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文化保存ギルド

PPP一周年記念SS『街角の日常』第一稿

 大国、幻想に存在する巨大ギルド、ローレット。
 日々舞い込む依頼を掴もうと押しかける者、それを心配そうに見送る者。競い合うように出発する者、報告書の完成とともに空中庭園へ駆け出す者。
 人種、性別、年齢、有機物も無機物も問わない。石造りの町並みに群雄割拠、ともすれば百鬼夜行のようにも見える喧騒を、満天の星空が見ていた。
 そのローレットにほど近い『街角』としか呼ばれない場所。暇を持て余した救世主、イレギュラーズのたまり場は、乱雑に木箱や、割と使用頻度の高い井戸があるだけの場所。
「どっこらしょ、今夜はまだ誰も居ないみたいね」
 瞳から薄い光の尾を引きながら、紫色の髪の少女が妙に疲れを孕んだ声でそのへんの木箱に腰掛けた。踵まで浮いてしまっているが、膝に手をおいて座る。
 空に視線を移しながらそうぼやいて、脚をゆらめかせ、思索にふける。どんな仕事を受けるか、ハンマーは使うか、そういえば彼を最近見ない、スマホがほしい、神はどこにいるのか。
 星がまたたく度に議題が変わり、町中の活気で形を変える。少し前までの自分はすっかり忘れていた、この時間が、たまらなく好きだった。
「おや、今日も早いお出ましで。こんばんはだね」
 そんな『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)に声をかけたのは『ワンダラー』カーネリアン・S・レイニー (p3p004873)だ。ボロの外套を目深にかぶった姿はイーリンと同じ旅人を彷彿とさせるが、向かい合い座ればその背の高さはモデルのようで、イーリンと違いしっかりと地に足がついていた。
「ええ、ごきげんよう。そっちも一人かしら」
「あいにくあたしみたいなのを連れ歩く趣味の人間はまだ見つかっていないからね。そっちこそ、今日は女連れじゃないのかい」
 イーリンはため息をつき、肩をすくめる。
「ええ、この前腹をざっくりとやられてからちょっと懲りてね。一人の時間も悪くないわ」
「それはそれは、ご苦労なことで」
「まぁイーリンはいい女だからな。放置しておかないのも納得だ」
「うわ」
「うわって何だよ、私でも傷つくぞ」
「はは、噂をすればおでましで」
 イーリンのそばに顔を出してきた『未完の剣士』天之空・ミーナ(p3p005003)へカーネリアンが会釈する。軽く頬を膨らませて講義する彼女に、イーリンは慣れた様子で、こっちに座りなさいなと隣を叩いた。では遠慮なくと拳一個分、きっちりあけて座るミーナを見ながら、イーリンは唇に人差し指を近づけ話す。
「そうは言っても突然横に来たら驚くわよ。ここがスラムだったら殴り飛ばしてるわよ」
「大丈夫だ、その時はちゃんと避ける」
「そうじゃないでしょうにもう」
 ため息混じりに言うイーリンとミーナのやり取りに、カーネリアンはくっくと笑う。
「で、挙式はいつやるのかな」
「しないわ」
「いつでも」
 同時に真逆のことを言った二人に、カーネリアンは機嫌良さそうに頷いた。
「なになに、楽しそうにしてるけど何かあったの。ってセンパイとミーナか。大体察しがつくってやつだね」
「やあミルヴィ。ご明察だよ」
 騎獣を繋いできた『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン (p3p005047)が駆け寄って、面子を見るなりそう言うと、カーネリアンが頷く。
「ごきげんようミルヴィ。別に大したことではないわ」
「挙式は大したことだと思うんだが」
「そうじゃないでしょう」
「はいはい、ミーナもあんまりセンパイを困らせないの」
 ミルヴィはミーナと逆側に陣取って腰掛ける。
「あ、センパイ。夕飯今夜どうするの。どうせ食べてないんでしょ」
 人差し指をくるくる回しながらイーリンに流し目を送り、にっと口元に笑みを浮かべる。
「失礼な、食べたわよ。ほら、あれ、えーっと。昼間に干し肉と水を」
「ソレは食べてると言わない」
「街にいる時くらいちゃんと食べないと、もうセンパイ一人の体じゃないんだから」
「私は料理の代わりに添い寝をするからアフターケアもばっちりだな」
「ええい食べないといけないのには同意するけどその言い方は妙に誤解を招くからやめてくれないかしら。あと添い寝は必要ない」
 両手に花状態で身動きが取れず、せめてもの抵抗と背筋を伸ばしてしかめっ面で早口のイーリンを見て、二人して笑う。
「おや、イーリンの隣は今日も予約席でいっぱいのようだ。こんばんは」
「そのようだね、レイヴンも仕事帰りかな」
 カーネリアンがやってきた『放浪カラス』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)を見て。ようやくこの街角に男っ気がでてきたと冗談めかす。
「まあね、仕事帰りにイーリン達を見ておこうと思ったけど、相変わらずのようで」
「背中側とか正面がまだ空いてるんじゃないかい」
「肩車という手もあるね」
