PandoraPartyProject

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<祓い屋>夜に堕ちる

 灰暗の薄暗い部屋に仄かに灯る灯火が揺れる。
 くったりと横たわる『掃除屋』燈堂 廻(p3n000160)の視線は虚空を彷徨っていた。
 その廻を優しく抱きしめるのは『煌浄殿の主』深道 明煌(p3n000277)の大きな手。

「浄化の儀式、お疲れ様……廻」
 明煌の声に廻は小さく息を吐いた。指一本動かす事すら億劫で緩く瞼を瞬かせる。
 廻は葛城春泥によって泥の器にされてしまった。
 泥の器の中に穢れがある限り廻の命は徐々に死へと近づいて行く。
 その穢れを祓う為に、燈堂の本家――深道の煌浄殿へ預けられる事になったのだ。
 されど、浄化の儀式は心身共に負担が大きく終わった後はこうして寝込む事も多かった。

「こっちは大変だったよ。『英霊』巳道との戦いに付き合わされてさ」
 ローレットのイレギュラーズは此度の戦いで深道の信仰である『英霊』巳道と戦った。
 白き大蛇の形をした巳道は、深道の人々を守る為に呼び出された存在だった。
 其処に悪意は無く、ただ人々を守る為に顕現したのだ。
 深道の人々にとって英霊は信仰の化身であり強い者だった。
 そして英霊を打ち倒したイレギュラーズはもっと強い者達なのだと思いを改めた。
 信仰がまたたく間に変わって行く。
 イレギュラーズなら、深道三家の悲願である繰切を打ち倒す事も可能なのだと。
 繰切は悪だと決めつけるだけの鬱屈した信仰ではなく。
 イレギュラーズの力で神逐を行えるかもしれないと人々は希望を抱いた。
 仮に、守護者が完全に消えてしまえば反動も大きかったのかもしれない。
 されど、英霊の手を取った者が居た。消えゆく英霊は小さな存在となり新たな道を歩み出したのだ。
 この戦いで深道三家の人々の心は大きく動いた――

「……あまねを返して下さい」
 掠れた声で廻が明煌へと縋る。
「あの子が居ないと、掃除屋が出来ないんです」
 廻は明煌の腕を掴み、懇願するように涙を零した。
「何で掃除屋がしたいんだ? 掃除が好きなの?」
「掃除屋のお仕事は暁月さんのお役に立てるから……」
 暁月という言葉に明煌は一瞬だけ暗い瞳を揺らす。廻を掴む手に力が籠った。
 明煌の袖から赤い縄が伸びて廻の身体を締め上げる。
 廻は抵抗すればする程、縄が締まるのを身に染みて分かっているので為すがままだ。
 息苦しさに涙が浮かぶ。
「そうか、廻は暁月の役に立ちたいんだね。だから、その能力を持ってるあまねが必要なんだ。
 でも、それって本当にあまねの事が好きで返して欲しいんじゃないよね?」
 明煌の言葉に廻は目を見開く。僅かに動揺し、否定するように首を振った。

「暁月の為にっていうのも。あの子の側に居るための方便だ。
 お前は、暁月の事が好きなようでいて、本当はあの子を信用してないんじゃないか?
 能力が使えなければ、捨てられると思っているんだろう?
 役に立てない自分は、要らないと言われるのが怖いんだ。
 だが勘違いしちゃいけない……あまねの能力は、お前のものじゃない
 ひゅっと廻の喉が鳴る。明煌が突きつけるのは見なかった事にしていた真実だ。
 ぐるぐると思考が吐き気を伴ってお腹から逆流してくる。

……あまねは、もうここにはいないよ
 障子が開かれ入って来たのは葛城春泥だ。
「どういうことですか? あまねを何処へやったんですか!?」
 指を動かすのも億劫な身体で、這いつくばり春泥の袖を掴む廻。
「さあ? 僕は渡しただけだからね。今頃、消えてるかもね」
 誰に渡したのか、今あまねはどうなっているのか最悪の事態が廻の脳裏に浮かんだ。
 春泥なら簡単に夜妖の命なんて奪ってしまえるだろう。
「嘘……だ。そんな……、あまね、あまねっ」
 畳に泣き崩れる廻の背を明煌は優しく抱きしめる。

「心配しなくても良い。俺はお前があまねを連れてないのが普通だから。
 俺は何の能力も無いお前しか知らないんだ。だから、そのままで良い。
 ここはね。世界から要らないと言われたものたちの揺籠だ。
 何者でも無いお前が居て良い場所だ。だから、心配しなくていい」
 不安に覆い尽くされ泣きじゃくる廻は、明煌の温もりに縋ってしまう。
 優しい言葉を受入れてしまう。

「そうだ。君に良い物をあげよう。真(まこと)、実(みのる)入っておいで」
 春泥は廊下に向かって手招きをする。
「君が獏馬のしっぽが居なくなって寂しいと言っていたから、代わりにこの子たちを用意したよ。
 元々夜妖憑きだったんだけどね。夜妖に記憶と人格……中身を食べられてしまったんだ」
 夜妖は祓ったけれど食べられてしまったものは元には戻らなかった。
 呪いが強い為に煌浄殿で預かる事になったのだと春泥は告げる。
「また、勝手に……」
 自分のテリトリーに他人を入れる事を嫌う明煌は二人の青年を見遣り嫌そうな顔をした。
「良いじゃないか。廻も友達が出来て寂しくないしさ。身の回りの世話をさせればいい。
 廻にはこの子達に色々な事を教えて上げて欲しいんだ。今は情緒が殆ど無いけど、時間を掛ければ人並みに取り戻す事ができる。お願いできるかい?」
 春泥の笑みは恐怖を覚えるけれど、それでもこの煌浄殿で誰かが傍に居てくれるのは有り難かった。
 廻の元へ来た青年二人。真と実は「よろしく」と曖昧な笑みで廻の手を握った。

※『祓い屋』燈堂一門の本家で『英霊』巳道に勝利しました――


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