PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

本日のゆづさや

関連キャラクター:結月 沙耶

怪盗少女VS物乞い少女(偽)
 それは、冷たい風が吹く、とある真昼の出来事だった。
「そこのお姉ちゃん……ちょっと待ってください……私に、私にお金を恵んでください……」
「ん?」
 食料の調達に出た町の帰り道、沙耶は突然、路地裏に座り込む儚げな少女に声をかけられたのである。
「私……お父さんもお母さんも死んじゃって……食べるものも、お金もないの……お腹がすいた……だから、ほんんのちょっとでいいの、お金を恵んでください……」
 沙耶はじっと少女の全身を観察する。
「ん、断る。それでは」
「ちょっと待ってちょっと待って」
 そのまま普通にその場を立ち去ろうとした沙耶の足首を、凄まじいスピードで這ってきた少女が掴む。
「放してくれ」
「いや、だからその……私……お父さんもおかあ」
「お父さんもお母さんも死んじゃってな、うん。食べるものもな。うん。はいはい。はいはいはいはいはいはいはい」
「渾身の泣き落としを遮らないでお姉ちゃん」
 普通に泣き落としって言ってきたなと沙耶は思った。
「少し……ほんと少しでいいから……ほんと、ほんとマジで……ほんとマジちょっとでいいから……お願いお姉ちゃん……」
「いやだから断るって。君、本当はそんなお金に困ってもないだろう? そして両親が死んでいるというのも嘘だな。汚いように見えるけど、その服の細かい部分とか、髪とか、その辺りを見れば大体わかる。しかも私が今現在食料を抱えているにも関わらず、君は金銭しか要求しなかった。あと元も子も無い事を言うと人助けセンサーに全く引っかかっていない」
「ふぅー……分かった。分かったよお姉ちゃん。ちょっと待ってて。ハァ、全く……」
 少女は地面を這いつくばったままやれやれとため息を吐いた。沙耶はなんだこいつと思った。
 そして少女は這いつくばったまま路地裏に消えると、這いつくばったまますぐに現れた。
「もうバレてるから立ってもいいんだぞ」
「ほら、これ見て。これ。これ読めば分かるから」
 少女が這いつくばったまま差し出してきたのは、1冊の分厚い本であった。
「なんだこれ」
「自伝。私の悲しい半生を生々しい描写と共に書き連ねた自伝。これを読めば如何に私が悲劇的な人間かが分かって、お金をあげたいなって気持ちになるから。だから読んで」
 沙耶は無言で這いつくばった少女の脳天に自伝を投げ落とした。
「イッタッッッ!! よくも儚げな美少女の儚げな脳天に、無駄に分厚い本を投げましたね!! 慰謝料払ってください慰謝料!! さもなきゃパパに言いつけますよ!!」
「ハァー……仕方ない……」
「あ、今からお金くれる感じですか? 毎度あり!!」
「いや、私これでもイレギュラーズだから。結構強いから。普通に殴ろうかなって思ってた。貧乏のフリしてるのって、よくよく考えたらムカついてきたし。よし、殴ろう」
「ヘヘ……まあまあ……冗談じゃないですか……へへ……私カーラっていいます……へへ……どうかこの場はお目こぼしを……」
 卑屈な笑みを浮かべ、這いずりからぬるりと土下座に移行した少女を冷たい目で見降ろし、
「実に……無駄な時間を過ごしてしまったな……」
 と、呟く沙耶であった。
 冷たく吹いていた風が、更に冷たく肌に染み入った。
執筆:のらむ

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