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月灰治療院

【三周年記念SS】王からのお言葉が届いています。

貴方が居る場所は、石造りの建築物の奥まった場所のようだ。
遥か遠くに誰かが居る気配はするが、今この室内は貴方ひとりだ。

貴方は室内に意識と視線を戻すと、部屋の正面に巨大な皿が置かれている事と、正方形の室内は窓がない代わりに採光の為、天井側の壁が一定間隔に空いている事に気付いた。


視界と、その状況を視認してい繧九→縺�う意識が時々暗くなる。雑音が、誰も居ないはずの室内で声が、ざわざわと不愉蠢ォ縺ェ髻ウ縺�聞こ縺�る気がする。


慌てて目を閉じ、頭を振って貴方はそれをやり過ごす事ができた。
中から出る扉はどこにも、背後にすら見当たらない。
それであれば、調べるべきは明らかに室内に置かれた巨大な皿だ。

白い、石膏のような色合いをしており、皿の中央には灰色の光のような何かが浮いている。
他を調べる事もできるが、灰色の光以外はごく普通の建築物でしかない。石造りにも関わらず継ぎ目が全く無い事を除けば、特筆すべき事はない。

貴方は改めてその灰色の光を凝視した。
目を焼く程眩くはなく、臭いもなければ形も曖昧。さながら惑星状星雲のように音も無くその場に存在している。熱くもなければ冷たさも皿の外からでは感じない。

眺めている内に光の中に何かが存在している事に貴方は気が付いた。
人の形をしているような気もするが、皿の外では判然としない。
意を決し皿の中へ歩を進めた。

やはりと言うべきか、少なくとも成人の人間のようだ。輪郭は朧であっても、それは間違いはない。
手を伸ばす。ここがどこかは分からないが、何かが良くない。まともな人間なら存在してはいけない場所だ。
逃げなければ。ここから連れて逃げなければ。貴方は強くそう思った。

光の中の人も、貴方に気付いたのか、手を伸ばしてきた。
あとすこし、もう少しでその手を掴める。
貴方は手が光に触れる刹那、光の中から声が聞こえた。


「どうし縺ヲ譚・縺�の」


声の意味を認識した瞬間、貴方の身体に曖昧な灰色の光が蛇のように絡みついた。
焼ける痛みに声を上げようとするが、開いた口中に光が這い込み、取り出そうと足掻こうとしても指一本動かせない。
膝を付き、必死に目を開くと、自分を包む灰色の光の正体に貴方は気付く。

それは火だ。灰色の火だ。

身体に焦げひとつ無いに関わらず、灰火は貴方を焼く。何を焼いているのか。この痛みは何なのか。
もしかせずとも、痛いと思う意識――精神――魂なのか。

倒れ伏した貴方は必死に這いずり、光の、灰火の中にいる人を見る。逃げろ、と。そこにいてはいけないと、目線で訴える。
包んでいた火が貴方に移った為か、その人の灰色の髪が火に煽られ煙のように棚引いている。
陽光が髪に当たり薄く金色に変色し、陽光から逃れ灰色に戻る様子を見て場違いにも感動すら覚えた。

意識が途切れる。魂が燃える。
最後に貴方が見たものはその人の深海のような「あっやべ」




◇◇◇




いやあ、失敬失敬。
久々に生まれた時の映像でも見ようかと思っていたら、キミ達の魂を出力装置にしてしまったようだ。
今切ったから、魂も身体も無事だし安心してくれたまえ。


特異運命座標(イレギュラーズ)の諸君、3周年おめでとう!
私は遠い世界、今キミ達がいる場所とは軸が違う……早い話が異世界からこの話をお届けしている。
姿も声も事情があってお披露目できないが、どうも『指輪』の角度がちょうどいいらしい。文章だけなら誰にも影響はなさそうだ。

