PandoraPartyProject

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リミット・ポイント

 IDEA:Inhabitable Dimension for Exouniversal Attainment
 IDEA:Incarnated Duplication by Electromagical Ascension
 IDEA is a Development Environment for Abberation......

『実践の塔』――佐伯操研究室。
「……それで、状況は?」
 万事老練の滲む威厳ある顔をより一層厳めしく顰めながら『探求』の塔主、カスパール・グシュナサフは部屋の主に視線をやった。
 コンソールを叩き、ディスプレイに集中していた操は「うーん」と唸り声を上げて眼鏡の位置を軽く直した。
「正直、状況が良いとは言えない。いや、もう少し踏み込んで言うなら事態は悪化の一途を辿っている」
「あれだけ掛けていた安全対策(ほけん)が機能していないとでも言う心算か?」
「そう。『あれだけかけていた安全対策(ほけん)は全く機能していない』。
 もう少し厳密に言うなら事態の悪化の遅延には役立っているが、抜本的解決には寄与していない。
 Project:IDEAは我々練達の――三塔主の悲願であり、辿り着いた解決への式だ。
『マザー』のリソースも積年注ぎ続けてきた。保険が機能しないのは単純に質量の問題かも知れないな。
 つまりだよ、カスパール。『我々はIDEAの完成と同じだけの情熱をもってセキュリティを構築した訳ではない』。
『R.O.Oなる叡智の質量が暴走を始めたとしたら、これを食い止めるのは劣後する対策であってはならない』。
 等価交換と是とするならば、余りにも簡単すぎる問題だ。自明の理としか言いようがないだろう?」
 僅かな苛立ちを隠せず、見事な白髭を指で扱いたカスパールに人を食ったような長広舌が応じた。
「良かったのか悪かったのか、コントロールに拘り過ぎて対応が遅れたね。
 とはいえ、小康状態を作れた事自体が奇跡だ。やっぱり私達は天災……失敬、天才かもね?」
 言葉の主は言わずと知れたマッドハッター。このDr.は練達三塔最後の一つ『想像』の塔主であった。
「言葉遊びの暇はないぞ、マッドハッター。
 この程、R.O.Oは概ね我々のコントロールを外れてしまったと言える。
『この事態に対してセフィロトは幾つかの対策を打つのが精一杯だった』。
 その上、我々は状況の進展を緩和する為に塔を動く事が出来ぬ。
 IDEAとR.O.Oに生じた問題を確実迅速に対処し、状況をクリアする為には有力なエージェントが必要だ。
 ……佐伯操、期待はしておらぬが『彼』の返答は如何に?」
「けんもほろろだよ。『小生は知った気になっているルーキーもどきが大嫌いなのだ』だそうだ。
 どうも彼はIDEAの問題をかなり早くから感知していたようだ。教えてもくれないのは如何にも『スターテクノクラート』か?」
「さもありなん、だ」
 苦笑したカスパールにマッドハッターは肩を竦めた。
 練達にありながらセフィロトには関わらず一匹狼を気取る男だ。
 協力は期待していなかったが、事態解決への唯一にして最強のショートカットだったのは間違いない。
 このルートが潰された以上、取り得る手段はもう少し泥臭くなるのは必然だった。
「代案は?」
「分かっているのに尋ねるのはどうかと思うよ、御老人。
 決まってる。こんな時頼りになるのはアリス達さ!」
 マッドハッターはむしろこうなった事が嬉しそうに声を上げていた。
 暫く会っていないが、彼の愛しの『アリス』達は混沌各地でいよいよ声望、実力を高めていると聞いていた。
 遊撃戦力として荒事もこなす『何でも屋』は政治的中立性をも加味して、セフィロトの置かれた問題への解決に最も適任であると言えるだろう。
「……彼等を、セフィロトに?」
「そう、セフィロトに」
 カスパールとマッドハッターの言葉には単に都市に招くという以上の意味を持っていた。
 彼等の語る『セフィロト』なる単語にはその本質が含まれる。それは即ちこの練達の心臓たる偉大なるマザーの……
「選択の余地は無い。それから時間もだ。カスパール老、異論はないね?」
 操の確認にカスパールは一瞬だけ逡巡してから重く一つ頷く。
 それを確認した操はコンソールを叩き、彼女の『実践』の大成果たる長距離通信をローレット、レオンの執務室へと向けていた。

 IDEA:Inhabitable Dimension for Exouniversal Attainment
 IDEA:Incarnated Duplication by Electromagical Ascension
 IDEA is a Development Environment for Abberation......

 操のディスプレイの中に無機質な電光文字が躍っていた。
 それは余りに静かすぎる、静かで見えない異変の証明に違いなかった。


※探求都市国家アデプトで『何か』が始まっているようです……!

これまでのリーグルの唄 / 再現性東京

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