PandoraPartyProject

ギルドスレッド

街のどこかの寝床

【PPP3周年記念SS置き場】


→詳細検索
キーワード
キャラクターID
◆ テーマ:PCの目線で3周年。
サービス開始=大規模召喚の日として、我が家のPC達がその日をどう迎えるのか。
そんなお話です。
PCの名前は出していませんので、誰か知らない人でも雰囲気はお楽しみいただけるのではないかと思います。
かなり先走って6/24に作成、7/23に一部加筆修正したものになります。
お祭り好きがバレますね!
 ̄ ̄ ̄ ̄

 カチ、コチ、カチ、コチ——

 一歩ずつ進む一本の針を飽きることなく追いかける赤い瞳は瞬きを忘れてしまいそうなほどに真剣だ。
「そんなに見つめていても速くなったりしませんよ」
 後ろから呆れたような声が聞こえたって気にもしない。
「だってお祝い事だもん、待ち遠しいじゃない!」
「さて。記念日ではあれど祝うものなのでしょうかねぇ?」
 私達に直接関係は無いような、とピンのこない様子で仕事を続ける水色の髪の青年。
「関係あるよ! だって明日は僕らイレギュラーズが——」



 静かな静かな夜だった。崩れた屋根の隙間から差し込む月明かりの音すら聞こえそうなほどに。
 それなのに——
「不思議と、心がざわめく、夜、ですね…?」
 視界を遮る黒布の向こうに何を感じ取ったのか、少年は呟いた。
 雨上がりの冷たく湿り気を帯びた風が吹く。ユズリハに似た大樹の枝が影を揺らしてささめく。刻一刻と変わりゆく世界情勢のように同じ形に戻ることはない。
「……何かが終わる。そんな気配、でしょうか」
 ふるりと震えた肩に寄り添う白く小さな霊魂。裸足の指先にはいつのまにか黒狼の霊魂が丸まって陣取っていた。
「ふふ、心配しないで、ください? ちゃんと、わかっています、から……」
 目隠し越しの金の瞳に柔らかな笑みが灯る。
 終わりの先には始まりがある。特別に怖がることなんてないんだ、と——



「——思いの外、遅くなってしまったな」
 ぽつりと何気ない響きの少女の声。それは闇に溶け込む色合いの装束の纏う人影から放たれたものらしかった。
 応えるのは赤茶がかった黒い鷹。肩で羽を休ませながら鳴く声は、いつものことだろうと笑うよう。
「ぐっ……雨の中を駆けたから念入りに手入れをしただけだぞ?」
 朧げな輪郭が露に濡れた青草を踏み締めて進むのはとある忍集団の隠れ家の一画。
「戦さ場には屈しない心の強い子だが、体を冷やして風邪でもひきはしないかとだな」
 そう言って振り返った先には厩がある。愛馬を心配して険しく尖った青の瞳に映り込んだ鷹がまた、ひとつ、ふたつと鳴く。
「……わかっている。俺が倒れては元も子もない。今日はきちんと部屋で寝るとも」
 まるで叱られた子供の声音で続ける。
「なんだか、胸騒ぎがしたんだ。此処で流れ星を見たあの日のような——」
 始まりの記憶を手繰り寄せながら足は塒へ向かう。
 そうして結局のところ、彼女はまたそこで朝を迎えるのだった。
 その獄人は戸惑っていた。そこら中を飛び交う己以外の声に、視線に。
「………………」
 神使。外の国では特異運命座標、イレギュラーズとも呼ばれると聞いたそれに、自身が選ばれるなどと思いもしなかった。正確にはそんなものがあることすら知らずに生きてきたのだ。
 被った外套の下から覗き見る、十数年ぶりの人里。同族もいれば八百万もいる。そして見慣れぬ装束、見慣れぬ人種も多い。
「海の向こう、か……」
 神使となることを選んだ以上、赴くこともあるのだろう。
 こうして先のことを考え始めた己の変化もまた、彼らの起こした風のひとつなのかもしれないと不思議な心地を抱いて歩き出す。海風に混じって祭だなんだと騒ぐ中に、それとは別の祝いの言葉を聞きながら——



