PandoraPartyProject

SS詳細

戦えなくても出来ること

登場人物一覧

秋月 誠吾(p3p007127)
虹を心にかけて

 秋月誠吾の朝はそれなりに早い。それというのも、彼の主が旅人でありながら貴族(しかも領主代理)であり、誠吾はそんな主のフットマン(従僕)見習いだからであり、主の飼い犬であるもっふもふな毛と円らな瞳がチャームポイントなポメ太郎が起こしに来るからだ。
 ぽふん!
 そんな音を立てて誠吾の上に飛び乗ったポメ太郎は、キュートな肉球で誠吾の顔をぺしぺしと叩く。それでも起きなければ、起きるまで顔面を舐める。
 一度顔をべたべたにされた誠吾はそれに懲りて、ぺしぺしの段階で起きるようになった。
「おはようポメ太郎」
 起き上がってポメ太郎を撫でると、ポメ太郎は任務達成! とばかりに部屋から出て行った。
 顔を洗って着替えれば、しっかりとアイロンの効いたシャツに腕を通す。
 見習いとは言え誠吾もフットマン。フットマンとして働く時はきちんとした格好を。との事で、誠吾の同僚であり、この屋敷を切り盛りするメイドは、主はもちろん、誠吾にも毎日清潔な服用意してくれる。
「おはようございます」
 主の朝食の準備のためにキッチンに向かえば、すでにメイドは朝食の下準備を終えていた。
「おはようございます誠吾さん。本日の朝食はホットサンドです」
「それは良いですね。俺はマナガルム卿を起こしてきますので、仕上げをお願いします」
 メイドがお湯を沸かす音を背に、誠吾は主が眠る部屋へと向かった。

「おはようございます。朝ですよ」
 まずは従僕らしい口調で声をかけるが、主はふかふかの布団に包まれて目を覚ます気配がない。
「起きろー」
 軽く揺らすとゆるゆると湖畔のような青い瞳が開かれていく。
「朝か……」
「あぁ、朝だ。今日の朝食はホットサンドだぞ」
 勢いよくカーテンを開ければ、差し込む朝日が眩しくて目を細める。
 今日は良い天気になりそうだ。

 美味しい朝食の後は掃除の時間。
 ドアと窓を全開にすると、まずは洗濯物を回収して回る。
 集めた洗濯物はメイドが洗ってくれるので任せて、その分力仕事はしっかりと。
 誠吾は戦えないイレギュラーズ。
 喧嘩はあれど、戦いのない現代日本から召喚された普通の高校生に、武器を持って戦えるはずがない。
「殺し合いとか映画やらの世界の話だろ? 俺には絶対できねー」
 大切なものを守るためとは言え、他者を傷つけ殺めるなんて誠吾には受け入れられなかった。
 だから誠吾は戦えないイレギュラーズになった。
 戦えない分、戦う以外の依頼を頑張ったり、戦えるイレギュラーズたちを裏方からしっかり支えるのが誠吾なりのこの世界への貢献だ。
「よし、今日もピカピカだ」
 週に一度は拭くと決めている窓ふきも、数が多いと大変だ。だけどその分仕上がりは誠吾も満足のぴっかぴか。
「少し出かけてくるよ」
「分かった。行ってらっしゃい」
 軽く手を上げて出かけていく主を見送ると、今度は床掃除。
 ポメ太郎の抜け毛が多くてカーペットのコロコロに時間がかかったけど、隅々まで綺麗になるとやり切った感が満載だ。
 沢山体を動かすとご飯が美味しい。
 ゴロゴロ野菜と鶏肉のトマトスープと冷製パスタの昼食を終えると、お留守番をしていたポメ太郎が遊ぼうとやってくる。
 ボールを投げて遊んでいると、呼び鈴が鳴る。
 ポメ太郎をメイドに預けて玄関に向かうと、誠吾も見知ったイレギュラーズがたっていた。
「近くまで来たから挨拶にきたんだ」
 と笑う仲間に、誠吾は主が不在であることを告げる。
 それを聞いて、仲間は「また今度遊びに行こう」と手土産だけおいて帰っていった。

「誠吾のおかげで、いつも綺麗で過ごしやすいな」
 寝る前の空いた時間、他愛ない話の流れから急に褒められた誠吾は、思わずきょとんと主たちを見た。
「はい、ここ最近の誠吾さんの掃除はきちんと隅まで行われていますし、掃除の時間以外もゴミに気づいたら綺麗にしているので掃除に関しては満点だと思います」
 頷きながら褒めてくれるメイドに思わず耳が赤くなると、「耳が赤くなっている」と主が笑いながら指摘する。
 急に訳の分からない世界に召喚されて、世界を救えと言われてからは無我夢中の日々だった。
 世界に慣れることに必死になり、漸く慣れたと思ったら、同じイレギュラーズでありながら誠吾を雇ってくれる主に出会えてフットマン見習いとして勉強の日々。
 覚えることがいっぱいで忙しい日々だけど、主に雇われてからは一所に腰を据えた落ち着いた生活ができてほっとしている。
「これからもマナガルム卿たちを裏から支えられるように頑張るよ」
「あぁ、これからもよろしく頼むよ」
 主が寝室に向かえば誠吾たちの仕事も今日はおしまい。
 いつまでこの生活が続くか分からないけど、誠吾はいつか元の世界に戻れると信じている。だからその日まで、誠吾は誠吾なりのやり方で世界への貢献を続けるつもりだ。
 だけど今日はもう遅い。しっかり休んで明日からも頑張ろう。
 おやすみなさい。いい夢を。

  • 戦えなくても出来ること完了
  • NM名ゆーき
  • 種別SS
  • 納品日2020年07月31日
  • ・秋月 誠吾(p3p007127

PAGETOPPAGEBOTTOM