PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<刻印のシャウラ>Blood=Hugin

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Hugin=Munin
 世界には序列というものが存在している。
 獣が弱者を喰らうのと同じ様に、人間とて生命を維持する為に家畜を喰らっている。そこに善悪もなければ、何の感傷も生れることはないだろう。
「毒蠍が己が力で敵を蝕む事を誰が攻められるというのでしょう」
 上質な酒によく合うのは上質な女だ。そうする事を認められて居るのは限られた存在であることを男は知っていた。
 幻想は南、貴族の屋敷に貯蔵されていた葡萄酒の質は善い。
 ワイングラスの中で揺れたそれを眺めながら男――フギン・ムニンは失意に駆られる貴族を見下ろしながら息を吐いた。
「我々を捕縛し、領内を占領から解いて見せる、と。
 幼子の様に息巻いていたあの時の貴方は何処へ行ったのです。貴方の屋敷が私に占拠されたのは偶然で、不運に過ぎなかった」
 その声を聞きながら首筋を這う蛇の感覚に貴族は息を飲む。
「――」
「発言は許可しておりませんが」
 牙剥いた毒蛇に男は只、蹲る事しか出来ない。
 こうして己の屋敷の床に襤褸の様に蹲る日が来る等と生まれた時から将来を約束されていた貴族の嫡男坊やには想像が付かなかっただろう。
 ましてや、幻想の片田舎と呼ぶに相応しい。三大貴族が火花散らす王都の付近であれば闇討ち暗殺と様々な噂を聞いてきたが、ここは平穏の地と呼んでも何ら不思議ではなかったのだから。
「よろしい、聞き分けの善い坊やだ。私は機嫌が良いのでね、貴方へ今現状の事を伝えましょう。
 それから――貴方が大切に育てた『特異運命座標』の娘。彼女をローレットへと送り届ける約束もしましょう」
「何故、娘の事を」
 声を震わせる貴族の男にフギンはさも可笑しい物を見た様に笑った。
「私が何も知らずに貴方の屋敷に来たとでも?」
 地を引き摺られる様にして遣ってきた少女は質のいいワンピースを泥だらけにして啜り泣きをしている。
 可能性をその身に宿し、世界の贈り物を得た彼女は父の解放を求め『新生・砂蠍』を名乗る盗賊たちへと一人で立ち向かったのだろう。憐れにも、彼女は囚われフギン・ムニンの許へと引きずり出されたのだが。
「シャーロット……!」
「お父様……」
 啜り泣きながらも気丈な乙女は未だ侵略者を見据えている。父に手を出すなと言う様に、己の身に余る可能性を父へは分け与えられない事を口惜しいと唇を噛み締め乍ら。
「シャーロット・ドレジュワール。幻想貴族ドレジュワール家の一人娘にして召喚を受けた特異運命座標。
 そのギフトは――『指先から冷ややかな氷を作りだせる』……でしたっけ?」
 ぎり、とシャーロットは奥歯を噛み締めた。
「よく聞きなさい、シャーロット。我々は『新生・砂蠍』。ローレットに伝えるのです」

 ――我らは幻想南部を占領、占拠してみせましょう。
 そう言えば、ローレットの特異運命座標は様々な仕事を請け負っているそうですね?
 ……そう、丁度ドレジュワール領で『盗賊の対応依頼に来ていた』という8人の特異運命座標が。
 ああ、そう言えば風の噂ですが『不運』な事に、北の境で鉄帝の侵略の兆しが見えているそうですね?――

●命の重さ
「ごめんなさい」
 開口一番で、『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス(p3n000038)は集まったイレギュラーズへとそう言った。
「『ごめんなさい?』」
 問い返すイレギュラーズがいるのは当たり前だ。
 唐突に、それも、震える声音で頭を下げたリヴィエールは「情報屋として、いえ、ローレットとしてのミスっす」と言葉を繋げる。
 ラサ傭兵商会連合で起きた大討伐から生き延びた『砂蠍』のキング・スコルピオが幻想の盗賊を束ね、一大勢力と化していっているという一件は最近のローレットを騒がせている。
 正体不明の資金力と人脈より、彼らを盗賊団と呼ぶより『軍隊』と呼ぶ方が相応しいのではという声も出てくる程である。
 これまでの『新生・砂蠍』は収奪を主に働き、統率の取れた盗賊団として活動していたが――ここに来て彼らの動きが変わったのだという。
「今、『新生・砂蠍』は幻想南部の貴族領や街、村への本格的な侵攻を開始してるっす。
 アタシはそれに気づくのが遅れて『普通の収奪への対応として特異運命座標を8人、ある貴族領に送り出し』ました」
 リヴィエールは言う。
「その貴族領というのがドレジュワール領。幻想南方の片田舎と呼べる場所で、葡萄酒が主要な名産となっています」
「……特筆するなら、幻想貴族ドレジュワール家の一人娘が特異運命座標であった……と言う事かしら」
 気の強そうな、冷ややかな氷の色をした眸の少女がリヴィエールの傍らに腰かけ悔し気に呟く。
 彼女――シャーロット・ドレジュワールはリヴィエールが特異運命座標を盗賊への対応をお願いすると送り出した領地を治める貴族の一人娘であるそうだ。
「端的に申し上げれば、私の父のドレジュワール卿の屋敷に8人の特異運命座標が囚われております。
 私はそれを伝える様にとローレットに『生きた儘』返されました。要するに、遊びにいらっしゃいと誘っているのです」
 声を震わせ、悔し気にシャーロットは地面を踏み締める。
 凡そはこの領土を獲ったという見せしめの為にローレットの特異運命座標を呼んでいるのだろう。
「彼らはより強い特異運命座標が訪ねて来る事を期待していると、私に言っておりました。何故――? それは……」
 シャーロットは奥歯が折れてしまいそうなほどに音を立て噛み締めた。

