PandoraPartyProject

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眩き月下は揺らぐ

「無事の帰還何よりです」
 胸を撫で下ろしたのはファレン・アル・パレスト(p3n000188)であった。
 彼はネフェルストの市場に出回っていた『紅血晶』を商人達へと根回しをし、全て回収しきったのだそうだ。そして、その品は『古宮カーマルーマ』へと運び込んであると云う。
 どのみち、紅血晶の目的は一般人が烙印に耐えうるかのテストが半分、吸血鬼側の兵士を増やす目的が半分と言った具合である。
 元あるべき場所に戻しておいた方が何かと都合が良いのは確かなのだろう。
「市場についてはご安心下さい。……先んじて戻られた方の情報では『烙印』は……」
「うん、『博士』のレプリカが話したそうだね。烙印の『解呪』が出来たとしても、その後遺症が残るかも知れないって」
 スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が暗い表情を見せる。魔種リュシアンと共に博士の行って居た『夜の祭祀』の成立阻止を行なってきたのである。
「後遺症……それって、肉体の変化や花の烙印が残り続けるかもって事?」
「でしょう。花片の血潮や涙の水晶も徐々に減退していくでしょうが、その人間それぞれだと『博士』は語ったそうですね」
 成程、と頷いた長月・イナリ(p3p008096)はふと『エルナト』という女を思い出す。リリスティーネ・ヴィンシュタインを慕っていた彼女から予見されたのは『リリスティーネ』の破滅的な未来だった。
「勝利はしたし、王宮に攻め入るのは賛成」
「はい。此方も相違なく」
 魔種ルルフを相手に、謎の組織『ロウ・テイラーズ』との共同戦線を終えた蓮杖 綾姫(p3p008658)は小さく頷いた。『女王』への偽りの忠誠心を抱く吸血鬼や『烙印』を付与された者達の様子は此度の戦いでも良く実感できた。長い時間を掛けている暇がないのは確かだ。
「心配事が、あるので少しだけ抜けても……?」
 トール=アシェンプテル(p3p010816)がそう呟き気に掛けたのは『凶』に所属しているハウザーとその『義娘』に当たるパドラの事だった。
 パドラは父の敵である商人ラーガを追っている。彼女が深追いしないように見てやるべきであろう。
「で、こっちはエーニュの方っスけど」
 日向 葵(p3p000366)が声を上げた。葵は、エーニュのアジトへと踏み入り、組織の壊滅作戦に従事していた。
「ひとまず、烙印を受けた人間をバーサーカーにしちまう……みたいなやべー薬を作ったやつは抑えたっス。
 だた、エーニュの指揮官に当たる人は逃げられてしまってて……すぐに追っかければ捕まえられるはずっス」
 エーニュの首魁たる、リッセという少女はすでに逃げ出していたらしい。だが、リッセは烙印を付与され、酷く消耗されているようだ。ならば、そう遠くへは行っていないだろう。
 すぐ追撃を仕掛ければ、充分にとらえられるはずだ。
「城門の加護を護ってた一角はブチ破ったぜ。吸血鬼側の戦力も削ったが――ガルトフリートって妙な魔種は王宮の中に退いた。妙な疫病の力を使う奴だったな……てて。まだ体の内が、なんか滲むな……」
 更にルカ・ガンビーノ(p3p007268)は城門付近に展開していた吸血鬼戦力との激戦を制していた。
 城門の加護を担う魔法陣の一つの破壊に成功したのである。一部の敵戦力には王宮内に撤退されたが、問題は無いだろう。
 どうせ道が無事開かれれば――王宮内に踏み込むことは確定なのだから。
「それと、良いことがあるよ。『夜の祭祀』……儀式の阻止を行なったから『月の王国』が揺らいでいるみたい」
「ふむ。月の王国は大精霊カーマルーマの作り出す空間でしたね。夜の祭祀こそカーマルーマの力を維持するために必要だったのでしょう。
 ……ならば、烙印の進行状況と照らし合わせてみても――」
『次』に決めねばならないか。此処で『博士』とリリスティーネを取り逃がせばラサに何かの危害が及ぶ可能性は大きい。
 そして、王宮内には『赤犬』が居る。彼を見つけ出し戦力に『無理矢理でもぶち込めば』此処で全てを終らせることは出来るだろう。
「準備をしましょう。次こそ、全てを終らせるために――」

