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シナリオ詳細

<刻印のシャウラ>オリオンを墜とす男

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●一等星よ
 我が身、我が世を幾度呪ったかは知れなかった。
 別に頼んでもいないのに、実に無責任に、そして無慈悲に産まれ落ち――投げ出されたこの世は全く地獄としか言いようがないものだった。
 物心ついた時から両親は無く、唯一人、兄が居た。
 ラサの金持ちに買われた『らしい』俺達は親に捨てられたか、売られたか――まぁ、どっちかは知れねぇが、兎に角、愉快な奴隷として生きていく事になった訳だ。
 金持ちは心底ムカつくクズ野郎で、事ある毎に俺達に鞭を寄越した。でっぷり太った見苦しいその男には性格のひん曲がった息子が居た。そいつは卑屈で実に嫌らしい顔をしながら、俺達を蔑み、罵倒し、それから酷く笑ったもんだ。

 ――本当に惨めな奴等だな。お前達のような生を思うとぞっとする!

 ……分かってるじゃねえか、何よりこの俺様がぞっとするぜ。
 俺には兄が居た、そう言ったが――肉親の思い出なんてものは今思い出しても腸の煮えくり返る――碌なもんじゃあない。俺より六つ上のソイツも『ご主人様とそのご子息』に負けず劣らず、とんでもねぇクソ野郎で、毎日挨拶のように俺をぶん殴っていた。
 残飯みてぇな割当の飯を俺から取り上げ、テメェの仕事を押し付ける。金持ちが癇癪を起こした時に盾にされた事もあったし、ミスを押し付けられた事もあった。
 お陰様で『気弱で従順な少年』だった俺様はたったの数年で実にたくましく成長する事が出来たって訳だ。
 本当に――この世の中は不出来で最悪な代物だった。
 大凡目に入る全ての光景に『愛』だの『情』だの『正義』だの、そんなものはありゃしねぇ。目につくのは何時だって欲得尽くの馬鹿に、捻じ曲がった卑怯者。
 ……思い知るだろう? 理解するだろう?
 所詮この世は弱肉強食でーー喰わなきゃ喰われるって事がよ。
 貧弱で、小さく、山のような天敵を持つ蠍は毒無しには生きていけないのさ。
 どれ程の敵であろうとも、この尾の一刺しで仕留める時を夢見て――夢位見ないで、このクソッたれた人生の何処に何の意味がある!?

●小さ過ぎる『本隊』
「――無謀だ、と思っただろう?」
 その男は胸元から腹部にかけて大きな蠍の入れ墨を入れている。
「馬鹿め、と罵った事だろうよ」
 ターバンをつけた砂漠の盗賊は言った。
「だが、これが現実だ。その顔が見たくて、俺はこうしてやって来た」
 凶相に乗った鋭すぎる双眸は、拘束された貴族の男を射抜いていた。
 幻想南部に位置するこの街の領主ーーメランデル男爵は今まさに自身の栄華と命運を吹き消そうとする恐るべき蠍に震え上がっていた。
「こ、こんな事をしてもすぐに幻想の本隊がやって来るぞ……」
「……」
「い、今なら逃げ場はある。この屋敷の財宝も何もくれてやる。
 盗賊らしく奪うだけ奪って逃げれば、目的は果たせるんだろう!?」
「……………」
「き、聞いているのか? こ、此方は追手を仕掛けるような真似はせん。
 ……わ、悪くない提案だと思うがな」
 口元を皮肉に歪めた蠍――キング・スコルピオは「そうだな」と邸宅の豪奢な絨毯の上に唾を吐き捨てた。
「温過ぎて、眠すぎて――子守唄にはピッタリだぜ。ええ?
『由緒正しく神に愛され給うたお貴族様』よ。俺様がまだ微睡んでる内に、そのご立派な頭で良く考えな。テメェの命を今誰が握っているかを――ついでにテメェのご自慢の兵隊達が『たった何人』に打ち破られたかをよ」
 囚われのメランデル男爵は元来慎重な男だった。幻想南部の街や村が『新生・砂蠍』を名乗る賊徒に襲撃を受けているのを一早く察した彼はかねてから集めていた私兵で私領『フェンディル』に百を超える防備を敷いていたのである。街村を襲う砂蠍の兵力が概ねそれ以下に収まっている事から彼はそれで中央からの援軍を待てると踏んでいた。敢えて守りの固い場所は襲われまい、と。襲われても対抗すれば時間は稼げる、と。まさに一定の安堵を得ていたのであるが……
「ええ? お貴族様よ。テメェの敵はたった十だ。毒を持つ蠍の十匹だぜ。
 だが、現実。フェンディルは死んだ。つまらねぇ蠍の毒、たったのその一刺しでな」
「……っ……」
 メランデル男爵は慎重な男である。
 仮に大部隊がフェンディルに押し寄せていたならば、早い段階で逃げをうった事だろう。しかし、相手がたったの十人であるという報告を受けた時、彼の中に油断が生じたのは事実だ。その十人に『盗賊王』が混ざっていたのは予期出来た事ではなかったが、判断を遅らせる間にあれよあれよと状況は悪化を辿った。数を十倍する部隊は容易く各個撃破の憂き目に遭い、敵の強さに恐慌し、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。かくて男爵は不本意な虜囚の立場へ陥る羽目となったのである。
「な、何が狙いだ……何を望む」
「そうさな、強いて言うなら『オリオンを殺す事』かね」
「何だそれは」
「輝きと祝福をもって産まれ落ちた幻想(えいゆう)を地に墜とすのさ。最高だろう?
 ま、腐敗しきった元英雄かも知れんがな。どうあれ、この地に蠍を描いてやるぜ。
 俺はな、男爵。俺を馬鹿にした、侮った奴を絶対に生かしてはおかねぇ。
 この国の貴族共も、ラサのクソ共も例外なく――どれだけ時間をかけても殺す。必ず」
 キングの宣言に部下達から歓声が湧く。
 最早、盗賊王の『国盗り』は彼等に夢を見せるだけの現実味を帯びていた。
「男爵さんよ。てめぇは俺を侮るか?」
「い、いや! それは……! 確かにお前は恐ろしく強い!」
 首を振る男爵から卑屈な阿りを見て取ったキングは皮肉に笑った。
 もう一度言おう。その顔が見たかったのだ。
 この甘い男爵は中央からの救援を当てにしているようだが、キングはそれが難しい事を知っている。正体不明の――『いけ好かない協力者』は北部戦線で鉄帝を動かしつつあると読む。勿論、全てが片付いたら、彼は自身を操っている心算のソイツも手酷くぶっ殺す事に決めているのだが。
「キング。これからどう動きますか?」
「蠍の手足が結果を出すのを待つ事にするさ。
 リッパーJ、ティヤヌーシュ、ポティが上手くやりゃそれでいい。ミリアムやエーリックが首尾良く落とすか、ピバリースやフギンの野郎には考えがあるみてぇだしな。
 ……ま、ジョンドウの奴はケ・セラ・セラ、だ」
 キングが名を挙げた連中に加え、それに倍する蠍の部隊が同時に幻想南部を襲撃している。フィッツバルディ派に属するメランデル男爵は国軍の機密をある程度握っているとされる――制圧の一番乗りを果たしたキングは彼と『話し合い』をしながら、部下の活躍を高みの見物と洒落込もうという訳だ。
「さァて、宴が始まるぜ――」
 盗賊王の国盗りは始まったばかり。
「――光輝く幻想(オリオン)さんよ。俺を止めたいなら、名にしおう勇者王でも持ってきな」

