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街のどこかの寝床
 ̄ ̄ ̄ ̄
カチ、コチ、カチ、コチ——
一歩ずつ進む一本の針を飽きることなく追いかける赤い瞳は瞬きを忘れてしまいそうなほどに真剣だ。
「そんなに見つめていても速くなったりしませんよ」
後ろから呆れたような声が聞こえたって気にもしない。
「だってお祝い事だもん、待ち遠しいじゃない!」
「さて。記念日ではあれど祝うものなのでしょうかねぇ?」
私達に直接関係は無いような、とピンのこない様子で仕事を続ける水色の髪の青年。
「関係あるよ! だって明日は僕らイレギュラーズが——」
静かな静かな夜だった。崩れた屋根の隙間から差し込む月明かりの音すら聞こえそうなほどに。
それなのに——
「不思議と、心がざわめく、夜、ですね…?」
視界を遮る黒布の向こうに何を感じ取ったのか、少年は呟いた。
雨上がりの冷たく湿り気を帯びた風が吹く。ユズリハに似た大樹の枝が影を揺らしてささめく。刻一刻と変わりゆく世界情勢のように同じ形に戻ることはない。
「……何かが終わる。そんな気配、でしょうか」
ふるりと震えた肩に寄り添う白く小さな霊魂。裸足の指先にはいつのまにか黒狼の霊魂が丸まって陣取っていた。
「ふふ、心配しないで、ください? ちゃんと、わかっています、から……」
目隠し越しの金の瞳に柔らかな笑みが灯る。
終わりの先には始まりがある。特別に怖がることなんてないんだ、と——
「——思いの外、遅くなってしまったな」
ぽつりと何気ない響きの少女の声。それは闇に溶け込む色合いの装束の纏う人影から放たれたものらしかった。
応えるのは赤茶がかった黒い鷹。肩で羽を休ませながら鳴く声は、いつものことだろうと笑うよう。
「ぐっ……雨の中を駆けたから念入りに手入れをしただけだぞ?」
朧げな輪郭が露に濡れた青草を踏み締めて進むのはとある忍集団の隠れ家の一画。
「戦さ場には屈しない心の強い子だが、体を冷やして風邪でもひきはしないかとだな」
そう言って振り返った先には厩がある。愛馬を心配して険しく尖った青の瞳に映り込んだ鷹がまた、ひとつ、ふたつと鳴く。
「……わかっている。俺が倒れては元も子もない。今日はきちんと部屋で寝るとも」
まるで叱られた子供の声音で続ける。
「なんだか、胸騒ぎがしたんだ。此処で流れ星を見たあの日のような——」
始まりの記憶を手繰り寄せながら足は塒へ向かう。
そうして結局のところ、彼女はまたそこで朝を迎えるのだった。
カチ、コチ、カチ、コチ——
一歩ずつ進む一本の針を飽きることなく追いかける赤い瞳は瞬きを忘れてしまいそうなほどに真剣だ。
「そんなに見つめていても速くなったりしませんよ」
後ろから呆れたような声が聞こえたって気にもしない。
「だってお祝い事だもん、待ち遠しいじゃない!」
「さて。記念日ではあれど祝うものなのでしょうかねぇ?」
私達に直接関係は無いような、とピンのこない様子で仕事を続ける水色の髪の青年。
「関係あるよ! だって明日は僕らイレギュラーズが——」
静かな静かな夜だった。崩れた屋根の隙間から差し込む月明かりの音すら聞こえそうなほどに。
それなのに——
「不思議と、心がざわめく、夜、ですね…?」
視界を遮る黒布の向こうに何を感じ取ったのか、少年は呟いた。
雨上がりの冷たく湿り気を帯びた風が吹く。ユズリハに似た大樹の枝が影を揺らしてささめく。刻一刻と変わりゆく世界情勢のように同じ形に戻ることはない。
「……何かが終わる。そんな気配、でしょうか」
ふるりと震えた肩に寄り添う白く小さな霊魂。裸足の指先にはいつのまにか黒狼の霊魂が丸まって陣取っていた。
「ふふ、心配しないで、ください? ちゃんと、わかっています、から……」
目隠し越しの金の瞳に柔らかな笑みが灯る。
終わりの先には始まりがある。特別に怖がることなんてないんだ、と——
「——思いの外、遅くなってしまったな」
ぽつりと何気ない響きの少女の声。それは闇に溶け込む色合いの装束の纏う人影から放たれたものらしかった。
応えるのは赤茶がかった黒い鷹。肩で羽を休ませながら鳴く声は、いつものことだろうと笑うよう。
「ぐっ……雨の中を駆けたから念入りに手入れをしただけだぞ?」
朧げな輪郭が露に濡れた青草を踏み締めて進むのはとある忍集団の隠れ家の一画。
「戦さ場には屈しない心の強い子だが、体を冷やして風邪でもひきはしないかとだな」
そう言って振り返った先には厩がある。愛馬を心配して険しく尖った青の瞳に映り込んだ鷹がまた、ひとつ、ふたつと鳴く。
「……わかっている。俺が倒れては元も子もない。今日はきちんと部屋で寝るとも」
まるで叱られた子供の声音で続ける。
「なんだか、胸騒ぎがしたんだ。此処で流れ星を見たあの日のような——」
始まりの記憶を手繰り寄せながら足は塒へ向かう。
そうして結局のところ、彼女はまたそこで朝を迎えるのだった。
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