PandoraPartyProject
夢てふものは――
昏き場所に立っていた。暗澹とした道を暉す少女の白魚の指先も其処には存在しない。
――思へども 験もなしと 知るものを……
「どうかしたのかい、瑠璃」
答える声は無い。ああ、違う。この声は『瑠璃』ではない。
彼女は纏わり付く呪術にその躯を分かち終わりを迎えたでは無いか。
ならば、誰か。女の声だ。苦しみ怨嗟に藻掻く闇の如き声である。
――こっちへ、いらっしゃい……
晦冥の道を進む。何もかもが見えない。包み込むような殺意から逃れ、静寂と安寧に抱かれながら青年は――ヴォルペ(p3p007135)は顔を上げた。
――貴方へ力を授けましょう。『ヒト』となる道など望んでは居ないでしょう?
その声を辿るようにゆっくりと、ヴォルペは進んだ。自身を包み込む怨嗟、慟哭、けがれ、この國はどれ程までに畏れを内包し、狂気に眩み続けていたか。声に近づけば、足下に硝子の破片が堕ちていた。
ぱきり。踏み抜いた。ぱきり、ぱきり。
それが『四神』の――黄龍の結界であることに脚を下ろした刹那に、気付いたのだ。
「……素敵な誘いをありがとう」
青年は微笑んだ。うっとりと、八咫姫を見詰めるときのように『愛』を込めたその瞳を細めて。
「おにーさんがあの舞台に立ったのは、八咫姫の一途な想いを代償にしたからだ。
あのまま眠りに付ければそれで全てが終わったのに……我が麗しの銀の君、たった一人のトモダチはそれをきちんと理解してくれていた。――俺が俺のまま死ななければ意味がない。
『俺の可愛い双子姫』……俺を俺のままで居続けさせるための狂えぬ狂気。君達が側に居る。可愛い可愛い愛しい瑠璃じゃ力不足だ」
救済の蒼き姉姫と破滅の紅き妹姫――その二人の愛情(きょうき)が常にヴォルペを引き戻す。
ヴォルペの視線の先には真白の狼犬が存在した。狂気に揺らぐ眸、汚染され尽くした躯、そして――この地の『守護者』であるその神威が全身を包む。
臆すること無く青年は笑った。最初からヴォルペという青年は決められたルールの中に存在していた。
――自分の為に命を賭けるのはどの世界でも、たった一度だけ――
最早、その『賭け』も終わった。生き延びたならば世界が望む優等生(イレギュラーズ)として生き続けるつもりだった。
無数の喪失を抱えることになろうとも、如何に傷つこうとも、それが『ヴォルペ』という人間への枷であり、鎖。この世界で呼吸をし、その心の臓の鐘を打つ代償。
「『瑞』」
その神の名を、ヴォルペは呼んだ。
朱と蒼、その鮮やかなる光が男の躯を包み込んだ。
「君の囁く甘言はおにーさんにとってもう必要のないものなんだ。
この命はイレギュラーズの為に――だから君の声は『拒否する』」
――何故。それ程までに『狂っている』癖に!
「ああ、そうだね。けれどさ、『瑞』
君におにーさんからのとっておきのプレゼントがあるんだ。聞いてくれるかい?」
光がけがれを消し去っていく。黄泉津瑞神は――ヴォルペへと『狂気の誘い』を掛けた神は叫ぶ。
何故、どうして、と。男はミステリアスな方が良い。けれど、レディが望むのならば少し位、ヒントを与えたって良い。
「おにーさんは、瑠璃に答えてなんか居なかった」
彼女の呼び声は心地よかった。彼女を抱き締めれば、愛おしげにすり寄ってくるその仕草。
瑠璃、けれど君は『おにーさんの一番では無かった』のだから。
永遠に、交わることは無い。けれど、彼女が微笑み、此方に心を預け、愛を囁くならば。彼女の傍で狂った振りをしているのだって一興だった。
女が望めば、男は答える。彼はそう言う生き物なのだから。
だから、自身の声に応え狂気に眩んだと認識したままその命を落とした八咫姫は幸せ者だったのだろう。
彼女の幸福を見届けた、だから、『次はイレギュラーズの為』に力を振るう番だった。
「――イレギュラーズは、奇跡を行使できる可能性を抱いているんだ。
おにーさんもその端くれ。決して、善人でもなければ、正義のミカタでもないよ。
……けれど、おにーさんにはおにーさんの仕事がある。
だから、おにーさんは君へと捧げる。この命が奇跡となって、イレギュラーズが君に届くための道を拓く」
瑞を救ってくれ――その言葉に応えて願う人が居た。駆ける彼等がいる。
黄泉津瑞神は苦しげに呻いた。暗澹とした世界に光が満ちあふれていく。晦冥の道の闇は今や払われた。
「瑞、おにーさんは悪者のままで良かったのに……君が邪魔をするから。
未だにおにーさんの帰りを待つ子や、おにーさんの為に刃を研ぐ子たちを全て裏切ることになってでも。
おにーさんのお仕事は護ることだからね。今度はちゃんと、その信念に基づいてこの身を削ろう」
溢れる。光が、光の奔流が瑞のけがれを押し止める。
絶望を湛えた暗雲が風に押され高天京に月光を降らせた。四神結界の亀裂が修復されていく。
それがヴォルペの願った奇跡(PPP)――己の命を賭してでも、仲間を護る為にその信念を遂行する。
「この命はイレギュラーズの為に。この愛は最初から最期まで、この世界で生きる彼等の為に。
――一つ教えてあげよう。
もしもこの横槍が巫女たちならば、おにーさんはソレを考えなかったよ。
呼んだのが君だった。理由はそれだけで十分だ。君が悔しがるならどんな手段も選ばない。
せいぜいイレギュラーズの未来の為に存在してくれ」
――だっておにーさんは、この世で一番『カミサマ』という存在が嫌いなんだ。
高天京へと堕ちる『憤怒と怨嗟』が僅かに薄れ、月光が降り注ぐ。その魔的な光より美しき光の雨が降り注いだ。
周囲の『けがれ』はその勢いを失せ、『大呪』に蝕まれた『黄泉津瑞神』へと僅かな正気を与える。
――黄龍、賀澄、そして『神使』。どうか、私が大呪を抑えている間に……私の抱く大呪を殺して。
そして、人知れず一人の青年が光に飲まれた。
奇跡を願った代償を恐れること無く、鮮やかな彩の中で微笑んで。
*ヴォルペの願いと代償によって黄泉津瑞神が僅かに正気を取り戻しました――
*大呪への道が切り開かれました。最終決戦の時が近づいています!
*カムイグラ限定クエスト黄龍ノ試練が発生しています! 黄龍ノ試練は近日終了予定です!!
*カムイグラ全体シナリオ『<傾月の京>』で発生した捕虜判定は此方で確認できます。
*カムイグラの一角で死牡丹 梅泉の目撃情報が発生しています――
これまでのカムイグラ / これまでの再現性東京
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