此はーー廃墟に勝手に住み着いて幾許か経った頃のとある一幕。
秋風と窓から射し込む月明かり…耳朶を撫でるのはまるで囁く様な木々のざわめきと、梟に似た猛禽の夜啼き。そう、己は彼らに誘われたのだ。

『Du liebes Kind, komm, geh mit mir.
Gar schöne Spiele spiel ich mit dir』

何処か愉しそうな弾んだ聲。今や遠く離れた異国…否、異世界の唄を紡ぐ薄い唇は酷く歪む。嗚呼、何と愉快な二度目の人生だろう。焼け落ちる廃墟で終わる筈だった心臓の鼓動は未だに止まる事は無く。何の因果か、流れ流され異界へ。詩に出てくる魔王では無いが、獣人の少女を『拐った』。無論、生きたままだが。

暗夜に溶け込む様な黒衣を翻し、己が向かう先はお気に入りの場所。
馬鹿と煙は何とやらーー廃墟の屋根の上が何時からか思案に耽る際の定位置となっていた。
月明かりが心地好く、己が影は長く細く伸びる。

「嗚呼、渇く。」

何の欲求で己の身や心が渇くのか。
身の渇きは癒せぬだろうが、心の渇きは癒せる。
何と無く、そう、何と無く。
拾った少女と他愛無い話がしたくなったのだ。明日の食事は何にしよう？おんぼろ屋敷に何を置こう？君は何をしたい？
過去に触れる無粋な事はしない。ただ、日々を謳歌させたいのだ。妹孝行が出来なかった姉の自己満足で。

「嗚呼、分からんな。」

何をすれば、良い？
目元まで伸びた前髪を掻き上げて呟く。夜空を仰ぎ見ても月は沈黙を貫き。
夜風は己が問いを掻き消して行ったーー


(/ジュア様とレイチェルのRPスレです。置きレス形式。期間は話のキリの良い所まで。宜しくお願いしますー！)

（耳をくすぐる聞き慣れないメロディー、それでもバベルの悪戯で聞き取れるオハナシ。音源へ向かって、そうっと歩みを進める黒い塊。自重で屋根に穴が開かないよう、まるで獲物を狙うときのような動きのそれでゆっくりと。白いドクターの背へ声を掛けた）
……秋の匂い。空気、カラカラに乾いてるのかな。星空がパッチリ見えるよ。
（月の明かりにも負けていない、ちかちか星の瞬きに目を細める）
もうすこししたら、あたたかいミルクが必要になるかもね。
（ひゅうと流れた秋風に毛皮を浸し、空を仰ぎ見る。今なら星が取れそうだなと、無邪気に星へ爪を向ける）

おう、こんばんは…だ。
秋の夜長も中々に乙なもんだろ？冬になったらもっと綺麗だ。…さみぃから外に出たくねぇけど。
(気配を消すように、暗がりに身を潜める歩み。それは紛れも無い肉食獣の所作である。だが、黒い獣が知性ある少女である事を知る女は首を僅かに捻ってそちらを一瞥した。彼女の言葉に促される様に夜空を見上げれば金平糖を散らした様な星々が煌めく。)
…俺は牛乳飲めんからな。珈琲で頼むぜ？
(無邪気な子供の様な姿に僅かに頬を緩め。冷え始めた空気を誤魔化すべく首に巻いた外套を引き上げて口元を覆った。)

やー、こんばんはだね。
（眼前に現れた、自然光に照らされてか地上の星の様にも見える二色の眼。その持ち主へ向けて、はあいと手を軽く上げ挨拶を返す）
冬か。こちらでの冬は馴染みないから楽しみだよ。でもまず、秋を味わいたいね。ここは森の中だから……とりあえずは、落ち葉に期待しよう。
（空に向けていた視線をざあとさざめく木々へ流し、これから秋色に染まっていくだろう景色に想いを馳せ、獣皮に覆われた自身の腕に無意識に触れた）
うんうん、珈琲もいいね。寒いときのオトモはあたたかい飲み物に限る。
（ゆるり彼女の隣へ腰を下ろそうとし）

