PandoraPartyProject

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帝都星読キネマ譚<現想ノ夜妖>

 アスファルトの道路に、革靴。夏の日差しの下で、蝉が鳴く。
 カァンカァンという鐘の音をのせて、路面電車が通り過ぎていく。
 着物姿の女性が振り返り、その横を自転車にのったバンカラ学生服の少年が風のようにすれ違っていった。
 どこか遠くでりぃん――と風鈴が鳴る。
「大(TAI)――!」
 両手をグーにして顔の前でブロックガード姿勢をとった紅宵満月こと練達研究者、陽田 遥(p3n000155)
「正(SHOW)――!」
 今度は両手をパーにして、Yの字にかかげて飛び上がった。
「浪漫だーーーーーーーーーー!!」
 膝を後ろにおって飛ぶ。人生でそうそう見せないそのフォームに、隣で煙草をくわえていた無名偲・無意式(p3n000170)が『ああ』と低い声で応えた。
「確かにこれは、大正浪漫そのものか」

●大正平安ほしよみキネマ
 時は現代ROO。混沌世界は練達の首脳こと三塔主より混沌法則解明計画ProjectIDEAの主幹R.O.O(Rapid Origin Online)におきた不明なバグの解明およびバグに伴っておきた研究員たちの集団意識不明事件の解決に、ローレット・イレギュラーズはあたっていた。
 遠く離れた幻想王国ではるか古代よりの因縁にケリがつき、世界に新なる勇者たちが現れたのと時を前後して、
 ROO内にできた歪んだ世界こと『ネクスト』に新たな領域が解放されていた。
 混沌では絶望の青として知られていた海は既に『静寂の青』と呼ばれ、優れた軍人であるトルタ提督や祝福のコン=モスカたちによって豊かな海となっている。
 一方その先にある、混沌における豊穣郷カムイグラに相当する神光こと神咒曙光(ヒイズル)もまた、神光貴族天香家と霞帝による盤石の政治体制によって平和な国となっている。
 ――此度訪れた舞台はそんなヒイズルの首都、高天京。

「外国文化を大いに取り込み法の改正から始まって大日本帝国を名乗り出した頃合いの英仏の文化を大いに引っ張ってきて強豪国の振りをするという大正時代はその文化的大津波によってあらゆるものの和洋が折衷され西洋建築や西洋の機械や西洋の衣服そして食文化がそれまでの文化を転用する形で実現されたことでおよそ大正独特な様式つまり大正浪漫となったのですモダンという言葉が最も鮮烈で新しかった時代でありモガやモボと呼ばれるファッションリーダーたちがあああああああああダメダメ出ちゃう脳から何かの汁が出ちゃう!」
 常軌を逸した壊れ方をしている満月を、無名偲はぼうっと眺めている。
 これほんとに放っておいていいんですか? という顔で普久原ほむら――もといフレア・ブレイズ・アビスハート(p3y000159)が無名偲の顔を見る。
「やめろ、そんな顔で見てもフォローはしないぞ。俺は他人の趣味と恋路は邪魔しないことにしているんだ」
「あー……いや。べつにその。説明しないってのはいいんですけど……。単にこのまま報告書が作られたら、それただの大正時代の説明文っていうか」
「……」
 無名偲はくわえていた煙草を人差し指と親指でつまむようにして取ると、アアという低いうなりと共にため息を、そして紫煙を吐いた。
「雇われ校長というやつは、こういうときに面倒くさい。おまえ、代わりにやらないか」
「あー……いやー。ちょっとあんまり、そういうのは。あ、そうだ。私、生徒なので」
 面倒ごとは御免被る。そういう顔で手をかざすフレア。
 無名偲が振り返ると、特徴的なフォルムをしたガス灯の並ぶ大通りにむこうに天守閣が見える。
「まずは、現地の依頼主に会いに行くか」
 煙草に火のついたまま投げ捨てる無名偲。フレアが慌てて踏み消し、きょろきょろと近くのゴミ箱を探した。
「はー……。昔居たなあ、職場に。こういう上司……!」