●理不尽と報復
「こんな悍ましい話に私を『誘った』かと思うと反吐が出る」
 黒衣の神父はつい先日、手配を受けた自身の元を訪れた『砂蠍』の使者の言葉を思い出し、整った顔立ちに怒りの色を載せていた。

 ――神父サン、貴方もどの道追われる身なのでしょう?
   なら、我々と手を組めばいい。国をひっくり返せば手配も終わりですからね。

 自身と――その娘を襲った運命から、信仰に嘆き、神を疑い、総ゆる理不尽を憎む事となった彼は――まさに『理不尽そのもの』を体現する蠍の暴挙、軽薄にして浅薄なる提案に酷く腹を立てていたのである。

 侮るな。
 この侮辱、まさに万死に値する――!

 彼の心はまさに憤怒の色に染められた。
「しかし、これも神の思し召しか――」
 使者は斬ったが、砂蠍の行方は杳として知れぬ。
 ならば、と私兵を集める事に積極的だった、そしてこの国の貴族にしては比較的真っ当な統治を行っているメランデル男爵領フェンディルを訪れてみればこの騒ぎである。情報によればここには蠍の親玉が居るというではないか。
 神父にとってこれは千載一遇である。
 彼の敵は総ゆる理不尽。
 それが貴族であろうと、国王であろうと、盗賊であろうと同じ事。
 盗賊王は無論の事、この国の大多数の貴族も又、彼の誅殺の対象と成り得る。
 立ち塞がる者は敵であろうと友人であろうと一刀に伏せると決めている。
 一つの例外も無く、一つの迷いも無く、彼は斬り捨てると決めている。
 十字剣(パスクァーレ・アガペー)は信仰の墓標、憎悪の証明。
「……出来れば、『友人』ばかりは相手にはしたくないものですがね」

GMコメント

 YAMIDEITEIっす。
 本作初のVery hard、勿論EXシナリオでお届けします。
 以下詳細。

●依頼達成条件
・メランデル男爵の生存、救出

●依頼内容
『新生・砂蠍』の軍勢が幻想南部地域の拠点の制圧に動いています。
 幾つかの拠点が危機を迎え、或いは失陥しつつありますが、その内のメランデル男爵両フェンディルに盗賊王が出現したという情報がもたらされました。彼は少数精鋭で奇襲をかけ、油断したフェンディルを寡兵で落とし、メランデル男爵を虜囚にしています。
 フィッツバルディ派に所属し、国軍の機密を握るメランデル男爵は貴族派にとって見捨てる事の出来ない重要な人物です。北部戦線に引きつけられ、動きが取れない『黄金双竜』フィッツバルディ卿の代わりに少数精鋭を以て男爵を救出して下さい!

●『盗賊王』キング・スコルピオ
 胸元に蠍の入れ墨を入れた凶相の男。
 格闘戦を得意とし、超人的な技量、手数と殺傷力で敵を攻めます。
 又、『死ぬほど執念深い』ので注意が必要です。 
 以下、分かっている限りの攻撃方法等。

・ヒートブラッド(自付与・命中、回避、CT、EXA強化)
・スコルピオ・ダンス(物至単・連・不吉・不運)
・ブラッディ・テイル(物近扇・出血・流血・失血)
・EX モータル・アンタレス(物至域・不明)

●新生砂蠍『本隊』
 キングの手勢が九名。
 前衛タイプが六人、後衛タイプが三人。
 前衛タイプは基本的にバランスの良いトータルファイタータイプで、後衛タイプも回復、火力の両面をこなします。盗賊王に高い忠誠心を持っており、頭も悪くないです。戦闘能力的に圧倒的な強敵という訳ではないですが、全然弱くないです。

●『黒神父』パスクァーレ・アレアドルフィ
 友軍(?)かも知れない男。
 個人的な事情でフェンディルを訪れ、個人的な事情で動いている模様。
 過去にローレットが依頼を請け負った事がある人物で、善人か悪人かで言えば善人よりですが、過去の事件を切っ掛けにそれ以上に『危険人物』となっています。
 ローレットとは直接的な連携を行っておらず、動向は流動的です。
 上手く利用する事さえ出来れば、状況を多少助ける事になるかも知れません。
 神父ですが武闘派。十字剣での前衛戦闘と支援能力の両方を持ちます。
 支援とかはするかどうかは別問題ですが……

●メランデル男爵邸
 屋敷の外に見張りが出ている可能性があります。
 一階のホールに盗賊王以下手勢の大半は存在すると見られます。
 男爵が監禁されているのは二階の一室と思われますが、どの部屋かは不明です。
 また、男爵を見張っている手勢が居る可能性も高いです。
 要するに現地の情報は非常に不明瞭であるという事です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

 下手を打つと本当に死にかけないのでご注意を。
 以上、宜しくご参加下さいませ。

  • <刻印のシャウラ>オリオンを墜とす男Lv:10以上完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別EX
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2018年11月15日 21時40分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
ただの死神
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
キドー(p3p000244)
最期に映した男
テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)
樹妖精の錬金術士
アレフ(p3p000794)
純なる気配
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
グレイ=アッシュ(p3p000901)
灰燼
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
舞蝶刃
陰陽 の 朱鷺(p3p001808)
ずれた感性
牙軌 颯人(p3p004994)
黄金の牙