…牛乳に珈琲。ふむ、混ぜても不味くは無い。
(腰を下ろそうとする少女ーー彼女の強靭な獅子の体躯で座るには些か心許ない。彼女が座り易いように僅かにスペースを空けて。ミシリと屋根は軋みを上げるも元の作りが頑丈なのか穴が空く気配は無く、確りと四肢を支える事だろう。)
くっくっく…中々素晴らしい森だろう？木々は鬱蒼と繁り、夜道は月影一つ落ちぬ暗澹！！…そうだなァ、とある地域では落ち葉を集めて芋を焼くらしい。ジュアは知らないか？
(要するに手入れは一切されていない雑木林だーー人が住まうには不便極まる。そんな所も気にしていないとばかりに横暴な態度を崩す事も無く。両腕を仰々しく広げて口角を吊り上げてみせれば覗くのは鋭利な犬牙。無論…人寂しい森に女の高笑いは虚しく響く事だろう。ふと、少女の呟きを拾い上げては右の人差し指を立てる。何とも中途半端な知識はこの女も伝聞である証拠だ。)

（座を空けてくれた彼女へ目線で礼をし、常よりも不安定な場から滑落しないよう下四肢で足踏みをするようずりずりと足を伸ばしていく。留め具代わりにと爪を立てれば、屋根がぎぎと呻り声をあげた）
うん、いい森。オハナシにでてきた魔女の森みたい。ウジャウジャしてて、まっくらで。カンタンに隠れちゃう。……ふふ。
（過去に読んだ童話の一節がふわり思い浮かぶ。迷い森の奥にある３人の魔女が住む寂れた洋館。なんだかまるで何かに。―ー少し面白くなって、声だけで笑う）
へえ、焚き火で芋を。魚や肉じゃなくて、か。そういうのもいいねえ。……ここで焼いたら、森が燃えちゃうかな？
（隣人の発する高らかな声の影でひそり誰に向けたでもない疑問を投げかける。手を軽く伸ばし、目下にある館周囲のスペースを測った）

ははは、魔女を名乗るのも悪くねェかも。……誰か入り込んだ輩が行方不明になっても違和感無さそうだなァ。
(実際は黒獅子の獣人に機械の四肢を持つ研究好きの女性、元人間の吸血鬼だ。つられる様に聲を洩らして笑えば、戯ける様に小さく肩を竦めて。おんぼろ洋館から見下ろす森は遠く視界の果てまで広がり、双眸をつぅと細めれば小さく一言呟きを溢そうか。)
枯れ葉で火を焚いた後、灰の中に芋を入れて焼くらしい。バケツでも用意しといて直ぐに消火すりゃ大丈夫じゃないか？
(目測で館周辺のスペースを図る少女に対し、己も半身を乗り出して周囲のスペースを見渡す。確かに森にポツンと建つ洋館は本来ならば庭と呼べるスペースも木々の侵食を受けて狭い。唇をへの字に曲げて眉間に皺を寄せれば安直な案を提示して。)

ジュアが魔女だったら、迷い込んだエモノは獲って食べちゃうか、魔法のジッケンダイにしちゃうか。なやみどころだね。
（この様な森に来る物好きはいるのだろうかと、自身を棚に上げ。秋風を大きく吸い込んで、深く思索に潜りかけた頭にストップをかけた）
なるほど。灰の中に突っ込むのなら、じっくり焼けそうだ。うんうん。
（心許ない広さの庭にやや眉を顰め。しかしレイチェルの言うよう消火用の水でも用意しておけば丸焼けになることはないだろう。軽やかなおつむは楽観的な答えを吐き出す）
館のみんなで焚き火を囲むのも楽しそうだ。よければ今度やってみようよ。落ち葉拾いを兼ねれば、庭掃除にもなるさ。まあ、これだけ木に囲まれてたら、掃除してもしたりないだろうけど。
（同意を求めるように声を弾ませて、また業とらしく媚を売るように首をかしげて、隣に着座している館の主へ提案を告げた）

俺は…捕って食う方に一票。これがゼフィなら後者だろう。
――腹減ったなァ。
(金と蒼のオッドアイは遥か彼方をぼぅと眺める。からからに渇いた白い喉に右手で触れれば、欲求を誤魔化す様に爪を小さく立てて。肌を撫でる金風の冷たさが、ヒトとしての意識を水底から引き上げる。)
低温で、じっくりな。焦って早く食ったら駄目だぞ？我慢が肝心だ。
くく…美味い芋を食う為に庭掃除もたまには悪く無い。今度の買い出しでは芋も、だな。
(正に玉子が先か鶏が先か――そんな理論。目的と結果が逆転しているが館の主は気にも留めず、少女の提案に対してゆるりと1度首を縦に。嘲笑では無く心から…カラカラと声を上げて楽しいと笑うのも久しい。)

