ギルドスレッド
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美少女道場
次に瞬きを終えた時、少女は小さな島にいた。
足元は穏やかな波に揺られた真白な砂浜が踊り、水平線の向こうからやってくるそよ風が雲の一団を引き連れて頬を撫ぜる。
見渡す限りの青い海と、青い空。どこまでも続く空と海の真っただ中、少女は青色の中に落とされた一滴の雫になったようだった。
「ずっと世界の端まで続いているのかしら」
だがこの光景も少女にとっては灰色の景色だ。ぼやけた水平線に絡み合う空と海の違いも、少女には理解できはしない。
ただはっきりと分かったのは、波と風の音に紛れて聞こえる二つの笑い声だ。
「嬉しいね」「嬉しいね」
それは海と空の笑い声だった。
白波の揺らめきに合わせてレース状の雲をたなびかせる空と、翻る風の軽やかさをなぞり渦潮を運ぶ海が、笑いながら戯れていた。
「嬉しいね」「嬉しいね」
それはまるで海と空が踊っているようでもあり、鏡写しに絡み合っているようでもあった。
海と空は少女の目の前で、どこまでも広い水平線で笑いあっている。
「なんだかとっても嬉しそうね。一体どんないいことがあったのかしら」
少女は疑問に思って、その問いかけを海と空に投げかける。
しかしその返答は少女が思いもよらないものだった。
「なんにもないよ」「なんにもないの」
海と空はおかしそうに手を取り踊りながら答える。少女にはちっともわからない。
「なんにもないのに嬉しいの?」
「そうだよ、だって空が嬉しいから」「そうだよ、だって海が嬉しいから」
鏡写しのように、木霊のように響く空と海の声。
少女は2人と話しているはずなのに、1人と話しているような奇妙な気持ちになった。
「空が悲しいから悲しい、だって空が悲しいから」「海が怒ると怒るよ、だって海が怒っているから」
「海が喜んでいるから」「空が喜んでいるから」
「海と空はずっとひとつで、それがとても幸せ」「空と海はずっと同じで、寂しい気持ちなんてなにもない」
このどこまでも空と海しかない景色の中で、少女だけが異物だった。
やがて雲行きが変わり、空と海は互いの波風をぶつけ合いながら白い飛沫を迸らせる。
「怒った」「怒ったぞ」
「気に入らない!」「お前が気に入らない!」
鏡写しの海と空は、その穏やかな喜びから一転して互いを憎み始めていた。
それでも水底のヒトデが攫われて散る姿と、風にあおられて流れる星の奇跡まで、その姿はまるで同じだった。
「ねえ、どうして怒ってるの?」
「お前が怒るから!」「お前が怒ったから!」
「「全部、全部、お前のせいだ!!」」
やがて怒りのままに海と空は取っ組み合うと、濃紺の奔流となって完全に一つに溶け合い、巨大な嵐となって水平線を逆さまする勢いで大喧嘩を始めた。
少女のいる孤島すら押し流さんとするその光景の中で、生まれて初めて感じる思いが少女の中にはあった。
その奔流が少女を飲み込みかけた時、少女は初めて『青』の意味を知ったのだ。
足元は穏やかな波に揺られた真白な砂浜が踊り、水平線の向こうからやってくるそよ風が雲の一団を引き連れて頬を撫ぜる。
見渡す限りの青い海と、青い空。どこまでも続く空と海の真っただ中、少女は青色の中に落とされた一滴の雫になったようだった。
「ずっと世界の端まで続いているのかしら」
だがこの光景も少女にとっては灰色の景色だ。ぼやけた水平線に絡み合う空と海の違いも、少女には理解できはしない。
ただはっきりと分かったのは、波と風の音に紛れて聞こえる二つの笑い声だ。
「嬉しいね」「嬉しいね」
それは海と空の笑い声だった。
白波の揺らめきに合わせてレース状の雲をたなびかせる空と、翻る風の軽やかさをなぞり渦潮を運ぶ海が、笑いながら戯れていた。
「嬉しいね」「嬉しいね」
それはまるで海と空が踊っているようでもあり、鏡写しに絡み合っているようでもあった。
海と空は少女の目の前で、どこまでも広い水平線で笑いあっている。
「なんだかとっても嬉しそうね。一体どんないいことがあったのかしら」
少女は疑問に思って、その問いかけを海と空に投げかける。
しかしその返答は少女が思いもよらないものだった。
「なんにもないよ」「なんにもないの」
海と空はおかしそうに手を取り踊りながら答える。少女にはちっともわからない。
「なんにもないのに嬉しいの?」
「そうだよ、だって空が嬉しいから」「そうだよ、だって海が嬉しいから」
鏡写しのように、木霊のように響く空と海の声。
少女は2人と話しているはずなのに、1人と話しているような奇妙な気持ちになった。
「空が悲しいから悲しい、だって空が悲しいから」「海が怒ると怒るよ、だって海が怒っているから」
「海が喜んでいるから」「空が喜んでいるから」
「海と空はずっとひとつで、それがとても幸せ」「空と海はずっと同じで、寂しい気持ちなんてなにもない」
このどこまでも空と海しかない景色の中で、少女だけが異物だった。
やがて雲行きが変わり、空と海は互いの波風をぶつけ合いながら白い飛沫を迸らせる。
「怒った」「怒ったぞ」
「気に入らない!」「お前が気に入らない!」
鏡写しの海と空は、その穏やかな喜びから一転して互いを憎み始めていた。
それでも水底のヒトデが攫われて散る姿と、風にあおられて流れる星の奇跡まで、その姿はまるで同じだった。
「ねえ、どうして怒ってるの?」
「お前が怒るから!」「お前が怒ったから!」
「「全部、全部、お前のせいだ!!」」
やがて怒りのままに海と空は取っ組み合うと、濃紺の奔流となって完全に一つに溶け合い、巨大な嵐となって水平線を逆さまする勢いで大喧嘩を始めた。
少女のいる孤島すら押し流さんとするその光景の中で、生まれて初めて感じる思いが少女の中にはあった。
その奔流が少女を飲み込みかけた時、少女は初めて『青』の意味を知ったのだ。
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(美少年と美少女の間で交わされ、紡がれる童話。
無数の手紙と原稿用紙の束。その記録)