PandoraPartyProject
咎の鉄条
ファレン・アル・パレストがラサより深緑へと送った遣いはその往復に掛かる時間を越えても帰還しない。
練達を襲った竜の一件もある。
深緑へと向かったとされる竜の足跡を辿るならば、早期にかの閉鎖的な国との連携を取っておくべきだった。
ディルク・レイス・エッフェンベルグに言わせれば『キナ臭ェ』、ハウザー・ヤークに言わせれば『乗り込め』。
そして砂漠の幻想種と呼ばれる『レナヴィスカ』の頭領であるイルナス・フィンナに言わせれば――
「同胞達に何かが起こっているでしょう」
ラサ――共同体で使用する合議の場でイルナスは真っ直ぐにそう言い放った。
基本的には深慮を志す彼女の言葉だ。ディルクもハウザーも頷くしかあるまい。
フィオナ・イル・パレストは「様子を見に行くって結論には変わりねぇっすよね?」と首を捻った。
「ええ。ファレン様、それにディルク、ハウザーの両者はローレットへの連絡をお願いします。
閉鎖的な国家と言えども深緑は我々ラサを良き隣人として認識しています。リュミエ様が遣いを無視する訳もありません」
ラサからの遣いは先ずはアンテローゼ大聖堂を目指し、聖堂の使者によりリュミエの元へと誘われる。
アンテローゼは旅人の憩い。そこまでの道は今代の司教が整備している為に迷うわけがない。深緑で遣いの者の身に何らか起こったとも考えにくい。
だが、竜の一件もある。想定にない何らかが起こった可能性もあるだろう。
「見に行きましょう。では、手分けして行動を開始します。私が先に偵察へ行きますので、フィオナさんはローレットのイレギュラーズを私の元へと連れてきて下さいますか?」
「良いっすけど」
「何かあったならば、様子見のためにも乗り込みましょう。森に何かが起こっている可能性があります」
――深き森。砂漠との境目は緑茂る息吹を感じさせた。だが、その姿は常とは異なった。
幻想種達の生まれ故郷であるとされた大樹ファルカウ。その周囲をぐるりと取り囲んだのは茨。
それは外部より入る者を拒むように伸び上がり、ずるりと蠢き続けている。
「こ――れは……」
イルナスは息を呑んだ。
永きを生きる幻想種達の中でもこの様な迷宮森林は見たことはない。
まるで鉄条網のように伸び上がった茨が投げ入れた礫一つも逃さぬと言う様に伸びたのだ。
「中に入れ無いっすか……?」
合流を果たしたフィオナの問いかけにイルナスは「どうでしょう」と呟いた。
「所々、茨の伸びが遅い場所があります。そこからならば国境近くに存在する集落までならば……。
ですが、ファルカウへは辿り着けませんね。ローレットも『近くまで転移』することは難しかったのでしょう」
誰ぞが言った。
まるで『R.O.Oで起きた翡翠の一件のようだ』――と。
深緑に入ることも出来ず、封鎖された森はR.O.Oよりも深刻だ。
触れるだけでも傷つけ命をも奪わんとする茨に覆われた迷宮森林。『どうして』と問われて答えられる者はこの場には居ない。
「……一先ずは情報を収集しましょう。中に入るための手立てを探るのです」
※迷宮森林が謎の茨に覆われて出入り不能となったようです――
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