PandoraPartyProject

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<Sprechchor al fine>

「幻想、深緑、ラサ、海洋。以上四カ国にまたがって現れた『原罪のシュプレヒコール』配下への対処、お疲れ様でした。皆さんの尽力のお陰で想定より大幅に少ない被害で事態が収束しています」
 幻想に現れた魔種『煮え炎の殺生石』討伐よりおよそ半年。『原罪のシュプレヒコール』を名乗る旅人によって世に生まれた多数の魔種、彼に唆されて常道を外れた旅人、或いは複製肉腫として存在を歪められた一族、そして燃え落ちた貴族邸宅……まるで示し合わせたかのように起きたそれらの事象はローレットに於いても強烈な印象を残し、そしてグリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)の反転をも齎した。それでも、放置しておくよりは大幅に少ない被害だというのだから笑えないものだ。
 静かに頭を下げた日高 三弦 (p3n000097)の表情にも、『少ない被害』といいつつ忸怩たる思いが滲んでいることが窺えた。
「持ち帰って頂いた資料、発覚した情報などから類推し、彼は現在、ラサとの国境付近に構える『アルフラド・ノウェル』という貴族領に身を寄せていることが判明しています。そのため、先遣隊として調査を送りましたが……最後に『深い霧に覆われている』と報告があってから戻ってきていません。状況が読めない以上は勢力情報も判然としませんが、元の領民たちの規模感と現状把握できている情報から察するに、概ね三つの敵勢力が存在するとみられます。
 ひとつ、シュプレヒコールを中心とした『滅びのアーク』信奉勢力。旅人と魔種、あとは配下にしている怪王種の混成と思われます。
 ふたつ、『傲慢の膠窈』と名乗ったアウスグライヒなる存在が中心となる純正・複製肉腫の集団。複製肉腫の侵食度は様々でしょうが、救える対象は多くないでしょう。
 最後に、それらに襲撃を受ける一般市民多数。全てが襲われているとは到底考え難く、ある程度の救出は可能と推察されます」
 三弦は霧に覆われる前の領地の見取り図を出し、広げる。そこまで広くないが小規模の村などが散在しており、領土北限に領主館を中心とした小規模の商業街区があるらしい。
 問題のメインとなるのは商業街区だが、周辺への警戒も手を抜けない。
 ローレット全体の流れとしては、外縁部から其々の村落や町へ向かい順次『滅びのアーク』勢力を討伐し解放、商業街区への包囲を進めていく……という流れだ。
 それはそれとして、主に三弦に集められたイレギュラーズが対応するのは商業街区内、領主館への突撃となるか。内部に居るであろう魔種や旅人の対処の個別で必要となる。
「現状だと何一つわかってないに等しいってことですね。領主の館の位置が変わってたり道が消えていたりはないんですか?」
「おそらく、その見込みは低いでしょう。形はどうあれ、シュプレヒコール自身は一般的な旅人です。最低限のインフラが整っていない状況では生活もままならない筈。此方に対する嫌がらせ以上にそういう手を加えるメリットはないんですよ。怪王種にトラップを避けるように知恵を絞れというのも容易ではありませんから」
「日高の方、先遣隊からの報告がない割に情報が揃ってる口ぶりだけど、なにか別口で情報源でもあったのかい?」
 雨宮 利香(p3p001254)の尤もな問いに、三弦は即座に否と応じた。論理的にはある程度の理解はできるが、さりとて即答できるような確度ではない筈だ。それこそ、館に蓄えがある、別の場所に隠れ潜んでいるという可能性もあろうに、だ。武器商人(p3p001107)はそんな彼女の言動に含むものを感じ、やんわりと、だがはぐらかさぬよう強調して問うた。傍にいたヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)がやや困惑したようにその袖を引く。
「紫月、脅すような事をしなくても説明してくれるよ……」
「いえ、そうですね。私の説明不足でした。実は、先遣隊に出た者の一人が領地から逃げ延びた一人の領民を保護し、先の面々の報告書を持ち帰っています。その際、領主の館に出入りする複数名の余所者やここ暫くの変化、そして館への最短ルートなどの情報を確保しています」
 ヨタカの言葉に首を振った三弦は、机上の地図に最短ルートとして策定したものを投影し、説明する。霧の北限から商業街区を目指し、街区西門から突入。周辺の勢力図と照らしてほぼ損耗なく本拠地にたどり着けるものである。尤も、そんな騙し討ちが利くのは一部のみだ。突入開始後に遠からず対処はされてしまうだろう。
「そのルートを利用して館に突撃、か。……中は設計図どおりのつくりじゃなくなってる、とか。そういうのかな?」
「ご明察です。これは保護した方からは確定情報を得られませんでしたが、伝聞の形で十中八九、内部は異空間となっています。
 とはいえ、あちらも乗り込まれて座して待っているとは思えません。アウスグライヒ含め、打って出てくるでしょう。まさか、手勢を増やしていないなどとは言わないでしょうね。総当たりといいますか、制圧戦を行うという認識で結構です」
 ヴェルグリーズ(p3p008566)の問いかけに応じた三弦は小さく頷く。最終目標がアウスグライヒとシュプレヒコールの討伐なのは揺るぎ無いが、『膠窈』肉腫の特性は純正肉腫の大量の増産と微量であれ『原罪の呼び声』を発するもの。存在するだけで大量の肉腫が生まれ得るのである。
「敵の総数が判然としない以上、かなり難度の高い依頼となります。十分な準備を」
「あの、三弦さん。ひとつ聞いても……いい?」
「はい」
 フラーゴラ・トラモント(p3p008825)が一連の情報を全て聞いてから、おずおずと手を挙げる。何を、と首を傾げた三弦に、彼女は言葉を選びながら。しかし乾いた声で問うた。
「反転に興味を持ったから反転させている……の? 反転をどうにかしたいとか、そういう動機は……シュプレヒコールにはなかったのかな?」
「ボクもそれは疑問だね。旅人だから反転しないのをいいことにむちゃくちゃやってたのかな? 『元はいい人だったんだ』なんてつまらない言い訳もどうかと思うけど」
 ラムダ・アイリス(p3p008609)もフラーゴラの問いにあわせるように首を捻った。ヨタカは愉快犯としての彼しか知らない為、押し黙った。
「……少なくとも記録に残っている『ロナルド・アーレンス・コール』に使命感がなかったといえば嘘でしょうね。本人がそう嘯いても、忘れてしまったか自分に嘘をついているかのどちらかですよ」
 ノウェル家が治めてきた領地が無事で戻ってくる可能性はほぼ無い。アルフラド自身の所在も怪しいものだ。
 だが、少なくとも――ローレットは、この事件の根源へと指をかけたのだ。

 <Sprechchor al fine>の依頼がローレットに舞い込んでいます――!

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