PandoraPartyProject

SS詳細

酒の神の名を以て命じる。開け、理性崩壊の門。

登場人物一覧

セルウス(p3p000419)
灰火の徒
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
黒狼領主


 成功はしたがすっきりしない依頼の報告を済ませた後、一杯ひっかけようと酒場に行けば満員御礼だ。空いているテーブルがない。カウンターに辛うじて一席。何故か、不自然に空いている。
 いつもの『灰火の徒』セルウス(p3p000419)だったら、その席に座らなかっただろう。しかし、今日はどうしても酒が飲みたかった。
 無言で座り、言葉少なに注文し、運ばれてきた食事を腹に収める様子は義務めいていたし、飲んだ酒は喉を焼くばかり。感じている痛みを刺激物を摂取したことにすり替えている。まさしく、摂取だった。
 そんなセルウスの横で一人の男が肩を震わせていた。手にしたグラスがぎちぎち言っている。手にした箸が折れないのが不思議なくらいだ。
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)。
 男がどういう人物なのかを知っている者は、名を知る者を母数とすると圧倒的に少ない。なにしろ「ちょっとえっちな女の子の絵の隅っこによく名前が書いてある人」と認識されているのだ。セルウスもその程度の認識しか持っていない。
 その隣に座っている『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の顔色が若干悪い。来るべき嵐に気が付いた顔だ。地平線の向こうが黒い。
「恐れ入ります。ぶしつけで恐縮ですが、何やらお悩みでも?」
 いつもの新田ならもう少し言葉を連ねるが、それどころじゃねえ。
 セルウスが店員に勧められるまま胃もそぞろに注文した酒は、今シーズン一推しのいい酒で、かいつまんで言うとそんなくそ憂鬱な顔して飲んでいい酒じゃない。更に言うなら、セットの食事も味よし彩りよしコスパよし。
 も一つ言うなら、今、新田はツレとそれで舌鼓うってたのだ。
 横で同じもの頼んだ奴がくそ重ため息つかれたら、楽しめるモノも楽しめない。「この一杯のために生きてる!」したいときに横でおどろ線醸す奴は処していいって神様が言ってた。
 だが、新田も――誘惑者という観点で悪魔かもしれないが――鬼ではないので、話位は聞いてやろうという気になったのだ。ヒアリングはお仕事の基本です。
「どうした、そんな憂鬱そうな顔をして」と、新田越しに話しかけてきたのはセルウスにとっては『最近活躍してる騎士サマ』と顔は見たことあるが、それだけのヒトだ。ぶっちゃけ話しかけてきた人のキャラが濃い。ここだけ席がポカっと空いてた理由がようやくわかった。
「え、いや――」
 セルウスは、初対面の人たちにいきなりお悩み相談なんて当然する気もないのだが、ベネディクトの目が、乗合馬車でここ座りませんかと言ってくれる男子高校生のような目をしていた。断ったら、ダメな奴。傷の痛みを知るアルファの群れはでかくなる。
[――実は」
 セルウスは話し始めた。少なくとも身元は割れてるし、介抱詐欺ではなさそうだったから。


