PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

サイボーグ

関連キャラクター:チャロロ・コレシピ・アシタ

どっちつかずなこの手を
●疑問
 人間と、人間じゃない存在の違いとは、なんなのだろうか。
 これが、最近のオイラの思考回路を支配している疑問だった。
 そんな疑問を抱いた、はっきりとしたきっかけは覚えていない。けれど、とても些細な出来事が積もりに積もった結果だとオイラは思う。

 それは、例えばいつまでも変わらない自分の身体だったり。
 それは、例えば切れた指の先からチラリと見える機械のパーツだったり。
 それは、例えば普通の人が普通に使うグラスやカップを、無意識に壊してしまった時だったり。
 それは、例えばみんなが綺麗だと言って仰いだ青空を、オイラも仰いでみた時だったり。

 どれもこれもが、些細な事。だけど疑問が浮かんでしまったのだから仕方がない。
 オイラはどうにかこの疑問が解消できないもんかと、色んな本を読んでみた。けれどすぐに、きっとその中に答えはないのだと気が付いた。
 例え本の中に答えが書かれていたとしても、今のオイラじゃそれに気が付けないだろう、とも。なんでか分からないけど、そう思った。
「よし……行こう!!」
 オイラはノートとペンを手に、部屋を出た。疑問があったら、人に聞いてみよう。
 幸い、オイラの周りにはたくさんの人たちがいる。

●Q&A
 Q:「人間と人間じゃない存在の違いって何だと思いますか?」
 A:「思考能力の有無では? いやしかしそうなると思考さえ可能ならなんであれ人間という事に……ブツブツ……」(研究者風のお姉さん)
 A:「俺から言わせりゃあ、酒が嫌いな奴は人間じゃねぇなあ! ガハハハハハハ!」(酒場に居た酔っぱらいのおじさん)
 A:「ほう、面白い事を聞くね……!! でも答えは簡単さ……!! 愛を! 愛を!! 愛をその胸に宿しているか否か、さ……!! 分かったかい少年……?」(金髪イケメン風のイレギュラーズのお兄さん)
 A:「四足歩行か二足歩行かとか?」(黒くて大きい犬のイレギュラーズさん)
 A:「え…………分かんない…………」(ソフトクリームを食べていた女の子)

「うーん、うーん……逆に分からなくなって来たぞ……」
 オイラは自分が全身機械のサイボーグだから、生身じゃないから。どこか普通の人間とは違う。そんな前提で話を聞いていた。
 けれどオイラは思考能力はあるし、まあお酒は飲まないけどあのおじさんはちょっと違う気がするし……愛は、んー。多分胸に宿してる? のかな? あと二足歩行だし!
 じゃあ、オイラはちゃんとしっかり完璧に人間? いや、でもなあ……。

 Q:「オイラは全身改造したサイボーグなんですが、人間だと思いますか?」
 A:「サイボーグならサイボーグなのでは?」(研究者風のお姉さん)
 A:「サイボーグ! そりゃいいなあ。俺もカンゾーをカイゾーしたらいくらでも酒飲めるようになんねぇかなぁ、ガハハハハ!!」(酔っぱらいの人)
 A:「ふむ、なるほどそういう事かい……!! なるほどなるほど……!! しかしそれも愛!! 結局愛さ少年!! 例え人間でなくとも愛を胸に宿せばなんの問題もないさ!!」(愛の人)
 A:「二足歩行なら人間じゃね?」(黒犬イレギュラーズさん)

●正解がどちらだったとしても
「え、結局どっち……? お姉さんと愛の人はさっきと言ってることが微妙に違うし……いや、まあオイラ自身そこまで気にしてる訳でもないけど……」
「あ、お兄ちゃん!!」
「え?」
 声をかけられ、振り返る。そこにはさっきのソフトクリームの女の子が居た。
「お兄ちゃん、いれぎゅらーずなんでしょ! 前にお父さんが助けて貰ったって言ってたよ!」
「君のお父さんが? えっと……」
 女の子が指さす先に、1人の男性がいた。オイラに向かって深くお辞儀をしていた。
 どの依頼だろう。こっちに来てから色んな依頼を受けてきたからなあ……悪人を成敗したり魔獣を討伐したり……他にもいろいろ……。
「ありがとうございました!」
 女の子がペコリと頭を下げる。どうしようかと一瞬だけ迷ったけど。オイラは。
「……どういたしまして! もしもまた困った事があったら、いつでも頼っていいからね!! お父さんにも、そう伝えておいて!」
「うん! ありがとうお兄ちゃん!! またね!!」
 手を振り、笑顔で走り去っていく女の子。オイラも手を振り返す。

 完全に姿が見えなくなった所で手を止めて。オイラはじっと自分の掌を見た。
 その手は、どこからどう見ても人間のもの。けれどその中身は金属、配線。機械で出来ている。
 だけど。その手が人間のものであったとしても、サイボーグのものであったとしても。オイラは何も変わらない。この身体が何で出来ていようとも。目の前に助けられる人がいたのなら。オイラはきっと、どっちつかずなこの手を差し出すだろう。
 それがオイラ。チャロロ・コレシピ・アシタだ。

「結局、はっきりとした答えは出なかったけど……うん。ま、いいか」
 ノートとペンを懐にしまう。そして大きく伸びをして、歩き出す。オイラの胸は、不思議な満足感に包まれていた。
「明日からも、いつも通りやっていこう」
執筆:のらむ

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