 ――ローレットに所属する強者であれば、今後のローレットの動向を把握しているだろう。
 また、彼らは『仲間』を見捨てることもない。我々の動きから目を逸らせなくなるなんて実に愉快だ。
 ああ、無駄な事に労力を割かされるという事こそ痛手だろう?
 ローレット自体の戦力を少しでも削ることができるならば我が王にとって、猶更に『優位』に働くではないか――

 彼女を此処へと送り返した盗賊たちが彼女をメッセンジャーに仕立て上げたのはよくわかる。
 質の良いワンピースで隠されてはいるが少女の華奢な体は傷だらけになっている。
「アタシが望むのは送り出したローレットの仲間……特異運命座標の出来る限りの救出。
 それから、フギン・ムニンからの屋敷の解放っす。フギン・ムニン軍は統率の取れた軍隊っすから、油断はしないようにしてください」
 彼らは生半可な相手ではないのだとリヴィエールは告げた。
 フギン・ムニン自身の能力は不明だ。だが、統率の取れた彼の軍の凡その情報はシャーロットが持ち帰ったとリヴィエールは告げた。
 背に梟の刻印を押された貴族令嬢は「父と、領民と、そして仲間をどうか――」と乞う様に声を震わせた。

 ――それにね、個人的にも興味があるのですよ。
 特異運命座標という、よくも分からない『生き物』にね――

GMコメント

 夏あかねです。

 ●依頼達成条件
 下記3点の達成
 ・フギン・ムニン軍の屋敷からの撤退
 ・特異運命座標『一人たりとも生きた儘』、フギン・ムニン軍に囚われないこと
 ・救出対象の特異運命座標の過半数以上の生存
 ※PCの特異運命座標の生死に関しては成功条件には含まれません。

 ●『識者の梟』フギン・ムニン
 梟の翼をもった飛行種の男。痩身で何所か虚弱な雰囲気を思わせますが、かなりの実力者です。
 毒蛇を2匹連れており、己の得物には梟の刻印を押す悪党であるという噂が蔓延っています。
 知恵者であり、ある程度の指揮を行うなど、軍隊を動かすことには精通しているようです。
 もしも、仕方がない場合は人質として確保している8名の特異運命座標の何れかを連れて逃走する計画があるとシャーロットに告げていたとも言います。

 ●『爪研ぎ鴉』クロックホルム
 フギン・ムニンの副官たる人物です。前線で戦う事に長けた青年。
 筋骨隆々であり、所持するは無骨な斧です。捕らえた特異運命座標の逃走を阻止します。
 また、人質の逃走時には殺すのもやむなし(殺しても良い存在)として認識しているようです。なぜなら、欲しいのは『より強者である特異運命座標の人質』です。その方がフギン・ムニンより褒章を得られるからです。
 主に戦う事になるのはクロックホルムと後述のメアリ・メアリでしょう。

 ●『マァメイド』メアリ・メアリ
 海種の乙女。遠距離での攻撃、BSを得意とし、嗜虐心たっぷりに楽しむ女怪盗です。
 フギンの許についているのは楽しそうだからと言うだけ。特異運命座標を捕らえることが出来たら褒章が与えられるため楽しみにしています。

 ●フギン・ムニン軍×15
 統率の取れた素晴らしいパワーをお持ちの盗賊の皆さんです。主にクロックホルムの言いつけを守ります。
 特異運命座標が屋敷に踏み入れた時点で彼らにとっては『得物』となり積極的に襲いに来ます。

 ●ドレジュワールの屋敷
 ややこじんまりとしている屋敷です。屋敷自体の構造はシャーロット・ドレジュワールがよくよく知っております。
 只、彼女自身の言葉の範囲で地図を作成することは可能です。
 ・大部屋3つ
 ・ゲストハウス6個
 ・家族の部屋が4つ(父、母、シャーロット、叔父)
 ・使用人部屋が2つ
 ・キッチン、資材置き場、ワインの貯蔵庫
 ※シャーロット本人は重傷のため戦地に赴くことはできません。

 ●特異運命座標8人さん。
 まだまだ新米ですが非常にやる気のある特異運命座標の皆さんです。リヴィエールから受けた依頼によってドレジュワール領に訪れ盗賊に囚われました。
 非常にバランスの取れたパーティーではありますが練度が不足しているような行動をする事が見られます。彼らは屋敷のどこかに囚われているために、身動きが取れず連絡も取れなくなっています。シャーロットも何処にいるのかは把握していません。