 親子を殺した。魔種の。そういう依頼だった。
 母親は子供を守ろうと死に物狂いだった。子供も母親にとどめを刺させるまいと死に物狂いだった。
 そこに愛はあった。互いをいつくしむ愛があった。
 セルウスは、きちんと仕事をした。依頼を受けた以上、全力で遂行するのが何より優先させなくてはならないルールで、魔種は倒さなくてはいけないものだから。
 ただ、それで親子を殺した自分が――。
「『解釈違い』と。なるほど、なるほど」
 要は、自分のパーソナリティを考慮せず依頼を受けた結果である。適応できない環境に自分を置いたのが失敗だった。
 ローレットの中でも真面目なイレギュラーズが陥りやすいケースだ。人手が足りないからと、自分の心に優しくない依頼も受けてしまうのだ。
 人には向き不向きがある。猫が大好きなのに化け猫退治に行ってはいけないし、巨乳のおねーちゃんという概念を崇拝してるのにサキュバス狩りに行ってはいけない。
「実は、過去の記憶がない」
 しかし、セルウスには、自分に何が向いていないのかということがわからないのだ。
「子供を殺すのは良心がとがめたんだが、そういう感情は別に要らないというか」
 理性は納得して受けた依頼。が、なぜに精神ダメージ受けている。そんな自分が不可解。自分に自分が把握してないブラックボックスがあるっていやなんですけど。今はイレギュラーズの仕事に専念したいのに、自分の地雷が自分で分からないの、地雷です。
「解消の仕方が分からず、もやもやする」
 ともすれば、ヒトの心がないと言われかねないが、なくしてしまった記憶に果たして価値はあるのだろうか。この、その記憶を育てた世界から遠く離れたところにいるのに。セルウスがもってこれたのは信仰と忠誠を捧げる王という概念だけだというのに。
「言いにくい話をよく話してくれたな」
 ベネディクトは、その憂鬱に。と、杯を掲げた。
 苦しい胸の内をちゃんと言語化できてえらい。
「何か聞いて貰ってスッキリしたぁ。ありがと、報酬入ったしお酒奢るね!」
 言葉にして吐き出すのは有効な対症方法だ。――そして。
「セルウスさん」
 新田が酒場の店主に耳打ちして取り出した物。無言で、杯に次いでいく。あかん、これ。匂いがやばい。
「――すごく燃えそうだね」
 セルウスのギフトがささやいている。これは星五つだと。
「とっておきの酒です」
 メタルフレームのリムをずり上げながら新田は言った。
「そういう、いらない感情で仕事の手が鈍りそうなときは―――」
 杯をベネディクトに握らせ、セルウスに握らせ、自分も握って、新田は断言した。
「酒精と一緒に飛ばすに限ります! 今日のお酒が飲めるのは、セルウスさんのおかげです! そぉれ、最初の一杯」
 ちゃっちゃっちゃ。ベネディクトを見つめる新田の目が、酒を胃に流し込めと言っている。
「――!」
 ベネディクトは別に酒豪という訳ではない。が、連携としてここで言っとくべきと判断された。この場のアルファは新田だ。
「続けて二杯!」
 叫ぶと新田は杯を天につき上げるようにして、口から胃まで酒を直下させた。食道涙目。良い子はマネしてはいけない。
「幹事の三杯!」
 金出した奴が幹事である。セルウスは意を決して流し込んだ。胃の腑が冷たくなり、直後に大炎上した。
 ああ、これは、もう、なにも構っていられない。