リプレイ

●ステイ
「また砂蠍ですか。最近しつこいですね。
 ……お仕事があるのはいいのですが、毎回同じ相手だとうんざりしますね」
「わーい、国規模の迷惑男ー」
 広がる光景にそう言ったのは『ずれた感性』陰陽 の 朱鷺(p3p001808)。
 そして続けた『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)は、自身の発言を一秒もしない内に訂正した。
「……って、ふざけてる場合じゃないよね、うん」
 イリス以下、十人のイレギュラーズの訪れたフェンディルはまともな有様では無かった。
 突然に襲いかかってきた恐怖に怯えた街は、平時の姿を残してはいない。
 或る者は既にこの場を逃れただろう。別の者は扉を締め切り、家の中で震えているかも知れない。
 間もなく冬を迎える民にとって、自身の住処を即座に捨てる事は難しく。
 絶対的な安全を信じていた南方領フェンディルはその逆の結論を突きつけられ、俄にその空気を変えていた。
 街には誰一人外を出歩く者は無く、故にパーティは最初から慎重な移動を強いられた。
 男爵邸の集中しているという敵側戦力が街中の様子を伺っている可能性は低いが、気味の悪さは否めなかったからだった。
「……成る程、ね」
 口元を僅かに歪めた『灰燼』グレイ=アッシュ(p3p000901)は街に――そして目的となる館に渦巻く感情を気取って呟く。
「『恐怖』、『不安』、『焦燥』……探すまでもなくそれで一杯だ」
 僅か百メートルの探査範囲すらそんな負の感情で満ちているのだ。
 そんな単純な事実が、この平和な片田舎に迸った青天の霹靂がどれ程のものだったかを物語っている。
 それから当然――
「盗賊王はかなりの強敵みたいだからな」
 ――『樹妖精の錬金術士』テテス・V・ユグドルティン(p3p000275)がちらりと視線を落とした兵士姿の惨死体も証左である。
 死体のグループはフェンディル中心部の男爵邸へ痕を刻むように残されていた。十人のイレギュラーズは盗賊王の軌跡を辿っているようなものだった。
 最初は六人、次は五人、今のは三人。戦力の集中が出来ないままに各個撃破の憂き目にあった彼等の状況が伺い知れた。
「……そんな男から男爵を奪還するのが今回の依頼か。十分に備えて警戒をしなければ」
「間違いなく対峙した中で一番の強敵ね。でも、だけど……絶対に誰も死なせないわ」
「……目的はあくまでメランデル男爵の生存、救出。
 だが、今後の事を考えるならば…やれるだけの事はやってみせねばなるまいよ」
 テテスの声に恐れはないが、彼女にせよ、続いた『カースドデストラクション』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)、『黄金の牙』牙軌 颯人(p3p004994)にせよ同じである。真剣味は十分過ぎる程乗っていた。
(予感、って言うんじゃないがな――)
『影刃赫灼』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)は自身の異名――死神の名が物語る――その通りにこの場所に濃密な死の気配を嗅ぎ取っていた。
 成る程、一行が目にしてきた死体の山は油断した場合の自分達の――そう遠くない未来とも言える。一方的に敗れた兵士達と自分達を比べた時に『同等』であると考えている者は居ないが、同時に盗賊王に対して有利を取れると考える程甘い人間も居なかった。
 だが、それは即ち勇敢なるこの一行がこの仕事に気負い過ぎているという事を意味しない。
「オリオンを落とす、か。狩人として名を馳せた男の名だったっけ――」
「――空ばかり眺める彼を殺した蠍を気取っているのだろうよ」
「――ならオレらは天に上った奴を討つって話になる」
 端正にして冷静なマスクを微動だにする事無く『堕ちた光』アレフ(p3p000794)が言えば、クロバは口元を獰猛に歪めてそう言った。
「どうあれ、名前ばかりが先行した男の姿を漸く見れるという訳だ」
「――へへっ、盗賊冥利に尽きるじゃねぇか!」
 やる気を十分に漲らせた『盗賊ゴブリン』キドー(p3p000244)が場にそぐわない程、楽しげにそう言った。
 盗賊を生業にする彼にとっては『盗賊王を相手の大立ち回り、それも囚われの――姫でないのが退屈だが――男爵を助け出す、謂わば盗み出す』というミッションは特別な意味を持っている。
「第一、盗賊王と言いながら盗むよりも殺しが優先とは、詰らない奴なのです」
『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)のこの言葉に目を丸くしたキドーが「言うねぇ!」と快哉を上げれば、応じたヘイゼルは「それでは盗賊王というより強盗なのです」と嘆息した。
 実際の悪党共が物語のように『華麗』足り得ないのは道理だが、今日彼女を含めた一行に求められるのはその『鮮やか』の方になろう。
「それでは此度は此方が盗人と参りませうか……私は初犯なのですが」
 温度低めに付け足したヘイゼルだが、実際の所彼女の『はじめて』には多大な意味がある。可憐な外見に騙される事なかれ。好奇心が服を着て歩いているような――独特の価値観を持った彼女にとって、こういった鉄火場は強く興味を惹くとても重要なシーンなのだから。
「盗賊王に神父くん。僕は彼らの私怨という人間性を愛してる。
 だからこそ邪魔してあげたいよね。そしたらもっと思いは強くなる。
 それが見られるなら、いまここに命を張ろうじゃないか――」
 まるでゲームを始めようとでも言わんばかりに軽やかに、グレイの口元が笑みを湛える。
 驕りはない。覚悟は十分。打ち合わせも、準備も十分である――筈だ。
 これより彼等はイレギュラーズとして経験した事が無いかも知れない――そんな難局へと挑むのだ。
(盗賊王か。何度考えても、甘い相手にはなるまい。尤も、本当に危険な相手は彼の言う通り。盗賊王に限らん様子だが――)
 彼方を見つめ、内心で零したアレフの青い目が覗くのは、勝利か、その逆か――

