PandoraPartyProject

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厄災を紡ぐ者

「現状は?」
 ――覇竜観測所。ラサと覇竜の国境沿いに存在するその場所は覇竜領域の観測や竜種にまつわる研究、そして周辺地帯の警備を行って居る。
 研究施設として知られ、大陸各国より支援を受けたこの場所はある種、閑職であるとも知られていた。
 少なくとも、今現在はその立ち位置も大きく変わっている。
「ヘスペリデスの北方に怪しい気配があると竜種達が言って居たわ。
 大凡お前達の政だろうなんとかしろって事なんでしょうけど、酷くない? ティーナ、どう思う?」
「うーん、そう言われましても……」
 膨れ面を見せた『里長』珱・琉珂 (p3n000246)ティーナ・エルヴァスティンは肩を竦めた。
 年若く見えるが彼女は幻想貴族エルヴァスティン家の才媛である。竜種への興味により、この研究施設の扉を叩いた彼女は『所長』の立場を押し付けられている格好だ。
 イレギュラーズが覇竜領域を冒険したことにより、一気にティーナを取り巻く環境は変わった。
 竜種に対する脅威度を改め、現状把握に努めるために来客が多い。その上に終焉獣の気配が覇竜領域やラサ傭兵紹介連合、アルティオ=エルムにもあると言うのだ。
 影の領域の警戒を行って居る終焉の監視者『クォ・ヴァディス』との連携に、各国の対応と大忙しなのである。
「琉珂さんから見て、それは『影の領域』から現れた存在ですか?」
「と、思うわ。少なくともあんな竜種は見たことない。それに、覇竜領域はある意味でオジサマ……ベルゼー・グラトニオスの領域よ。
 あの人は覇竜領域を守っていたわ。余所に対してはまた別の顔を見せていたけれど。冠位魔種が打ち倒されたから……バランスが崩れた?」
「その可能性は十分に」
 ティーナは頷いた。
 そう、十分にあるのだ。そもそも、滅びとは何か。ティーナはイレギュラーズではない。故に『神託の少女』の言葉など知る由もないのだが――

 ――明日、世界が滅亡しますです。
   あ、嘘です。明日じゃないかも知れませんが、近い将来、世界は滅亡するでごぜーます――

 そんな事をあっけらかんと彼女は言うのだという。
(そんなに簡単に滅びられても困るのですが……少なくとも避けられない破滅が迫っていた。
 それをイレギュラーズが打ち破るために此処までやってきたからこその敵の動きなのでしょう)
『神託の少女』ざんげの言葉に嘘は無い。彼女は嘘を吐くという人間らしさを持ち合わせて等居ないからだ。
 ティーナは嘆息する。先程『監視長』トマス・ガルドウォークより伝令があった。
 影の領域周辺では終焉獣の動きが活発化している、と。
 南部砂漠コンシレラや迷宮森林西部メーデイアに、ヘスペリデスの北部、覇竜領域のヴァンジャンス岩山やデポトワール渓谷にてその姿が観測されている。
 それだけでは無いのだ。各国にそれぞれ『特異なモンスター』の出現が観測されたのだという。
 トマスは「倒せば良いのだろう」などと簡単に言ってくれるが、戦う力を有さぬティーナからすれば胆が冷える。
 戦闘要員達も出ずっぱりで、普段は明るい声が飛び交う覇竜観測所も現状の報告にやってきた琉珂とティーナの2人だけなのだから。
「琉珂さん」
「……ん?」
「何が起こっていると思いますか?」
「さっき言った通りなんじゃないかしら。……残る冠位魔種は傲慢と、色欲。それから『原初の魔種(イノリ)』でしょう。
 R.O.Oってのは案外役に立つのね。事象の観測をしてくれたってことだもの。私がイレギュラーズと出会えたのも、ティーナとこうして話せるのだってあのお陰」
「ええ」
 だからこそ、不安になるのだ。
 原初の魔種と呼ばれた男の傍では無慈悲なる呼び声を発する乙女が冠位暴食を『唆した』というではないか。
 何か酷い事になる前に、前線で滅びの徒達を食い止めねばならないか。
(……屹度、天義だって、動きがある筈。ああ、もう考えることばかり……!)
 ティーナは自身の頬をぱちんと叩いてから立ち上がった。
「領域の観測を続けます。アルティオ=エルムのメーデイアやラサのコンシレラへの調査員も派遣しましょう。
 イレギュラーズの皆さんにだって話を無くてはなりません。抗えない滅びとは何か……未知なるそれを解明するために」
 超終局型確定未来――通称<D>とは何であるかをティーナも琉珂も知りやしない。
 ただ、片鱗のように世界が滅びを求めているのならば。
 どうしてと声を上げるのは自由である筈だ。
 覇竜観測所より見た山脈を覆うように竜の影が落ちる。それは遠く、ヘスペリデスへと飛び立った。
 まるで、そちら側に滅びの気配でもあるかと云う様に。

 ※ラサ、深緑、覇竜に何らかの『気配』があるようですが――?

これまでのシビュラの託宣(天義編)プーレルジール(境界編)

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