PandoraPartyProject
ごちゃまぜの心

リリスティーネ、『博士』、そしてラーガ。月の王国の勢力を叩き潰し、常夜の世界に朝日が差した。
ラサに紅血晶を流していた吸血鬼たちも、幻想種を浚ったラーガ・カンパニーも、もう勢力を広げることはないだろう。
銃で撃って倒せないものは嫌いだ。おばけも嫌いだし、ちっちゃい虫も嫌い。
なにより嫌いなのは、どうしようもない心のモヤモヤだった。
「パドラ、祝勝会始まるよ?」
シキやチャロロ、リーディアや鏡禍たちがネフェルストの街を歩いて行く。
香辛料の混ざった香りと、どこか渇いた夕暮れの空気の香り。
ラーガ・カンパニーの野望を文字通りに打ち砕いて、これから祝勝会を開くのだ。
「うん、先に行ってて。あとから行くから」
手を振って、送り出す。あたりは人々の声で賑やかだ。夕暮れに至っても、夜深くても、ネフェルストの喧噪が落ち着くことなんてないだろう。
私は喧噪の中に溶け込むようにして、裏路地へと足を向けた。
なにも裏路地を歩くことを愛好してるわけじゃない。頭に詰まったモヤモヤしたものを、こうすることで解きほぐせるかと思ったからだ。
モヤモヤしたもの。
言葉にするには、少しだけ絡まりすぎている。
幻想種を浚って博士の実験台にしていた、私の仇でもあったラーガ。
けれど追い詰めたその時、両親を殺したのはハウザーだと奴は言い放った。ハウザーは、否定しなかった。
その原因はやはりラーガだったし、だからこそその額に銃弾を撃ち込んでやったけど。
でも、両親を殺したのは、そして私を育ててくれたのは、どちらもハウザーだった。そのことは、変わらない。
記憶の最初にあったのは、炎に包まれる自分の家と、殺される両親の姿だった。
パパとママを殺した犯人の姿は、陽炎にみたいにゆらめいて、私の記憶の中にぼやけていた。
そんなふうにひとりぼっちになった私を育てたのは、凶(マガキ)のハウザーたちだった。
風邪を引いたらできもしない料理をして、誕生日には子供には不似合いなプレゼントをして、女の子には暴力的過ぎる遊びをして。
けどそれが、私にとっては確かに『家族』のカタチだった。
そんな私が我儘を言ってまでマガキに入ったのは、パパとママを殺したヤツを追うためでもあった。
仇討ち。言葉にしたら陳腐だけど、心に留めておくには重すぎる。
そんな心の鉛を胸に抱えて、生きてきた。
やっと見つけたラーガという悪人は、私の両親の仇を名乗りまでして挑発してきた。ついに見つけたと、そう思った。
やっとトドメを刺せると思った矢先、ヤツが告げたのは、私が思いもしない真実だった。
『お前のパパとママを殺したのは、ハウザーなんだぜ』
嘘だと思った。嘘だと言って欲しかった。
けど。
ハウザーは黙ったまま、目をそらしてうつむいて、唸るだけだった。
あとからシキたちから聞いたところによれば、仕方なく起こった事件の一端なのだという。善良ながら悪事に手を染めてしまった父と、それを止めようとしたハウザー。抵抗は殺し合いへと発展して、命はついに奪われた。
パパは、ハウザーにとって友達だったのに。
「けど、だからってさ……!」
道ばたに転がった木製のビールケースを蹴っ飛ばす。渇いた音を立てて転がったそれは、壁にぶつかって止まった。
歩くのも嫌になって、その場にうずくまった。
ハウザーはアタシの仇だ。パパとママを殺して、家族を奪った。
本当は殺してやりたい。
ハウザーはアタシの家族だ。今のアタシを育ててくれた。
本当は一緒にいたい。
「アタシはこれから、どうすればいいの」
喧噪は、答えてくれない。
※<月だけが見ている>の決戦に勝利しました!
※烙印状態が解除されました。
※烙印の後遺症には個人差があり、現在ラサ上層部が調査中です――
※海洋王国方面にも『帳』が降り始めたようです! 神の国に渡り対抗しましょう――!
※天義騎士団が『黒衣』を纏い、神の代理人として活動を開始するようです――!
(特設ページ内で騎士団制服が公開されました。イレギュラーズも『黒衣』を着用してみましょう!)