PandoraPartyProject
北王誕生
ノーザンキングス連合を代表する三つの部族。
――戦闘民族ノルダイン
――高地部族ハイエスタ
――獣人族シルヴァンス
彼らはある共通の問題を抱え、集会場にて顔をつきあわせていた。
広い板間に囲炉裏がひとつ。等間隔にはなした麻製の敷物にひとりずつ腰を下ろし、たがいの顔をそれぞれ観察している。
「首都スチール・グラードがゼシュテリウスの手に落ちた。もはや次なる皇帝の即位は確実であろう」
そう切り出したのはノルダインの長老ヴルヴォン。3mにも達する巨躯と、常人をローストチキンのごとく引きちぎりそうな太い腕をもつ文字通りの豪腕である。
「ヒヒヒ、ならその者を殺せば良いだけ。わざわざ我らがこんな場所で辛気くさい顔をつきあわせる必要もあるまい」
対して歯を見せて笑ったのがシルヴァンスの長ゲーデンスベン。アライグマかタヌキのような姿をしており身長も1mとない小柄さだが、知識は豊富で兵器開発において高い能力をもつ。ノルダイン相手に対等の立場を保てるのは、彼らが武器を開発し供与しているからだ。
「私に言わせないで頂きたい。『殺しても死なない』から問題なのでありましょう?」
顔をしかめて苦々しく言ったのはハイエスタの長ホランドコット。ヴルヴォンほどではないが背は高く筋肉質で、白銀の鎧を纏った勇猛な戦士然とした男だ。その目には気高さと深い知性があり、この中の誰より理性的な雰囲気を持っていた。
彼らこそが現在のノーザンキングス連合の代表。鋼鉄帝国皇帝の座を狙い結託した組織である。
ゲーデンスベンはキヒヒと笑い、ヴルヴォンは舌打ちをした。
「イレギュラーズはたとえ殺したとて、すぐに復活する存在。奴らのうち誰かが皇帝となれば、鋼鉄帝国のルール上これまでのやり方は通じません」
「知らぬわ。その皇帝が泣いて謝るまで殺し続ければ良い」
「ノルダインはこれだから……」
ゲーデンスベンが小声で呟くと、ヴルヴォンがその顔を睨んだ。おどけてみせるゲーデンスベン。
ヴルヴォンが石のような大剣を手に取り、ゲーデンスベンが青白く光る魔銃をてにとった。ホランドコットが喧嘩を仲裁すべく立ち上がろう――とした、その時。
「ごブっ!?」
胸から鋼の棒が突き出た。
否。
気配を殺しいつのまにか集会場に入り込んでいた何者かが、ホランドコットを剣で背から刺し殺したのだ。
白銀の鎧を貫き、この勇猛な戦士を一撃で?
瞠目するゲーデンスベンが咄嗟に銃を向けると、崩れ落ちたホランドコットの後ろから女が姿を見せた。
死体から部族を示すシンボルをむしり取り、ポケットへとしまいこむ女。
「貴様……ベルゼルガ族のリズリー!? どういうつもりだ! 拾ってやった恩を忘れたのか!?」
そう、リズリー・クレイグだ。
血塗れの剣をさげ、歩き出すリズリー。
「忘れたと言ったら、どうするつもりだ?」
「ヒッ――!」
思わず銃を発砲する。青白い光がリズリーめがけ撃ち込まれるが、剣のひとふりでそれを『切断』し、破壊する。
そのまま距離を一気に詰めると、ゲーデンスベンの首を返す刀で切り落とした。
彼の胸からシンボルをむしり取りながら、ヴイルヴォンへと振り向く。
リズリーの表情には暗い絶望と、憎しみと、そして怒りがあった。
「貴様らは、ぬるい。鋼鉄の皇帝? ルールに則った即位? どうでもいいんだ、そんなクソは」
「ク、クソだと? 貴様誰に向かって口をきいている! 我こそは――」
大剣を手に取り、名を名乗りながら斬りかかるヴルヴォン――は、目を見開いた。
既にリズリーの姿はなく、背後に彼女はたっていた。
そして、ずるりとヴルヴォンの首が落ちる。
「貴様こそ、誰に向かって口をきいている」
落ちた首を囲炉裏に向かって蹴り飛ばすと、シンボルをむしり取って三つのそれを胸につけた。
そしてゆっくりと、出口へと歩いて行く。
おりた幕を豪快に払い、日の当たる場所へと出た。
それを出迎えるように、ずらりと。
ノーザンキングス連合の英雄たちを先頭に、大勢の戦士達が膝を突いて頭を垂れている。
「我はリズリー・クレイグ。
今このときより、ノーザンキングス連合『王国』の王であるぞ」
傍らに二人だけ、膝を突かずに立っている者がいた。
鋼鉄帝国陸軍大佐エーデルガルトと、同じくカイトである。
彼らは『黒き絶望(DARK†DESPAIR)』というなんともふざけた名前の状態におちたと言われていたが……。
「お膳立てはしたぜ、大佐殿?」
カイトはゴーグルの上に手をかざし、そしてスッと横へ撫でるように動かした。
するとなんということだろうか。空間に浮かんでいたDARK†DESPAIRというワードが消滅し、その裏に隠蔽されていたワードを露わにする。
――原罪の呼び声(クリミナル・オファー)。
そして、カイトという名は『プロモーター』という名に変わる。
振り向くと、国王リズリーを称賛し敬服する声をノーザンキングス連合軍の兵達があげている。
『プロモーター』によって広く拡散されたクリミナルオファーが、彼らの精神を歪ませているのだ。
その様子に、エーデルガルトは目を細める。
ノーザンキングスはもはや止まらない。彼らは国力の全てを消費し尽くすまで鋼鉄帝国へ攻撃を仕掛けるだろう。
更には反転したザーバも闘争への飢餓から鋼鉄を執拗に攻撃し続ける筈だ。
「皇帝の座だの、内乱だの、皇帝殺しの犯人だのと下らない。横っ面を殴りつけ、『わからせてやる』必要がある」
エーデルガルドは葉巻をくわえ、ジッポライターで火を付ける。
「これは正義の戦いである。
腐敗し崩壊した政府を殴りつけるための戦いである。
政府が自ら、あるいは新たな誰かの手によって『あるべき姿』をとるまで、殴り続けるための戦いである。
つまりは――」
煙を吸い込み、そして吐き出した。
「テロリズムを始めよう」
――ノーザンキングスの『王』と『連合軍』が誕生しました!
――DARK†DESPAIRが『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』であったことが判明しました。呼び声によって複数の魔種に相当する存在が生まれています……
これまでの再現性東京 / R.O.O
トピックス
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