PandoraPartyProject

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命死ぬべく恋ひ渡るかも

命死ぬべく恋ひ渡るかも

 ――遮那くんの答えは、その全ては最早叶わない。

 合戦が始まりを告げた時、遊撃隊を率いる天香遮那は、其の立場を活用してイレギュラーズへ接触を試みる腹づもりであった。
 それは実のところ義兄にして総大将たる天香長胤の用意した布石でもあった。
 長胤は遮那の身柄をイレギュラーズへ預け、自身が討伐されることによる戦乱の終結を考えている。
 そして戦場の何処かで遮那へ声をかけ、背を押し――それから自刃を果たすのだ。

 だが事態を難しくしているのは、いくつかの要因に依る。
 配下達は必ずしもその状況を良しとしない筈だった。人はともかく、魔が邪魔立てするであろう。
 第一に、長胤は勝つのであれば勝たねばならぬ。否、格好だけでも『勝とうとせねば』ならぬ。
 上手く負けねばどんな事態が引き起こされるか知れたものではない。
 例えば戦ってすぐ、いたずらに兵を退き、首等を差し出せば、霊長蠱毒や魔の手先共は無作為に襲いかかってくるやもしれぬ。事態の収拾は困難を極めよう。
 ならばそれら魔の勢力を、イレギュラーズが討滅した後に、計画を実行する他に道はないと思える。

 そんな長胤の心境を知ってか知らずかは、さておき。
 遮那の後ろに控える夢見 ルル家(p3p000016)は、そんな長胤が思うもう一つの布石であった。
 長胤はルル家に『緑石榴の瞳』なる、強大な呪具を与えていたのである。

 ――鋭! 鋭! 応! 応!

 戦場のあちこちで鬨の声が響き、晩秋の空を雁の群れが切り裂いて往く。
「これより、我が隊は神使の軍勢を奇……」
 ぐらりと傾いだ純正ガイアキャンサー『艶勾玉』籐蘭は、最後にそんな空を見た。
「何の真似か!」
「……ルル、家、そなた」
 魔種夜洽紬姫と遮那が呆然と口を開いた刹那、猛然と駆けるルル家は遮那へと肉薄を果たした。
 籐蘭は――死んでいる。ルル家に斬られて!
「これしきを御せずして、何が側仕えでしょうか!」
 風が払った前髪の向こうには、両目(!)が輝いている。
 かつて海洋王国大号令にて失った右目の洞には、カラス天狗の目を媒体とした大呪具『緑石榴の瞳』がはめ込まれていた。
「――!」
 ぐるぐると在らぬ方向を見定めようとする右目を押さえ込み、果たして――ルル家はその力を確かにモノにして見せた。身体から立ち上る妖力は、最早尋常ならざる水域へと達している。

「長胤殿は遮那くんを愛し、天香であると認めていました」
 ルル家は自身の目と、御してのけた右目の視線をしっかりと合わせて遮那を見据えた。
「長胤殿は魔種である自分が滅びる事を望んでいるのです! 己が滅びなければ、豊穣が滅びるから!」
「ルル、家。だが、それでは兄上が助から――グ、あっ!」
 問答無用。遮那の胸ぐらを掴み上げたルル家は、その首元に巣喰う複製肉腫を一気に引き剥がした。
 夜洽紬姫は、妖達は、ルル家の力を測りかねている。
 そこに僅かばかりの隙が生じていた。逃す手はない。

「貴方は天香長胤の弟、天香遮那でしょう! いつまでもつらい事から目を逸らすな!」
「……ルル家、そなたは私に、決めろと云うのだな」
「ええ、そうです。だから行きましょう、遮那くん。神使達の――仲間達の元へ!」
 ルル家の背から稲妻のように、禍々しい翼が生じた。
「あれを逃すでないぞ、すべてが水の泡となろう。引っ捕らえよ!」
「拙者は、貴殿に構っている暇など、ない!」
「――!」
 ルル家は遮那を抱えて、大空へと一気に飛び上がる。
 風を斬り、天を駆け、仲間達が待つ本陣へと。

「もう一度長胤殿に会いに行きましょう遮那くん」
「――分かった」
「私はずっと遮那くんの傍にいます」
「――ありがとう、ルル家」
「もっと言えば私を奥さんにしてくれるととっても嬉しいですね! 今度は結構本気ですよ!」
「――ルル家」
「……お返事は、やはり下さらないのですね。見えてきましたよ」

 ――ルル家!

 誰かが叫んだ。
 仲間達に囲まれたルル家と遮那は、手短に仲間達へと事情を伝えた。
 目的達成のための手段を失った夜洽紬姫は、天香長胤の本陣と合流するはずだ。
 また楠忠継の率いる敵主力部隊は、おそらくすぐに異変を察知し、後退を始めるだろう。
 作戦は大きな変更を余儀なくされるであろうが、こちらには今や『天香遮那』がいる。
「若様。よくぞ、ご無事で……」
「忠継は、そうか。魔の手に堕ちた……のか……」
 駆け寄った姫菱安奈と神使達は情報を共有し、新たな作戦を構築しはじめた。
「若様。忠継は、我が斬ります」
「……任せる。戦場(いくさば)で死に目に会えるとは思わない」
 拳をきつく握り込み、震えそうになる喉を叱咤して、遮那は言いのけた。
「御意に」
「神使達よ、頼む。私を義兄――天香長胤の元へ連れて行って欲しい。そこで戦を終わらせよう」
 一同がざわめいた。
「魔が滅びねばならぬことは理解している。そこで果たされねばならぬことは、私とて承知しているのだ」
 遮那は一同、一人一人の目をゆっくりと見渡した。
「兄上は、否、天香長胤は伐たれねばならない!」
 その決断は、あまりにつらかろう。
「正直に申せば、今にも足が砕けそうだ。だから、私の背を支えて欲しい」

 そんな光景の中。
 後方で誰にも見られぬよう、ルル家は苦しげに右目を押えていた。
 その呪具は――妖の瞳は、ついにその身を強烈に蝕み始めていた。
 まるで意識が、命が、妖へと塗り替えられていくように。
 強大な力を使いすぎたルル家は瞳と完全に融合し、今や一方的に喰われつつある。
 意識さえ、どこまで保つかは分からない。
 後ほんの僅かな間に、人としての生が幕を閉じる実感がある。

 ――それでいいのですよ。遮那くん。
   私は死にません。友達がいます。
   本当に頼りになるとっても素敵な友達なんですから!


 *全体シナリオ『神逐』が始まっています!
 *全体シナリオ『<神逐>月途の誉』に戦況の変化がありました!


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