PandoraPartyProject

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フィンブルの春

 ――わたしは。
 わたしだったものは。
 そうあれかしと望んだ。
 見込み、期待し、待ち焦がれた。

 ――イミルの長に伝わるセルグヴェルグの秘術。代償は人の命とされる。

 遠い遠い昔。イミルの一族は、この一帯を支配していた豪族クラウディウス氏族と、何代にもわたる長い抗争を繰り広げていた。だが勇者アイオンによって講和が結ばれる寸前に、クラウディウスの長ルシウスはイミルの一族をだまし討ちして、両者の仲は永遠に断ち切られたのである。
 イミルの一族と、その姫フレイスは、こうして長や仲間達の多くを失った。
 だが壮絶な虐殺を逃れた姫達は、この呪われた秘術を自身等へと施した。怪物――巨人と成り果てたイミルの民は、怨念を爆発させ、かつての姫――新しき巨人の女王、『死の女神』フレイスネフィラを旗印として、クラウディウス氏族との決戦へと挑んだのだ。
 幻想に帰還した勇者アイオンは、イミルの一族と再度の説得を試みるが、人ではなくなってしまったイミルの民に、心は通じなかった。クラウディウスの一族にも講和を望んでいた派閥と、長の派閥とによって内紛が発生し、彼等は内と外とに敵を抱えることになった。
 全ては取り返しが付かなくなってしまったのである。
 内紛の末、クラウディウスの一族はルシウスを殺害し、勇者アイオンへと服従を誓った。
 アイオンは、寄る辺を失ったクラウディウスの一族を、受け入れざるを得なかった。
 そして怪物と成り果てたイミルの民を、その怨念を、打倒することを決意したのだ。
 決戦は、スラン・ロウと呼ばれる荒野で行われた。
 聖女フィナリィは巨人達を封印し、その代償に命を落としたのだった。

 ――あの命があったからこそ、わたしはここに居ることが出来る。

 幾星霜の果てに、この地も随分と様変わりしたものだ。
 豪奢な屋敷の中で頬杖をついたフレイスネフィラは――そう名乗る女は――シャンデリアを仰いだ。
 容姿こそ妖艶さの奥底に毒を湛えているが、そして些か以上に美しすぎるが、それでもあくまで造形は人の範疇に見える。伝承に伝わる巨大な『死の女神』とは、大きさも風情もほど遠い。

 幻想王国には多数の魔物が出現している。
 そうした中で、国王フォルデルマンは、大きな功績を挙げた者に『ブレイブメダリオン』を与え、勇者と讃えるという『思いつき』を発布した。
 実のところブレイブメダリオンなどというものは、既にこの国の英雄たるイレギュラーズへの、謂わば『更なるご褒美』に他ならないものだったに違いない。
 しかしそこへ思わぬ副作用が発生した。幻想の国中が、にわかな勇者ブームに沸き返ったのである。
 更には貴族達が、自身の権威を高めるため等、様々な思惑でこれを利用しつつある状況が発生した。
 大本命の勇者たるイレギュラーズの背を追う者達を、新たに勇者候補生としてバックアップを始め――更には偽のブレイブメダリオンまでも流通しはじめ、ごろつきやチンピラまでもが勇者を名乗る混乱まで巻き起こりつつある。こうして魔物退治は、三つ巴の狂騒を奏で始めたという訳だ。

「まこと、騒がしきことよな。我が盟友殿も、忙しそうで何よりだが」

 王都の狂騒もどこ吹く風と、フレイスネフィラは鷹揚そうに脚を組みかえる。

「やれ、では手伝うてやろうか。どこまで力を取り戻すことが出来たか、試す価値もあろう」

これまでのリーグルの唄 / 再現性東京

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