 ●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 また、当シナリオの結果によっては『PCが新生・砂蠍軍に拉致される』可能性があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <刻印のシャウラ>Blood=Hugin Lv:6以上完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年11月15日 21時40分
  • 参加人数 10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
叡智のエヴァーグレイ
鳶島 津々流(p3p000141)
行く雲に、流るる水に
御幣島 戦神 奏(p3p000216)
黒陣白刃
サンディ・カルタ(p3p000438)
アニキ!
リュグナー(p3p000614)
ぱんつコレクター
エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)
愛欲の吸血鬼
一条院・綺亜羅(p3p004797)
皇帝のバンギャ
久住・舞花(p3p005056)
津久見・弥恵(p3p005208)
銀月の舞姫

リプレイ

●悪辣
 許し難い悪は数多い。
 それは誰かを虐げる単純な暴力であり、理屈さえ通じない理不尽である。
 他者への尊重を失った力は常に危険であり、人間が高度な社会を形成していく限りは許してはならないものの筈だった。
 人の世には『最低限』でも体裁を保つ自浄作用が存在している。腐敗し切った幻想の統治ですら、『最低限』踏み越えぬラインはある。
 だが、稀に――本当に稀に、全ての枠組みへ挑戦する存在が居る。
 これまで培われた全てを文字通り全て破壊して、獣の王国を夢見る者達が居る。
「……冗談ではありませんね」
 普段よりやや低めのトーンでそう言った『月影の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)の表情は硬い。
 何時もの花の綻ぶような美貌から華やかな色を奪ったのが今回、十人のイレギュラーズが請け負った仕事だった。
(――人を嘲笑ったのですね。いえ、これからも嘲り笑おうというのでしょう。
 笑顔と歓声は最高の音楽。ですが、凶刃振い人を傷つけ笑うその笑顔は一秒だって聞きたくありません)
 彼女等は、世を騒がせる『新生・砂蠍』の隆盛は著しく、彼等は遂に幻想という国家の敵として盗賊団の活動を超えた領土への侵食という暴挙に討って出た。『何者かの差し金があるのか』北部戦線――つまり、ゼシュテル絶帝国との国境線に釘付けにされている貴族に代わり、この脅威へ対応する要請を受けたのがローレットのこれまでなのだが、この場の仕事はその大半とも幾分違う毛色を持っていた。
「捕まっちゃうなんてなさけなーい。
 そういう時は最期まで戦うもんだぜー、しゅっしゅっ」
 何処まで本気か、軽い調子で『黒陣白刃』御幣島 戦神 奏(p3p000216)は言ったが……今回の事態の急動はローレットも予期していなかった――今回の仕事の説明をした『パサジールルメスの少女』リヴィエール・ルメス(p3n000038)が「ごめんなさい」と頭を下げた不測の事態であった。
 結論から言えば、パーティの為すべきは『砂蠍の撃破』ではなく『捕縛された仲間の救出』である。事態が激しく動くより以前に幻想南部のドレジュワール領へ派遣されていたイレギュラーズ八名はこの現場を仕切る『フギン・ムニン』という男に囚われる憂き目となっている。
 それ自体がローレットからすれば非常に頭の痛い事態と言えるのだが……フギンという男はそれに留まらない悪辣さを持っていた。捕らえたイレギュラーズの内の一人――ドレジュワール家の令嬢、シャーロット・ドレジュワールを敢えて解放した彼は実に挑戦的に告げてきたものだ。

 ――我らは幻想南部を占領、占拠してみせましょう。
 そう言えば、ローレットの特異運命座標は様々な仕事を請け負っているそうですね?
 ……そう、丁度ドレジュワール領で『盗賊の対応依頼に来ていた』という8人の特異運命座標が。
 ああ、そう言えば風の噂ですが『不運』な事に、北の境で鉄帝の侵略の兆しが見えているそうですね?