「待て、イーリンに肩車をしてもらうなら私がいい。飛べるから首に負担もかからないし」
「ふむ、それならワタシも飛べるから負担に関しては同じか」
「そういう問題でもないでしょうに。というかしないわよ」
 レイヴンもごきげんようと手を振るイーリンと、肩車に対抗心を燃やすミーナ。そしてミルヴィはレイヴンを肩車するイーリンを想像して顔を背けた。
「やあやあ、つまり後は椅子役があれば立体的な皇帝十字の陣形になるわけだね。四十肩の身としてはぜひとも遠慮したいところだ」
 ホワイトノイズ混じりの声をしたモノトーンの男『モノクローム・ウィスパー』アリスター=F=ナーサシス(p3p002118)がとぼけた顔でそう言うと、レイヴンが頷く。
「やるとしたら必然体が丈夫な男性陣にお役目が回ってくるだろうね。アリスターも肩を使わなければやれるのでは」
「肩を使わない姿勢って多分頭で支えて尻を突き上げるよね。坐骨神経痛が怖いなぁ」
 二人の軽口にイーリンは突っ込む気も失せたとため息をつく。
「おおよしよし、センパイもツッコミが追いつかないね。どうする、甘えておく」
 不用意な接触を嫌うイーリンの頭の上で撫でるフリをするミルヴィに、いいわよ別にと拳を握ったり開いたりして抗議すれば残念と楽しげに引き下がる。
「ふむ、他人を甘やかす余裕があるのならメニューが軽すぎたか」
「あら、ラルフも。ごきげんよう」
「げっ、クソ師匠」
 一転してミルヴィが顔をしかめたのは長身で精悍な中年男『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)が皮肉交じりのいい笑顔を浮かべていたからだ。やあ親友、とラルフはアリスターと挨拶を交わす。
「何、メニューを守った上での余暇だから自由にしたまえ。その成長は嬉しい誤算だ」
「いやいや十分キツいからね。アタシもかなり頑張ってるっていうのをずっと見てたよね」
「それはそうだが、君のセンパイに追いつきたいからと先日泣きついてきたのは」
 ミルヴィが悲鳴にならない悲鳴を上げて、ラルフの股ぐらめがけて蹴り上げたが当然のように回避する。思春期の女の子にそういうこと言っちゃだめだよとけらけら笑うアリスターに、なになに当初の目的を見失ってしまうより良いさとラルフは、中年二人は談義する。
「ぐぬぬ」
「はいはい、ミルヴィも大変ね。どうする、甘えておく」
 ミルヴィに言われたことをイーリンが冗談めかして返すと、遠慮なく肩をくっつけてくる。そしてそれを半目で見るミーナ。
「拳一個近づいていいわ」
「ん、うん」
 結局両手に花。平和だねぇ、といつの間にか六人も集まっている街角でカーネリアンとレイヴンが他人事のように頷いた。
 こうしていつの間にか人が集まり、誰彼構わずつるんで喋るのがいつもの日常だ。街角は今日も
「うわぁあああああああああ」
 声を裏返らせて、飼い猫が驚いて家具をなぎ倒しながら逃走するように街角に走り込んで来たのは、イーリンと同じ紫髪の『こそどろ』エマ(p3p000257)だ。彼女はイーリンにとっても数少ない彼女を馬の骨と偽名で呼ぶ人物で
「ああ馬の骨さんちょうどいいところに。助けてくださいやつが、やつが」
 両手に花状態のイーリンで遮蔽を取るように背中に隠れたエマが震える。その顔は恐怖に歪んでいた。その尋常ではない様子に、街角がにわかにざわつく。
「エマがココまで怯えるなんて、どうしたのよ」
「おやおや、剣呑だね」
「ふむ、街中で怪物でも出たのかな」
「まぁ落ち着くんだエマ、イーリンには私が居るからな」
「センパイが守るからセンパイを守ることで目標達成ってことカナ」
「エマ君が冷水をぶっかけられた猫みたいになっている、是非ともキュウリで脅かしたい」
「イーリン君に泣きつくという時点でおおよそ何が来るかは察しがつくけれどね」
 口々に現状への感想を皆が述べる中、エマは引きつった笑顔を浮かべる。
「えひ、えひひ。ヤツに町中でばったり、それから追いかけ回されまして、ほら、すぐそこに」
 そう言ってエマがイーリンの後ろから指さしたのは、イーリンの足元。
 視線を落とす。
 木箱の下、イーリンの足元、足先がぎりぎりつくようなイーリンの足先がいつの間にか石畳ではなく、石畳めいた真っ黒な腹筋にすり替わっている。
 危険な角度のブーメランパンツ、乳首に貼り付けられた星印。優美な蝶の翼をはやした、マスクを着けた男。
 『愛の妖精』ラヴィエル(p3p004411)
「今夜もラブ★座談会でラブメイカー★イーリン。ふふ、冗談じゃないぞ俺はその誘蛾灯のようなイーリンを支える支★柱。ああもっと体重を預けてくれ。エマとしっかり運動した後の俺の腹筋は今やはちきれんばかり。心配性のイーリンも安心の百年住宅だ。疲れた脚にフット★ハート★マッサージ★ウォーミング。オラっ、お客様凝ってますねぇえええええええええ」
「「「ウワァアアアーーーーー」」」」
 こうして今日も街角の夜は嵐のように過ぎていく。それを祝福するかのように、流れ星が一つ消えた。

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