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捩れ木の匣

ある夜、森の入口。

ある夜、森の入口。
すでに陽も遠く涼しい風。虫の歌声が聞こえている。
家馬車の脇でおんぼろ外套が火を焚いている。
石の輪の中、串に刺された肉が焼ける香りが煙と共に上がる。
君は焚き火に加わっても良いし、足早に通り過ぎても良い。

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ものがたりやさん?

(スープをふうふうと冷まし乍ら、黒鉄の少年の問いに首を傾ぐ)
(輝きを増した満月のような双眸に、興奮気味に矢継ぎ早に告げられる言の葉に、呆気に取られたらしく瞳を瞬かせ)

私は、ただの夜鷹。それ以上でも、以下でもない。
でも……。

(つい、と指先を宙に浮かせれば、夜露を求めて舞う蝶がひとひら影の指先に止まる)
(青白い鱗粉を纏った其れを、少年の鼻先にそろと寄せて)

『もしもし、そこの素敵な紳士さま。すこし、お水を分けてくださいませんか』

(僅か声音を落として告げる音は、”彼”の代弁だ)
(蝶は僅かに羽を揺らすだけで、影の指先から飛び立とうとはしなかった)

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