PandoraPartyProject
天使の梯子
――君の髪に口吻をしたならば、この世の終わりのような顔をするのだろう。
なだらかな丘陵を望む巨大都市テセラ・ニバス。その地は未だ『異言都市（リンバス・シティ）』として存在していた。
一夜にして降ろされた帳の向こう側。広がる奇怪な空間は居たる者によって姿を変える。
「さて、聖女はご満足頂けたかな？」
「リンバス・シティのことを？ そんな訳がないでしょう、クソマゾ」
薔薇の花をぐしゃりと握りつぶした聖女ルルは仮面の遂行者サマエルを酷く苛立ったように睨め付けた。
何よりも気に食わないのはこの男が『あの方』の力を行使した事だ。
腹立たしい。死んでしまえ。あ、死ぬと困るか。お前が手にした『聖盾』はこの場所には必要だ。
「クズ男」
「褒めなくて結構」
「褒めてるわけないでしょう。傲慢な男ね。ま、私達は『そうあるべき』だけれど」
花瓶の薔薇を抜き取っては掌で潰す女の白い手袋には血色が滲んでいた。この場に異形の遂行者たるマスティマが居たならばその行いと咎めるだろうか。
「クズ、分かってるんでしょう。『有り得ざる存在（イレギュラーズ）』は、邪魔よ」
「預言にない存在は何時だって邪魔だ、聖女よ」
「ええ、そうよ。あっちには『聖剣遣い』までいる。我らが『神の国』に土足で踏み入ってくるわ」
歯噛みする。地団駄を踏みたくもなる。下等生物が。
罵る姿は『聖女』には程遠い。聖女ルルと謳われた、少女はテーブルを拳で叩いた。
「――『我らは正しき歴史を遂行せねばならない』！」
エル・トゥルルにおける聖遺物の汚染。
巨大都市テセラ・ニバスに降りた『帳』。顕現した『リンバス・シティ』による侵食。
その中にリンツァトルテ・コンフィズリーは『聖剣』が共鳴する場所を見付けた。
なまくらであった聖剣がその力を取り戻したのはイレギュラーズの功績が大きく、冠位『強欲』戦を思い返すだけでも進むべき道に畏れることはないと強く感じ入ることが出来る。
「リンバス・シティでの調査を行なった。聖剣は確かに、この奥で共鳴している。
……最初は何かは分からなかったが、確かに分かったことがある。エル・トゥルルの『異言（ゼノグロシア）』を用いて『神託』は更に降ろされた」
リンツァトルテはテセラ・ニバス――『リンバス・シティ』の入り口に立っていた。
「これは冠位『傲慢』の何らかの権能であると推測される。人為的な現象だ。
……『帳』が降ろされれば地にその存在が定着する。そうではなく、このリンバス・シティから他の領域に繋がっているみたいなんだ」
聖剣が示す先に、『現実には未だ定着していない領域』が存在している。
つまりは神託によって知らされた『正しき歴史に修正する』という言葉が『上書き』を示していることが判明したのだ。
その仔細は判明していないが、恐らくは別の世界レイヤーを作りだし、その存在を『媒介となる核』を用いて世界に被せて定着させるという事なのだろう。
現時点のリンバス・シティは何らかの格が何処かに存在している。それが、コンフィズリーの聖剣の対となる聖盾であるかは定かではない、が、此処まで聖剣が『叫ぶ』のだから――屹度、そうなのだろう。
「……俺がもう少し聖剣を使いこなせていればよかったのだが……。
現時点ではリンバス・シティの核は分からない。だが、次の『領域』へと踏み込む為の準備は出来た」
その先に存在するのは皮肉な名の付く領域だ。
――『神の国』
流石は傲慢なる者達だ。遂行者と名乗るそれらは『神の国』にて正しい歴史を遂行し、リンバス・シティの如く地へと定着させようとしているのだ。
「止めなくては――」
そう呟くリンツァトルテの背に「先輩！」と鋭い声が掛けられた。伝令としてやって来たイル・フロッタは必死の形相でイレギュラーズとリンツァトルテを見詰めている。
「聖堂にて、司教様の暗殺が行なわれました。騎士団の上層部にも怪我人が多発しています」
「……始まったか」
リンツァトルテは呟いた。天義国内ではこれらの事態に騎士団を大々的に動かし粉砕すべしと言う意見が出ていた。だが、その攻勢意志を発した者達が何者かの襲撃を受け始めたのだ。
亡くなった司教も、怪我を負ったという騎士団幹部も、そうした意見の先鋒に立っていた者だ。
「邪魔はさせない、と言う事か」
だからといって、何を躊躇う必要があろうか。
彼等の暴虐に屈するわけには行かない。その為に『純粋なる黒衣』をこの身に纏うのだ。
「我らは我らが使命を果たすために。神の代理人として進むしかあるまい――！」
梯を駆け上り、辿り着く『神の国』よ。
その歪なる姿を、代理人たる『信仰の徒』は決して赦す事はない。
※天義騎士団が『黒衣』を纏い、神の代理人として活動を開始するようです――！
（特設ページ内で騎士団制服が公開されました。イレギュラーズも『黒衣』を着用してみましょう！）
※覇竜では『ラドンの罪域』攻略作戦が行なわれています――！
第六回東京オフ回のお知らせ