PandoraPartyProject

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続・三貴族会議

 幻想北部、アーベントロート別邸。
『嗚呼、この間等、まだ序の口――大いにマシに過ぎなかった』と。
 参加を余儀なくされた一人の幻想貴族は考えた。兎に角、早く帰りたい。軍費だろうと兵役だろうと協力するから、一刻も早くこの場を辞したい――そんな事を一様に考えているのは当然ながら彼一人では無かった。
「……塵芥が……ッ……!」
 自然に漏れ出た舌打ち、鈴鳴る銀の美声が嘘のようなその声色は、幻想の青薔薇――(見た目だけなら)幻想の至宝たるアーベントロート家のご令嬢には何処までも相応しくないものだった。
 触れた者皆、傷付けるを通り越して切り刻まれそうな位の不機嫌は最早誰に止める事も出来ず。
 これまで彼女を上手く操縦してきた『遊楽伯』ガブリエルも宥める事も出来ずに苦笑するばかりであった。
「……一先ず、まずは状況を纏めます。
 幻想南部への砂蠍の攻撃は概ねローレットが撃退してくれたようです。
 ……しかしながら、なかなかどうして敵も手強い。水も漏らさぬ、とはいかなかったようですが」
「想定内よ。何れにせよ受けた被害は大いに軽減したのだからまずまず褒められる結果であろう。
 元より我等貴族ならぬ傭兵の仕事なのだ。むしろ評価軸を情報修正するに値しよう」
 ガブリエルの言葉に『黄金双竜』レイガルテが頷いた。
 傲慢極まる彼の物言いだが、もう一人に比べれば彼は冷静である。出来る出来ないを切り分け、現実的に期待可能な想定値を正しく取っている辺り――レイガルテ・フォン・フィッツバルディという政治家の能力が伺い知れる。その彼をして(言葉でどう評していたかは別として)今回のシャウラ事件への対応は『かなり難しい仕事』という評価が下っていたのは言うまでもない。
「彼等は良く戦ってくれまして――
 あの恐ろしい……いえ、天に弓引く愚かな盗賊王に一矢報いられたのは重畳だったかと存じます」
「分かっておるわ。男爵、一先ず無事で何より」
「勿体無いお言葉にございます……!」
 ……無論、事実としてたった今、口添えをしたメランデル男爵――自身の麾下であるフィッツバルディ派が無事に奪還されたという点も彼の評価を押し上げているのだが。
「褒章は後に取らすとして……問題はこの後よ」
「その通りですわ!」
 更に過剰なストレスを抱え込んだ『暗殺令嬢』リーゼロッテがここで爆発したように声を上げた。
「この国を荒らし回る賊徒共は殲滅される所か、南部に拠点――橋頭堡を築いたと聞きます。
 あまつさえ私達への対抗姿勢を取り、国盗を口にしていると言うではありませんか。これを許せますの? 公爵様」
「莫迦な。一つ残らず殲滅せねば間違いよ」
「ええ。ええ! そうでしょうとも!
 私達の権利を奪い、名誉を汚し、――た盗賊等捨て置ける筈もございません!
 北部戦線(ここ)を何とかして下さいまし、私が自ら片付けに参ります。そのお願いを出来まして!?」

 ――た。

 その部分だけが小声になったのは恐らく無意識下のものなのだろう、とガブリエルは考えた。

 ――辱めた。

 ――私の友人を捕らえ、辱めた。

「……」
 自身も特異運命座標であり、今回救われる事になったシャーロットが唇を噛む。
「お気になさらず」
 ガブリエルの言葉を受けてもシャーロットは首を振るばかりだった。
 大凡、余人の知るリーゼロッテからは想像も出来ないような言葉にガブリエルは苦笑交じりの感嘆を隠せない。リーゼロッテは極めて頭のいい深窓の令嬢だ。些か短気で武力でモノを解決したがる節こそあれ、珍しい反応であると言わざるを得ない。あまつさえ『自ら出る』とまで言っているのだから……立場上、止めない訳にもいかないが、これは何とも――
「有能な働きには報いる必要がある。今回は助力も吝かではないがな、アーベントロートの。
 しかし、ザーバの出方が知れねば、貴様をこの場から動かす訳にはゆかぬ。
『黄金双竜』の――三世陛下の勅命を受けたわしの名においてな」
「ええ、そうでしょうとも! ですが――」
「――弁えよ。聞き分けよ。貴様はそれ程、愚かな小娘ではあるまい」
「――――」
 最上位の貴族たるレイガルテは家格、実力共に幻想貴族の筆頭であり、フォルデルマンの名代である。
 薄い唇を真一文字に結んだリーゼロッテは酷く不服そうに、歯がゆそうに、何とも言えない表情で黙り込んだ。
「遊楽伯。一先ず、最新の情報を集めよ。北部戦線、南部の盗賊王の動向も。無論、例の連中の安否もな」
「――畏まりました」
 頷いたガブリエルも又、囚われたイレギュラーズを心配する一人だった。見れば周囲の貴族も――特に彼等に命を救われた男爵や、サーカス事件や日々の仕事で彼等に関わった者は特に――何処か浮かぬ顔をしているではないか。
 無論、貴族達からすれば――特に自分達のような首脳層からすれば――『ローレットを領内に有する政治的有利』、『絶大なアドバンテージ』、『体面上は神託の守護者でなければならない』という理由から彼等に特段の配慮をすべき立場はある。
 それは間違いなく功利であり、打算であり、政治である。
 さりとて、それだけだったならば令嬢は怒るまい。黄金竜は『末端の安否』を気にしなかっただろう。
(……やはり、不思議なものですね)
 運命をねじ伏せ従える者達は――ガブリエルは口にはせず、そう感心するばかりだった。


 紛糾する幻想貴族会議――一方、その頃。


※幻想南部を舞台にイレギュラーズと新生砂蠍の間で激戦が行われました。
 イレギュラーズの善戦により多数の戦場で砂蠍は撃退されましたが、幾つかの拠点が失陥しています。
 又、何名かのイレギュラーズが帰還していないようです……

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