座標……脱出経路を知らないか?」
 多少の距離を空けたまま、アーマデルはそう問うた。

 随分と巨大な蛇である。
 既に数分の時間が経過していた。ただ待っているだけでは退屈だったのだろう。ベルナルドは紙パレットと絵具を取り出し“色”を作って時間を潰している。
 赤や青、黄色や緑などの原色を混ぜて作った“黒色”。
 なるほど、それは眼前を横切る巨大な“蛇”の身体の色によく似ていた。
「で……さっきから壁に向かって、何してるんだ?」
 じろり、と睨むような視線を支佐手に向ける。
 ベルナルドの言うように、横穴に入ってからずっと支佐手は土壁に手を触れていた。なお、ベルナルドが“睨むような目”をしているのは、先ほど生贄にされかけたせいだ。
「んー……こちらの壁は地層が沈み込むようになっとりますけえ、望み薄そうです。穴を掘って脱出するのは無理そうですの」
 コツン、と強めに壁を叩くと、湿った土がどさりと零れた。多少の穴なら掘れるだろうが、過ぎれば天井が崩落するだろう。
「駄目そうですの」
 ふぅ、と吐息をひとつ零して支佐手は肩を竦めて見せる。

 どれぐらいの時間が過ぎただろうか。
 いつの間にか、蛇はどこかへ去っている。それに伴い、地震のような音と振動も収まっていた。
「それで、何か聞けましたか? 無理ならやはり私が代わりますが?」
「いや、どうにか聞けるには聞けたが」
 アーマデルは肩を竦めて、困ったような顔をしている。
 カナデは意味が分からない、というように首を傾げた。
「?」
「出られない。食われる。食われろ……と、同じ言葉ばかりを繰り返していてな」
「つまり戦闘は避けられないと? うぅん、実にテリブル」
「気持ち的に蛇とは争いたくないが」
 仕方ないか、とアーマデルは肩を落とした。

●第三話:一番悪いのはあの爺さん
 通路を進んだ先にあったのは、水のたまった地下洞窟。
 水の底には、古い社のようなものが見えていた。水面に映る月の明かり。頭上を見上げれば、遥か高い位置には夜空が覗いていた。
「階段、かな? 足元に気を付けないとだけど、ここから外に出られそう」
 壁面を指さしヴェルーリアはそう言った。
 それから、ちらと背後を見やる。
 暗い地下洞窟の各所に、白い人影があった。どれも若い女性のようだ。
 近づくことはしないが、爬虫類のような冷たい瞳でじぃとこっちを見つめている。
「数が多いな」
 ベルナルドは虚空に絵筆を走らせた。
 空中に散った紫の絵具が、魔力を孕み津波のように空間を塗りつぶしていく。紫の帳は、当然のように人影たちを飲み込んだ。
 悲鳴をあげることもなく、抵抗する様子さえ見せず……。だが、これで片が付くのならとっくの昔にそうしている。
 1度は消えた白い人影は、時間の経過と共に1体、2体と再び姿を現す。
 支佐手は、諦めたとでも言うように首を何度か横に振った。
「無視した方が良さそうですの」

 先頭を進むのはベルナルド。
 最後尾はヴェルーリアだ。光源を確保するために、このような配置となっている。
 白い人影は付いて来ない。地下洞窟の底の方から、地上へ向かう一行をじっと見つめているだけだ。
 おかげで、ただ階段を登るだけなのに消耗が激しい。
 けれど、ある瞬間に。
 突然に、視線は消え去った。
 直後、大地が再び揺れた。揺れは徐々に大きくなる。何かが近くに迫って来る。
 
 蛇だ。
 水飛沫を上げ、巨大な蛇が現れた。
 限界まで顎を開け、最後尾を進むヴェルーリアに襲い掛かる。
 だが、しかし……。
「ちぃ……!」
 舌打ちと共に、カインは剣を横に一閃。
 螺旋状に渦巻く魔力が、黒い大蛇の鼻先から首にかけて巻き付いた。途端に、大蛇の動きが鈍る。
「これなら逃げるにしても戦うにしても誘導するにしても有用だろうさ!」
「逃げましょう。アレは良くない」
「同感! 急いで上へ!」
 ヴェルーリアの手を掴み、カナデは階段を駆け上がる。
 その場に残ったのは2人……狂歌とアーマデルだ。身動きを制限させながら、なおもヴェルーリアやカナデを喰らおうとする大蛇に向かって、2人は同時に跳びかかる。
「姿が見えてる分、この間の禁足地の奴と比べりゃ大部マシだな!」
「人類を食べるのはお勧めしない、消化に良くない」
 狂歌の大太刀と。
 アーマデルの跳び蹴りが、同時に大蛇の鼻先を叩いた。
 体勢を崩した大蛇は、重力に引かれて穴の底へ落ちていく。
「下手したら詰まって苦しむことになる、俺はそう言ううっかりさんを見てきた……故に食事は山中の動物を選ぶのがお勧めだ」
 
「いやあ、随分と久しぶりに陽の光を見た気がします」
 地上に這い出した支佐手が、地面の上に手足を投げ出し寝ころんだ。新鮮な森の空気を肺いっぱいに吸い込んで、視線をチラと横へと向けた。
「ん……んん?」
「なんだ、こりゃ……」
 目を疑ったのはベルナルドも同じ。
 地面に空いた小さな穴を囲むように、注連縄が張り巡らされている。注連縄の外には、数えきれないほどに多くの地蔵がずらりと並んでいた。
 地蔵の中には、首の落ちているものもある。
「随分と厳重に封印されるみたいですの」
「……何やらかしたんだ、あの蛇」
 顔を見合わせ、支佐手とベルナルドは頬に汗を伝わせる。
 ともあれ。
 無事に7人は、地下からの帰還を果たしたのである。


成否

成功

MVP

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
無事に地下からの脱出は果たされました。
皆さんを地下へ叩き落した老爺も、まさか皆さんが生きているとは思わないでしょう。

この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

PAGETOPPAGEBOTTOM