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真剣素振り場【SS】

文字通り、ちょっとしたSSを置いてある場所だよ

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――そういえばさ。

思い出したような、とぼけたような。豊穣にて、旧知の仲たる伏見行人が、己を見かけて声をかけて来て数分もした頃だった。

豊穣たるカムイグラ。新天地として発見されたかの地には洋装たる己は多少目立つだろう。じろりと見られる事はないが、ちくちくと周囲を飛び回る視線を無視しながら己は答えを返す

なにかな。

彼女――と言っても、それは擬態に過ぎず。本質は悪魔が如き外見なのだが――は揺らぎ無い表情で側面を歩く伏見へ声をかけた。疑問であるが、問いかけるような色は薄く。確認をするような口調で隣を歩く男の方を向かず、歩きながら答えを返すと、彼は己にとっても意外な事実をノックしてきた

君とはやりあった事、無かったなあと思ってね。

明日の天気は何だったか。今日は何を食べるべきか。そのような気軽さを伴わせながら男は泰然とした態度で果し合いを望む。それを聞き、歩みを止めた彼女は、一歩先に行った彼の背中へ己が疑問を投げかける。

自衛、依頼、筋違え。それら以外では戦わないのではなかったのかな。

それが自分の従うべき戒律(ルール)だと。彼は言っていた気がする。
彼とは何度か依頼を共にしているが、積極的に力を誇示するようなタイプではない。――歩みを止めたのは、その幾度かの経験から来るパターンを彼が自ら外して来たからであり。
意表を突かれた提案であったが故に、歩みも止めて何故それに至ったのかが解らない、と。
首をかしげた恋屍へ、いつも浮かべている薄っぺらさを湛えた微笑みを浮かべて男は無遠慮にその疑問を開く鍵を振り翳して、叩き付けた。

そういう気分の時もある。

事も無げに言い放たれたそれは、大凡全ての問題に於いてを理不尽に解決させる事が出来るマスターキー。ともあれ、ルールを定めた男が言うのならば否やはあるまい――人外、怪生物。ヒトではない己は今以上の疑問を持たず。止める理由も無く。

ふむ。そういうものか。
考えるような素振りだけを見せて、怪生物は再び歩みを始める。明確に彼へと追随する意思を籠めて。

そういうものさ。
長き年月で人間らしさを醸成させた怪生物は、そう嘯いて先導していった――
高天京にも人が寄り付かない場所というのは存在する。
穢れという概念を忌避する豊穣の民は、辻陰陽――流れの陰陽師が立てる卜占に従う信心深い住民が少なくない。貴種たる歴々も言わずもがな。
卜占という日々の生活で生じる諸々の『責任を押し付けられる』存在はとても使い勝手が良いからである。無論、本当に信じて行動している民も居ない訳ではないが――
そんな信心に逆らう形で歩いていくと、自然と人は少なくなっていく。人気は薄れ、何処か薄ら寒さを伴う場所へと到達すると、伏見は立ち止まり、首肯を一つ。

「ここなら大丈夫かな。まあ、取って食おうって訳じゃあないんだ。」

そう言って振り返った伏見は目を緩める事をやめていた。
腰に挿した剣を鞘ごと抜き、左手は柄へ、右手は逆手に柄を握り。臨戦態勢を取った伏見は笑いながら、常のに言い放つ。
多少なりとも戦闘に身を置いている恋屍は、気の興りを感じ取れず、ふん、と鼻を鳴らす。数メートル程離された距離で臭ってくる体臭に変化が無かったからだ。

「あまり好きじゃあないけども、やるからには手の内を見せて欲しいと思う。」

抜いたチェーンソーに火が入る。どるん、どるん、と規則正しい音に鋭敏な嗅覚が示す刃が空気を焦がす匂い。使い慣れた武器をだらり、と下げるように持った彼女は、見知ったようで印象が変わった男と相対する。

「合図は無くて良いだろう。そっちから来てくれ」

じゃり、とつま先で地を詰り、ほんの少しだけ鞘から剣を覗かせ。『己が得意とする待ちの形』へ持ち込まんとする男は微動だにせず。
しゃらしゃら、とチェーンソーが動く音だけが、響き――

――シャァッ!

その環境に異物が混じったのは、音無く一足の元に飛び込んだ恋屍が切り上げるように振ったチェーンソーを横から叩きつけるように受け流さんとした伏見が抜剣した瞬間である。
互いに近接を得手とする同士、戦うのならば一挙手一投足の間合いであるが――ふぅん、と。予想を越えては来なかった相手をみやり、つまらなさそうに横を叩かれた勢いをそのままにぐるり、と周り、左手で殴れるように調整された篭手の先端を叩きつけんと振りかぶる。が――

がつん、と鈍い音がした。
刃を流し、ぐるりと勢い良く周りながら拳を振りかぶった相手が遅い訳ではない。戦場で磨かれたそれは十二分に通用する速さであり、並の兵士ならばそれだけで終わっていただろう――伏見の頭突きが早かった。それだけの事である。
有効打とも言えない――むしろ、擬態粘液で全身を覆っている恋屍へ頭突きをしたであろう伏見の方がダメージを受けた、であろう。だが、しかし。衝撃はお互いに受けてのけ反った所で。逆手に握った伏見は刃を返し。頭突きによって多少体勢が崩されたものの、人外の体幹によって継続された左拳、その防具へ刃を添える。

ぎぃ!

やり辛い、と言わんばかりに瞳を揺らした男は、軽防具しか付けない己にとって、致命の一撃足り得るチェーンソーへ注力しながら次の手を考える。誘った側が無様を見せる訳には行かないからだ――
火が点いたように痺れる額、特に堪えた様子のない相手。
人の範疇で考えられぬ相手は、相対すると厄介な事この上無い。対人の技術が通じないのならばそれ以外を見せれば良いだけの事だ。

鞘を握った左手を相手へと叩き込む。ごり、と硬い感触がするのは彼女が纏う衣服すらが擬態であるからだろう。これを破らねば相手へ至る事が出来ないのならば、と。身体を翻し――ぶわり、と外套が翻った。

ぎゃぎゃぎゃぎゃ!!

間髪入れず振るわれたチェーンソーが布と、仕込まれた鋼線を巻き込む異音が響く。チェーンソーの利点である回転を、噛ませる事で止めんとしたが為の行動であるが――それは唯のチェーンソーであれば、という但しがあった。彼女が振るうのは首落清光と銘を付けられた、常ならぬ品である。鋼線混じりのそれはその意図すら食い破り、伏見の身体をも食い破らんと迫って――

とすっ。

外套の内側を抜くように、切っ先が生えた。彼女の胸、人の身体であれば、肋骨をくぐり抜け、肺腑を抜けたであろう。奇剣が彼女の衣服へと刺さった。そのままぐ、っと押し込むも身体へ到達するまでには至らずに、刺突の衝撃をそのままに受けた彼女は、留め具が外れた外套をチェーンソーに巻き込んだまま、後方へたたらを踏む。

その間、後方へ一足飛びをして距離を離した伏見は、剣を順手に握ったまま――彼我の距離は始まった時と同じ距離へと。仕切り直し、である

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