――それでは明日の天気です。
　週末に掛けて接近が予測される大型台風、台風14号は依然として勢力を弱めないまま希望ヶ浜及び再現性東京に接近して居ます。
　此れは例年余り見られない進路であり注意が必要ですね。……10月の台風という事もあり行楽地では混乱の声も――

「えええ――――！？」
　テレビから流れる音声を聞きながら突如として叫んだのは綾敷・なじみ(p3n0001689)であった。どうしてか希望ヶ浜学園の男子用体操服に身を包み今にもグラウンドに駆け出しそうな格好でテレビに釘付けである。
「えっ、週末って、えっ、体育祭……体育祭じゃ無いの、こーちょー先生！？」
「ああ。希望ヶ浜学園『マジ卍体育祭』の予定だが……この調子では無理か？
　と、言うかお前は他校の生徒で希望ヶ浜学園の体育祭には関係ないだろう。まあ、出たいなら音呂木辺りに相談して適当に出れば良いだろうが……」
　大騒ぎのなじみの現在地は希望ヶ浜学園校長室、そして声を掛けたのはその部屋の主である校長、無名偲・無意式(p3n000170)であった。
「えっ、台風って……えっ、本当に台風？　本当に……？」
「ああ」
「え……やだぁ……パン食い競争は？　障害物競走は？　借り物競走は？
　なじみさん、借り物競走で『一番気になる女の子』で走り出してゴールとかしてみたかったんだけどな。青春群像劇でよくあるヤツ。あれ、やろう？」
「台風なら無理だな」
「え……？　あ、ほら、リレーは？　組み体操は？　マジ卍組み体操しようよ？　お、応援合戦……そ、それに、ほら、綱引きとか……あ、あとは、お昼のお弁当とか。お弁当皆で交換するの、そう、そ、それは？」
「台風なら無理だな」
「えええええええんっ」
　10月だよ、と何度も繰り返すなじみに無意式は溜息を吐いて次の番組に切り替わった午後のワイドショーを横目で見詰めていた。

　――海洋王国の南東に見つかったとされる国家では嵐の気配があると、週刊誌『くまさん自身』は伝えています。
　また、ラサにおいても遺跡探索調査が進んだことで更なる文明の発見があるとされていますが……。

『文明の発見って。あはは。希望ヶ浜には余り関わりないですね』
『希望ヶ浜的には台風の方が注意したいんじゃ無いでしょうか？　天気図を見たらその日をピンポイントに狙って飛び込んできているように思えますね』

　ピンポイントに、狙って……。
　なじみは呟いた。

　ま、まさか――体育祭がイヤだという誰かの心の叫びが台風という夜妖を作り出した！？　雨天順延であろうとももう一度着てしまうかも知れない……。
「ここここ、こーちょー！？　なじみさん、台風について調査してくるね！　行ってきます！」
「……あ、ああ……」
　走り去っていくなじみの背を見詰めながら無意式はワイドショーの言葉を思い出す。彼は『校長』だ。『外』についてもある程度は把握している。

　海洋王国の南東に見つかったとされる国家――『カムイグラ』では教育実習生や講師、生徒達が捕縛されたという話も聞いている。
　何やら立て込んでおり、希望ヶ浜とは最も縁が遠く、そして最も縁が近い呪詛や怨霊との戦いが続いているらしい。
　ラサ――傭兵募集でこちらも生徒や講師達はファルベライズと呼ばれる遺跡へと秘宝確保を行っているらしい。
　何にせよ、だ。何にせよ希望ヶ浜の人間は外には出ない。混沌世界の話を知識として所有するのは『暇潰し』の一環だ。
　皆も身に覚えがあるだろう。何処か遠くの国の戦争や文明をまるで関係の無い話のようにエンターテイメントとして見る事が……。
「ま、台風が夜妖で在る可能性は否定できないが。さて、どうだろうな。俺は犬に噛まれても死ぬし、蛇に睨まれたら卒倒するんでね。あまり込み入ったモノには触れたか無いんだ。
　生徒（ゆうのうなやつ）に任せておくか。調査が終わりゃ、どうせ報告と対策への段取りが組まれて作戦会議とやらに引っ張り回されるんだからな」


＊カムイグラ限定クエスト黄龍ノ試練が発生しています！
＊カムイグラ全体シナリオ『＜傾月の京＞』で発生した捕虜判定は此方で確認できます。
＊カムイグラの一角で死牡丹 梅泉の目撃情報が発生しています――

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