 婉曲に皮肉めいた物言いだが、それは彼の性格を良く表していると言えるだろう。
 多々の状況から分かる通り、最早北部戦線と南部の盗賊王一派が何らかの結託をしているのは明らかだ。
 フギンという男がローレットを誘い、更なる混乱をもたらそうとしている事は間違いない。
 粗野な者、非道な者、人を食った彼のようなトリックスター……盗賊王の配下も中々バラエティに富んでいると言える。
「まさか特異運命座標を人質として使ってくるなんて……
 これは、彼ら――フギン・ムニンの一味が仕掛けてきた、彼らにとっての遊戯……
 ……もしかしたら、特異運命座標に興味でもあったりする、のかなあ。
 とにかく、一刻も早く人質さんを助けなくちゃ……!」
「そうね。彼からすれば、それはつまり……『ゲーム』という事。
 状況を作り、部下をけしかけ、私達が何処までやれるかを高みの見物をしたいと。
 フギン・ムニン、砂蠍を名乗りながら盗賊らしからぬ振る舞い……
 まあ、怪盗とかそういう人種は変わり者だらけという印象だけど――盗賊というよりは、その手合と言えるかしらね」
『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)に同意した『特異運命座標』久住・舞花(p3p005056)の口元には冷ややかな色が浮かんでいた。
「人質が有効だと証明しちゃうのは癪だが……
 ま、可愛い後輩のためにひと肌脱ぐってのも悪くねえか。顔見たことねえけど」
「できれば、1人でも多く、助けたいですの……救出班として、私も精一杯がんばりますの!」
『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)の言葉にコクコクと――一生懸命に『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が頷いた。
 組織として考えればみすみすの罠へ飛び込まんとするのは――甘いとの誹りを受けるやも知れないが、緩い連帯で繋がるローレットにとって、こういった事件を見過ごす事は全体の士気にも関わる致命傷となりかねない。実利の面を捨て置いたとしても『同じく特殊な運命を背負わされる事となった仲間』は彼等にとって少なからず特別なものであり――故にそれを見越したようなフギンの動きは悪辣であると言えた。
「本当に絵に描いたような悪党なのです」
「ま、是非も無しじゃな」
『愛欲の吸血鬼』エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)が気怠く嘆息した一方で、『皇帝のバンギャ』一条院・綺亜羅(p3p004797)が暗雲立ち込める依頼の空気を蹴り飛ばすように一蹴した。
「その挑戦に応じて遊びに行ってやるまでじゃ。死亡上等拉致上等。ローレットの恐ろしさを叩き込んでくれるわ!」
「統率された集団と言うものは厄介なものだが、……そうだな。裏を掻くのは案外、その位の意気かも知れぬな」
 彼女の言葉は実に『鉄帝国らしく』。『叡智のエヴァーグレイ』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)としては、苦笑せざるを得ない面も無くはないが――それに救われた気になるのも確かだった。
 不安の影は消えずとも、作戦の結果は五里の霧中にあろうとも、やらねば始まらず、赴いた以上は覚悟を決めて遂行する他は無い。幻想南部領を舞台に今この瞬間にも砂蠍と刃を交えようとする仲間達は数百以上にも及び――国の平和、平穏が彼等の双肩にかかっているのは間違いが無いのだから。
 しかし、フギン・ムニン。
 フギンとムニン――本名であるかは知れないが――その名は、とある世界の神話に登場する主神に従う一対のワタリガラスを指すと言う。
 フギンは『思考』を、ムニンは『記憶』を意味する言葉であり、彼等は主へ様々な情報を伝えるため、世界中を飛び回っているとされる。
(果たして、一筋縄で行く相手かどうか……)
 至極冷静なる『戯言の灰』リュグナー(p3p000614)は内心だけで考える。
(価値ある情報の為に動き、軍を統率する思考は素晴らしい。
 恐らく、奴は盗賊王の軍勢の中でも参謀や幹部に位置する人間なのだろう。
 己から『仕掛けている』以上は、間違いなく楽な仕事になる訳も無い。しかし)
 口元を歪めた彼は、大口を開けて待つ鴉の罠にも怯みはしない。

 ――しかし、知るがいい。これを機に覚えておけ。
 未知を恐れぬ好奇心は、時に己の首を絞めかねん事を――特に、未知なる『生き物』には、な。

●思考の檻I
「シャーロットさんの情報で見取り図を作り屋敷の構造を把握済み。
 後は現場の偵察でどれだけ『生きた』情報を得られるか……」
 舞花の言う通り――フギン・ムニンの解放したメッセンジャーがシャーロットだった事もあり、パーティ側は突入現場となるドレジュワール邸内の間取りを概ね把握していた。罠が張られているかも知れない現場の現在の状況は不明だが、この基本情報はパーティが作戦を立てる為の一助となっている。
 分かっている限りの情報ではフギン軍は主将たる『識者の梟』フギン・ムニンに加え、副官格の『爪研ぎ鴉』クロックホルム、女怪盗『マァメイド』メアリ・メアリという二名の幹部格、雑兵を十五人程有しているという。
 相対するパーティは、救出依頼の定石として戦力を二つに割る事を決めていた。
 一つは、グレイシア、奏、サンディ、綺亜羅、舞花、弥恵から成る『陽動班』。
 もう一つが、ノリア、津々流、リュグナー、エリザベートから成る『救出班』。
 その名称を見れば分かる通り、前者が主に邸内に存在するであろう敵戦力をかき回し、後者が何処かに囚われた特異運命座標達を奪還する手筈と考えて良い。寡兵の数を敢えて割る事がどう作用するかは分からない。危険も伴うが、リスクを買わずに突破出来る局面でないのも事実だろう。
「陽動の方が、気を惹いている間に、誰が、どこにいるかを確認ですの!」
 物質中親和や飛行といった機動、場所移動において奇策を打つ事が出来るノリア、
「早目の段階での特定がしたい所だね」
「まずは、大部屋、ゲストハウス、資材置き場、ワイン貯蔵庫付近……といった所でしょうか」
 その特異な聴力を活かした探査が出来得る津々流、透視と感情探査という二つのカードに加えて物質透過という鬼札をも有するエリザベート、
「情報屋にとって最も価値のある『情報』を、奴等にくれてやる訳にはいかぬのでな」
 徹底した隠蔽、潜伏能力を保持するリュグナーと。救出班は、何れも良くぞ揃えたという程度にはうってつけの能力持ち達ではあるが、敵もさるもの、来る事が分かっているのだからまるで対策をしていないとは考え難い。これまた先に舞花の言った通り、敵側の対策能力も不明な現状においては賽を投げてみない事には分かる事が無いのは事実であった。
 ……総じて状況は非常に流動的であると言える。
 流動的という言葉は無論の事ながら、この場合は良い意味では有り得ない。非常に危うく、結果が読めないと言い換えて正しい。
 パーティ側が現段階で有する情報は多くは無く、どうシミュレートした所で、数と戦力に勝るフギン側の裏を掻くのは簡単な仕事では無い。
「敵は結構な数がいるようです。その上、完璧に統率のとれた動きをされてはこちらもひとたまりも無いでしょう」
「『頭を潰す』という作戦が使えない以上、数に劣る吾輩達は不利……此方の切り札は、やはり救出班の隠密行動か。
 計算外の出来事が大きければ大きいほど、此方に有利となるだろうからな」
「おー、任せとけー。暴れて目立つのは得意だぜー」
 冷静に言った弥恵とグレイシアに腕をぶす奏が頷いた。
「ドレジュワール邸から少し離して――逃走用の軍馬は用意しておいたぜ」
「派手に――思い切り、滅茶苦茶にしてやるのじゃー」
 敵の動きがどうあれ、陽動は可能な限り派手に――大きく。救出は静かに、慎重に。その原則論は変わらない。
 パーティとて『全てを救い切れる』と確信はしていないが、一人でも多く――そしてこの十人の無事は絶対唯一のコンセンサス。
 派手に暴れる、という一見して判り易い直球が持つ威力をまずは信じる他は無い。
 細い、細い――張り詰められた糸の上を渡り切り、最良の結果を望むなら。この場の全員が『主役』で無ければハッピーエンドは何処にもない!



