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商人ギルド・サヨナキドリ

【1:1】死霊術師たち


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『この間来た時に、ついでに見せてもらえば良かったじゃないか』
『あん時は買い物目的じゃなかっただロ』
『とか言って頭から抜けてただけじゃ……』
『うっせぇバーカ』

(というような、言い争いとは言わずとも、何か話す男の声が、外から微かに『2つ』聞こえてくる。間もなく開かれる戸から現れる姿は『1つ』。赤羽・大地だ)
(おや、と顔を上げて)

やァ、2人とも。いらっしゃい。
どんなコを探しに来たんだぃ。
どうも、銀月さん(ゆるく、会釈を送る)
俺っていうか、赤羽が探しに来た感じなんだけど……。

……ン、まァ、そうさなァ。
探してんのハ……とりあえず1つハ、大地コイツが使う様の魔除けアミュレット的なノ。そういうヤツかなァ。
他にも何か気になってたはずだガ……後ハ……何だったカ……(思い出そうと考えている)
魔除けアミュレットねぇ……何かに特化してるやつがいい?
ンー、人避ケ、もしくは運気上昇……的なくくり方で大丈夫かイ?

……いや赤羽、俺そういうの大丈夫だと思うんだけど……。
(という遠慮がちな声に、)

馬鹿言エ、お前はヤベェ奴を引き寄せてる自覚がないのかヨ。いやまあお前の態度だののせいでは無いけどモ。
自衛を固めろとまでは言わんガ、自覚を持てと言ってるんだヨ。
ふむ。人避けとなると普段使いの分では不便も出てきそうだし「悪意避け」はどうだい?
ヒヒ…苦労してるんだねぇ大地の旦那。
そんな、俺は……別に、(と言いかけて少しだけ青ざめた。先日赤羽がポロリと零した『弟』然り……思い当たる節があるのを怒涛のごとく思い出したようだ)
ほれみろ言わんこっちゃなイ。
……んじャ、プロの言うとおリ、悪意よけにしておこうかネ。
よかろ、少しお待ち。
(ごそごそと棚から羊皮紙とペン、それから目を象った小さな宝石のついたチャームを取り出して)
(羊皮紙とペンは自分達の家にもよくあるものだ。それよりも、チャームの方に目を引かれた)
あァ、調整が必要なブツなラ、俺より大地寄りにやってくれて構わないゼ。ご存知の通リ、こいつ相当抜けてるからナ。

こいつ人のことめちゃくちゃ言うじゃん……(しかし慣れたことなのだろう、ため息一つに留まる)
(チャームは邪視避けの護符に似た、円形の石を組み合わせた模様で中心にオニキスが埋め込まれている)

なに、「悪意を避ける」というシンプルな加護であれば調整は不要だよ。
愛されてるねぇ、大地の旦那。
(くつくつと面白そうに喉で笑うと、ペンに魔力を込める。するとインクに魔力が圧縮されて文字通り滴る様な魔力を以って、羊皮紙に"何か"が書き込まれていく)
ああ、なら良かった、けど……こいつに愛されてもなあ。
(武器商人の言葉に、大地はめちゃくちゃ渋い顔をした)

俺モ、テメーみてぇなモヤシ、本来ならガン無視なんだけどナ?
(打てば響くというのか、売り言葉に買い言葉なのか。両者とも相方の悪口には軽く応酬しながら、目の前の作業を見ている)
キミたち何年一緒にいるんだっけ?流石、仲がいいこと。

(認識阻害が掛かっているのか目の前で書かれているにもかかわらず術式の内容は窺い知れないが、恐ろしく緻密に書き込まれていることだけはわかるだろう)
えっと……(問われて、そっと勘定する)
……お前が無様に雪の上に転がってたのガ、お前が18ン時だったかラ……大体6〜7年くらいかネ?
……事実にしても、他にも言い方無かった???

(赤羽、大地共にこの手のことは専門外なのだろう、目の前の術式を精確に認識できなくとも尚、随分と慣れた手付きに感心の吐息が漏れている)
なるほどねぇ。それだけ同居状態が長いなら、もうカゾクの様なものだよね。

(少しして、はい、できた。とペンを置くと、羊皮紙を持ち上げてフッ…と息を吹きかける。すると書き込まれた魔術が吐息に煽られた様に浮かび上がり、チャームの中心に埋め込まれたオニキスにするすると入り込んでいくのが見えるだろう)
家族……(うわあ、って雰囲気の声を出したのは赤羽だ)

やっぱり俺とは全然手際が違うなあ……。(完成品を見て呟く)
えっと、ありがとう銀月さん。……お代は?
カゾクって言葉はお嫌い?
(目を細めて笑いながら赤羽の旦那に流し目を送る)

お代はそうだねぇ……素敵な本を一冊でどぉ?
(商人の菫の瞳に、赤い瞳がばつが悪そうに細められる)
……別ニ。
俺が『キョウダイ』が嫌いじゃねぇのハ、この間聞いたロ。
両親がおっ死んだ時は胸がすいたガ、俺とは『逆』の考えを持つ人間がいるのだって納得できル。それぐらいの事サ。

(商人の言葉にんー、と少しだけ考える素振りをして)
本……本か……。ちょっと台、借りていいかな?
(本を何冊か持ち歩いているのか、自分の持つそこそこの大きさのバックを示す)
ヒヒ……であれば、聞き流しておくれ。
6〜7年もひとつの身体に同居状態と聞けば抱く当然の感想さ。
それだけ仲が良さそうなら、尚更ね。
…ああ、もちろんいいよ。流石『司書』だね。
そうかネ。……ったク、今回はこんなに『長居』する気は無かったんだけどなァ。
()

いや、今日は全然少ないほうだよ。
赤羽に急に『行こう』って言われなきゃ、もう少し準備したんだけど……。

(言いながら、店主の言葉に甘えてテーブルに数冊の本を広げる。

一つ、混沌各地の寓話を蒐集した、ハードカバーの『混沌物語集フーリッシュ・ファンタジア』。

二つ、深い緑の表紙が印象的な魔術書グリモワール。表題には『緑の指』と。

三つ、こちらはそこそこ読み込んだ痕跡が見られる。『魂の行く末を案じる者よ』。

他にも四つ五つと、ライトノベル程の大きさのミステリー小説だの、詩集だのが並んでいく)
…3つめ。『魂の行く末を案じる者よ』。
そのコが気になったかな。対価として貰っても?
おヤ、これで良いのカ?
もっと上等なのが良けりゃア、後日改めて持ってきても良かったんだガ。

いやだから、急にお前が言わなきゃあ……まあいいか。じゃあ(言われた本をすす、と丁寧に差し出した)
繰り返し読み込まれた本は、それだけで価値があるからね。
確かに賜った。
(恭しく受け取り、その表紙を細い指先で優しく撫でる)
……ああ、俺もそう思う(『司書』をやっていると、自分もそう実感することが多い。共感の頷きを見せて)

……そうダ、ついでにもう一ツ、聞いてみてもいいカ?
……無きゃ無いデ、トンと諦める事にするガ。
(むしろ今から言いたい事が『本命』なのかもしれない。静かな声音で、死霊術師が声を発した)

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