PandoraPartyProject
空色のたまご
空色のたまご
イレギュラーズたちが大迷宮を踏破し今まさに妖精郷へたどり着いたその頃――
「あー……どうしてかなあ……」
壮麗な玉座であぐらをかいた男――魔種タータリクスが頭を掻き毟っている。
妖精郷アルヴィオンは、今まさに彼等によって蹂躙のただ中にあった。
実のところ妖精郷を侵略した魔種達の目的はバラバラであり、タータリクスに至っては女王ファレノプシスを手中に収めるという、ひどく個人的かつおぞましいものである。
無論、沈痛な表情を浮かべるタータリクスの悩みも、女王に起因していた。
小さな足音に、タータリクスはゆっくりと顔をあげる。
目の下にはひどい隈が出来ていた。
「おっさん、ちゃんと風呂入ってんの?」
「B(ビィー)ちゃんじゃない。入ってるよ、もう毎日朝晩二回!
お城のお風呂が広くて、肩に効くんだよねえ。それより急にどうしたの?」
「特異運命座標(イレギュラーズ)が来たってさ」
「そっかー。そっかそっかタイムアップかー。あーあ! さすがにそろそろ覚悟はしてたけどねぇ」
Bと呼ばれた魔種の少女ブルーベルが伝えたのは、イレギュラーズが遂に妖精郷へ足を踏み入れたという情報である。
「つうかいい加減、目的は済んだ訳?」
イレギュラーズが現れたということは、時間的猶予は余り残されていないことを示していた。
魔種にとっては、情勢が海洋王国大号令にかかりきりになっていた分の時間を稼げた事をこそ感謝すべきなのかもしれないが、さておき。
「目的? ああ。それがっさぁ。
ファリーちゃん(タータリクスは女王をそう呼ぶ!)、何か勘違いしちゃってて。
ほらボク、彼女の運命の人じゃあないですか。
なのに怒るし、笑ってもくれないし、ちっとも愛が育めないわけ!
ボクぁファーストキスはファリーとロマンチックにって決めてるから。
だって我が三十四年の生涯初ですよ。
それにファリーにだって本当の気持ちに気付いてほしいじゃない。
だから練習しとこうと思って、ファリーのアルベド(白化)を作ったんだよねえ。
これが大失敗!
やっぱり本物じゃなきゃ駄目なんだなあ」
「きっも。本物は塔だっけ? 興味ないけど」
「そう。月夜の塔で少し反省してもらってるの。月夜の塔って名前がいいよねえ。月と言えば愛でしょう」
「しらねえし。つかあいつに頼めばいいじゃん。あの旅人(ウォーカー)の」
「彼、僕の古い恩人だからねえ、分かるでしょう。そういう人にあんまり頼りたくないのって」
「まあ、おっさんの"お気持ち"とかどうでもいいけど、好きにすれば」
「はぁ……そうするよ」
踵を返して出て行ったブルーベルから視線を外したタータリクスは、傍らの鳥かごを掴み上げた。
ぐったりとしているのは、妖精女王ファレノプシス――ではない。
そうだとすれば、余りに『白』すぎる。
タータリクスは白い妖精――偽物の女王をそっと掴み上げた。
「あー……可愛いなあ……本当に、本当に! ああああぁぁっ!!」
――と、突如がなり声と共に絨毯へ、目一杯叩き付ける。
白妖精は二度ほど跳ねて動かなくなった。
大きな溜息を吐き出したタータリクスは、別の鳥かごから二人の妖精を掴み上げる。
「こっちの羽虫がフロックスで、こっちは、何だったかな……アザレアだったかな」
「フロックスちゃん、逃げて!」
「――ッ!」
突如、アザレアに突き飛ばされたフロックスは絨毯の上をころころ転げて振り返る。
「逃げて!!」
「でも……アザレア!」
「お願い!!!」
「こんの、羽虫風情がぁ!!!」
激昂したタータリクスは、アザレアを渾身の力で握りつぶした。
魔種の力である。
ひとたまりもあろうはずがない。
だが飛び散ったのは血ではなく、光であった。
ゆっくりと開いた手のひらに現れたのは、美しい空色の球体だったのだ。
「追えよ、白羽虫。ボクが作ってやったんだぞ、いっぺんぐらいは役に立ってみせろよなあ!」
偽物の女王はよろよろと起き上がると、フロックスが消えた方へと羽ばたいて行く。
それを一瞥したタータリクスは空色の球体を眺めると、ポケットに仕舞い込んだ。
――まあいいさ。
こんな羽虫でもアルベドの電池(フェアリーシード)にはなるんだ。
ボクぁ研究が終わればファリーとハネムーンするのさ。
世界の果てへ、愛の逃避行!
来るなら来いよ、イレギュラーズ!
今は時間稼ぎさえ出来ればいい。
そのための"アルベド"だ!
玉座の男はさも鷹揚そうに足を組むと、頬杖をついたのだった。
*イレギュラーズの妖精郷到達を、魔種達が気付いたようです……。
*ストーリー関連クエスト『迷宮踏破ヘイムダル・リオン』が開始されています!
*期間限定クエスト『神威神楽・妖討滅』が開始されています!
*また、カムイグラではお祭りの話が出ている様です……?