PandoraPartyProject
滅びの居所

「まおーさま」と呼ぶ声が聞こえて、男は顔を上げた。
この地は嘗て『天空島サハイェル』と呼ばれていた。プーレルジールにおいては魔王宮は空の只中には存在せず、地にへばり付くように存在して居た。
どこぞの歴史研究家に言われれば、何らかの引力が生じたことによって浮島が地に落ちただとか、大地が天へと浮き上がっただとか。諸説はある。
古代の歴史について男も詳しくはない。自己が確立された頃にはこの地は『嘗て天空に存在した島』であり、サハイェルと呼ばれていた場所であった。
それだけの話だ。気にする事は無い。
「まおーさま」
もう一度、呼ばれた。考え事をしていた男は緩やかに顔を上げてから彼女の名を呼ぶ。
「どうかしたのか」と男が問えば、配下である四天王の『少女』はにんまりと微笑んでから「行ってきます」と手を振った。
それが魔王と呼ばれる男の日常だ。
イルドゼギア。それが『この体』の名前である。
いつの日にか魔王と呼ばれることになった男は滅びの化身が巣食っている。この滅び行く世界を統べる存在は滅びでならなくてはならない。当たり前の話ではないか。
プーレルジールは有象無象が跋扈している。群雄割拠と言えば聞こえは良いが、イルドゼギアに言わせれば整理されていない乱雑なおもちゃ箱そのものだ。
火の粉を敢て浴びたがる下らぬ者達に、傷付き斃れ行く仲間を憂いまたも罪を犯す者達に。
(――下らぬな)
イルドゼギアは酷く嫌悪していたのだ。
この世界は、人間という生物が増えすぎた。其れ等は自らの利を求めて傷付け合う。
それは、世界を管理する者が居ないからである。誰かが導かねば、この世界は只の崩れゆく――腐り行く果実をのんびり見ているほどにイルドゼギアはサディストではなかった。
いっそのこと全てを終らせてやった方が幸せではなかろうか。
……などと『イルドゼギア』は考えていたのだろう。
(『僕』はどのみち、魔王と呼ばれるようになった今だって何も満足はしていないのだ。
魔王も勇者も。どのみち何方も他称だ。勇者と呼ばれる存在は只の人間だ。対する僕は『―――――』ではあるが)
男は目を伏せた。正義だろうが、恐怖だろうが、どちらも人心を統べる合理的手段である。
自らが『―――――』であったのも。
(この世界をさっさと滅ぼせば、誰も苦しむことはないだろうにね。
『僕』はそう思っていたというのに、どうにも、邪魔をする奴が出て来たならば踏み潰さなくてはならないではないか)
嘆息した男は目を伏せてから、先程出て行った少女のことを思い出した。
『獣王』ル=アディン。
『闇の申し子』ヴェルギュラ。
『骸騎将』ダルギーズ。
『魂の監視者』セァハ。
ああ、ついでに――『最弱の』シュナルヒェンも居たか。
四天王と呼んだ彼ら、彼女らは此れより『蟻』の駆除に出掛けるそうだ。
折角、この世界は滅びに向かい全てを無かったことにしてくれようというのに。
滅び行けば、全てを無に出来る。リセットできるのだ。失敗作を塵箱に捨てるように容易くこの世界が喪われてくれる筈だったのに。
あろう事か彼等はやってきて、救いを与えようとするのだ。
正しく『本来の勇者の所業』を彼等は、イレギュラーズは為そうとしているのか。
勇者を目覚めさせようとしている。魔法使いに魔法を与え、聖獣に空を教え、救いを与えていくのだ。
(ああ、下らないな、本当に)
男は――イルドゼギアは笑っていた。
憤ることもなく、悲しむこともなく。邪魔立てする者を厭う気持ちはあれど、寧ろ楽しくて堪らなかったのだ。
それが『何方の感情』であるかを男は分からなかった。
(そうだろう、『僕』よ)
イルドゼギアはくつくつと喉を鳴らして笑ってから、ゆっくりと立ち上がった。
「さあ、プーレルジールを滅ぼそうか。勇者がやってきたならば、魔王が顔を出さない訳にはいかないだろう。
……けれど、そう簡単に顔を出しては勿体ないか。物語は筋書きに乗っ取って進めなくてはね」
※プーレルジールにおいて、『終焉』の気配が蠢いているようです――
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