PandoraPartyProject

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何でもない、とある日のこと。

登場人物一覧

シラス(p3p004421)
竜剣

 シラス (p3p004421)はぱかりと瞼を上げる。視界には見慣れてきた天井が映った。
「今日は……あー。休みだ」
 珍しく何もない──ローレットでの依頼も抱えていなければ、その他の用事もない──上に、特に誰かが訪れることもなく。わざわざ誰かを誘いに行かなくてもとシラスは怠惰な1日を決め込んで昨夜眠ったのだった。いや、『明日こそは家の掃除をしよう』と決めたはずだった。
 しかし外を見れば日は高く、とてもじゃないが朝とは言えない。出窓のさらに先では桜の木が緑を蓄えさわさわと揺れている。花見の時期をすっかり過ぎて、今や夏らしい新緑色だ。いや、まだ夏はもう少し先だろうか?
 けれども久し振りに晴れた空はどこまでも青く、白い雲がよりこの先の季節を彷彿とさせる。そういえば暑いしまずは換気を、と出窓を開けたシラスは──。

「……あっつ!?」

 ──外の蒸された空気を招き入れることとなった。
(知っていれば開けなかったのに……!)
 そう思えども後の祭り。夏ほどの暑さではないが、これはこれで嫌だ。
 外の空気を入れた以上、家に逃げ場はない。シラスは最低限の荷物を持ち、涼しい場所を求めて家を出た。
 何処へ行こうか。目的地を決めずにぶらぶらと歩いていたはずだが、シラスの足はローレットへたどり着く。無意識にいつもの道のりを辿ってしまったようだ。
(ま、いいか。多少は涼しいはずだし)
 知り合いがいれば駄弁っても良い。そう思い踏み込んだローレットの中は──暑かった。
「何でだよ!?」
 思わず声に出るもすでに見慣れた反応なのだろう、あまり注目は寄せられない。情報屋やイレギュラーズはどこかぐったりとした顔で依頼書を作ったり、見たり、相談したり、話したりと各々のすべきことをしていた。
 シラスも何人かの知り合いを見つけて声をかけるが、いかんせん暑い。誤魔化しようもないほどに蒸されている。窓は換気のため開けられているそうだが、ここには運悪く風が吹き込まないらしい。
(ここもダメだ)
 まだ自宅の方がマシな暑さだったとシラスは再び外へ出る。天頂を過ぎた太陽はやはり暑く、ジリジリとシラスの肌を焼くようだ。
 まず日差しを何とかしよう、とシラスは細い路地へ飛び込む。ややぬるめの──どちらかといえば涼しい、くらいの──風が首筋を撫でていった。
 よかった涼しい、とシラスは路地で立ち止まる。束の間、ほんの少しだけ休憩したい。
 奥から吹いてくる風は日陰を通っていくらか冷やされ、火照った体に当たってまあまあ心地よい。小さく息をついたシラスは、汗が一旦引いたところで再び歩き出した。
 思い返せばこの道は入ったことがない。何があるんだろう? と考えはじめたなら、その心は探検する子供のよう。
 住宅が続いて、角に当たったので曲がればまた住宅街。ずっと行く先は路地が続いている。しかし不意に横切った家が家ではないことに気づき、シラスは思わず立ち止まった。
「……店?」
 住宅街のど真ん中に、店。A型看板が出され、おすすめメニューなど書かれている物件を店と呼ばずして何と呼ぶのか。シラスは看板に近づいた。
「ブックカフェ、か」
 ブックカフェとは、その名の通りカフェであることは間違いない。しかし飲食だけでなく読書もできるカフェなのだ。
 ちょっと入ってみようかとシラスは扉に手を伸ばす。引いて開けるとカラン、と鐘の鳴る音が響いて、ひんやりした空気がシラスの頬を撫でた。人もまばらなあたり隠れ家的な場所なのかもしれない。
 店員に案内され、まずはレジで飲み物を選ぶ。待つ間は空いているところへ好きに座って良いと言われたが、シラスが見る限り客は多くない。なので席は選べる程度には空いている。
 そして聞こえるのは本をめくる音と、たまに小さく話す声。静かなそこはカフェでありながら、確かに読書空間であった。
 必然と持参も足音を忍ばせて、そっと移動しながら場所を探す。ああ、あれにしよう。家にあったら何もしなくなるだろうダメソファ。
 しかしあれに囚われたら確実に、暫くは立ち上がれない。賢明なシラスは先に周囲の書架を眺め、これはと思うものを数冊取り出した。
 それを持って先ほどのダメソファに体を沈めると、それだけでふわりと眠気がやってくる。しまった、実は本を読むどころではないかもしれない。
 読書欲に睡眠欲、そこは続くのは食欲で。店員が注文物を持ってくると腹が正直に鳴るものだから、ついシラスは苦笑い。さあ、どの欲から満たそうか。

 静かな室内に本をめくる音。飲み物が香り、鼻をくすぐってくる。
(いいな、ここ)
 お洒落で、人も多くなく、本が読めて食事もできる。
 そのうち『彼女』を連れてきたら喜ぶかも、なんて。煌めく瞳を想像したシラスはくすりと笑った。

 何でもない、少し暑いとある日のことだった。

  • 何でもない、とある日のこと。完了
  • GM名
  • 種別SS
  • 納品日2020年07月03日
  • ・シラス(p3p004421

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