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【アト・サインの日誌】

   ―――5月中旬
   ラサ北部『涜聖の社』前

次に目が覚めたときは日はどっぷりと沈み、月が登っていたところであった。
日陰の冷たい砂で冷めた体を動かし、手を二、三度閉じたり開いたりを繰り返す。
僅かなしびれが体に走るが、それはおそらく強烈な日差しが体液を幾ばくか沸騰させたせいだろう。
だが、致命傷ではない。

同じく気絶したかのように倒れて寝ている司書は僕が意識を失う前にはしゃいでいた分、眠りが深いようだった。
ささやかな宴として、夕食の準備―――生活サイクル的には朝食だが―――の準備をはじめる。
砂で簡単な炉を形作った後にその上で焚き火を熾し、炭になるのを待つ。
その間に水で小麦をよく練り、叩いて平たく形成する。
薪が白くなり、ボロボロと崩れやすくなった所で、灰をかき分けて平にし、その上にパンを乗せた。
そしてそのパンの上に白い灰をかぶせて焼き上げる。
キャラバンと一緒に旅をしているときに習った食事だった。

そしてパンを焼き上げるついでに、袋からベーコンを取り出す。
オアシス周辺で食べ物に恵まれたために食べるのを後回しにしていたが、今回は祝いの席でもある。
贅沢に一塊を使うつもりだった。

もう一つ取り出したのは鶏の卵である。
オアシスの近くの村で買ったものだ。
普通の種類より固く、砂漠の種類のため保存食にはそれなりに適していると思ったが、案外食べる機会がなかった。
ちょうど今がその時だろうと食べるのを決意した。

焼けた灰の上にフライパンを置くとすぐに熱される。
はじめにベーコンを乗せて焼き上げる。
香ばしい匂いがあたりに漂い、己の空腹具合を思い出させる。

染み出した油がちょうどいい。
卵を割り、ベーコンの油の上に落とすと香ばしい匂いと共に焼ける。
ふりかけた香辛料がさらに食欲をそそる。

十分に焼けた所でフライパンを持ち上げ、灰を払う。
取り出したパンを2つに裂き、一つずつにベーコン半分と、目玉焼きを乗せてテントの中に戻った。
ちょうどその頃には、多少朦朧としていたが、司書が起き上がり、現在の問題点をまとめていた。
僕にはその点については多少のアイデアがあったので話すつもりではあったが、何はともあれ食事だ。
ベーコンと目玉焼きを載せたパンを差し出し、一緒に用意した濃く淹れた紅茶をカップに注ぐ。
何はともあれ、この大きな成果をささやかながら祝うとしよう。
今後の方針については、それからだ。

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