「入口はどーん! 最初は目につくものにバーン!っとはでにいくぜー。ぐるんぐるん!」
「たのもーう!」
 場違いな程に堂々としたのは奏の有様。同様に力一杯、精一杯の綺亜羅の声が館に響く。
「わらわはローレットのナマハゲ……精鋭ぞよ人質はいねが~!」
 正面玄関を派手に開け放った『敵』に玄関ホール付近に居た盗賊二人が少しぎょっとした顔をした。
 大胆不敵なるフギンに比すれば、思考真っ当たる彼等はまさかこれ程までに派手に仰々しく『敵』が現れるとは考えていなかったのかも知れない。
「月影の舞姫を名乗るの津久見弥恵と申します。見惚れると怪我をなさいますよ?」
 何処か悪戯気で――蠱惑を帯びた魅惑の口上が、敵の注目を見事に集めた。
 長身のプロポーションに危険な魅力を携えた弥恵はしなやかで危険な舞姫である。
「成る程ね」
 敵の間隙を縫い、サンディが「あっちだ」と仲間にコンタクトを送る。彼の人助けセンサーはこの現場にうってつけ。反応は案の定、館のあちこちに散っており、即座の把握が難しいが少なからず指針を示せるのは大きい。
 陽動班は専ら敵を引き付ける役割だが、同時に解放も出来なければ明らかに手が足りないのは分かり切っている。
「まぁ、とは言え――メインはこっちだ」
 反応良く先制攻撃に出たサンディのSKOZが前方の敵二人を巻き込み炸裂する。
「!?」
「おーあーいむすかーりー。そーあーいむすかーりー。
 おーし、気合が乗ってきたー!」
 大声の鼻歌混じりに床を蹴り、一気に間合いを詰めた奏は『兎に角無茶苦茶な暴力の塊』。
 狂化(あほのこ)のエスプリは伊達では無く、その思考を闘争と狂気に染めた彼女は自身の最も輝くこの舞台を本能的に知っていた。
「吾輩達を、捕まっている特異運命座標と同じと思わぬ事だ」
「――精々期待に応えて派手に暴れなくてはね」
「負けていられない」とは少し違うが……
 早々と熱を帯びた戦場に平素落ち着いたグレイシアの空気も一変していた。

 ――元居た世界には到底及ばぬが……久方ぶりに、本気で暴れさせて貰おう――

 宣告と共に鋭く踏み込んだ彼が振るうのは高い精度を誇る格闘術式。更に冷静な舞花も水月を以て弱った敵を追撃した。
 連携の良い先制攻撃に倒された敵を一瞥、もう一人――それからホールに続く廊下の奥に油断なく視線をやった彼女は考える。
(……メアリ・メアリが遠距離主体のスタイルなら、恐らく長く射程と射界を取れる廊下が主体か)
 読みは鋭く、果たしてその廊下の奥からは新手が次々と現れた。
 盗賊が四人、後方に「へぇ」とニヤつく一人の女――恐らくはメアリ・メアリ。
 館の重要戦力である彼女が比較的入り口近くに配置されていたのはフギンの采配だろうか。
 パーティが『ある程度の力押しを仕掛けてくる』事を読んでいたようでもある。
「あーら、本当に来ちゃったんだ。カッコイー!
 それから、バカみたい。ま、いいわ。アンタ達を捕まえれば、たっくさんご褒美が出るって言うからね?
 愛してるわよ、ヒーローさん達! だからさっさとそこに転がってて頂戴な!」
 手にした短銃にキスをしたメアリがケラケラと笑い出す。
 ……僅かな台詞で性質も性格も良く知れた。
「厄介な」
 零した舞花はメアリの狙いを鋭敏に察知する。
 廊下に詰めるコースを雑兵で塞ぎ、後方火力に陣取る彼女は厄介そのもの。
 よしんばパーティが攻勢を強め、雑魚を散らした所で彼女は後退して別の味方と合流してしまうだろう。
 とは言え、まず主力を引きずり出したのは大いにプラスである。
 これで邸内の戦力は雑兵が九に、フギン、クロックホルム。密度が下がった以上は救出班が動きやすくなったのは確かである。
(……願わくば、これを本命と考えていて欲しい所だがね)
 敵主力の一翼と早々に会敵したこの事態を、グレイシアは一先ずプラスと読んでいた。
 だが、あくまでこれは第一歩。『嗚呼、フギンが力押しを本命と思ってくれているならば全く話は早いのだが――』。

