PandoraPartyProject

幕間

本日のゆづさや

関連キャラクター:結月 沙耶

リトル・リトル・サン。或いは、ヒマワリの妖精…。
●常夏の畑
 再現性東京。
 とある川辺に少女が1人、佇んでいる。
 彼女の名は結月 沙耶。冷たい風に踊る髪をそっと抑えて、彼女は虚空へ手を伸ばす。
 ふわり、と。
 指し伸ばされた手の平に、ぽうと淡い光が乗った。
 それは風に運ばれやって来た。淡い燐光の向こう側に、太陽のように広がる黄色い花弁が見えた。腕のように左右に広がる葉を揺らし、黄色い花をきょろきょろと左右に動かして、それは……ヒマワリの妖精は、自分の居場所を確認しているようだった。
「ようこそ、私の領地へ。夏の終わりから、長い旅を続けて来たんだろうね」
 細い指で、そっと妖精の花弁を撫でる。
 それから沙耶は踵を返し、川辺の隅に作られた小さな畑へ妖精を運んだ。
 畑の周辺は温かい。
 当然だ。畑一杯に飢えられた、ヒマワリの妖精が夏の間に蓄えた陽気を発散しているのだから。
 太陽にも似た暖かな光に誘われて、沙耶の手からヒマワリの妖精が飛び立った。仲間たちのいる小さな畑に、その根を降ろすつもりなのだろう。
 けれど、しかし……。
「おっと、待ってね」
 沙耶は慌ててヒマワリの妖精を捕まえる。
 それから彼女は、ヒマワリの妖精に顔を寄せ、囁くようにこう言った。
「ここは私の畑なんだよ。根を張りたいって子には、太陽の種を提供してもらうことになっているんだ」
 持ってるよね?
 そう問う沙耶の手の平に、ヒマワリの妖精は小さな種を幾つか零した。
 以上のようにして“リトル・リトル・サン”は補充されているのである。
執筆:病み月
怪盗少女VS物乞い少女(偽)
 それは、冷たい風が吹く、とある真昼の出来事だった。
「そこのお姉ちゃん……ちょっと待ってください……私に、私にお金を恵んでください……」
「ん?」
 食料の調達に出た町の帰り道、沙耶は突然、路地裏に座り込む儚げな少女に声をかけられたのである。
「私……お父さんもお母さんも死んじゃって……食べるものも、お金もないの……お腹がすいた……だから、ほんんのちょっとでいいの、お金を恵んでください……」
 沙耶はじっと少女の全身を観察する。
「ん、断る。それでは」
「ちょっと待ってちょっと待って」
 そのまま普通にその場を立ち去ろうとした沙耶の足首を、凄まじいスピードで這ってきた少女が掴む。
「放してくれ」
「いや、だからその……私……お父さんもおかあ」
「お父さんもお母さんも死んじゃってな、うん。食べるものもな。うん。はいはい。はいはいはいはいはいはいはい」
「渾身の泣き落としを遮らないでお姉ちゃん」
 普通に泣き落としって言ってきたなと沙耶は思った。
「少し……ほんと少しでいいから……ほんと、ほんとマジで……ほんとマジちょっとでいいから……お願いお姉ちゃん……」
「いやだから断るって。君、本当はそんなお金に困ってもないだろう? そして両親が死んでいるというのも嘘だな。汚いように見えるけど、その服の細かい部分とか、髪とか、その辺りを見れば大体わかる。しかも私が今現在食料を抱えているにも関わらず、君は金銭しか要求しなかった。あと元も子も無い事を言うと人助けセンサーに全く引っかかっていない」
「ふぅー……分かった。分かったよお姉ちゃん。ちょっと待ってて。ハァ、全く……」
 少女は地面を這いつくばったままやれやれとため息を吐いた。沙耶はなんだこいつと思った。
 そして少女は這いつくばったまま路地裏に消えると、這いつくばったまますぐに現れた。
「もうバレてるから立ってもいいんだぞ」
「ほら、これ見て。これ。これ読めば分かるから」
 少女が這いつくばったまま差し出してきたのは、1冊の分厚い本であった。
「なんだこれ」
「自伝。私の悲しい半生を生々しい描写と共に書き連ねた自伝。これを読めば如何に私が悲劇的な人間かが分かって、お金をあげたいなって気持ちになるから。だから読んで」
 沙耶は無言で這いつくばった少女の脳天に自伝を投げ落とした。
「イッタッッッ!! よくも儚げな美少女の儚げな脳天に、無駄に分厚い本を投げましたね!! 慰謝料払ってください慰謝料!! さもなきゃパパに言いつけますよ!!」
「ハァー……仕方ない……」
「あ、今からお金くれる感じですか? 毎度あり!!」
「いや、私これでもイレギュラーズだから。結構強いから。普通に殴ろうかなって思ってた。貧乏のフリしてるのって、よくよく考えたらムカついてきたし。よし、殴ろう」
「ヘヘ……まあまあ……冗談じゃないですか……へへ……私カーラっていいます……へへ……どうかこの場はお目こぼしを……」
 卑屈な笑みを浮かべ、這いずりからぬるりと土下座に移行した少女を冷たい目で見降ろし、
「実に……無駄な時間を過ごしてしまったな……」
 と、呟く沙耶であった。
 冷たく吹いていた風が、更に冷たく肌に染み入った。
執筆:のらむ
ひとりじめ
 ヘイト・スピーチを想わせる、ロクでもない、忌々しいほどの自業自得で在った。食物を掲げ、煙へと失せる『それ』に絶望する事すらも出来ない、餓鬼の戯言に誰が手を伸べると謂うのか。只管と善意を並べたところで、ぬくもり、倒れ臥したオマエには齎されないだろう。インスタントな楽園を振り撒いた結果、オマエ自身が解脱不可能だとは滑稽な話ではないか。兎角、鳴いている、ころころと、ごろごろと、腹の虫が嗤っている。食べなかったオマエの所為だ、飲まなかったオマエの所為だ。まったく、イエス・イエスと喧しい……。
 涎なのか胃酸なのか、両方なのかは解せないが、ぬるりと咽喉へと這入っていく。無意識的な引っ掛かりにゲホゲホとやれば、ぐるり、オマエの眼球は忙しなく回転していく。嗚呼、これはきっと夢なのだろう。見渡す限りの甘いものは女の子の幻想なのだから――たっぷりのクリームで包まれたスポンジ、シロップめいてオマエは身投げした。もふんと跳ね返った心地良さは、きっと、オマエの死を表現しているのだ。口を開ける。此処には最早「怪盗リンネ」なんて見当たらない。ただの結月、オマエが僥倖に弄ばれている――。
 遠い、遠い、何処かで何者かが絶望していた。近い、近い、何処かで何者かが哄笑していた。がばりとクリーム塗れなオマエは起き上がり、その、破滅的な『おと』へと全神経を集らせる。わかった。これが地獄からの招待だろうとも、夢幻の与えた試練だろうとも、針の筵を往くのが『おひとよし』の証――これまでも、これからも、皆を救う為に。
 空中散歩と洒落込もうではないか。
 庭園の美しさに中てられるのも悪くはない。

 嗚呼――何故だろうか、ヤケに懐かしい記憶を掘り起こされた気分だ。頭の中で今日の依頼内容を反芻する。子供達の為に『ケーキ』を作り『プレゼント』を配る、そんな、優しさいっぱいの現実だ。甘い甘いクリームに舌を沈めて、笑みをこぼす……。
 ごくり、虚無めいた、筆舌に尽くし難い、落とした魚の影……。
執筆:にゃあら

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