●ヴァーサスI
 パーティの目標は『盗賊王』キング・スコルピオに囚えられたフェンディル領主メランデル男爵の救出。
 フィッツバルディ派に属する人物であり、国軍の情報を握るとも言われる彼を捨て置く事は出来ない『黄金双竜』から直々の要請を受けた結果、イレギュラーズはここに居る。頭抜けた危険性と実力を誇るとされる盗賊王本人を討伐する事は今回の依頼では求められておらず、あくまでオーダーは男爵の奪還である。即ち、通常ならば悪手たる戦力の分散はこの依頼においては絶対的に当然の事であるとも言える。
 パーティの構成する戦力班は以下二つ。
 一つ目はクロバ、テテス、アレフ、イリス、アンナ、朱鷺、颯人からなる『本隊』。
 二つ目が残るヘイゼル、キドー、グレイからなる『救出班』である。
 戦力を上記二つのチームに分割したパーティの立てた作戦はオーソドックスなものだ。
 本隊たる主力メンバーで男爵邸へ攻撃を仕掛け――可能ならば見張りを素早く無力化したいと考えている――注意を引いた所で迂回する立場を取った救出班により目標の男爵を奪還するというもの。本隊に配置された戦力は、
「まー、止められる限りは止めて見せるからね」
「……同じく、どれだけ『まっとう』な勝負になるかは自信、ないけどね」
 非常にタフで頑強なイリス、防御と技量を高いレベルで併せ持つアンナといった面々に加え、
「首をとっちまっても――許せよな」
 不敵に冗句めいたクロバのような一級のアタッカーも有している。
 一方で救出班に配置された三人は少数ながらそれぞれが必要な役割を有するエキスパートであるとも言える。
「状況は大体掴めてる。見張りの位置と――後は男爵か。多分、二階の奥。どう思う?」
「恐らくは間違いない。私の『聞いた』所ではな」
 ファミリアーによる簡易偵察と邸内の感情探査を併用したグレイの言葉にアレフが頷いた。

 ――さァて、男爵さんよ。俺の聞きたい事は分かるよな?

 ――分からんな。私はお前の知りたいような話は……

 ――持ってる筈だぜ。で、何でこんなに眠たい話をして――『拷問』しねぇか分かるか?
   拷問程度で簡単に吐くような保身野郎の話は全面的に信用出来ねぇし、吐かない奴なら聞いても一緒。
   つまり、俺は至極冷静に的確に、お前から話を聞き出さないといけない訳さ。例えば領民を一匹ずつぶっ殺すとか、考えてよ?

「ステレオ・タイプだな」
 鼻で笑った彼の鋭敏過ぎる聴覚は邸宅内の会話さえ拾っている。
 窓には鎧戸が降りており、ファミリアーでの直接偵察には至らなかったが男爵の位置はグレイの見立て通り二階の奥。
 アレフの力による情報をもう一つ追加するなら、現在の尋問役は盗賊王であるという点だ。
 推測するに慎重家の彼が一人で居るとは考え難いから、そこにもう一人か二人は確実。外の見張りを含めてこれで三か、四。
 邸内の敵本隊は六、七人といった所である――
「ホールを経由せずに二階へ移動するには通用口を利用するか、ないしは二階から直接侵入か、どちらかなのです」
 軍用踏空魔紋(Ventus)を有するヘイゼルは飛行能力を持ち合わせている。同時に彼女の持つステルス及びブロッキングの両能力はギフトによる特殊探知能力以外を無効化する事が出来る。つまり、彼女を補足するには目視による視認が絶対であり、もし盗賊王一味が探査系能力による網を張っていたとするならば、それを逆手に取る事も可能に成り得る、という訳だ。
「……へ、何処からでも構わんぜ。どの道、鍵だの何だのは任せときな!」
 救出班の最後の一人――キドーがそう言って不敵に笑む。
 救出劇は速度勝負にもなりかねない。派手な音こそ立ててしまうだろうが、蹴破るよりは余程確実。
 キドーの盗賊の手(ギフト)は一般的な貴族の邸宅に存在する程度の施錠は簡単に開いてしまうだろう。
「ま、出来るだけ急ぐけどよ。本当に気を付けろよ」
「相当厳しい話になるでしょうが――そろそろギャフンと言わせたいものです」
「持久戦は得意な方だ、うまいこと救出まで足止めをして見せるさ」
「ああ。倒す心算でやる――少なくともそう信じさせなければそちらの援護にもなるまいしな」
 頷いたパーティにキドーがそう言えば、朱鷺、テテス、颯人が彼に応じて決意を見せた。
 間もなく、死地の活劇の幕は上がる。
 胸騒ぎに似た予感を誰もが隠し――始まりのその時を待っていた。



