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登場人物一覧

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星


 キシキシと少しきしむ階段までいとおしい。
  夢見 ルル家 (p3p000016)、働いて、働いて、安定した食いぶちと安らぎの我が家を手に入れた。
 やりがいのある労働。今日も「路地裏カプリチオ」は盛況であった。
 それなりに疲れて開けるドア。
 後はちょっとだけごろごろして、一息ついたらお風呂して、またちょっとごろごろして、今度こそ本気でお布団にダイビング。
 土間に、ゴロゴロと明後日の方向を向いたブーツが転がっている。どういう脱ぎ方をしたらこうなるのだ。いや、脱いだだけましかもしれない。土足で畳に上がりやがった時は天井から吊るそうと思った。実行しなくて、拙者えらい。
 開けたふすまを閉めるのも忘れた。虚空に飛んで言った心が戻ってこない。
 目の前に広がる大惨事。
 広いリビング・キッチン。幾つかの客間。3人程度なら問題なく入れるバスルーム。
 調度品は少ないものの居住スペースとしては快適で、ルル家は気に入っていた。悲しいことに、過去形だ。
 未成年者の住居なのに、家中酒臭い。
 リビング・キッチンには、片付けても片付けても増殖スライムのように酒瓶が生え、いくつかある客間はどれも満遍なく散らかされている。一人の居候に。部屋を散らかすくせに、散らかった部屋は好きではないのだ。だから、散らかっていない部屋に移動して、そこを散らかすのだ。意味が分からない。
 放火が重罪なのは、完膚なきまでに他人様の日常を破壊しつくすからだ。
 バスルームにまで酒瓶があるのはなぜだ? 飲んで風呂に入ると死ぬぞ? いや、今までその生活で死んでいないのだ。あのオールドワン、血管がフレキシブルホースなのではないだろうか。
「…………」
 ルル家は、とりあえず歩くのに邪魔な酒瓶を脇に寄せた。脱ぎっぱなしの司祭服だのインナーだのを丸めて、洗濯場にほおりこんだ。畳の目に入り込んだお菓子のクズを吐くのは明日にしよう、夜だし。
 もはや最後の砦は私室しかない。
 心を無にして、自室のふすまを開ける。
 そうだ、確かに理文具にもキッチンにも風呂場にもいなかった。てっきり、客間のどこかで寝落ちしているのだろうと思っていたのだが。
 なぜ、拙者がダイビングするために、忙しい中、店を抜けて干していたふこふこお布団の上で居候が酒を飲んでいるのでしょう。わかりません。もう、わかりません。
 酔っ払いが、事態のありえなさにフリーズしていたルル家に気が付いたとたんわめきだした。
「ちょっとルル家、最近、戸棚におやつが入っていないのは何故ですの! 楽しみにしていたのにぃ!」
 件の居候、ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は、抗議の声を上げた。布団の上でじたばたする。布団のふこふこ指数が減る。
 酒が血液のくせに、甘いものまで食うとかどこまで貪欲なのだろう。
「ヴァレーリヤ殿が勝手に食べるからでしょう!? 拙者が買ったおやつ、拙者が一つも食べられないってどういうことですか!?」
 だから補充しなかったのだ。少しでも居心地悪く感じて出てってほしい。ささやかな意思表示なのだ。こう、察してくれないもんだろうか。そんな気配を感じる奴は居候にならない。
「あとご飯も私の方が少ないし! 昨日のお魚も端っこの方だったし! 差別! オールドワン差別でございますわー!」
 差別ではない、区別だ。というか、気配を察して以下同文。
 小さいのはともかく、内臓の辺りは箸でさばきにくかろうというルル家の気遣いが全く伝わっていない。
「――食費も家賃も出してないのにご飯が用意されるだけ感謝して欲しいぐらいですけど!?」
 ルル家、腹を決めた。
 そもそもごはんを用意しないという選択肢。なんかフラグが立って、ルル家の脳裏にいつか浮かぶことを祈る。
「――っていうかなんで拙者の部屋で飲むんですか!?」