自己紹介をしよう、と言っても名乗る事もできないのだが、敢えて言うならば『神』であり『王』である。
この星には国はひとつしかないので実質星の王であるし、星の生態系を作り上げたのも私であるので神と言って過言ではないだろう。
そんな私がどうしてキミ達に接触を図る事ができるのかというと、実はそちらの世界に召喚された私の尖兵に私の触媒である『指輪』を持たせているからだ。
指輪では私が通るには狭すぎる道しかできないので、アポカリプスな事態は気にしなくていい。
折角なのでその尖兵の話をしよう。


識別ID:p3p000419、名称:servus(セルウス)。
私の尖兵であり奴隷、広い意味で私が生みだした存在だが勿論私が腹を痛めた訳ではない。
暇つぶしに私のいる世界とは違う軸、キミ達の世界とは違う異世界の底を撫でて遊んでいた所燃え尽きなかった魂の器である。

撫でて残った爪跡に巻き込んだ魂が燃えた所で、、水に落ちたトイレ紙の欠片のようなもので気付く事はまずない。巻き込まれたらご愁傷様というものだ。
それがある日、撫でた爪先に、残った魂の感触が在ったのだ。感動すら覚えた。
細い紙のように燃え尽きるだけの物だと思っていたものが、煤け炭化していても、中で生きている事に気付いたのだから。

あまりにも珍しくて持ち帰ってしまったのだが、神であるものが遊びで人間の魂を中途半端に扱ったと他の神に知れたら正直舐められる。
燃やし尽くすか、狂わせるか、蘇らせるくらいしないと箔が付かない。神という存在も結構周りを気にしなければならないのだ。
それに、この珍しい魂はきっと常人ではあるまい、多少損なったと言えど何かの才ある人間だったのではないか。


好奇心は止められず、私はその魂を人間として蘇らせる事にした。


まず焼失した肉体を創造しなければならなかったが、元の人間の姿など知るはずもない。
出来るだけ、可能な限り美しくしておけば、万が一記憶が残っていたとしても文句はなかろう。
魂の器である肉体は、ある程度は魂が求める姿になるものだからだ。

そして魂と肉体は歪なままでは適合しない。魂に適合するように肉体は作らねばならない。
魂の炭化した部分を取り除き、肉体を成形し魂を定着させ、取り除いた魂炭で私の灰火を灯し、その中で温めた。
私の胎に入れては人間ではない――キミ達からすると化け物が生まれてしまうし、肉体と魂が定着してもそれだけでは命が芽生えるトリガーがない。
私が作った肉体なので、私の力である灰火の魔力をトリガーにしたのだ。


そうして、先程見た映像のように彼は生まれた。
失敗があったとするならば、人間に当然ある性別という繁殖の為の個体差を完全に失念していた事だ。
なので性質を踏まえ彼と呼んでいるが、実際の所性別を象徴するようなものは存在しない。
喋りや思考からすると、恐らく魂は男性だったのだろう。

そして知識や教養を与え、名を与えたが問題が発生した。
私が治めるこの星では、人間というものは家畜にも等しい。私はそうではない存在も知っているが、民はそうではない。
なので彼を城の外に出す訳にはいかなかったし、狭い世界では彼の魂は輝かない。

そう、つまり無辜なる混沌からの召喚は乗りかかった船だ。
私の下にいるよりも、混沌世界にいた方が彼の可能性はより高められる。
あとは触媒を与え私の命と適当な理由を付け放り出し今に至るという訳だ。
彼を気に入っていた私の眷属が一匹触媒を伝って行ってしまったが、まああれ一匹くらいは何ともならないと約束しよう。
万一彼が死んだとしたら、それは私の見込み違いだったという事だ。


さて、話が髟キ縺なって縺励∪縺」縺
……どうやら角度がずれてきたらしい。この辺で終わりにしよう。
また来年の今頃もこうして話ができると嬉しいね。


ではさようなら、息災でいたまえよ、プレイヤー諸君。

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