 鋭い笛の音が周囲の空気を切り裂いた。
「……ッ!」
「……甘かったか……!」
 身を翻したアンナが息を呑み、颯人が思わず小さく零した。
 まず外の見張りを無力化せんとしたパーティだったが、結論から言えばこれは上手くはいかなかった。
 敵の位置こそ特定出来ていたパーティではあったが、それを速やかに沈黙させるだけの手段は持ち合わせてはおらず、攻撃に出かかったパーティの機先を制して警告を発した見張りはイレギュラーズとの交戦を嫌い、邸内へと逃げ戻ったのである。多勢に無勢、当然と言えば当然の判断だが――見張りという命令を徹底する一連の動作から敵の練度の程は知れた。
 とは言え、だ。
(じゃ、一仕事といきますか――)
 キドー以下、三人の救出班はその状況を確認して動き出す。
 外に見張りが居たままでは彼等の出番は訪れない。最良は見張りを倒す事だったが、次善は見張りを『戻す』事である。
 第二の目標を達成した本隊――に、キドーの式神を加えた八つの影――はそのまま邸内へと雪崩込んでいた。
「来やがったな!」
 それぞれ武装と構えを済ませた七人の盗賊達がパーティを迎え撃つ。
 実質の数は本隊と五分――盗賊王の姿は現在は無い。
「さて、盗賊王とやらは何処に居る……随分と派手にやってくれたな」
 一瞬で状況を確認し、同時に奥の階段にチラリと視線をやったアレフの言葉に盗賊達は色めき立つ。
 狙いはキング――その言葉が持つ威力によるものだろうが、パーティは最初からそれを期待していた。
「情報通り手薄。千載一遇のチャンスって訳ね」
「どこだ、盗賊王。お前を……殺しに来た!」
 アンナが上手くアシストし、大声で颯人が宣言してやれば――状況認識は容易くパーティの考える方向に向いたようだ。
「させるか! やっちまえ――!」
 二階のキングを気にしたような気配を見せた盗賊達だったが、リーダー格のバンダナがそう声を発するとめいめいに武器を手に襲いかかってくる。
「――は。それでいいんだよ。判り易い――それから、面白ぇ!」
 ディバイダー・フェンリスを構え、黒刀・夜煌竜一文字を抜刀したクロバが敵に応じる。
 向かってくる敵の迎撃に出たのはキングを抑える役目を予定していたイリスとアンナも同様である。
 得物を手に向かってきた盗賊の一撃をイリスは手にした曲刀で威力を削ぐ。
 本来、全身を覆うガノイン鱗は――『乙女のなりをしている彼女』を同様の硬度で守っていた。
(さあ、粘れるだけ粘らないとね)
 相手が唯の盗賊であるならば早々易く突破させる訳にはいかない――イリスである。
「かかってきなさい。二人でも――それ以上でも」
 可憐な少女そのもの――見た目からは全く想像の出来ない俊敏、強靭、技術を併せ持つアンナが盗賊の刃先をあしらった。
 イリスやアンナの壁(ハイ・ウォール)を容易く突破されるようでは元より勝負にならぬ。専ら防御に軸足を置く二人が時間を稼ぐ一方で攻撃意識の強い仲間達が敵を減らせばこれは良い展開になるだろう。救出班の三人も当然ながら相応の戦闘能力は有しているが、キングを含めた三対三ではまず勝ち目が無い以上、パーティの当座の問題は『兎に角、二階からキングを引きずり下ろす事』である。
 キングが二階に居る限り、恐らく勝利条件は絶対に満たせない――ホールに居てくれればそれはそれでやりやすかった可能性もあるが、『仕掛けのタイミング』で時を待つよりもよりアクティブな手段を選択したパーティの決断はまだ是にも非にも転んでいない。
「こっちの番だな」
 颯人の双刀が火焔を纏い、
「行くぞ――喰らえ!」
 裂帛の気を発した彼は盗賊の一人を激しく襲う。
 身軽なそれが直撃を避けた所へ、壱式・綜突――即ち鋭き死棘の突きを携えたクロバが踏み込んだ。
「おっと、倒し損ねたか?」
「私が居る」
 血を流した盗賊がよろめけば、後方より連携良く放たれたアレフの魔力放出が追撃した。
「……しかし、成る程。それなりにやる」
「こっちの台詞だぜ――どうやら男爵の所の案山子共とは違うようだな!」
 甘く見ている訳ではないが、挑発めいてはいる。皮肉に唇を歪めたアレフは――盗賊達は初手合わせで互いの実力にあたりをつけている。
 数だけ揃えた素人とは話が違うのはお互い様である。バンダナの声に盗賊達の殺気が増した。
 一連の攻撃を受けても倒されていない所を見ても、敵はそう易い相手では無い。
 まだ動きの見えない例の――黒神父の存在も含め、至極状況は流動的であると考えられた。
「そこで止まって貰おうか」
 ダメージを受けて退く素振りを見せた敵前衛をテテスの構築した『何か』が襲う。
 始まりから放たれるそれは彼女にとっての大技だが、自身の言の通り徹底して持久戦を得手とする彼女はリソースの塊だ。
 充填、再生、異界接続――更には手にした杖までもがテテスの魔力を支えている。
『使い切れない位のゲインを徹底して浪費出来る』のが彼女の強みであり――果たして強襲を受けた盗賊は混乱の色に咽ぶ事となった。
「チッ……」
 バンダナが舌を打ち鋭い声で指示を飛ばす。
 彼がもう一度――チラリと背後の階段を眺めたという事は。
 僅か十秒の争いはリーダー格の彼がキングの救援を欲したという事実を示しているのかも知れない。
 だが、彼等は『新生・砂蠍』である。相応に場数を踏み、この場に到ったイレギュラーズを相手にしても――怯んではいない。
 バンダナの命令を受け、パーティ側と同じように集中攻撃が始まった。
 彼等の狙いは戦線を決壊させる事であり――同時にキング参戦後を睨んでいるようにも見えた。
 徹底した的にするべきは邪魔な前衛であり、まず狙われたのはイリスでは無くアンナの方だ。
(……好都合なような、そうでもないような)
 圧倒的な回避性能を持つ彼女は少々の攻撃で捉える事は難しい。
 だが、純耐久力でイリス程の防御を持ち合わせていない彼女は『当てられる事』が宜しくない。イリスとて、アンナ程は避けないのだからダメージの蓄積を確実に重ねるならば此方なのだが、そこはやはり『どちらがキングに対抗しやすいか』の判断か。
 四発目まではかわし、五、六発目を被弾した彼女は乙女の柔肌から血を流す。
「やはり――簡単な仕事にはならないようですね」
 治癒符を携えた朱鷺がアンナを救援するが、敵後衛の一撃は存外に重い。
 戦いは続き、高まりつつある緊張は常に二階の方に向けられていた。

●スニークI
 時刻はやや遡る。
(……初犯でえらく大掛かりな事をしている気もするのですが)
 見張りを邸外から排除した後、救出班のヘイゼル、グレイはキドーが容易く解錠した通用口からの邸内への侵入に成功していた。
 感知され難い――というより目視以外は『ほぼ』不可能である――ヘイゼルが先行し、安全確認後に残るキドーとグレイが進む、という基本の形を繰り返し、彼等は首尾良く邸内への侵入を進めている。

 ――情報通り手薄。千載一遇のチャンスって訳ね。

 ――どこだ、盗賊王。お前を……殺しに来た!

「おー、やってるねぇ」
 仲間だけに聞こえる小声でキドー。仲間の声は頼もしいばかりで彼は小さく笑う。
 何も無ければ小声で話す事はおろか、こうして密かに侵入し、行動を開始する事も難しかっただろうが――
 邸内での戦闘は激しく始まった様子でそれは当然ながら三人の目眩ましとして作用している。
「階段は、やはり――駄目ですね。となれば、直接乗り込むルートでせうか」
「出来るだけ素早く事を進めたいものだね」
 グレイの言葉に「はい」とヘイゼルが頷いた。
 中央の階段は当然ながら彼我の注視を浴びるルートだ。元よりこれは使えない。中央階段の伸びるホール上部は大きな吹き抜けとなっており、二階に侵入するには必ずしも階段を使う必要は無い様子だった。情報不足はそれなりに深刻だったが、こういう時は対応能力がモノを言う。
(まぁ、所謂一つのスニーキングミッションというヤツなのです)
 とんでもないプロも一流には40%の運が必要と言っていた。
 静かに――それから少しばかりの祈りを込めて――ヘイゼルの踏空魔紋が発動する。宙空を泳ぐこの時間は格好の的であり、目立つ事は避け難いが、幸いにしてホールの盗賊達は激しくやり合う『本隊』に夢中である。僅か十秒のひりつく時間を何とか超えたヘイゼルは屋敷の二階部を囲うように伸びる廊下の端に降り立ち、そこから特別に用意したフェムトファイバー――細く頑丈な縄を階下へ降ろした。
「……鮮やかだねえ。向いてるんじゃない?」
 二階に到達したグレイが反対側の廊下の奥の部屋を注視していた。
 彼の感情探査の探った所によれば、そこに強い『ストレス』が存在するのは明白だった。
 周囲に存在する三つの愉悦、そして二つの困惑。盗賊王とその一派によるものだろうと推測される。
「つまる所、二階の戦力は現時点で三つ。内一つは相手にしちゃいけない特記戦力という事になる」
 残る二人とこの情報共有をしたグレイは言葉を付け足した。
「ポイントは困惑だよね。つまり、階下の戦いは二階に居る何者かに『どうするべきか』を悩ませている。
 内一つに困惑が混じっていないのが最悪だ。盗賊王は恐らく冷静に、状況を読み切ってる」
 軽挙に即座に二階を開けないのは彼等が男爵の奪還の目をゼロと考えては居ない証明だろうか。
 頭が切れると噂の盗賊王はかなりの慎重派とも聞いていた。
 目的の部屋から死角になる位置で姿勢を落とし、じっとその時を待つ救出班にとってもこれは焦れる時間だった。

