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ディダスカリアの門

 ――アドラステイアでは下層と中層を隔てたその門を『ディダスカリア』と呼んだ。

 其れは北方の不凍港への対策として聖教国が設置した港街であった。
 港湾警備隊が配置され、敬虔深き神の徒達が来たるであろう脅威に備え続ける寒々しい冬の港。
 強大なる鉄帝国軍への対抗か。それとも、国力のアピールであったのかは定かではない。簡素ながらも几帳面に整えられたアスピーダ・タラサの街は聖教国をよく表していた。
 その街の名は、現在の聖教国の地図には掲載されては居ない。寧ろ、口にするものも少なくなった。
 石畳の並んだ西洋風の町並みに、寒さを凌いだ煉瓦の建築がずらりと並んだ港町は現在は高く聳え立つ塀の向こうにあったのだ――

「アドラステイアって街の基板になったのが騎士港『アスピーダ・タラサ』だ。
 ま、この呼び名も随分廃れちまったが……嘗ての時代にゃ不凍港を有する鉄帝に対抗するための軍用港だったワケだ。
 聖都を襲った『災厄』――冠位魔種ベアトリーチェの暴虐に対抗するためにこの港町の騎士団も聖都に馳せ参じた。
 伽藍堂になったこの場所に目を付けたんだから奴さん等もお目が高いってな」
 そう笑ったのはサントノーレ・パンデピス。彼は調査報告をしにローレットへと足を運んでいたのだ。
 その傍らでちょこりと座っていたのはラヴィネイル。冷め切ったココアの入ったマグカップをちょこりと手を掴みながらサントノーレの話に耳を傾ける。
 聳え立った塀が外界と遮断する。入ることさえ困難なアドラステイア。
 その横暴とも呼べる現状を食い止める為に天義が依頼し、探偵が調査したのは全てが秘密裏の内のことだ。表だって騎士団が動けばアドラステイアとの関係が直ぐにでも悪化する。それを食い止める為の便利屋がイレギュラーズというわけだ。
「まずはアドラステイアの構造の『おさらい』だ。
 あの都市は丘のような構造をしている。それはアスピーダ・タラサが『灯台』を立てるためにわざとそう言う地形だったって話だ。
 嘗て灯台だった場所は塔になり鐘を鳴らす。その辺りが上層と呼ばれるエリアだ。住民の神様やらティーチャーが住む区分だな。
 それから次、アスピーダ・タラサの町並みが残されている上層を取り囲んだ円形エリアが中層。此処が俺たちの目的地になる。
 で、最期がその郊外部分を塀で多いスラム街を作り上げた下層。子供は大体が此の辺りに住んでやがる。普通に突入しても『下層』でおだぶつだ」
「子供達、洗脳されてるから」
 ラヴィネイルに頷いたサントノーレは「それを救い出す手立ては今のところは分からねぇ。善を唱えても奴らは洗脳の中だからな」と肩を竦める。
「詰まり、解き放ちたいって願うんなら中層、それから上層部にまで喧嘩を売らなきゃならねえってわけだ。オーケー?」

 今回の作戦の要点を掻い摘まもう。
 中層へと突入する部隊を先に進ませるために下層で子供達の注意を引付ける『陽動』
 更には、障害となる『フォルトーナ地区』での大規模戦闘。
 その2パターンが注意を引いている間に行うのが『中層突入作戦』だ。
「こっちも準備はしてあるんだ。新世界ってのはどうにも一緒くたに扱うべきじゃねぇな。
 二人、ミハエル・スニーアバスチアン・フォン・ヴァレンシュタインに着目した。片方はエンターテイナーだ。
 何方も旅人に対して思う事はある。下層に居る旅人の子供達を『取引材料』にするんだ。いいな? ……悔しい話だが、それ位しか中層へと突入する手立てはない。
 だからこそ、奴らには利用価値がある。交友関係があり同じ組織に所属し、アドラステイアに主軸を置いていない奴らは都市に出入りするが都市に愛着はない。そこを利用して中層への通行手形をゲットするんだ」
 その後になれば、内部で『協力者』となるプリンシバルを得ることも出来るはずだ。
 一先ずは中層に突入し通行手形を得る。得られた時点で総員は戦闘を終えて退避。アドラステイアを一度後にする。
「何かを救うためには何かを犠牲にしなくっちゃならねぇ。……やるせないな」

※アドラステイア中層介入へ向け、陽動作戦<ディダスカリアの門>が開始されました。

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