●思考の檻II
 陽動班が派手な展開を見せる一方で、密かに動き出したのが救出班である。
 元より目立ち、見つかる事が狙いの彼等とは異なり、ノリア、津々流、リュグナー、エリザベートに求められるのは隠密性と素早い救出である。
 早晩に物質透過で侵入した大部屋の一つで人質の一人を見つけたパーティは静かに彼の縄を解く。
(しっかりして、もう大丈夫だから)
 彼だけに伝わるような小さな声でそう告げた津々流が半死に近い状態で縄目を受け、ぐったりしていた人質の傷を癒やす。
(……しかし、酷い事をするね……)
 呻きながらジェスチャーで謝意を示したローレットの仲間に「気にしないで」と首を振る津々流は少なからぬ憤りを覚えていた。
 メッセンジャー役のシャーロットはそこまで酷い状態ではなかったが、明らかに暴行を受けている彼の状況から察するに、敵の狙いは『人質の逃走能力や戦意戦力を徹底して殺いでおき、救出者たるローレットのメンバーの足手まといにする事』だろう。
 フギンの采配は戦場において兵士は殺すよりも傷付けた方が合理的という冷たい理屈に根ざしているかのようであった。
(……全く、これだから悪党は……)
 気配を極力殺し、赤い両目の透過の視線を扉の向こうへ注いだエリザベートが合図を送る。
 見張りはこの部屋の外におり、移動経路、逃走経路の邪魔になるのは間違いない。
(……どかない敵は、排除しておかねばいけませんの!)
 愛らしい表情に精一杯の気合と戦意を乗せたノリアが頷き、壁を抜ける。
「――なっ!?」
 全く不意を突かれた敵兵は不意に抱きついてきた彼女をまともに受け止め打撃を受ける。
 殺傷からは程遠いノリアの『攻撃』だが、
「悪いが早晩にご退場願おうか」
 気配消失を利用して潜んでいたリュグナーが二重に不意を打ては話は別だ。
 こちらは殺傷力十分なエリザベートの魔力撃が腹部を抉れば話は別だ。
 救出班が戦力を束ねれば混乱する歩哨を倒す位は難しい話では無かった。
「倒したのです」
「やりましたの」
「まずは一人解放したが……話はこれからだな」
 ノリアとハイタッチをしたリュグナーは『一人』という部分に引っかかりを覚えていた。
 人質を纏めて置けば敵側も管理がしやすい筈である。更に戦力を集中させて守る事で強襲への防御力も上がる筈だ。
 しかし、各種探査による結果を見ても人質は『多くのポイント』に存在している。
 敵は敢えて多数の有利を捨て、パーティに『時間を使わせる事』を選んでいるかのようであった。
「……嫌な予感がするのです」
 敢えて口にしたエリザベートの言葉が重く響く。
 知将を気取るフギンの狙いはまだ分からない。だが、この仕事が何事も起きずに終わると信じられる者は居なかった。

●思考の檻III
「はっは! やるねぇ、アンタ達!」
 銃声に乗ったメアリの軽口が前に出たグレイシアを叩く。
「特にそこの渋み掛かったいい男! 何ならフギンにじゃなく、私にトレジャーハントされてみない?」
「戯言を」
 美しい海洋種の女の流し目に苦笑で応えたグレイシアは傷付けられながらも何とかこれに耐えていた。
 陽動班と盗賊戦力の対決はやや数と質に勝る陽動班が徐々に戦況を押し込んでいた。
 メアリと彼女の指揮を受けた盗賊達はイレギュラーズを何度か傷付けたが、彼等の攻撃は集中攻撃というよりは満遍無くダメージを与えていたという状況に近い。故に盗賊側は更に二人が倒されたが、パーティ側は未だ誰も倒れていない。
「……頃合か」
 ふと静かに呟いたメアリーが合図を出すと盗賊達が廊下の方へ一気に下がった。
「押し込むぞ!」
 人助けセンサーがサンディに告げた『反応』はその先に救うべき人質が居る事を意味している。
 後退の気配を見せたメアリー一派は追撃し、道すがらのゲストハウスで人質を解放した陽動班に構わず、廊下の角の向こうへ消えていた。
「これでこっちも一人。救出班が何人助けたかにもよりますが――」
「――こちらよりは手早く済ませていると考えて、二人は期待したい所だわ」
 弥恵の言葉に舞花が頷いた。
 救うべき人質は合計で七だから、少なからず前進した事は間違いない。
 進撃するパーティは邸内の探索を続けていた。散発的に盗賊達に遭遇する事もあったが、彼等の多くは強く戦闘を行わず逃げを打つ事が殆どだった。
 更に一人を解放してこれで此方側が二。救出班次第では過半数の生存という第一条件は見えてくるのだが……
「なーんか、張り合いが無い感じ!」
 想定していたよりも緩い抵抗に奏は力を持て余しているようだった。
 捕まっていた人質は何れも酷く痛めつけられており、非常に芳しくない有様だった。
 救出班と同じく相応の憤りを隠せない陽動班にとって戦意の低い――そう見える――盗賊達は中々フラストレーションの溜まる存在であった。
「やる気がないならば蹂躙してやれば良いのじゃ!」
「ま、遠慮出来る場面でもねぇ。全員救うんだ。
 弱い後輩だろうが、弱った仲間だろうが。見捨てちゃならねぇんだからよ……!」
 綺亜羅の単純な結論にサンディが強く同意した。
 誰もに見捨てられ苦しんだ事のある彼だからこそ、分かる。
 彼だからこそ、誰かを選んで見捨てる事等、到底出来なかった。
「さて、次だ。兎に角、何が起きるか分からん。急がねば」
 グレイシアの言葉に一同が頷いた。
『依頼の達成条件は過半数の特異運命座標の生存と、特異運命座標が一人たりとも生きた儘、フギン・ムニン軍に囚われないこと』だが。『その第一の目標を達成した所で止まるような者はこの場所には居ない』。
 そして――その心情を誰より理解せず、その行動を誰より確信していたのは、フギン・ムニンその人だった。