 ――やっちまえ!

 ――と、言われても困るのよね。

 怒号は盗賊のものだろうか。
 恐らくそれに飄々とした軽口を返したのはイリスだろう。

 ――は! 弱ぇな。例の盗賊王はビビってんのか?

 ――てめぇ……!

 傲慢に声を張り、挑発めいているのは間違いなくクロバだろう。
「仕方ねぇ連中だな。襲撃位でだらしねぇ」
 低く呆れたような声が邸内に響いたのはそれから間もなくの事だった。
 息を殺す救出班が注視していた部屋の扉が蝶番の錆びた音を立て、重々しく開かれた。
 姿を表したターバンの男は両手に赤いクローを備え、異様なまでの存在感を放っていた。
「おい、テメェ等。逃がすなよ。態々遊びに来て頂いたんだ。
 この俺を呼び出した以上は――たっぷり楽しんで貰わないといけねえからな」
 一目見れば分かる蠍の首魁の声は大した大声でも無いのに異様な位に良く響き、盗賊も本隊も電撃に撃たれたように一瞬だけその動きを止めていた。
 盗賊王は廊下から直接階下へ飛び降りる。
 頷き合った救出班の三人は姿勢を低く――回り込むように目的地を目指した。
 盗賊王が『出陣』した以上、残された時間は長くない筈だ。
 手間取れば誰かが死ぬ。いや、最悪――手間取らなくても死ぬかも知れない。
「今、しかないでしょうね」
 これまでと同様にヘイゼルが先行する。
「責任重大じゃねえか」
「……まったくだ」
 初犯どころか歴戦の盗人でも冷や汗の一つもかく場面だ。
 文字通り命賭けの仕事は先刻承知、ここからが正念場とグレイは認識を強くした。
 残る見張りは二人。数に勝る、準備は十分。ならば勝利だ。
 彼等は三人で食い止め、可及的速やかに仕事を片付ける他はない――!

●ヴァーサスII
 時刻は僅かに遡る。
 僅か数十秒に満たない階下の戦いは、それでも激しいものと化していた。
「やっちまえ!」
「――と、言われても困るのよね」
 怒号を発した盗賊の行く手をしつこく阻むイリスが居る。
「――は! 弱ぇな。例の盗賊王はビビってんのか?」
 漆式・影刃斬雪――必殺の秘剣で遂に敵の一人を斬り倒したクロバが不敵に笑う。
 朱鷺の支援を押し込む形で本隊側の前衛――イリスやアンナも消耗を受けてはいたが、全体を見ればややイレギュラーズ優勢といった状況である。
 未だ現れない黒神父(イレギュラー)はさて置いて、押し込めば盗賊王が出ざるを得なくなるのは明白であり、これは彼等の狙い通りだった。
 果たして、その勇猛な戦いは彼等にとっての『道』を切り開くものとなった。

 ――仕方ねぇ連中だな。襲撃位でだらしねぇ。

 低く重い声が状況の変化を伝える。
「おい、テメェ等。逃がすなよ。態々遊びに来て頂いたんだ。
 この俺を呼び出した以上は――たっぷり楽しんで貰わないといけねえからな」
 その台詞はパーティの作戦が奏功した事を意味している。パーティの望みが叶った事を意味している。
「……っ……!」
 だが、声と共に一階に飛び降りてきた凶相の男を見た時、イレギュラーズ達が強烈な負のイメージを抱いた事は否めない。
 踏んできた場数の中でも特別な相手、特別な一瞬しか放ち得ない――強烈な死のイメージ。
 理性ではなく本能が告げる、恐れですらない唯の事実に相違ない。
 肌が一瞬でビリビリと粟立ち、理性ならぬ本能が全力での逃走を呼びかけてくる――
「見てくれからして……貴族の連中じゃねえな。
 ……ま、犬は一緒か。成る程ね。テメェ等が『あの』有名なイレギュラーズさん達かい」
 口元を歪めた盗賊王が値踏みするように本隊を睨めつけていた。
「手下共が世話になったようだな。ま、コイツ等が押されるんだ。テメェ等は相当に強いんだろうよ。だがな――」
 首をコキコキと鳴らし、爪先で準備運動のようにステップを踏んだ彼は全く気楽な様子から一瞬で殺気を開放する。
「――おままごとは他所でやって貰いたいもんだな。ま、これは『どっちも』だがよ」
「来る……ッ!」
 アンナの鋭い警告に緊張が迸った。
 激戦を『お遊び』と称する敵はたかが一である。
 だが、その一が全てを滅茶苦茶にする暴風である事をその場の誰もが知っていた。
 誰よりも速い盗賊王は一人の姿を見定めていた。
 それは前衛で敵を防ぐ堅牢なるイリスでは無い。華麗なるアンナでも無い。
 それは圧倒的な破壊力で敵を屠るクロバでは無い。自在なる距離戦闘で楔となる颯人では無い。
 それは後衛に位置し、尽きぬリソースを縦横に振るうテテスでは無い。冷静沈着に己が仕事を遂行するアレフでは無い。
 彼が狙いを定めたのは――支援射程の関係から前に出ざるを得なかった回復役――目を見開いた朱鷺だった。
「うちの連中もつくづく潰す相手間違ってるぜ」
「……っく……!」
「遅ぇよ」
 彼女は身を翻しかけるが、キングの詰めの速度は異常そのもの。
 後衛としては俊敏に長ける彼女の動きを完璧に見切ったそれは右の赤いクローで間合いを文字通り引き裂いた。
「チェック・メイトって言うんだろうな――このキング(おれ)が」
 響く悲鳴、迸る鮮血。
 威力のままに左によろめいた朱鷺を左のクローが右に切り裂く。
「……私はっ……まだまだ……」
「死なないと思っただろ? 死ぬんだよ。今、ここで」
「死ねないですから――」続く筈だった台詞が酷薄な盗賊王に塗り潰された。
 イレギュラーズのみが持ち得る奇跡の欠片――パンドラによる加護の上から蠍のダンスが繰り返された。
 それは生死を分ける刹那への不足――最早詮無い、覚悟の不足。
 死ぬと思って来なければいけない場所だった。間違いなくこの敵はそういう相手(りふじん)だった。
 血飛沫が散る。赤い蠍が狂熱のダンスに歓喜する。
 一瞬で四度の斬撃を受けた彼女は地面に伏せたまま動かなくなる。
「――おっと、少しやり過ぎたか」
「――――」
 息を呑んだのは誰だったか。
 対抗も、気を発する暇も無い――唯の殺戮。
 圧倒的に呆気無い最悪の事態の訪れは、この場の全員に自身の運命をも疑わせるそれ。