たしかに。ゼフィなら研究だって言って、ゴムタイなことしちゃいそう。
（隣から聞こえた、欲望の呟きにかくりと首をかしげ。ふと自身の腹を撫でればなにやら鳴りそうな気配。夜風がふわりと身に纏う布を撫でていった）
……こんな時間にするにはいささか刺激的な話だったかもね。
食料はさっさと食べるに限るとは思うけど、時間をかけたほうがおいしいのなら少しくらいガマンするのもやぶさかではないさ。
（ジュアはオトナだからね。そう言外に付け足す声は少々楽しげな音になり、空へと消えてゆく）
ああ、買出しのときはもちろんジュアも呼んでおくれよ。力仕事はジュアにオマカセさ。
（己の能力を誇示するよう張った胸にトンとこぶしを打つ。つんと上げた口元に浮かぶ表情には、頼られたいとの欲求が滲み出ているようで）

……ジュアは『御無体』なんて難しい単語、何処で覚えて来たんだ？
Dr.ベルンシュタインは教えて無いぞ。
(耳慣れぬ単語――否、此が常用される環境ならばさぞ劣悪だったのだろうか。自らの愚問に眉間に皺を寄せ、漏らす溜息は錦秋の寒空に溶け込んで消える。ゆっくりと立ち上がれば、長身の彼女を今一時だけ見下ろせるだろうか？ただ、道化の様に真意を悟られぬよう表情を創る…薄い唇を子供っぽくへの字に曲げれば、誤魔化すようにくしゃくしゃとその頭を撫でようと右手を伸ばす事だろう。受け入れるも否も獅子の少女次第だ。)
何、腹でも減ったか？
大人なんだから明日の朝まで我慢しとけ。そうだなァ…たまには俺がキッチンに立とう。
(パンにハムやソーセージ、新鮮なサラダ、蜂蜜を垂らしたヨーグルト。極上のカルテスエッセンを――と優雅に紡ぐ。そう…時に望郷の念を抱くのも悪くは無い。)

俺は頭脳労働派だからなァ…買い出しの荷物持ちは頼んだぜ？
(体躯的には己より遥かに恵まれていても、中身は年相応に子供らしさを残している。少女の仕草は何処か愛らしく――欲求を叶えるように頷くのは、存外に身内に甘い面が出ている証拠だ。)

ドコだったかな。ジュアは勉強家だからね、いつのまにか吸収してた知識のようだよ。
（やや得意げに躍る声。反するように宙空を眺めていた視線をふと伏せる。黒い獣の小さな綻びは、この暗闇に包まれた中で隣人の瞳に映っただろうか。側で動く気配を感じ取る。無意識にくるり震わせ動向を探っていた耳が、ふと、頭に載せられた手のひらの感触にピンと跳ね上がった）
うわ。
（くしゃりと髪を掻き混ぜられて、おもわず零れる戸惑いの声。しかし頭を撫でられるなど、いつ振りだろうか――少々のこそばゆさに肩をすくめ）
う、ジュアの腹の虫は、抑えたはず……。
（ゆるりと腹を撫でる。気まずさからか語調が段々と萎れていく）
本当かい。レイチェルの料理、楽しみだな。
（一体何を作ってくれるのだろうか。期待に心跳ねさせ、それと連動するように太い尻尾がばたんばたんと屋根を叩いた）

うんうん。レイチェルが潰されないように、ジュアがサポートしなきゃ。しっかり任されたよ。
（常は仕事を放棄しているまぶたがぱちりと開かれ。温かい言葉を紡ぐ頭上の年長者へ、薄くだが喜色を見せた）

