PandoraPartyProject

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アトリエ・コンフィー

 天は遠く、地上さえも見上げる程の場所にある。
 だと、言うのに中央に存在する人工太陽は鮮やかにアトリエ・コンフィーを照らしていた。
 イレギュラーズは果ての迷宮に存在する境界図書館からこの場所へと踏込んだ。
 ギルド・ローレットの受付カウンターにも良く似ている場所だ。まさかローレットというわけではあるまい。
「……ここは……?」
 クレカはゆっくりと玄関扉を開く。見上げれば『アトリエ・コンフィー』の看板がきいきいと音を立てて揺らいだ。
 アトリエ・コンフィーの玄関口から周囲を見回せば壁面に埋もれるように無数に店舗が並んでいる。
 だが、空は遠い。此処が地下迷宮の内部であるのは確かなのだろう。渦巻くように続く螺旋階段は地下迷宮の壁面に沿って存在して居た。
(……地下迷宮……果ての迷宮がこの世界では商店街ってこと……?)
 タイル張りの通路のあるパサージュ・クヴェール。この地が迷宮であるとは思えぬその空間の名を『プリエの回廊(ギャルリ・ド・プリエ)』と呼ぶそうだ。
「ようこそ、ギャルリ・ド・プリエへ」
 振り向けば、そこにはゼロ・クールと呼ばれる『人形』が立っていた。
 クレカはおずおずと『店内』へと戻り扉を閉めた。
「異世界からの来訪者が現れたらこう言うようにマスターに教育されています。
 イレギュラーズ さん、此処は魔法使い達のアトリエが並ぶ果ての地『プリエの回廊』です。
 私はアトリエ・コンフィーのゼロ・クール『Guide05』――ギーコとお呼びください。
 マスターは留守にされていますが、異世界から来訪者が現れるだろうと皆さんを待ち望んでおりました」
 恭しく頭を下げた『Guide05(ギーコ)』はつるりとした陶器のかんばせに笑みを浮かべて見せた。
「まずは、この世界について説明をさせて頂きます」

 ――プーレルジール。それは、幻想王国の『建国前』に存在した草原の名である。
 王都メフ・メフィート周辺を指して居る事は現在地が『果ての迷宮』で有ることから確かなようだ。
 だが、現実世界でダンジョンとされた果ての迷宮は光差し込むパサージュと、ひしめき合う商店が建ち並ぶ商店街を思わせる。
 ギーコ曰くこの地は『魔法使い』達のアトリエが建ち並ぶ拠点なのだそうだ。
 ならば、魔法使いとは何か?
 それは『心なし(ゼロ・クール)』と呼ばれたしもべ人形を作る職人達を指す。
 彼等はアンドロイドや球体関節人形など区別せずにしもべ人形を作り『魔法』によってそれらを従える。
 ギーコのように案内役を担う個体も居れば、事務手伝いや戦闘用人形など様々な用途で親しまれているらしい。
「魔法使い達も性格は人それぞれ。ゼロ・クールとて同じです。
 皆様はプーレルジールへの迷い子。拠点もなければ、寄る辺もない。
 マスターは皆様を保護し、このアトリエ・コンフィーの『お手伝いさん』と名乗って貰うようにと仰っておりました」
 ……成程、ギーコの居るアトリエ・コンフィーのマスターは『混沌世界』からイレギュラーズがやってくる事を予期していた。
 イレギュラーズの活動拠点として自身のアトリエを貸し出すようにと自身のゼロ・クールに仕込んでいたのだろう。
 渡りに舟だ。
 ギーコの言う通り、拠点もなければ寄る辺もない。
 それ以上に『境界図書館から繋がっているのがアトリエ・コンフィー』というのも都合が良い。
「お言葉に甘えた方が、良いと思う」
 クレカはあなた へそう言った。
「情報を集めるにも拠点が必要。わざわざ、混沌に戻るより、手っ取り早い」
「はい。マスターもその様に仰っておられました。
 プーレルジールを知るならば、まずは『おつかい』です。RPGには付き物だと『旅人(ウォーカー)』は口を揃えるものです」
 ギーコは姿勢を正したままそう言った。
 成程、異世界にやってきたからには『おつかい』で世界を理解しろ、と言うことか。
「捜し物はなんでしょうか? 冒険者アイオン? 魔法使いマナセ? 賢者フィナリィ? 天の翼ハイペリオン?
 それとも、神官でしょうか。精霊遣いや戦士も何処かに居るかもしれません。魔王だって、お探しでしょう」
「知ってるの?」
「マスターがそう仰って居ました」
「……」
 クレカはまじまじとギーコを見た。表情を変えない。『設定された以上』は持ち得ない。心なし。魔法(プログラミング)で出来上がった存在。
 嘗ての自分のようで、クレカはぎゅっと胸の辺りが締め付けられる感覚がした。
「魔法使い達は『おつかい』をして下さる方を歓迎します」
「……それはどうして?」
「ゼロ・クールを訓練して下さる方を募集しているからです。
 それに、最近は迷い子様が増えてきたそうです。コンフィーにまで連れてきて下さったならば皆さんの世界へと帰すお手伝いはさせて頂けます」
「……それも?」
「マスターに仰せつかったからです」
 にんまりと微笑んだギーコはゆっくりとアトリエ・コンフィーの扉を開いた。
「冒険はお嫌いですか? 異世界からの来訪者様。
 皆様の来訪をマスターは心待ちにされておりました。K-00カ号様含め、私達は皆様に告げねばならないことがあります」
 人工太陽の光を受けながら、ゼロ・クールの少女『Guide05』は言った。

「この世界は滅びに面しています。異世界からの来訪者様の世界よりももっと早く、ずっと早く。
 ……ですが、この世界でも生きている者は居ります。
 廃棄された世界であれど、私達は存在しております。
 ――どうか、お助け下さい。来訪者様」

 ※『アトリエ・コンフィー』を拠点にプーレルジールの探索・調査が始まりました――


 ※天義各地で遂行者による『侵攻』が始まりました――!
 

これまでのシビュラの託宣(天義編)

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