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勇者王の軌跡
勇者王の軌跡
旅人(ウォーカー)は人間だ。
魔種(デモニア)よりも脆い。
あまつさえこの世界を救う等と云う使命(のろい)を課せられている。
世界法則『混沌肯定』は絶対であり、旅人達は理不尽に苛まれている。
たとえば『レベル1』。この世界に召喚された旅人は、ただの『人の枠』に押し込められてしまう。
クオン=フユツキとてこの世界でのやり直し、この『道半ば』にさえ、どれだけの労を強いられたことか。
しかしデモニアは、そうではない。
人の身から『滅びのアーク』と呼ばれる力を元に『反転』した魔種は、多くの場合その瞬間からこの世界への干渉力を爆発的に増大させるのだ。
魔種に『墜ちてくれた』タータリクスは、狙い通りに錬金術の技術レベルを大躍進させた。
これは経過観察のしがいがあるというものだ。
クオンは妖精郷アルヴィオンと深緑(アルティオ=エルム)を繋ぐゲート『アーカンシェル』の台座、その裏側をそっと撫でた。
「……なるほどな」
銘は――シュペル・M・ウィリーと刻まれている。
それは神がかったアーティファクトを作成しているとされる希代の魔術師の名だ。
クオンの推測、そして観測通りに、前人未踏である筈のアルヴィオンには、人の痕跡が存在していた。
点在する遺跡にしてもそうだ。妖精達の多くは物差しほどの背丈しかないが、月夜の塔や妖精城アヴァル=ケインは、クオン達のような『人の身』に適する大きさに出来ている。
この妖精郷に、何らかの遺物が眠っているのは間違いないだろう。
魔種タータリクスの協力者達はそれぞれ別の目的を持っており、そうした古い遺物も対象となっていた。
例えばよくよく連んでいるらしいブルーベルの目的は、どうやら妖精郷の秘宝だと思える。
大願を持つクオンだが、ひとまずの目的はタータリクス経過観察、そしてこれはあくまで憶測に過ぎないが、この地に眠っているであろう痕跡――『勇者王の軌跡』と定めていた。
だが、まずはすぐにやってくるであろうローレットの猛攻を凌がねばならない。
そのためのコマは、タータリクスの作った怪物『アルベド』となろう。
「うふふ。終わったら皆でお茶会をしましょう~」
「おにーさんも手伝うよ。作るのは、ね」
「敵は自分が踏みつけてやるっすよ」
楽しげに微笑んだ三人は、いずれもアルベドだ。
タイプレスト、タイプヴォルペ、そしてタイプエミリア――
イレギュラーズの身体から採取した何かを媒体に素体を作り、妖精を埋め込んでいる。
妖精の命を燃やしながら動く白い怪物だ。
現状のクオンにすら到達出来ない、高度な疑似生命の創造である。
なるほど魔種というのは、やってくれるものらしい。
良く出来ているではないか。
旅人(わがみ)からすれば度しがたい事実だが、役に立つ!
さて、こんな所(アーカンシェル)に居ては面倒だ。
イレギュラーズが押し寄せて来る前に、月夜の塔へ向かおう。
それに、もっと良く観察しておきたい――あれを模した――アルベドもあるのだ。
――全ては計画のために。
クオンが立ち去ったゲートの向こう側は、遠く深緑が迷宮森林である。
万人を遠ざける広大な森には、時に迷い子が現れることがあり、そうした子羊を救済する役目を担うのがアンテローゼ大聖堂だ。
イレギュラーズによってゲートが機能回復してからというもの、多くの妖精達――アルヴィオンの住人――が魔種達の魔の手から逃れて来ていた。
ローレットの情報屋が盛んに出入りする礼拝堂は、開戦前夜の物々しい空気に包まれている。
「助けていただいて、ありがとうございます!」「ございます!」
「君達は礼拝堂へ隠れているといい。フランツェルのハーブティーは絶品だから」
「はい!」「はいな!」
幻想種の魔術師、イルス・フォル・リエーネは妖精達を逃がすと、魔物の死骸へ鋭い視線を送った。
魔物共は魔種の手先と見られ、恐らく未だアルベドの材料――妖精の身柄を狙っているのだろう。
そもイルスは優れた魔術師ではあるが戦いを好まない。
攻撃的な魔術を振るったのは、致し方なかったとは云え本意ではなかった。
「……やれやれ、物騒な事になったものだ」
「怪我はありませんか、イルス?」
「これはリュミエ様、ご心配には及びません。しかし妖精郷アルヴィオン……とは」
長くを生きるイルスとは云え、一連の『妖精事件』を目の当たりにするまでは、アルヴィオンなど伝承上の存在――おとぎ話の類いだとは思っていた。
妖精郷へ通じるゲートの多くは迷宮森林の奥地に眠っており、この森に住まう幻想種達であっても、その全てを把握している訳ではない。
「私も多くは知らないのですが――」
前置きした深緑の長『ファルカウの巫女』リュミエ・フル・フォーレ(p3n000092)は、妖精郷に関する伝承を語り始めた。
――アヴァル=ケインに住まうは恐ろしき冬の王。
麗しき英雄ロスローリエンとエレインは、勇者と共に黄金の剣で打ち破った。
こうして冬を失ったアルヴィオンは常春の都となったのだ。
古い詩歌などという代物は真偽さえ怪しいものだが、こうなると俄然真実味を帯びてくる。
「お弟子様にもご迷惑をかけるのでしょうけれど」
イルスはリュミエの言葉に苦笑一つ。それも心配は無用だと告げる。
厄介事ぐらいは引き受けて貰わねば、割に合わないではないか。
顎に拳をあてて、しばし考え込んだイルスは再び溜息をつくと、大聖堂へと戻っていった。
そろそろイレギュラーズがやってくるのだろう。
忙しくなりそうだ。
*魔種や、その協力者達が妖精郷アルヴィオンで蠢いているようです。
*激突の時が近づいています。
*ストーリー関連クエスト『迷宮踏破ヘイムダル・リオン』が開始されています!
*期間限定クエスト『神威神楽・妖討滅』が開始されています!
*また、カムイグラではお祭りの話が出ている様です……?