PandoraPartyProject

SS詳細

Girls talk?

登場人物一覧

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼

 帰り道の夕暮れ空。並ぶ長い影が2つ。
「もう匂い、しませんよね?」
 大丈夫かな? と腕や服の匂いを嗅ぐノースポール (p3p004381)。隣を歩くヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)もほんの少し近づいてみせて、すんと匂いを嗅いでみる。先ほどまでぷんぷん香っていたマタタビの匂いはすっかり消えてしまっていた。
「ええ、きっと大丈夫ですわ。もしかしたら1、2匹くらいは近づいてくるかもしれませんけれど」
「それくらいなら大丈夫ですね!」
 ほっと安堵の笑みを浮かべるノースポール。本日は体を張ってのネコ探し依頼だったのだ。もうすっかりくたくたで、これ以上昼間のように追い掛け回されたくないのが本音というところ。
 その耳にふと触れたのは人々の楽しげなさざめきだ。言葉や雰囲気からして酔った者のようだが、室外で発せられているようである。
「あら、外飲みの酒場ですのね」
 ヴァレーリヤの耳にも入ったようで、彼女はそちらをみるとぱっと目を輝かせた。酒。酒である。仕事帰りの酒である!
 だがしかしと我に返るヴァレーリヤ。今、傍らにはノースポールがいるのだ。彼女を置いて1人、酒場へ突撃などできようものか。では酒を諦めて帰るのかと言うと──彼女にとっては大変難しい問題である。
「ねえ、ノースポール。ほんの少し、寄ってみませんこと?」
「え? でも私、お酒に弱くて……」
 決して酒が嫌いなわけでもなく、悪い酔いするわけでもない。本当に酔うのがあっという間で、気づけば夢の中なのだ。ヴァレーリヤと共に過ごす事自体は一向に構わない、むしろ大歓迎なのだけれども。
「ならジュースでも良いですわ! ね、祝勝会! ダメ?」
 お願い、とノースポールを見つめるヴァレーリヤ。ここで引き止めればお酒も飲めるしあわよくば──ノースポールともっと仲良くなれるかも!
 ジュースなら、とほっとした表情を浮かべてヴァレーリヤについていくノースポール。テーブルは立てた大樽、椅子は同じように立てた小さな樽らしい。席に着くとノースポールはジュースを、そしてヴァレーリヤはウォッカを注文した。揃ったらそれを掲げて──。