 そこは最後のとりで。絶対防衛線。鍵がかからない日本家屋への慎みを持ち合わせておらんのか。ない! カムイグラ出身じゃないから! あるモノはみんなで分け合う信仰人だから! 貴方のものは私のもので、私のものもあなたのものだから私も唯一持ってるお酒上げようと思うけど、未成年だからあげられないね。大体そんな感じ。悪気はない。
「現、金を、いれろっつってんですよーっ!」
 貨幣経済、素敵な概念。酒も買えれば物件も買える。こちとら、仕入れにも金が要る。いくらあっても困らないんですよ!
「もう無理です! 無理無理の無理キングです! 今すぐ家賃払えないなら出ていって下さい! テッテイヤンキーゴーホーム!」
 ルル家の「銭を出さねば出てけ」という叫びに、ヴァレーリヤはとりあえず居住まいをただした。やばい、ガチだ。
「ええと、持ち合わせがないので、また今度お支払いしますわ……ね……?」
 視線がきょどっている。小首をかしげて見せたりもする。
 収入がないのではない。持ち合わせがないのだ。やっぱり、ローレットに酒場が併設されてるのがよくない。ツケを払うと減るのだ。ついでに買い物したりするとお金はなくなるのだ、不思議だね。
「そんな事言って払った事一回もないじゃないですか! そのくせお酒だけは買い込んで!」
 ヴァレーリヤは、心底不思議そうな顔をした。ノードリンク、ノーライフ。飲まずして、いかにして生きろと言うのか。飲むために生きてるんだから、酒を買わないという選択肢はないのだ。
 働いていないわけではない。生きるために必要な分だけ酒に金を使うと、何も残らないのだ、不思議だね。
「お願い、もう少しだけ居させて頂けませんこと? ここを追い出されたら行く所がありませんの。何の成果も出ないままゼシュテルに戻る事になったら、私……」
 今よりは自由にお酒を飲めなくなるかな、様々な意味で。この間、ゼシュテルの酒場一軒国家公認で吞み潰したのは同行したルル家の記憶にも新しすぎて、かさぶたが渇いていない。拙者、何も見てないです。
 とりあえず、ヴァレーリヤが痛飲できる店は探すのめんどくさいレベルに達し、きっと減少の一途をたどる。
 ぐすんぐすんと鼻を鳴らし、上目遣いでルル家を見上げるヴァレーリヤ。神に一晩中でも祈り続けられる司祭である。酒のために夜が明けるまで泣き続けるなど造作もない。礼拝堂の冷たい床どころか、ふかふかお布団の上だからして。
「はぁ……、わかりました……。もうちょっとだけですからね……」
 ルル家は疲れていた。実際、ふかふかの布団に転がりたかった。APがゼロだった。今日は寝よう。気力が充実した時を狙って再試合だ。
「やったー! ありがとう!」
 ヒモに引っかかった瞬間である。
「ホッとしたらのどが渇いたので、お酒の時間でございますわー!ジュースで良いからルル家も飲みましょう?」
 そんなこと言いつつ、ジュースを取ってくるのはルル家なのだ。
 ジュースをコップに注ぎつつ、自分の甘さにため息が漏れる。
 あのヒト、拙者が見捨てたらのたれ死ぬんじゃないですかね。
 そういう風に思われて、ヒモは一人前だ。大丈夫だから躊躇なく蹴りだしてほしい。
 ルル家~、ルル家~、氷もないのですわぁ~と、呼ぶ声にコップとアイスペール持って戻ったルル家は、喉元までこみあげてきたあれやこれやをを逃がすべく大きく息を吸ってはいた。
 今、あられもない姿で、手足投げだしてへそを天井に向けた元凶をさばいても大体みんな許してくれるんじゃなかろうか?
 あー、それならしょうがないねー。と言ってくれそうな気がする。
 拙者の日常、返してほしい。切実なのです。ローレットの給付係にヴァレーリアの報酬から家賃天引きして、ルル家の口座に振り込んでと嘆願するのもありかもしれない。
 悪気がなければいいってもんじゃない。聞いてますか、神に使える司祭様。あなたに言ってるんですよ~ぉ。

  • 現金をご用意ください。完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別SS
  • 納品日2020年09月27日
  • ・夢見 ルル家(p3p000016
    ・ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837

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