 ざわざわと逸る心音を片耳に、イレギュラーズの拠点へ足を踏み入れたのは一匹の猫。正確には白いマントを羽織ったネコ科獣種の青年だ。
 どこか警戒ぎみな彼は早々に隅で壁に背を預けて目を閉じてしまう。その前をやれ新大陸だ、幻想郷だ、と溢しながら幾人もの同業者達が横切っていく。深夜だというのにまったく人出は絶えることがない。
「あー……今日だったっけ。ん? 明日?」
 やがて合点がいったような口振りで開かれた瑠璃と琥珀、色違いの瞳がきらきら輝く。
「そっかそっかぁ、そんなに経つんだねぇ……僕はあんまり大したことしてないなぁ」
 特異運命座標なんて大層な肩書きをつけられても彼の性質は何も変わらない。
 在るがままに、思うままに、気ままなひとり旅。来るもの拒まず、去るもの追わず。ただその日の食事と寝床さえ手に入ればよかった。
 世界を揺るがす大事件だって話題の種として摘む程度のもの。流石に人心が乱れすぎて寝付きが悪くなってきたから少し海洋には出向いたけれど。
 だからその日の存在すらすっかり忘れていたのだ。
「もう3年も経つんだねぇ、あの——」
「——大規模召喚の日?」
 普段は鋭く刺さるような紫色の瞳をきょとんと瞬かせて鸚鵡返しに問うた褐色肌の少年。知らないのか、と聞かれればその意思の強そうな風貌に反して素直に頷く。
「俺は特異運命座標となってまだ日が浅い。深緑から出るまで外の歴史にも疎かったからな」
 空中神殿へ呼ばれたのは里から傭兵の地へ流れ、ザントマン事件と呼ばれた騒動も運よく逃れたその後だ。
 不器用な質から人付き合いは苦手だと賑わうローレットにはあまり近寄らない。それが無知の原因だろうと自らの行動を省みる。
「手間を取らせてすまないが、ご教授願えるだろうか」
 真剣な顔で頼む彼を無視するならば初めから話しかけてなどいない。
「こちらも待ち人が来ずに暇を持て余していたところです。私で良ければ、是非」
 物腰柔らかな青年は海のように深い青色を細めて笑う。
 薄布越しの唇が紡ぎ出すのは始まりの日の物語。混沌の各地から、異世界から、気がつけば集められていた遥か空の上の神殿。顔を突き合わせては惑う見知らぬ者同士は同志であると告げる神託の少女。
 かくして世界は動き出す——



「——などと語ったところで、私もつい最近まで一般の海洋民でしたのであくまで伝聞ですよ?」
 そう締め括った青年に、幻想種の少年は礼を言う。その時、ギルドの出入り口の方から誰かを呼ぶ元気な声が響いた。
「お待たせお待たせ! 街角もお祭りみたいな騒ぎであちこち流されちゃったっ」
 特徴的な帽子を被った青年が駆け寄ってきたかと思えば、見た目にそぐわぬ子供のような話し口で次々と捲し立てていく。どうやら親切な青年の待ち人らしかった。
「無事に着いただけ良しとしましょう。ほら、もう間も無くですよ」
 壁の時計に向かう視線を追いかけて赤と紫が針をなぞる。

 4、3、2、1——

「——大規模召喚から3周年! 今年も張り切って世界救っちゃおうっ」

 一斉に弾けるクラッカーとグラスを打ち合う音。まだまだ道の半ばにある者達の、束の間の祝宴の始まりだ。
 交わされる「おめでとう」と「おつかれさま」の声の波の中でひとりひとりが思う未来が、どうかどうか訪れますように。
 願わくば、もう誰ひとり欠けることなく辿り着けますように。


____

キャラクターを選択してください。


PAGETOPPAGEBOTTOM