●高天京壱号映画館
「この国、ヒイズルではいま空前の『大正浪漫ブーム』がおきているらしい。
 俺たちの知る……というより、ローレットのイレギュラーズが開拓したカムイグラの文化と大正文化が混在しているようだ。
 まあ、所詮流行り廃りのことだ、この世界には相変わらず騎士も侍もビームライフルもある。連中はあえてこの文化を取り入れたということなんだろう。
 現に、カムイグラそのままの風景もあれば、大幅に大正ナイズした風景もある。
 平和に、そして独特の文化が成長し、情報が活発に交わされる……まてよ」
「ん?」
 脳内大正桜に浪漫の嵐が吹き荒れていた満月が、ふと無名偲の顔色を見た。
「似ているな」
「似ているって」
「希望ヶ浜に、だ」

 少しだけ脱線した話をしよう。
 無名偲・無意式。練達の一角にある再現性東京2010街希望ヶ浜地区にて、彼は希望ヶ浜学園の校長を務める人物である。
 『現代日本』に類する世界から混沌世界に召喚されながらもなじめなかった人々が、自分たちで作った巨大な文明の殻。現代日本を摸した建築物と自力で流通・ネットしたスマートフォン。そして日本紙幣。希望ヶ浜は独特の文化を構築し、そしてその場所を出たくない人々やその場所を好んだ人々によって今日も平和に回っている。
 あくまで、表向きには。
「希望ヶ浜の臨時研究員……まだ意識が取り戻せていない人もいるんですか?」
「前の『イベント』でだいぶ取り返しましたけど、まだいくらかは……」
 満月の問いかけに難しい顔で答えるフレア。
 希望ヶ浜のなかでは『テレビゲーム(?)の大会に行ったまま帰ってこない』といった、ちょっぴりズレたとらえかたをされているようだが、殻にこもった彼らのこと。だから探しに行こうとはならないようだ。
「気負いすぎでは?」
「学園のあの子達をテスターに起用した私にも、責任はありますし……」
 結果、満月をはじめとする外部をよく知る人間達による『希望ヶ浜分隊』が組まれ、彼女たちはここROOへとログインしバグの解明や研究員の救出にいそしんでいる。
 ヒイズルへ訪れたのも、言ってみればその一環だった。
「ついたぞ」
 両手をポケットに入れたまま歩いていた無名偲が立ち止まる。
 大きな看板が掲げられた建物。看板にはこうある。

 ――高天京壱号映画館。

●ほしよみキネマ
「お待ちしておりました……」
「遅かったわね。カレーライスでも食べてたんじゃないの?」
 つづりと、そそぎ。
 カムイグラで大きな戦いを経験したローレットにはもはや知られた存在だが、服の装いがまた随分と違った。
 上品な縞柄の上着と紺色の袴。色をあわせたリボンをつけた、まさしく大正浪漫といった具合のつづり。
 一方で赤いワンピースと帽子でモダンガールをゆくそそぎ。
 頭のツノもちょっとほこらしげに、二人は並んで映画館の受付に立っていた。
 小声で問いかけるフレア。
「彼女たちは?」
「ROO内での此岸ノ巫女……ということだろう。俺たちにとってはサクラメントのひとつにすぎないが、この世界では重要なワープポータルだからな」
 そんな彼らに、聞こえる足音。モザイクタイルの薄暗い通路を、一人の青年が歩いてくる。
「イレギュラーズ……の方々ですね? 中務卿から話は聞いています」
 額に特徴的なしるしのある精霊種の青年は、持っていた手帳をパタンと閉じて胸に当てた。
「僕は月ヶ瀬 庚。『高天京壱号映画館』の館長です。あなた方に、星読幻灯機を案内するよう仰せつかりました――なんてね。
 僕は皆さんと同じプレイヤーの方の庚です。色々と込み入った事情がありまして、『R.O.Oの僕』と示し合わせ、皆さんをご案内する事になりました」
 どうぞこちらへ。
 つづり&そそぎと共に通路を歩き、そして『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた扉を開く。
 その先には、特別な映写室があった。