 ――見誤っていた――

 一瞬遅れて、誰かの悲鳴と盗賊の哄笑が響き渡る。
 刹那の攻防は時の運も孕む。
 されど、目の前の敵が――イレギュラーズがイレギュラーズとして相対した中では。
 少なくとも僅か十人で挑まねばならない相手としては余りにも危険過ぎるのは明白だった。
 依頼を達成出来るかが争点だとは言い切れない。
『何人生きて帰れるか』がこの場の本性なのかも知れなかった。
「さァて、俺様の事は分かって貰えたかね。
 イレギュラーズさん達よ、今度はテメェ等の『自己紹介』が見たい所だな?」
「キングは無敵だ」。自身等が苦戦した強敵を圧倒する王の姿にバンダナが呟いた。
 その無意識にも近い言葉を切っ掛けに、「無敵だ」「無敵だ」と大波のように歓声が湧く。
 肩を竦めたキング・スコルピオの口元が邪悪に歪む。
 局面は――ほんの数瞬前とはまるで別のものになっていた。

●スニークII
 ……何が起きようと最早仕事を遂行する他はない。
 階下を案じるならば、階上の三人に出来る事は最早一つだけだった。
 可能な限り迅速に――全てをやり切るのみである。
「これ以上、時間はかけられないんでね」
 誰よりも早く――素晴らしい反応で部屋に飛び込んだグレイが顔を上げた部屋の奥の男爵を確保した。
 高めに高めた彼の反応値はまさにただただこの一瞬を突き詰める為にあった。
 刹那の攻防が勝敗を決するならば、防御も何もかなぐり捨てた彼の覚悟はまさに鬼札。
 その一瞬をもたらしたのは偶然も、運も全く無い。それは当然であり、必然にしか過ぎないのだ。
 咄嗟の事に反応出来なかった見張りの二人が構えを取るよりも早く、
「お願いします!」
 彼女には珍しく強い語調でそう言ったヘイゼルが進路の邪魔になる盗賊の一人に組み付いた。
「後は任せる――」
「――任された」
 グレイの言葉を受けたキドーが男爵をグレイから受け取り、窓を破って階下へと飛び降りた。
 戦いよりも逃れる事が最優先である。邸外には予めキドーの屑ちゃんとヘイゼルのパカダクラが足として準備されている。
 盗賊王がどんな戦闘力をもっていようが、逃れて距離を取ってしまえば――追撃の手段もそうはあるまい。
 奴はキング――『決して取られてはいけない駒』なのだから。
「……っ……!」
「逃がすか……!」
 盗賊達が声を上げるが、残るヘイゼルもグレイもまともに戦い続ける心算は無い。
「逃がすかと言われて逃げない人間はいないのですよ」
「同感だ。でも――」
「――もう少し、ここで時間稼ぎをする必要はある、ですね」
 邸外に逃れたキドーと男爵は機動力を手に迅速にこの場を離れるだろう。
 二階に残る二人が為すべきはこの場に敵戦力を釘付け――或いは倒し、彼等を追手にも一階への増援にもさせない事だ。
 殺気立つ盗賊に相対しながら、二人も全く負けていない。
「さて、締めといきませうか」
「男爵を逃した盗賊王の顔が楽しみだし、ね」
 少なからず成し遂げたのは間違いなく――ヘイゼルの口元に幽かな笑みが浮かんでいた。
 不敵に言ったグレイが9i - アィーアツブスの先に光を点す。
「せめてお前等だけでも――!」
 互いの役割をぶつけ合う――二階での戦いも、今始まろうとしていた。