 まだ、お勧めが残っていたのでそれも飲み、隣のテーブルの女子会で余った果実酒をよろしかったらと譲ってもらってそれも飲み、カムイグラの酒の試飲が回ってきたのでそれも飲んだ。
 ここで自分は飲めないという自制が働けばまだましだったろうが、残念ながら三人とも控えめに言って、自分は飲めなくはないと思っていた。
 更にここはローレット横の酒場。つまり、客は大体顔見知り。ということは、「あたしの酒を飲め―っ!」という奴が10分に一人は現れるのだ。まぶたに何人か浮かんできただろう、その人たちだ。今後のお仕事に影響する。営業活動の一環。飲まずにいられない。
  結果。血中アルコール濃度はガン上がり。それいけ幻想パーリーナイ。のーめのめのめのーめのめのめお前が飲まなきゃ誰が飲む状態に突入するわけである。
「一発芸! 眼鏡割り!」
 マドラーよろしく杯に眼鏡ぶち込み高速撹拌した後、間髪入れずに流し込み、何事もなかったかのように眼鏡かけなおすような大人になってはいけません。
「もう、俺はだめなんだ。ダメダメなんだよ、セルウス。俺がまともに見えているならそれは仲間に恵まれていたからで俺個人はほんとうにどうしようもないダメダメなんだ」
 ベネディクトは、具体的にどうだめなのかプレゼンできない辺りダメになっている。いや、待ってほしい。その考えは軽率ではないだろうか。過去に何度も自分が守りたかった筈の物を守れなかった事が起因するくそ重い案件を酒の勢いで暴露しない自制心の賜物を評価するべきではないだろうか。情報の秘匿はローレット・イレギュラーズには必要不可欠な要素だ。なんでもお天道様に天日干しすりゃあいいってもんじゃない。
 とりあえず、この場に居合わせた者は、あの新進気鋭の領主代行、天狗になってるわけではないんだなーということが知れ渡る。湿っぽいことゆってた評判はしばらく付きまとうだろうが。
「あ、はいそうですね。ええ。まったくもってその通りですね。そうだと思います。間違いないです」
 そして、セルウスはすべてを受け入れ肯定してくれる自動相槌装置になっていた。せめて、ネガティブ発現には「そんなことないですよー」機能をつけるべきだ。アップデートを要求します。カスタマーセンターはどちらですか。
「そうですかあ、ベネディクトさん。詳しくは聞きませんが辛いことがあった様子。それはそれとしてハイもう一杯! ご馳走様が聞こえない! セルウスさんもご一緒に!」
 知ってる。これ、永遠に終わらない奴!
 耳の血管が破れそうにドクドク脈打ち、どうして涙が赤くないのと不思議に思うほど白目が血走り、呼気は可燃性。今なら、ガチで火柱ふける予感に胸は高鳴り、酒瓶傾け、落ちた雫を突き出した舌でキャッチ。新田は酒の一滴迄無駄には致しませんでしたぁ!
 分別はさっきトイレに流してきましたが、もう二度と路上に胃袋産の生お好み焼きは作らないと誓いますし、お店の前の立て看板を誘拐して添い寝してもらったりしません。
 ワイン瓶はサイリウムじゃないからオタ芸ごっこで振り回しちゃだめだし、ネクタイを鉢巻にしたりしないし、うっかり半裸になって、互いの背中に張り手デスマッチしたりもしません。
 たまっていく伝票の厚さから目を背けたりしませんし、チェイサーを蒸留酒と入れ替えたりしません。
 はい、はい、わかっております。一番鶏が鳴くまでに飲むのをやめます。やめますよー。ほンとです。は、鳴いた? いえ、今鳴いたのコカトリスです。雄鶏じゃないですから、大丈夫です。ほんとですよー。だって、今日これからそれを退治に行くんですから、ええ、もう。ほんとに。


『酒は飲んでも、飲まれるな』とでかでかと書いてある。
 知ってる天井だが、利用する予定じゃなかった天井。
 平たくゆうと、ローレットに併設された酒場に併設されたトラ箱の天井。
 はい、ベネディクト、正気に戻るのが早かった。つうか、明るくなってるし。
「……流石にハメを外し過ぎたな……マスター、水をくれ……」
 と言って差し出してもらえる立場じゃないのはこの部屋にほおりこまれた時点で認識しなくてはならない。
 水ならたるである。ひしゃくは慈悲だ。
 呼吸をしているのか定かではない新田と、笑顔を浮かべて寝ているセルウスが転がっている。
 新田はあと少ししたら、何事もなかったようにシャキッと起きる。気持ち悪いくらいシャキッと起きる。
 新田が起きたらセルウスも起こそう。その後、とりあえず三人で水でも飲もう。
「そうですねー。それ、いいとおもいますよー」
 不意にセルウスが言った。どうやら、まだ全肯定自動装置継続中らしい。

  • 酒の神の名を以て命じる。開け、理性崩壊の門。完了
  • GM名田奈アガサ
  • 種別SS
  • 納品日2020年07月10日
  • ・セルウス(p3p000419
    ・新田 寛治(p3p005073
    ・ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160

PAGETOPPAGEBOTTOM