 ――月の光は、何時だって陰ることがない。
 それが『月の王国』であった。朝と夜、死と再生。司る者にその様な『言葉』を当て嵌められるカーマルーマの作り出した『空間』は砂の海にぽかりと月を浮かべた殺風景な場所であった。
 そのコントロール権限が『博士』に映ってから彼は女王に相応しい王宮を用意した。
 紅のドレスが良く似合う薄桃色の髪の娘。本来は彼女の世界の吸血鬼には有り得ざる髪と瞳。異質な存在、『呪われた』姿をした女こそ女王と仰ぐに相応しい。
「リリスティーネ」
「……何」
 気色の悪いモノを見るようにリリスティーネが顔を上げた。『博士』の肉体は様々な生物のパッチワークだ。コレまでの冒険で旅人であった彼が拾い集めた動物やモンスター、人間のパーツはきちんと縫合し使いやすいように合体させてる。
 誰の目から見ても異質な存在である『博士』の傍で偽命体の少女ジナイーダ「そんな顔をしないで」とリリスティーネに声を掛けた。
「あれ、リリちゃん。少し窶れた?」
「そんなこと、ないと思うけど」
「そっかそっか。あのね、えっとね、失敗しちゃったの。ごめんね、博士も謝ってる」
「ごめんちゃい」
 巫山戯てると頬を膨らませるジナイーダに『博士』が楽しげに笑う。
「失敗!? どうして――……まあ、いいわ」
「リリちゃん……?」
 普段ならば糾弾し、折檻するとエルナトを呼び出していたであろうに。リリスティーネは興味を失ったように玉座に深く腰掛けた。
 薔薇の花の良く似合う薄桃色の髪の娘は興味を無くしたように天を仰ぐ。
「紅血晶に君の血を混ぜたことを教えたよ」
「そう」
「烙印を消すには『博士(わたし)』を殺さなくちゃならないとも教えたよ。
 腹の中に生け捕りにして居るカーマルーマがいるのだけれどね、種を持たしているのさ。それを砕いて粉末にして煎じれば烙印の効果は徐々に失われるはずだって」
「そう」
「個人差があるからね、何処まで消えるかは分からないけれど。まあ、『博士』が殺されなければいい話だよ」
「……ふうん」
 リリスティーネは饒舌な博士とは対照的であった。興味も無く気怠げに、ただ、ぼんやりとしているだけだ。
 博士は彼女は『産まれながらにして不幸な娘』だと認識している。
 彼女の父親の負った罪の形だ。烙印を押されたという言葉が一番似合うのはリリスティーネだろう。正しい意味で、娘は魂に烙印を刻まれ呪われたような存在だ。
 リリスティーネがどの様な不運な運命を抱えているのかの詳細までも『博士』は把握していない。
「リリちゃん?」
 声を掛けたジナイーダに博士は首を振った。
「やめておきなさい。あの娘はね、もう壊れてしまうだろうね」
「壊れちゃうの?」
「そうだよ。月の王国も、リリスティーネも、……いや、生きている人間は時限式なのさ。
 だから私は錬金術師として永遠の命を、死したならば復活を、そして『滅び』を蓄積する魔種という存在からの回帰を、この『混沌法則』に認めさせようと思ったのだけれど」
「良いことじゃないの?」
「良いことさ。その為に一度死んで欲しいと頼んだら断れてしまったけれど、良いことの筈だよ。
 このラサという国を一つ貰い受けて、生きている人間で実験させてくれたならば良いのにね。そうすれば『素材』が沢山あって、ぐんっと研究も進むだろうさ」
『博士』は玉座でぼんやりと座っているリリスティーネを眺めてから腕をぶらぶらと揺らがせた。
「……祭祀を台無しにしたイレギュラーズには一度死んで貰って腹を捌かせて貰って、内臓を確認する作業を経て生き返らせてやらないといけないね」
「どうして?」
「どうしてって、何事も反省が必要だよ。大丈夫、君のように『記憶』を移すくらいなら出来るさ。
 痛みも感じず、肉体(パーツ)を交換しながら生きていけるのだから、彼等だって泣いて喜ぶよ」
 楽しげに話している『博士』とジナイーダを見詰めていたリリスティーネはゆっくりと立ち上がった。
「気分が悪いから、さっさと出て言って」
 そう言い残した彼女の瞳は、何も映してやいないようだった。

 ※『月の王国』の戦況報告が届いている様です――!


 ※天義騎士団が『黒衣』を纏い、神の代理人として活動を開始するようです――!
 (特設ページ内で騎士団制服が公開されました。イレギュラーズも『黒衣』を着用してみましょう!)

これまでの覇竜編ラサ(紅血晶)編シビュラの託宣(天義編)

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