 ガチャンという大きな音と共に照明がおち、フィルムロールが回転するカラカラという音がする。
 赤くふわふわとした感触の椅子に腰掛け、足を組む無名偲。満月とフレアはその左右に座って、眼前のスクリーンを見つめていた。
 特徴的な光と影。
 この建物があらわすとおり、それは映写機によって投射された映像であった。
 カウントが始まる。

 3――
 2――
 1――
 隣でピアノ伴奏を始めるつづり。声も音もない映像に、どこかポップな音楽が伴っていく。
 映し出されたの走る路面電車と袴の女性たち。
 月ヶ瀬 庚は映し出されるスクリーンの端にたち、手をかざして見せた。
「では、簡単に説明から。ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、僕の所属は中務省、陰陽寮を束ねる陰陽頭です。
 R.O.Oのこの国は帝や天香家のおかげで随分と平和になりましたが……その裏で不思議な事件も多々起こっているのです」
 映像にうつる女性が、友人との立ち話をおえ手を振り歩き出す。
 いつしか夕暮れ時となった街にはぼんやりとガス灯がともり、コンクリートと鉄材によってかけられた小さな橋をわたっていく。
 と、その時。
 ばしゃん、と真下の小さな川から何かがはねた。
 効果音はどうやらそそぎが鳴らしているらしいが、それはさておき。
 気になって橋から川を覗き込む。
 映像は見下ろした川のそれへ。
 泳いでいた大きな黒い魚がひらりとターンし、その『顔』を水面から突き出し、こちらに向けた。
 川を見下ろす少女の顔と、それは全く同じであった。
 人面魚はにたりと笑い、その直後、少女からは顔が消えその場にばたりと倒れ伏した。
 黒背景に『終』という文字だけがうつり、映像は終わる。

 照明がふたたび戻った部屋の中で、庚はゆっくりとスクリーンの中央へと歩いて行った。
「今ご覧頂いたのは『未来の映像』です。この国……いや、この都で起ころうとしている事件を、映像という形で予知したものなのです。
 僕と『R.O.Oの僕』はこれを渾天儀【星読幻灯機】と名付けました」
「なまえがむずかしいので……私達は、『ほしよみキネマ』って呼びます。モダンで、とっても可愛い」
 ピアノ台の蓋をそっと閉じたつづりが苦笑してそう言うと、庚は肩をすくめた。
「イレギュラーズの皆さん。『現地の僕』……いいえ、我々中務省から依頼します。
 皆さんの立場は『陰陽寮の神使』として保証されます――これが、『僕と僕』の協力の結果です。
 巫女二人には協力者として皆さんの事を簡易的には説明をしていますが、『この巫女達はここに住んでいるNPC』です。此方の都合も全てを理解しているわけではありません。
 けれど……知った顔が蹂躙される場面など見たくは無いでしょう? 僕は、見たくない。
 ですから、僕達の予知するこの数々の怪事件を未然に解決して欲しいのです。
 この都の平和を、まもるために」

●現想ノ――夜妖
 無名偲・無意式は立ち上がり、そしてゆっくりと拍手していた。
 いまの流れでなぜ、という目で見る満月を無視して、顎をあげる無名偲。
「人々が平和を望むために生まれた歪み。決して平和ではないはずの世界に作り出した人工の聖域と、それゆえに生まれる影。人々は目をそらし、しかしそこには確かにある。夜にひそむあやかし。
 妖怪? 幽霊? 都市伝説? 怪異、怪物、異常存在? どれも違う。俺は『専門家』として、これをこう定義し、名付けた――」
 対して、庚の目が細く、そして唸るこえが低くなった。
「ご存じでしたか。そうです、これは――」
 庚と無名偲の言葉が、ぴったりと重なる。
「「夜妖(ヨル)」」

 目を見開き、満月はポップコーンを取り落とした。
「カムイグラ……いや、ヒイズルに夜妖!?

 帝都星読キネマ譚<現想ノ夜妖>――まもなく開演。
 どうぞ、お急ぎを。

これまでのリーグルの唄(幻想編) / 再現性東京 / R.O.O

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