PandoraPartyProject

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『新天地』への上陸

『新天地』への上陸

 新天地発見の報は電撃のように海洋王国――混沌中を駆け巡った。
 当然ながら各国は海洋王国の拓いた新たな海路(ルート)に興味を示していたが、鉄帝国との堅い連携は余人に先を越させる事は無い。近海防御と各国の牽制を鉄帝国に任せた海洋王国は大半が壊滅した海軍力を一早く再編。『新天地』へと差し向ける事となった。無論、そこには先の戦いで大きな武功を挙げたイレギュラーズの姿もある。海洋王国は、極めて深刻なダメージを受けた軍部の補佐として、強力な用心棒にローレットを頼ったという訳である。
「ああ……これは……」
 声に出したのは誰だっただろうか。
 混沌に住む者にとって『絶望の青』の先は見果てぬ冒険の浪漫だった。
 特に海洋王国の民にとってそれは幼少の頃より夢に見た悲願とも言える。羅針盤示す先に存在した『夢』の場所。
 意気揚々と踏み入れたその場所に先住の民達が社会文化を形成し、国を構えているのは見ればすぐに明らかだった。混沌世界の中でも異質を感じさせる遥か東方の果ては、独特の時間の流れの中で――例えば多文化の合流したかのような海洋王国とはまた異なる――至極純然たる風光明媚と異国情緒を併せ持っていた。
 青々と茂る草木は美しく段々と並んだ田畑。若葉の色も美しく、旅人の中には懐かしささえ覚えさせるその場所には袖を振るい、その額に角を生やした者達が跋扈している。
「貴殿らが『龍殺しの英雄』で間違いはないか。
 ……否、聞くまでもないな。貴殿らは鬼人ではない。異邦の者であるのは確かか。
 来訪の目的は――まずは調査。後は我々の出方次第か。友好的ならば交易、そうでなければ……」
 口振りからすれば連合がリヴァイアサンとアルバニアを下し、外海よりこの場所にやって来た事は知れているようだ。
『先方』にとっては海洋王国とイレギュラーズの訪れは先刻承知の事だったらしい。
 イレギュラーズを含めた使節団が上陸し、動き出すや否や相手側の動きは早かった。それに倍する程の兵を伴い現れたのが、今確かめる様に言った男だった。額より角を生やし、衣服より覗いた首筋には大きな紋が刻まれている。
 鬼人――彼は確かにそう呼んだ。混沌世界の『大きな水溜まり』に存在する新たな種だというのか?
「俺の様相が気になったのなら済まない。
 ……それから、やや不躾な『歓迎』になった事も。貴殿らを招きたい場所がある。
『この地』についての疑問に応じて居たいが、事態は単純ではない。逼迫しているとさえ言える。
 一つ転がりを誤れば、この先がどうなる事か――許す時間が少ない事を分かられよ」
 男は何かを気にするように振り返り――鳥居並んだ美しき和風建築の京を指した。
「どの道、俺には何の決定権も無い。あの京は貴殿らの目的にもそぐう場所だ」
 政治中枢が集まるのは、あの場所なのだという。

 ――彼は京、高天京(たかあまのみやこ)に向かう最中にこの大陸について説明を交えた。
 この大陸は彼らの中では黄泉津(よもつ)と呼ばれているらしい。
 そして、この国は豊穣郷、神威神楽――カムイグラという。
 彼は建葉・晴明(たては・はるあき)と自身の名を名乗った。そして鬼人族と呼ばれるれっきとした混沌の種であるとも説明を交える。
 都には居れば鬼人以外にも様々な姿の者達が見られた。それらは皆、ヤオヨロズとその名を呼ばれる存在だそうだ。
 大雑把に要約してしまえば、混沌大陸の大半では『精霊種(グリムアザース)』と呼ばれる彼らは晴明ら鬼人を忌まわしき存在として迫害し続けているらしい。