●思考の檻IV
 邸内いたる所に散らされた人質達はその実――まるで理想的な導線を描くように準備されていた。
 邸内の奥へ、奥へ誘い込むように。脱出の容易な出入り口付近、窓際――そういった場所から引き離すように慎重に。
「あんまり戦っていませんの……」
 普通ならば見張りはきちんとつける筈だ。少数の別働隊にいいようにやらせるのがフギンのやり方とは思えない。
 碌な戦闘も起きず、三人目までを解放した時点でノリアは直感的に呟いた。
「……これって、まるで釣りみたいですの……」
 海種たる彼女がそう言えば説得力は抜群だ。
 当たりが来ても直ぐ様に引き上げようとするのは下手のやり方である。
 玄人はバラさないようにじっくりじっくり時間をかけて、状況を見極め――針が深く食い込んだとみるや否や引き上げる。
 特殊な移動能力を持ち、逃走手段、隠密手段に優れる救出班を捉える事は至難の業だが、そういった特殊性の無い陽動班は話が別だ。
 詳細こそ分からないが、探査を見ても『邸内の中心から円を描くように敵が動きを見せている』。
「最初から、狙いが彼等だとしたら――」
「――事態は最悪だ」
 津々流の言葉をリュグナーが繋ぐ。
『あちら』が何人助けたかは知れないが、フギンの狙いが彼等が思った通りなら。
 邸内奥深くまで誘い込まれた陽動班は恐らく十分に温存された敵部隊に囲みを受ける。
 元の戦力で劣るならばこれは最悪の事態を極める事になろう。
「――合流するのです!」
 鋭く言ったエリザベートの判断は、救出班の判断は早かった。
 退路を進むよう、解放した人質達に告げて――自身等は邸内の中心を目指す。
 そこには更なる人質が居るだろう。そして、そこに大きな危機があるのも明白だった――



