PandoraPartyProject

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永遠に美しく

「呼ばれた理由は分かっておりまして?」
 自身を前にしてそう切り出したルクレツィアの冷たい美貌にアタナシアは天にも昇る気分だった。
 麗しき月、愛しの主人は何時如何なる時を切り取っても美しく、至上に魅力的である。
 そんな事は言うまでも無く当然で、間違う筈も無い事実に他ならないのだけれども――
(……滅多に見れない。嗚呼、滅多に見れないのです。『このお貌ばかりは』)
 ――激しやすく冷めやすい、山の天気よりもいい加減なルクレツィアの良く変わる表情が『或る種の硬質』を帯びる瞬間こそが好きだった。
 長い付き合いで――主人を誰よりも見守ってきたと自認している彼女だからこそ断言出来る『激レア』との遭遇は最高であるとしか言いようがない。
「聞いておりまして?」
「はい。勿論、一字一句逃さず。
 ミューズの調べか、音の形をした宝石を愛でるように伺っておりますとも」
「そんな軽薄な言葉を咎めるような暇も無いのですけれど」
「軽薄だなんて、心外です。この上ない真実そのものなのに。
 ルクレツィア様はきっとそれを御存知の筈なのに――」
 ……この主従は全然似てはいないのだが、一致点が一つだけある。
『それはお互いがお互いの話を聞いているようで聞いていない所』であった。
 まぁ、似た者同士と言えばそれまでだが――関係が続いている理屈としては十分だったかも知れない。
 ともあれ、腹心とも言えるアタナシアを呼び出した理由は明白だ。
「今日のお話はあのクソ女の事ですよね?」
「……」
「『幻想は色欲の担当だ』に『混沌がターゲットなだけ』とは不遜極まる。
 結局は幻想『だけ』を外している訳でもなく、限局していないから別物だなんて理屈。
 ……そんなもの、ルクレツィア様がムカついてる時点で万死に値する話です」
「……貴方を見ていると全てがどうでも良くなりますけど、用件は確かにその話です」
 あんまりと言えばあんまりなアタナシアの直截にルクレツィアはややげんなりとした顔をした。
 しかしながら大筋で間違っている訳ではない。『Bad End 8』を名乗る原罪直属の魔種連中はここ暫く文字通り混沌中を揺るがしている。
 まあ、言葉の通りそれは『国』を的にしたものではないのだろう。
 恐らくは嘘偽りなく『混沌』を的にした動きに違いない。
『黒聖女(くそおんな)』を中心に展開しているこれ等の破壊活動もオニーサマの意向であると考えるべきなのも承知している。

 ――『だが、そういう問題ではない』。

「人間上がりだの、ぽっと出だの!
 冠位(オールド・ワン)を前に無礼極まりない連中が……
 我が物顔で魔種の代表面をしているのが許せる筈もありませんわよ。
 私の仕込みも予定もこの上台無しにして――正直、イレギュラーズ以上にブチ殺してやりたい気分ですわ」
「そうでしょうねえ」
 頷いたアタナシアは吐き捨てるような主人のヒステリーを想定済みである。
 むしろそれは彼女にとって約束された御褒美であり、大いに威厳を損ねるその愚痴を受ける事こそ特権であると認識していた。
 別にアタナシアは構わないのだ。
 ルクレツィアが冠位として盤石であろうとそうでなかろうと。
 ルクレツィアがルクレツィアである限り、彼女を愛する事を辞める理由等ありはしない。
『彼女が危機にあろうと、覇道を突き進もうとそんなものは変動しがちな外部環境に他ならない』。
 アタナシアがするべき事、する事は最初から決まっているのだから関係が無いという事だ。
「それで、如何なさいますか、ルクレツィア様」
「……」
「ムカつく連中に一泡吹かせてやりましょう!
 何とか8の一人でも直接ぶっ殺しましょうか? ぼく、頑張りますよ。負けませんから」
「……………」
「あー、でもそれだとルクレツィア様がイノリ様に嫌われちゃうかも。
 まずいですね。いや、ぼくは構わないですけど――好きな人の辛い顔を見るのは嫌ですしね」
「……………………」
「ルクレツィア様はどうしたいですか?」
「どうしたい、ではありませんわね」
 前置きをしたルクレツィアは続ける。
「私の言葉は常に『そうする』という決定です」
「愛って素敵なものですよね」
「はあ?」
「ぼくは貴方様に蔑ろにされるお言葉さえ、心地良い甘味のように受け取ってしまうのですから」
「……気持ち悪いですわよ、貴女」
 とは言え『全く軽薄ではない軽薄』をルクレツィアは最早責めない。
 咳払いを一つして話の先を続けるだけだ。
「Bad End 8が自分の担当を進めるだけならば、私も同じ事です。
 奴等が野放図に影響範囲を広げているのなら、却って私達も動きやすいというもの。
『色欲』は『終焉』の麾下ではありませんからね。オニーサマが仰られてもいない以上、それは確実」
「はいはい」
「ならば、此方も動き出せばいい。
 あんな雑な連中には出来ない、きめ細やかでより致命的な――
 私達に相応しい猛毒めいた一撃をこの世界にくれてやれば良いのです」
「……はい」
 アタナシアは敏い。冠位魔種達のこれまでを見るにローレットと『企み』の類の相性は余り良くないように思われた。運命だか可能性だかに愛された彼等は完璧に絶望的だった冠位達の『それぞれ』を理不尽と言う以外に無い奇跡で打ち破ってきたからだ。
 その性質を考えればBad End 8の『雑な力押し』は決して間違いであるとは思えない。
 何より『黒聖女』が仮に討ち取られたとしても彼等は止まるまい。瓦解すまい。
『冠位』を頂点とした七派との最大の違いはそこである――
「宜しくて? アタナシア」
「勿論ですとも、麗しき月」
 だが、アタナシアは「出来ますか?」とは問いはしない。
「ぼくは貴方様が御期待下さるなら空だって飛べます。
 火の中にだって喜んで飛び込んで、笑いながら死んで差し上げます。
 ですから、そんなに辛そうなお顔をしないで。
 大丈夫ですよ、ルクレツィア様。
 まずはローレット、幻想、それからクソ女とその一派。
 ムカつく奴等は全部綺麗に叩き潰してやりましょう?」

 ――何処までも歪ながら、恐らくそれは『愛』だった。

 ※『バグ・ホール』の発生と共に混沌中で魔種による事件と甚大な被害が蔓延しつつあるようです……


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