「着いたぞ。天香殿の邸だ。……英雄殿は気に入らぬ事を『奴』に言われるかもしれんが気に止めること無きよう」
 晴明が誘った屋敷の中では翼を生やした乙女と、精霊種の男が特異運命座標を待って居た。
「天香長胤である。苦しゅうない、と言いたい所であるが……
 主らが件の『龍神様』にまやかしの術を使用した愚か者か。
 大いなる海原の神であらせられる偉大なる龍へと何という言事を。げに恐ろしき。神をも畏れぬとはこの事か!」
 出会い頭に精霊種の男が叫んだのはリヴァイアサンとの戦いへの非難であった。
 見目にも口振りにも傲慢をたっぷりと滲ませた『奴』は憤然とそう語ったが、幾らも経たぬ内にその表情は蕩けていた。
 御簾越しに聞いたくすくすとした女の笑い声が為か。
「主らには、我が高天京の巫女姫がお沙汰を下さる!」
 巫女姫と呼ばれた女は自身の発言の番が来たと言うように「特異運命座標を待って居たの」と喜びを滲ませた。
「……と、まぁ。そういう訳じゃ。巫女姫様がこう仰る以上、主らを刑に処すことはせぬ。
 じゃが、龍を愚弄した事には変わりない。此方もただでは引き下がれぬ。
 ……そうじゃ、主らとて『外』と我らの外交を望んでいるのであろう?
 対等なる立場で物申したいというなれば、『巫女姫様がお認めになる実力』とやらを我らに証明して貰わなくてはのう?」
 ……まぁ『新天地』で得点稼ぎをさせてくれるというのだ。そこは大きな問題ではない。
 元より未開の地であるならばまだしも、この地に確固たる――それも相当の力を持っていそうな――国があるというならば、海洋王国の現状を考えても元より『侵略』は難しい。『友好』を軸にするならば有力者と見受けられる天香に睨まれるのは上手くない。
 彼は晴明を呼んだ。小馬鹿にする様な視線を彼へと向ける天香は名案が浮かんだと扇で口元を隠し「ほほほ」と笑う。
「外海の者共は荒事も心得ておろうよ。主らの仕事を手伝わせてはどうだ?」
「……怨霊退治をですか」
「ふむ、良いではないか。京より出でれば悪霊悪鬼跋扈する場所である。
 龍をも屠るというならば、我と巫女姫様が為に手柄を立てるが良いぞ。為れば、この京内での活動を認めてやらんことも無い」
 その物言い反感を禁じ得ぬ部分はある。だが、制する様に晴明は一歩前に出て了承した。
「……では、英雄殿。行こう」
「英雄殿? 奴らは『外』より参った余所者であろう?
 建葉も気が狂ったものじゃな。まあ、あの『阿呆の神遣』が選んだ男だという事はある!
 ……いや、失敬。そう言えばこれより友誼を交わす相手だったな。今の言葉、許されよ!」
「――失礼」

 天香のわざとらしい嘲笑をかわした晴明は邸を後にし、特異運命座標を自身らの拠点へと誘った。
 ……実は、誰の目が見ても明らかなることがあった。男は、天香・長胤は魔種であり――御簾越しに姿を見せた女も同様だ。
 それらに京の治世を任せなくてはならない事情があるのかもしれないが、それを口にするのは場所を選ぶのだろう。
 イレギュラーズにしても同様だ。あんな場所でそれに触れる事は自殺行為である。藪蛇を突くと言う他は無い。
「――先ずは俺が貴殿らが自由に動けるように保障しよう。何、天香の言う通り手伝って貰いたいことは山程ある。
 この國についても説明をしておきたいと思う。貴殿らは俺にとって重要な存在だ。少し苦労を掛けるが共に来て欲しい」


 黄泉津大陸、カムイグラへと到達しました。
 ※此岸ノ辺と空中庭園との行き来が可能になりました。
 ※カムイグラにて新たな依頼が発生しました。
 
 ※建葉・晴明が「英雄殿へ話があるそう」です。

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