「ようこそ、『我が屋敷』へ」
 不敵な薄ら笑いを浮かべた男が言う。
「招かれた客にして、招かれざる客よ。我が王に弓引く、愚かにして愉快な諸君よ。
 余興を愉しんで頂けたようで何よりです。
 まぁ、短い付き合いです。推測に過ぎませんでしたが――
 貴方方の性格上、『途中でお帰りになる』とは思っておりませんでしたがね」
 結論から言えば、パーティは警戒が余りにも甘かった。
 この依頼は救出依頼である。ローレットの目的は『囚われたイレギュラーズを助け出す事』。しかしながら、パーティは囚われたメンバーに比して強力な自分達の実力もあってか、『自身等の安全に余りにも無警戒過ぎた』。フギンの目的は最初から既に捕まえた雑魚ではない。彼は最初から救援に来るより強力なイレギュラーズを網にかける事だけを考えていた筈だ。そうでなければこの依頼自体が成り立っていないのだから。
 陽動班は常に暴れ続ける必要があった。救出班の為に敵を減らし、目立ち続ける必要があった。それは間違いない。
 だが、状況を疑わず、敵の狙いが主に自身等である事への警戒を怠りすぎたのも事実だ。やや前のめり過ぎた事が否めない。元より罠に飛び込む覚悟がありながら、予めそうと決めた安全対策が殆ど無かったのは致命的である。
 敵はパーティが撤退しないように努めていた。その疑いを持っていたならば存在する罠にもう少し早く気付けただろう。
「鮮やかなお手並でした」
「褒美は十分に貰うわよ」
「ああ、良くやってくれた。王もこの結果には喜ぶでしょう」
 邸宅中心部の地下、ワイン貯蔵庫に続く大部屋。イレギュラーズを出迎えたのは四名の盗賊を従えたクロックホルムだった。
 振り返ったパーティの視界に飛び込んできたのはメアリ・メアリ。隣の部屋から悠然と姿を現したのはフギン・ムニンである。
 敵はイレギュラーズが倒した数名の盗賊を除いたこの屋敷の最高戦力である。やはり、イレギュラーズが自身等の防衛に無頓着だった事は否めない。逃走能力の無い面子が袋小路に追い込まれれば、逃げ場は最早何処にも無いのだから。
「絵に描いたような罠って訳ね……」
「……笑えない事態ですね」
 舞花の言葉に弥恵の乾いた声が重なった。
「降伏をお勧めしますが、如何でしょうか?」
 心にも無い風にフギンが笑う。
「冗談! 死亡上等拉致上等、漸く面見せたのじゃ。覚悟せい!」
「捕まえるつもり? 捕まる気は無いけど、捕まえるって言うなら、なんだかワクワクする!」
 足掻くという意味で簡単に敵の言葉に折れるような者は居ない。
 取り分け、案の定――綺亜羅や奏の戦意は高く。紆余曲折を経てゼロか一になったこの局面にいっそ楽しそうですらあった。
「さて、正念場だな。言った筈だぞ。吾輩達を侮るなと」
 姿勢を低く落とし、目を細めて――グレイシアは戦闘態勢を取った。
「この程度で諦めてたまるかよ」
 言わずもがな。最初から是非も無い。この先、地下の人質を見捨てる事は最初からサンディの結論には無かったからだ。
「交渉は決裂ですね。では、少し痛い目に合って頂きましょうか」
 フギンの言葉に応じ、盗賊一派がそれぞれに戦闘態勢を取った。
 三方から攻められるイレギュラーズはお互いが背中合わせになり、目を見開いた。
 この瞬間、フギン軍は勝利と目的の達成を確信していただろう。それは僅かな隙にして大いなる間違いである。別働隊の存在を理解していながら、僅かばかりに『緩んだ』彼等が今度はつけを払う番になる。
「情報屋にとって最も価値のある『情報』を、貴様らにくれてやる訳にはいかぬのでな」
「!?」
 リュグナーの声と共にメアリ・メアリ隊を悪意の霧が包み込む。
 息を呑み、振り返った彼女の眼前に迫るのは小柄な肢体、揺れる銀色。
「突破を――お願いするのです!」
 乾坤一擲のエリザベートの一撃が廊下側後方に陣取ったメアリ・メアリの腹部を真っ直ぐ貫く。
 不意を打った完璧な一撃(スマッシュヒット)にさしもの彼女もぐらりと揺らめく。
「……んなっ、こむ、すめッ――!」
 憎悪の視線を投げた彼女に救出班は構わない。
 ここが勝負、最後のチャンスと全ての力を尽くすばかり。
「こっちですの! こっちを、見るですの――!」
 声も枯れんと叫んだノリアの『隙だらけ』な有様に、盗賊達の注意が向いた。
 ギリギリの所で果たされかけた『合流』は完璧に見えた敵の包囲を緩ませ、
「今の内に――兎に角、こっちへ!」
 同じく声を張った津々流の呪縛がメアリ・メアリを縛り上げた。
「……っ、クロックホルム!」
「――は!」
 残る二隊が動き出す。
 もうこの機以外に逃れる以外は無い。逃れられなければ、全滅は必至だった。
 グレイシアが強引に前を突破した。舞花がそれに続き、弥恵が――
「させませんよ」
 ――フギンに阻まれたかに見えた瞬間。
「――行けッ!」
 サンディの衝術が横合いから彼を吹き飛ばした。
 壁に激突する彼は視線を遅れたサンディ、綺亜羅、奏にやり――端正なマスクから余裕を剥がして部下に声を発した。

 ――逃がす事は許しませんよ!



 最早、全滅を避けるならば逃げる以外の選択肢は残されてはいなかった。
 思考の檻――ドレジュワール邸から逃れる事に成功したのは人質が五人に……イレギュラーズが七人。
 五人取り返し三人囚われた結果はイレギュラーズの奮戦を示していたが、この結果はローレットに衝撃を与える事となる。
 敵地に残された彼等の運命は――まだ知れない。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

御幣島 戦神 奏(p3p000216) [不明]
黒陣白刃
サンディ・カルタ(p3p000438) [不明]
アニキ!
一条院・綺亜羅(p3p004797) [不明]
皇帝のバンギャ

あとがき

 YAMIDEITEIです。

 こちら夏あかねSDの代筆になります。まずはご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。

 判定事由等は極めて親切に劇中説明していると思いますので割愛いたします。
 敵に明確な狙いがある場合、結果の引き合いという状況は時に生じます。
 本件につきましては明確に依頼のトリガー自体が罠であるという状況がオープニング時点より明示されておりましたので、こういう結果となりましたが、奮戦自体はご立派だと思いました。(この依頼の場合、元よりの不利がありますので、四人助けて残りを見捨てて逃げる、が最も目が大きく安全な解法だと思いますが、そう考える事は色々な意味で困難という意味で劇中通り、フギン・ムニンはかなり悪辣な人物だという事なのでしょう)

 囚われたのは三人。
 こちらは『不明』ステータスとなりますが、命運はこの後の展開に委ねられます。
 予め述べておきますが『この後全般、本当に主に私が判定します。生きて帰れる保証はない』です。
 ただし同時に『未来は切り開くものであり、必ず死ぬ訳でもない』事もお伝えしておきます。

 シナリオ、お疲れ様でした。

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