PandoraPartyProject

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破滅の音

 燃えている。
 亜竜集落イルナークが、燃えている。
 数少ない安全地帯……巨大なサンダードレイクの骨を目印に、岩山をくり抜いて作ったイルナークのあちこちから火が出ている。
 何があったのかは分からない。
 だが何かがあって、結果として集落内に火が広がったのだろう。
 それを見て、3人の亜竜種の少女のうち……先頭に立っていた少女がポロリと手元から地図を落とす。
 溜息をつきながらそれを拾い上げたのは、少女の後ろにいた黒髪の少女。
 最後尾にいる眠そうな瞳の少女は「ふうー……」と、殊更大きな溜息をつく。
「な、ななな……何アレ!? え!? イルナークが……どうなってるの!?」
「落ち着いて、奏音。こういう時こそ冷静に、だ」
「あそこ、絶対何かロクでもないのがいるわ……戻った方がいいと思うわ」
「もー! なんで静李も棕梠もそんなに冷静なの!?」
 『鉄心竜』黒鉄・奏音(p3n000248)静李棕梠にそう叫ぶが、2人は「しー」と奏音の口に指を押し当てる。
「イルナークで何があったにせよ、ただ事じゃない。騒いで注意を引くのが一番まずい」
「奏音の熱さは(お昼寝の邪魔でなければ)好ましいと思ってる(けど大抵お昼寝の邪魔だから音量下げてほしいと思ってる)わ。でも、だからこそ静かに行動しなきゃ」
「……ん、分かった」
 静李も棕梠に説得されて、奏音は真剣な表情でイルナークを眺める。
 亜竜集落イルナーク。
 小集落はそれなりの数があれど、イルナークはその中でもかなり堅固な……それこそフリアノンには及ばないまでも、それを思わせるくらいの堅固さを誇っていたはずだ。
 事実、イルナークはこれまで亜竜やモンスターの攻撃を寄せ付けない確かな安全地帯として機能していたのだ。
 だからこそ奏音の父である黒鉄・相賀も用事を任せたのだろうし、静李と棕梠をわざわざ捕まえてきて奏音につけたのも単純に気晴らししてこいくらいの意図であったのは間違いない。
 その程度には信頼性の高い亜竜集落が、燃えている。
 それだけで何かとんでもないことが起きているのは、あまりにも明らかだった。
(何かが起こってる。でも、それは何? ワイバーン? 違う。サンダードレイクの骨を恐れて近づきやしない)
 イルナークの目印である巨大な亜竜サンダードレイクの骨。
 生きていた頃は天を駆け亜竜の頂点を争っていたとも伝えられる亜竜の骨は、今でも他の空飛ぶ亜竜を恐れさせ近づけない。
 ではワーム? それとも他のドレイク? あるいはネオサイクロプスやアトラス?
 彼等は穴倉に籠っている亜竜種にはあまり興味がない。
 もっと食いでのあるものは幾らでも転がっている。
 そして彼等にもサンダードレイクの骨という「お守り」は一定の効果があるようだった。
(なら、何が起こったの? 亜竜種に敵対的な何かの侵入? ……ダメだ、ボクの頭じゃこれ以上は考えても無駄って気がする)
 幸いにも奏音は今は1人ではない。
 静李も棕梠も、頼りになる亜竜種だ。
 だからこそ、奏音は振り向いて……ふと、引っかかるものがあって棕梠をじっと見る。
「……そういえば棕梠、なんかさっき……言外に色々含ませなかった?」
「気のせいだと思うわ」
「そっかな」
「そう」
「そっかあ……」
 納得してしまった奏音を見ながら単純だと棕梠が考えた瞬間に奏音が棕梠をじーっと見るが、それはさておいて。
「とにかく、これからどうするべきかだ。私はこのまま引き返すべきだと考える。何が起こったかは分からないけど、あそこからは死の香りしかしない」
「わたしは……状況だけでも確認しておくべきだと思うの。報告するにせよ、もっと判断できる材料がないと……二次被害が起きる、わ」
 真っ向から対立した静李と棕梠の意見を聞いて、奏音は考える。
 戻るべきだという静李の意見と、少しでも調べておくべきだという棕梠の意見。
 どちらも正しいのは奏音も分かっている。
 ……ならば、どうするべきか。奏音は考えて、真剣な表情で2人の顔を見回す。
「静李、棕梠。ボクは入り口からそっとだけでも見ておくべきだと思う。死なないことを第一に状況を確かめて、報告に戻ろう」
 それは2人の意見と心情を奏音なりに酌んだ意見で……静李は仕方なさそうに、棕梠は静かに頷く。
「……仕方ない。でも言っておくが、死んだら許さないぞ」
「静李は心配性だわ。分かるけど」
「え。もしかしてボクだけが言われてる、これ?」
「ああ」
「うん」
「ええー……」
 納得いかない表情の奏音を先頭に、3人はイルナークの入口へ辿り着き……そして、中を覗き込む。
 岩山をくり抜き、地下にも掘り進んだ亜竜集落イルナーク。
 死体が焼ける匂いに3人は表情を歪め、周囲を見回す。
 それは、明らかな戦闘の跡。
 そして……。
「でっかいアリ……え、まさかアダマンアント?」
 イルナーク内部の壁をも悠々と昇り降りするその姿は、巨大なアリ。
 アダマンアントと呼ばれるソレの群れである事は、明らかだった。
 確かにアダマンアントは地下を掘り進めるが……まさかソレがイルナークを襲ったということなのか。
「……あれは……」
 静李の視線の先。イルナークの地下階層の壁に開いた大きな穴から、アダマンアントが出入りしている。
 間違いない。此処を襲撃したのはアダマンアントだ。そして……。
「……何、あれ」
 棕梠はその視線の先に不可解なモノを見つける。
 アダマンアントの群れの中にあって、全く臆することなく立っている少女。
 ぼーっとしているように見えるが……アダマンアントたちは少女を攻撃することもなく、そのまま通り過ぎていく。
 見た目は亜竜種の少女に似ているが……アリに似せた防具のようなものを纏っている。
 あれのおかげで攻撃されないとでもいうのだろうか?
 その少女の姿を奏音も見て、ハッとしたような表情になる。
「アレって……まさかサンゴ!? なんであんなところに! 助けなきゃ!」
 青龍刀を掴む奏音を、静李と棕梠は「やっぱりか」といった表情で押さえ込んで。
「ダメだ。知り合いかもしれないが、無謀が過ぎる。約束しただろう」
「流石にダメ。それに……何かおかしい」
「それは……そうだけど」
 それが何かは分からない。
 魔種ではないだろう。あの独特の悍ましさは感じない。
 だが、何かがおかしい。
 あの場に突っ込むことで、奏音の知り合いであろうサンゴとかいう少女を助けられるとも思えない。
 そして、何よりも今回のアダマンアントの襲撃事件。
 そんなものが起こるということは……高い確率で彼等を統率する女王種「アダマンアントクイーン」が生まれている。
 ならば、これを放置すればもっと巨大な事件に繋がる可能性がある。
 今すぐにでも、イレギュラーズの協力を仰がねばならない。
 悔しそうな……けれど、ちゃんと理解している奏音を先頭に、3人の亜竜種の少女たちはフリアノンへの道を急ぐのだった。

亜竜集落イルナークがアダマンアントの群れによって陥落しました……
デザストルからローレットへ本件の調査依頼が届いています

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