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別邸『イハ=ントレイ』
……ふふ。なるほど、そうなのですね。
そのアルタ・マレーアというレストランには、ボクも一度足を運んでみたいものです。
(軽く息を吐き、やがて男は微笑みながら頷いてみせた。
それは決して、彼女を憐れんでの事ではない。
これがクレマァダという女性の、今日までの在り方なのだろうと理解した。それだけの事である。
正直を言えば、彼女くらい妙齢の女性ならば――という感覚を、この男は持ち合わせている。
だが。その感覚が正解などと、どうして言えようか。清廉な彼女を在り方に、意見などできようものか。
なにせ、その愚行は先日、既に犯しているのだから――
故に、男はもう一つだけ。彼女に問うに留める)
…――ちなみに、少々不躾な質問かもしれませんが。
貴女が日々、ひたむきに公務に励まれる為の活力は、いずこより湧いてくるのでしょう?
(それが所謂、責任感の類なのか。何か別の想いや誓いがあるのか。
それとも或いは――その生き方しか知らぬのか。
男の双眸は心なしかこれまでより深く、金色に輝くクレマァダの瞳を見据えているように思えるだろう)
そのアルタ・マレーアというレストランには、ボクも一度足を運んでみたいものです。
(軽く息を吐き、やがて男は微笑みながら頷いてみせた。
それは決して、彼女を憐れんでの事ではない。
これがクレマァダという女性の、今日までの在り方なのだろうと理解した。それだけの事である。
正直を言えば、彼女くらい妙齢の女性ならば――という感覚を、この男は持ち合わせている。
だが。その感覚が正解などと、どうして言えようか。清廉な彼女を在り方に、意見などできようものか。
なにせ、その愚行は先日、既に犯しているのだから――
故に、男はもう一つだけ。彼女に問うに留める)
…――ちなみに、少々不躾な質問かもしれませんが。
貴女が日々、ひたむきに公務に励まれる為の活力は、いずこより湧いてくるのでしょう?
(それが所謂、責任感の類なのか。何か別の想いや誓いがあるのか。
それとも或いは――その生き方しか知らぬのか。
男の双眸は心なしかこれまでより深く、金色に輝くクレマァダの瞳を見据えているように思えるだろう)
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でなければどうして耐えられよう?
貴族の社会とは、近現代以降の地球に相当する文化圏が想像するものとは違う。
貴族とは官僚や軍人など国家の運営に関わるものとして要職を担いながら、しかし同時に所領に於いては実質上の支配者に当たる総合的な”文化の担い手”でもあった。
そしてそういう話で言えばコン=モスカの社会は、女性が優位にあると言ってもいい。
なぜがそれが判ったか?
問うまでもなく廊下を歩きながら感じる――それはもう、ひしひしと感じられるのだ。
『あら、殿方よ』
『畏れ多くも祭司長様にご意見なさったらしいのよ』
『わあこわい、やっぱり陸の男は野蛮ですわね』
『ぜんたいどうしてクレマァダ様はあのような者をお招きになったの?』
そういう囁きが、先程からずっと聞こえる。
たまりかねてちらと視線を送れば、それとは逆の方からひそひそちらちらとまた、好奇と軽侮の入り混じった軽口が聞こえるので、これはもうたまらない。
たまらないがさりとて足を止める気もなく、彼は導かれるままにその一室へとたどり着く。
もはやその部屋へ入れば、あとは彼女と対面するのみだろう。
そこで向き合う重たくてどろどろしたものに比べれば、侍女の放言など本当に何ほどのものでもなかった。
その部屋は、彼女の執務室であった。
人ひとりが一日過ごすには快適すぎる空間と、丁度、それに椅子。大きなカンバスに豆粒のような人を描くような物足りなさ。それが彼女の今の日常である。執務卓に紙切れは数え切れず、しかし誇りは露ほども溜まっておらず、それらが昨今喉も乾かぬうちに溜まったものであることがわかる。
そのなかで、その執務卓から前に6、7歩ほど前に歩いた場所に、彼女のプライベートスペースが僅かにあった。
彼女はすっと立ち上がると、あなたに挨拶をする。
客間に通すのは人の目が気になるが、本当にプライベートな部屋もまた人目に付く。そういう距離感にはきっとうってつけだろう。
マホガニーの机を背に、傍にある来客対応用のソファは彼女のぬくもりを吸い、しかしそれを伝えることはない。
冷たくて哀れで、けれどもふれるとしっとりと濡れたように暖かい。
つまりそれが、クレマァダ=コン=モスカだったのだ。
「……よう来てくださった。
茶はいかがじゃ? 海洋は、茶が美味い。それを飲んだら――
何の用向きか、話すと良い」
そういうと彼女は、貴方の側の椅子を掌で指し示した。
あくまでホストを気取るつもりで、それを当然と思っている。
憐れなれど、それが全てなのだった
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【参加者向け】
あなたは、クレマァダに言いたい事があってここまできました。
クレマァダは、あなたに言いたいことなど何もありません。
クレマァダは、救いを求めてなどいません。
しかし彼女は、他人の言葉を無視などしません。