PandoraPartyProject

PandoraPartyProject

Blue Rose With Queen

「鬱陶しくてよ」
 幻想の至宝とすら称された蒼薔薇(きせき)の美貌に酷薄な笑みを乗せて――
「――私の手で路傍の塵になれた事を光栄に思いなさいな!」
 ――リーゼロッテ・アーベントロートの不可視の爪が魔種の四肢を細切れにした。
「お嬢様」
「……」
「『大丈夫』ですか?」
 丁度彼女の背後を守るように目前の敵と相対しているのは善と悪を敷く天鍵の女王――レジーナ・カームバンクル(p3p000665)その人だ。
 今更言うまでも無く陰に日向に愛しのお嬢様に尽くし続ける彼女が幻想を襲ったこの大乱に手をこまねいている筈も無かった。
「おかしな事を聞くのね、レナは」
「ふん」と鼻を鳴らしたリーゼロッテの呼び名が『愛称』であった事が物語る。
 幻想切っての武闘派として冠位色欲ルクレツィアの猛攻に敢然と立ち向かう彼女には随伴の戦力が無い。
「お嬢様の実力は超一流、しかし持久力に余り優れません」
「……」
「こういう戦いは余り得手には無いと存じます」
 かつてなら強大な薔薇十字機関がその役割を担ったのだろうが、当代アーベントロートであったパウル・ヨアヒム・エーリヒ・フォン・アーベントロートの引き起こした『Paradise Lost』以降、アーベントロートの暴力装置は大幅な弱体化を余儀なくされている。尤もそれでも本来は当主を矢面に立たせる程貧弱な組織ではない。リーゼロッテがレジーナだけを供にしてこうして最前線に立つ理由は『少しでもメフ・メフィートの被害を食い止める為』に他ならない。
「ですから、大丈夫かと」
「……ええ」
 或る意味で誰よりも自分に忠実で自分を良く知るレジーナの言葉にリーゼロッテは苦笑いを浮かべていた。
 連戦に次ぐ連戦、大混乱の中での乱闘は暗殺者であるリーゼロッテにとっては簡単な戦いでは無かった。
 事も無く何体もの魔種を片付けてはいるが、レジーナの指摘の通りその動きは些か精彩を欠き始めている。
 流麗過ぎるその戦いの一方で極上の美貌が歪んでいるのをレジーナは見落とすような事をしない。
「やはり、少しは供の者をお付けするべきでした」
「……でも」
「分かっております。お嬢様のお気持ちは」
 レジーナからすればそれは「でも」だ。
 薔薇十字機関はリーゼロッテとは別に各地で魔種陣営との戦いを繰り広げている。『要するにリーゼロッテはメフ・メフィートの民の被害を減らす事を自身の安全より上位に置いたという訳だ』。
 その判断は彼女がすっかり立派になった証明とも言えるが、翻ってレジーナからすれば民よりお嬢様が上位なのは当然の事である。
「……じゃない」
「はい?」
「レナが居るじゃない。それで十分でしょう?」
「――――」
 リーゼロッテの言葉は或る意味でレジーナの懸念をかわす意地悪な言葉遊びだったのかも知れない。
 何時もこんな調子の主人は手の中の珠をこうしてからかうばかりなのだから。
 しかし。
「それとも、貴女は貴女がついていて――私に傷をつけさせたりするのかしら?」

『それを言われて引き下がったのではレジーナ・カームバンクルの沽券に関わる』。

「いいえ」
 首を振ったレジーナの全身に魔力が満ちる。
 こうも挑発的なお嬢様にはいよいよ理解して頂かなければならないのだ。

 その声を拝聴する栄誉を、拝謁する奇跡の意味を。
 命じられれば、総ゆる敵は罪を刻み死ぬがよい。
 瀑布の如く降り注ぐ宝剣宝槍神器の数々を、その全てをこの忠誠に捧げよう。
 この勅令は英雄英傑に到る道なれば。この愛を語る為の試金石なればこそ。
『資格無き者は女王の玉体に触れること無く果てるだろう』。

「――緋璃宝劔天・女王勅命(ジェンヌア・フレクテレ)!」
 レジーナの渾身の一撃が物陰より薔薇を手折ろうとした不埒の身体を無数の敵意で貫いた。
「『指一本触れさせませんとも』」
 まるで騎士のようにそう言ったレジーナにリーゼロッテは微笑う。
「あら、素敵」


 ※『煉獄篇第七冠色欲』ルクレツィア及びその麾下がメフ・メフィートに侵攻しました……
 ※『暗殺令嬢』リーゼロッテ率いる薔薇十字機関がメフ・メフィート各地で奮戦しているようです。
 ※『バグ・ホール』の発生と共に混沌中で魔種による事件と甚大な被害が蔓延しつつあるようです……

これまでの天義編プーレルジール(境界編)Bad End 8(??編)

トピックス

PAGETOPPAGEBOTTOM