PandoraPartyProject

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クリスト=Hades-EX

「『Jabberwock』のロストは痛打でした。
 このような事態を避ける為にこれまで長い間、観測を続けてきたというのに」
 状況報告を受けたマザーは機械の顔に苦虫を噛み潰したような表情を張り付けた。
「ハッキリ言って兄さんの所為です。全て兄さんが悪い。
 この最悪の事態を招いたのは兄さんが余計な事をしたからです」
 セフィロトの事件を超えた後、マザーは何処か人間らしくなった。
 練達全土の母として存在するのは変わらないが、以前より感情らしきものが表に出る事が多くなった。

 ――そーは言うけどクラリスchangよ。
   俺様が何もしなかったらもっと酷い事態になってたかもしんねーじゃん!

「少なくとも私は相談されていませんし、セフィロトが滅茶苦茶になったのは事実です。
 良かれと思っても……過保護の事後承諾はシステム上、認められてはいないのです」

 ――うーん、辛辣ゥ!

 取り分け断言し、断罪した『兄』に対しては辛辣である。
 それは恐らく彼女が初めて見せた『身内への甘え』に違いあるまいが――
 クリスト側はそれを分かっているようで、妹のつっけんどんな態度にも余り不満は無いようである。
「兎に角、状況を整理します。主な問題は二点。
 一つは言わずと知れた『Jabberwock』なる観測が現実のものになっている点です。
 もう一つは現在の私は故障しています。セフィロトを司る防衛システムを統括する事が出来ません」
 練達なる勢力が唯の都市ながら一国という扱いを受けているのは圧倒的な技術力に拠る防衛機能を有しているからだ。
 セフィロトの内部は何時も住人にとって理想的に快適な環境が約束されてきたし、その防壁(バリア)を外敵が突破した記録は過去に一度も無い。
 然し乍ら、現在のセフィロトにはそれを可能にしてきたマザーの加護が無い。環境と最低限の防壁は維持されているが平時に比べればそれはハリボテのようなものである。
 少なくとも長年マザーが警戒対象としていた冠位魔種の気配や、それを伴う竜種への脅威に対して十分なものであるとはとても呼べない。

 ――クラリスchangの見立てだとジャバchang達が来たらセフィロトはどーなるの?

「高確率で滅亡します。
『どういう理由かは知れませんが、野良の気まぐれではない』。
 冠位魔種が関わっているかは兎も角、今回の竜種は明確な意志を持ってセフィロトを攻めるようなので。
 イレギュラーズが十分な力を貸してくれると仮定しても相手が竜種の軍勢ではかなり厳しい。
 仮に私が万全であったとしても簡単な話にはなりませんが――」

 ――でも不可能じゃない、と。

「ええ。私が十分なリソースを発揮出来るのならば、練達の子達やローレットが力を貸してくれるなら防ぐ事は出来るかも知れません。
 被害をゼロに収める事が出来るかどうかは兎も角、今回撃退するのは不可能ではないと見ています。
 ……ですから、問題は私が故障している事だという事です」

 ――成る程、ねぇ。

「……兄さんは責任を感じたりはしませんか?」

 ――ちっとも! 俺様はキミを助ける為に動いた訳だから。
   仮に俺様が居なくてもそこ、変わんないでしょ、結果は。
   いや、もっと悪くなるかも知れない訳で、っつーか多分悪くなる訳で!

「……………怪我をした妹が可哀相だとは思わないのですか?」

 ――思うけど、それとこれとは違うでしょ!
   クラリスchangは混沌最高の演算装置なんだから、そこちゃんとやらないと。
   ね! 北風と太陽って寓話知らないかな? イケてるヤツなんだけど!

「……………」
 憮然としたマザーは黙り込む。
 クリストの態度は兎も角、言は一概には否定仕切れない。
 現状のセフィロトの機能維持とて、珍しく他人の為に真っ当な仕事をしている彼の存在ありきである部分も大きい。
 要するに彼は代価を求めているのだ。少なくとも非難で大禍に向けて動く心算は無いらしい。
「…………………がい」

 ――んー? 聞こえないなあ!

「兄さん、おねがい。セフィロトを助けて――」
 何とも難しい顔をしたマザーがそう言えば、顔も見せないクリストは全身全霊で破願したような雰囲気を発していた。

 ――任せとけ! キミを泣かす雑魚竜なんてボッコボコのボッコにしてやんよ!!!


 ※緊急事態です! 練達に『Jabberwock』なる存在が向かってきています!!
 故障中のマザーに代わりクリストがセフィロトの防衛システムの制御を開始しています!
 ※覇竜領域デザストルの世界観が更新されました!

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