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街のどこかの寝床

【PPP3周年記念SS置き場】


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 その獄人は戸惑っていた。そこら中を飛び交う己以外の声に、視線に。
「………………」
 神使。外の国では特異運命座標、イレギュラーズとも呼ばれると聞いたそれに、自身が選ばれるなどと思いもしなかった。正確にはそんなものがあることすら知らずに生きてきたのだ。
 被った外套の下から覗き見る、十数年ぶりの人里。同族もいれば八百万もいる。そして見慣れぬ装束、見慣れぬ人種も多い。
「海の向こう、か……」
 神使となることを選んだ以上、赴くこともあるのだろう。
 こうして先のことを考え始めた己の変化もまた、彼らの起こした風のひとつなのかもしれないと不思議な心地を抱いて歩き出す。海風に混じって祭だなんだと騒ぐ中に、それとは別の祝いの言葉を聞きながら——



 ざわざわと逸る心音を片耳に、イレギュラーズの拠点へ足を踏み入れたのは一匹の猫。正確には白いマントを羽織ったネコ科獣種の青年だ。
 どこか警戒ぎみな彼は早々に隅で壁に背を預けて目を閉じてしまう。その前をやれ新大陸だ、幻想郷だ、と溢しながら幾人もの同業者達が横切っていく。深夜だというのにまったく人出は絶えることがない。
「あー……今日だったっけ。ん? 明日?」
 やがて合点がいったような口振りで開かれた瑠璃と琥珀、色違いの瞳がきらきら輝く。
「そっかそっかぁ、そんなに経つんだねぇ……僕はあんまり大したことしてないなぁ」
 特異運命座標なんて大層な肩書きをつけられても彼の性質は何も変わらない。
 在るがままに、思うままに、気ままなひとり旅。来るもの拒まず、去るもの追わず。ただその日の食事と寝床さえ手に入ればよかった。
 世界を揺るがす大事件だって話題の種として摘む程度のもの。流石に人心が乱れすぎて寝付きが悪くなってきたから少し海洋には出向いたけれど。
 だからその日の存在すらすっかり忘れていたのだ。
「もう3年も経つんだねぇ、あの——」

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