……勉強家なのは、悪くは無い。
Calamus Gladio Fortior(ペンは剣よりも強し)ーー知恵は力だ。
(そう、この言葉には続きがある…ペンは時に剣よりも残酷である、と。獣の仔の僅かな変化を感じ取っては先程までとは一変、薄い唇は緩やかに弧を描き…声色も諭すような安心感を齎すような柔らかいものだが。金と蒼の瞳からは表情が消え、冷たく冴えた氷の如く。視線を誰に向けるでも無い。叛逆者、復讐者としての貌を垣間見せて。)
と、悪ィ…つい、な。
俺の料理はーーまぁ、食えなくは無い程度だ。
(右手に微かに触れた黒獅子の耳は意外と柔くーー然れど少女の驚きを示すかの様に跳ねたそれに申し訳無いとばかりに眉尻を下げて。乱してしまった短い黒髪を整えた後、右手を離して。→

→料理は実験や薬の配合と同じ。レシピの分量通りに作れば無難な味が出来上がる筈だ。喜色から振られる尻尾ーー少女に応えるべく、瞬く夜空の星々へ静かに「失敗はしない」と誓うのであった。)

荷物で潰れる程…チビじゃねぇぞ、俺様は。おやつは1個までだからな！
(残念ながら栄養が回らなかった故に小柄な身長。むー！と唇を尖らせるも、嬉しそうな少女の姿に毒気はすっかり抜かれて。)

知識がないと、ヘタなもの近づいてタイヘンなことになっちゃうかもしれないからね。大事、大事。
（草の種類も分別できなかった過去の、己を襲った舌の痺れを思い出し、眉間に少しの皺が寄った。先程まで放っていたほつれは霧散したかのように跡形も無い）
む、どうしたんだい、いきなり。ジュアの髪の毛は高級な毛皮には遠いよ。短いし、硬いし、手入れもそんなに気をつかってないからね。そうだね、レイチェルの髪のほうが月明かりでキラキラして、カッコイイよ。
（頭に触れる手のひらの重さに気分が和らぐ。ちらり銀糸を纏う吸血鬼を見上げた。照れ隠しが含まれた言葉は語勢を増し）
食べられるなら十分さ。楽しみにしつつ、期待しないで待っていればいいかな。
（ややちょっとして、離れていく手にひとつまみの寂しさを感じ。黒い獣は小さく頭を振り鼻を鳴らした）

わー、おやつ何にしようかな。楽しみがもうひとつ増えたよ。
（甘いものもいいが、噛み応えのある乾物も捨てがたい。屋敷の皆で食べられるように連なったプリンもいいだろうか。肉球の付いた指先を口元に当てゆるり思考を巡らせた）

良いモンと悪いモンを区別出来る鼻は大事だ。
……買い出しの相方が居なくなっても俺が困るしな。
(観察する事は最早己の悪癖。黒い獅子の少女と共に過ごして幾ばくも無いがーー気付いた事がある。彼女は表情の変化に乏しい。だからこそ…稀に変わる表情が無地のキャンパスに落とされた一点の絵具の様に鮮やかに網膜に焼き付くのか。苦い記憶に渋く眉根を寄せる姿に片方の口角だけ吊り上げ、愉快だとばかりに喉を鳴らす。次に「俺みてぇな顔になるぜ？」と自らの眉間に人差し指で触れようか。大体眉間を寄せた渋い表情をしてる事が多いのだ。)

ジュアが自覚してる通り、撫で心地は良くねぇぞ。撫で心地に期待して撫でたんじゃねぇし。ま、こうしたい気分の時もあるンだよ。
ーー見える世界は、こうも人によって違うんだなァ。
(次第に色が抜け落ちていったーーまるで“燃え滓”の様な銀灰の髪。ふと、己の髪をぷちんと1本千切って摘まんでは凝視するも。やはり燃え滓は燃え滓だ。だが、月に翳せば…ほんの少しだけ、見える世界が変わったような気がした。ふっ、と息を吹き掛ければ冷たい夜風に浚われる銀糸。)
と言うか、高級な猫を飼いたい訳じゃねぇ。
(次第に深まる眉間の皺。真一文字に結んでいた薄い唇はへの字に曲がる。その手入れのされていない髪も、蒼穹を溶かした色彩の瞳も、日に焼けた肌も全部含めて“ジュア”だ。そのままで良い。音にする前に掻き消した聲は更に己の眉間の皺を増やすーー素直になれない吸血鬼は、少女の蒼い瞳から視線を僅かに反らすのだった。)