●イレギュラー
「……ッ……!」
「やるじゃねぇか! 面白ぇ!」
「海洋がこの国民的美少女を失った時の損失が計り知れない為、できるだけ手加減してくださいお願いします!」
「減らず口を――」
(――いや、本当に!)
 盗賊王の暴威に耐えるのはイリス。
 血濡れた左右のクローを、殺意の瀑布を研ぎ澄ませた集中力と防御技術で何とか持ち堪える。
 盗賊達を相手にしていた時は余裕十分だった彼女も、彼女とその役を持ち回るアンナも――最早殆どの余力は尽きていた。
 たった数十秒の戦いでキングはその実力を嫌と言う程見せつけた。
「さァて、そろそろ死ぬか? それともまだ出す『本気』があるのかね?」
 これまで相手にしてきた『盗賊』なる存在が冗談のように見える――悪夢のような実力者。
 自ら王を名乗るそれは――力と恐怖で悪党共を束ねるだけの格を存分に発揮している。
「……チッ……!」
 得物を振るい、また一体の盗賊を斬ったクロバだが彼の表情も険しい。
 状況は明確には知れないが『二階での騒ぎ』から察するに、恐らく救出班は上手くやっただろうと推測している。
 だが、自身等本隊が目の前に抱えた問題は極めて深刻なままだった。
(逃げられる……? いえ、何とか退かないと。
 何をしても、……もう、これ以上――取り零すのは嫌だから!)
 血に染まったアンナの肩が上下する。
 奇跡に縋ろうと、我が身を滅ぼそうとも――彼女は強く願っている。
 都合の良い救済(デウス・エクス・マキナ)がここにあらんことを。
 どんなに不器用でも、これ以上誰かが倒れたりしないことを。
 だが、無慈悲な天は僅か10%に満たない奇跡の道を簡単に用意はしてくれない。
「俺達が求められた任務は男爵の救出だ。それを理解しているのだろうな?」
 颯人の言葉をキングは鼻で笑った。
「当たり前だ。だから、降りてきたくは無かったんだがな。
 ――まぁ、優先順位の問題だ。別働隊を始末するより、本隊のテメェ等を片付ける方が――有意義ってモンだろう?
 国軍の情報は欲しいが、言ってしまえば末端だ。北部戦線が膠着してる限りまたチャンスもあるだろうさ!」
 成る程、彼はイレギュラーズの攻め手を読んでいたらしい。
 逆を言えば彼が諦めた以上、仕事の成功は担保されたも同然か。
 但し、問題は既にその状況を超えているのだが――
「──盗賊王、やはり貴様は危険な男だ。
 貴様の毒は放置すればやがて大きく国を、世界を揺らすだろうな」
「オリオンは殺す。ま、オリオンじゃなくても殺すがね」
「――ならば、決して……見過ごす訳にはいくまいよ!」
 気を吐いた颯人の一撃が危急のイリスを救う。
「踊るならパートナーを気遣ったらどうかしら……!」
「おっと。生憎と手癖も足癖も悪くて、な!」
 イリスに代わったアンナの腹部に長い足が突き刺さり、彼女は小さな呻きを漏らした。
「奇跡でも、運命でも、ましてや神の意志でもない。
 どの様な厳しい局面でももし何かが為せるのなら、それは誰かが行動した結果に過ぎん。
 故に、生き足掻く――お前は追い詰めたと思っているのだろうがな」
 静かなる決意を乗せ、そう言い切ったアレフに後ろに跳んで攻撃を避けたキングが目を細めた。
 配下の盗賊達はキングの参戦以降は彼の援護に徹している。
 気付けば入り口の方に回り込み、『イレギュラーズを逃さない事』に主眼を置いている。
(足止めは十分だ。だが、このままでは……)
 攻撃に回復に。持久戦を得意とするテテスも死力を尽くしているが破局の時はどうにも近付いているように見えた。

 ――『もし、このまま話が進んでいたならば』

 最悪の状況にそれ以下が無いならば、事態を撹拌するイレギュラーは善悪を問わず時に助けにもなるだろう。
 声も無く背後から斬られ――盗賊の一人が地面に伏せたのはその時の事だった。
「おや、何の騒ぎかと思えば……何時かローレットで見た顔がありますね」
 本隊の退路――即ちメランデル男爵邸の玄関から現れたのは黒いカソックの神父。
「お仕事でしょうか。この少数である以上、盗賊王の討伐――という訳ではないでしょうから……
 ああ、成る程。任務は『メランデル男爵の救出』といった所か」
 パーティが『イレギュラー』と位置付けた災厄であり、救済である。
 慎重派の盗賊王は新手と思しき神父の出現に警戒し、大きく距離を取っている。
 パーティは彼が『敵でも味方でもない』事を知っているが、盗賊王にとってそれは異なる。彼は敵だ。
 どうとも転び得る状況に一早く楔を打ったのはこの瞬間を予期していたイリスであった。
「初対面ですが、今は信じさせて下さい!」

 ――貴方が、理不尽への敵対者である事を!

 彼女の一声は恐らく彼の琴線を揺らし得るものとなったのだろう。
 事実、パーティは傷付き、疲れ果てながらも盗賊王に対している。
 彼の敵である理不尽を体現するそれに牙を突き立てている。その行動は『見れば分かるものだった』。
『つまる所、彼が参戦するよりも前に十分な戦いをしていた事実そのものが、それを雄弁に物語っている』。
「……成る程、本日の敵は純粋にあちらばかりであるようだ」
 頷いた神父はパーティに告げる。
「出来得る限り逃れなさい。悪逆を見過ごさず、勇気を携えた貴方方に無慈悲は余りに理不尽だ」
 その言葉にパーティは頷き、内心で湧く。
 最悪の事態は回避し、大凡最良の状況を引き寄せた。
「有り難い。助かる」
 神父の参戦まで仕掛けを遅らせた時どうなったかは知れないが――一先ず安堵したテテスは小さく頭を下げて礼をする。
「させるかよ」と鼻で笑った盗賊王に怯む者は誰も居ない。
 為すべき任務は既に果たされた。
 血路を見い出せ、何としてもこの場を逃れよ。
 かの悪が、これ以上栄えぬ為にも。理不尽の看過を許さぬ為にも!
 颯人は決意する。
 彼の野望は、自身が、ローレットが必ず砕く――

 ――必ず、絶対に。

成否

成功

MVP

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者

状態異常

クロバ・フユツキ(p3p000145)[重傷]
ただの死神
アレフ(p3p000794)[重傷]
純なる気配
イリス・アトラクトス(p3p000883)[重傷]
光鱗の姫
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)[重傷]
舞蝶刃
陰陽 の 朱鷺(p3p001808)[死亡]
ずれた感性
牙軌 颯人(p3p004994)[重傷]
黄金の牙

あとがき

 YAMIDEITEIです。

 プレイング概ね頑張れていたと思います。
 劇終後、イレギュラーズは死力を尽くして撤退に成功しています。神父は不明。
 一応少しだけ補足しておきますと、このシナリオは流動要素が多かったです。

●何時仕掛けるか
 劇中の通りパーティは状況変化を待たず、速攻仕掛けましたので一番危険なルートだったと思いますが、悪い事ばかりではありませんでした。

 盗賊王が階下まで降りるまで待つパターン、ないしは黒神父が参戦するまで待つパターン(両立もあり)では戦線が引っ掻き回されて多少安全度が上がりますが、下記状況が生じ得ます。

a、メランデル男爵が拷問される(死ぬ可能性も)
b、黒神父が敵対者(或いは無差別)になる可能性がある

 最後に、このゲームは明確に死亡判定の出るゲームです。
 成功にせよ、失敗にせよ、それ以外の判定にせよ、判定者において、ゲームにおいて貴賤はございませんので、粛々と実行いたします。故に警告つき依頼へのご参加の際はくれぐれもお気をつけになるようにお願いいたします。

 シナリオ、お疲れ様でした。

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