「「かんぱーい!!」」

 カチン、と音を立てたのはジュースのグラスと酒の瓶。グラスではなく瓶である。そこからラッパ飲みしながらヴァレーリヤはその日の騒動を思い返した。
「猫探しの依頼、透明な猫を探すだなんてどうなることかと思ったけれど、見つかったしちょっとだけ触れたし、楽しかったですわねー!」
「ですね、本当にあんな猫がいるんですね! ちゃんとお家に帰れて良かったです」
 ノースポールもふわりと笑う。猫も帰ることを望んでいたし、依頼人の元へと返せて本当に良かった。文字通り体を張った甲斐があるというものである。その副産物と言うべきか、それ以外の猫も連れて大変だったが……。
 そこへタイミングよく『くぅ』と腹の虫が鳴る。一瞬きょとんと目を瞬かせた2人だが、ヴァレーリヤはふふっと笑みを浮かべた。
「お、お恥ずかしいです……」
「ノースポール、今日は頑張っていましたものね? 何かご飯も食べましょうか」
 大樽に置かれていた小さな板にはメニューが書かれている。最もそこには両手で足りるほどの品数しか載せられていなかったが──全体の品数を減らすことで提供速度を上げているのだろう。メニューから想像するにつまみらしい品ぞろえであった。
「何か食べたいものはありまして? 今日は全部奢り……は難しいけれど、お姉さんがちょっとだけ多めに出して差し上げますわー!」
「ふふっ、私とそんなに変わらないですよ?」
 ドヤ顔のヴァレーリヤにノースポールはくすりと笑う。けれど折角だ、その言葉に甘えてしまおうか?
 お腹が空いたから肉をがっつり食べたいし、口直しになりそうなサラダも欲しい。あるのならデザートに甘いものも良いだろう。
「デザートはアイスがあるみたいですわね。じゃあこれはあとで頼むとして……」
 これとこれとこれと、とテキパキ決めたヴァレーリヤは店員を呼んで注文する。暫ししてやってきたのは骨付き肉とシーザーサラダ、ソースを付けて食べる野菜スティックにナッツとチーズの盛り合わせだった。
「わぁ! これ、そのままかぶりつくんでしょうか?」
 周りを見渡したノースポールは口の周りを汚しながらかぶりつく者の他に、ナイフで上手く肉を削ぎ落す者も見つける。できれば後者が良いとノースポールはナイフを手に取った。
 程よく焼かれた肉はアツアツで、口の中で噛み締めるとジュワァと肉汁が染み出てくる。サラダもしゃきしゃきの葉物野菜が美味しい。空腹が満たされることは幸福と直結するのだと感じながらノースポールはせっせと肉を切っては食べ、切手は食べ。
 その様子を見ながらヴァレーリヤはウォッカ(1本目)を空け、次を頼む。そしてちらりとノースポールを見た。
 1人で飲んだって酒は美味しいけれど、折角なら──。
「……ねえノースポール、一杯だけ……いいえ、一口だけで良いんれすの。このお酒で乾杯して頂けまへんこと?」
「あっ、すみません……私、お酒を飲むとすぐに寝ちゃうんですよ」
 楽しく絡むのも一瞬だけ。ウィスキーボンボンでも寄ってしまうノースポールはあっという間に眠ってしまうのだ。ぐっすり寝てしまうので連れて帰るのも大変だし、そんな姿を見せるのは申し訳ないと彼女は眉尻を下げる。
 だからジュースで──と言う言葉は顔を真っ赤にしたヴァレーリヤに遮られた。
「ケチーー!! 少しくらい一緒に飲んれくれてもいいれしょう? ねえ、良いでしょう? 一口だけ、一杯だけ、一瓶だけで良いですから!」
「どんどん単位が大きくなってますよ!?」
 疲労は酒の周りを良くするとノースポールは聞いたことがある。そして空腹に入れる酒もまた然り、と。ヴァレーリヤは大して食べ物も入れずに酒をラッパ飲みしていたし、普段より早く酔ってしまったのだろう。きっと、多分。そのはずだ。
 しかしヴァレーリヤのアルハラは収まるところを知らず、そしてまともに酒を飲んだことがないという好奇心に、とうとうノースポールは──押し負けてしまった。
「で、でも……ご飯も食べたし、一口だけなら」
「本当れすの!」
 ぱっと表情を輝かせ、それはそれは嬉しそうに笑顔を浮かべるヴァレーリヤ。その表情を見られただけでもそういった甲斐があるというものだ。
 あまりアルコールの強くない酒を頼み、再びの乾杯。ちびりと舐めるように飲んだノースポールだったが、それを味わう頬はすでにほんのりと赤い。にぱ、と浮かべる笑みは酔ったそれである。
「ふわ~♪ ここのてーぶるまわるんですね~~?」
 まわってない。まわらない。断じてまわらないしまわっていない。しかしノースポールの目には大樽のテーブルがくるんくるんと回転しているように見えるらしい。
 対するアルハラ司祭ことヴァレーリヤは、舐める程度しか口を付けていないノースポールにむぅと唇を尖らせた。酒を飲むと言うならば、やはりもっとガッと行くべきだろうと。
「ノースポールのー、ちょっといいとこ見てみたいー!」
 一気、一気、と手拍子に合わせて囃すヴァレーリヤ。立派なアルハラ案件なのだが、不幸にもそれを止める者はいなかった。
 そしてその囃し立てに乗ってしまうノースポール。アルコールが喉を焼き、おなかをポカポカとさせていく。世界がゆらゆら揺らめいてなんだか面白いし、ふわふわと楽しい気分で。
「んふーふっふ~~。おさけってたのしいれす、ね」
 ぱたり、と。グラスをテーブルに置いたノースポールは、そのまま大樽に突っ伏してしまったのである。幸いにして皿をひっくり返すようなことも髪が料理についてしまうこともなかったが、眠ってしまった彼女にヴァレーリヤは再び口を尖らせた。
「むう、もっと一緒に飲んでお話したかったのに」
 依頼の話も日常の話も、好きなお菓子や服や恋のお話しだってしてみたい。だって2人とも女の子だもの!
 ──とはいえ既にノースポールは夢の中。そしてヴァレーリヤもまた顔を真っ赤にして酒という快感に浸されているので、たとえノースポールが起きていてもそのような女子トークができたかどうかは定かでない。
「ねえノースポール、起きて頂戴! ねえってば!」
 近くにあった人参スティックを摘まみ上げ、彼女の口元へぐりぐりと押し込むヴァレーリヤ。ノースポールの起きる気配は全くないものの、むにゃむにゃと何か言っているので押し込まれるスティックはそのまま彼女の口の中へ納まっていく。
「んむにゃ……もうたべれらいれすぅ……おいし……」
 ぽりぽりぽり、と人参を齧りながらも眠るノースポール。途中からヴァレーリヤも面白くなってきてスティックを食べさせると、今度はナッツを口元に持って行く。
 ぽりぽり。
 ぽりぽりぽりぽり。
 食べられない、食べられないと寝言を言いながらもノースポールの口はせわしなく動く。すっかりヴァレーリヤの玩具であった。
 そんな夢か現かも分からない状態でノースポールの意識は浮き上がったり沈んだり。浮き上がった時にはヴァレーリヤの「ノースポール、次れすわよ!」と楽しげな声や口元に突っ込まれるつまみを感じる。ああ、酔いが回っているのだという事も何となく感じ取る。
(おさけ……つよくなりたいなぁ……)
 強くなったら彼女ともっと語れるだろうか。
 強くなったら彼女ともっと仲良くなれるだろうか。
(なれるといいなぁ……)
 とろとろと意識が沈んでいく。これ帰りはどうするんだろう──などという考えもまた、睡魔に誤魔化されていったのだった。

  • Girls talk?完了
  • GM名
  • 種別SS
  • 納品日2020年06月27日
  • ・ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837
    ・ノースポール(p3p004381

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